BEHRINGER Kobol Expander レビュー:2VCOでモーフィング可能な波形を備えたアナログ・セミモジュラー・シンセ

BEHRINGER Kobol Expander レビュー:2VCOでモーフィング可能な波形を備えたアナログ・セミモジュラー・シンセ

 かつてフランスには、RSFという小さなシンセサイザー・メーカーが存在していました。1978年に発売された鍵盤付きの小型シンセKobolは、生産数こそ限られていましたが“フランスのMinimoog”とも呼ばれ、ジャン・ミッシェル・ジャール、ハンス・ジマー、ヴァンゲリス、デペッシュ・モード、ニッツァー・エブといった偉大なミュージシャンに愛用されたそうです。その後発売された3Uラック版のExpander Iを現代的なユーロラック・フォーマットで再現したのが、BEHRINGER Kobol Expanderです。

ほぼすべてのパラメーターにCV入出力を搭載し自由度の高い音作りを実現

 まず目を引くのはその特徴的なパネルです。上下対称に並んだつまみとスイッチに対応する形でシグナル・フローが描かれているため、今触っているパラメーターが、どのように前後のセクションとつながっているのかが容易に把握でき、シンセサイザーの使い方を覚える教材としても非常に優れたデザインと言えます。

 ほぼすべてのパラメーターに対応するCV入力が用意されているので、外部シーケンサーやユーロラック・モジュールなどからのコントロールが可能です。また、本体からADS ENV 1/2とLFO 1/2からCV信号を送れますので、セルフ・パッチングだけでも複雑な音色を作り込めます。

リア・パネル。左からオーディオ出力(TRSフォーン)、ディップ・スイッチ×4(1〜16のMIDIチャンネルを設定)、MIDI THRU端子、USB-B端子、電源スイッチ、電源端子

リア・パネル。左からオーディオ出力(TRSフォーン)、ディップ・スイッチ×4(1〜16のMIDIチャンネルを設定)、MIDI THRU端子、USB-B端子、電源スイッチ、電源端子

 次に音源の構成を見てみましょう。2VCO+ノイズ・ジェネレーター(ホワイト/ピンクから選択可能)、1VCF、1VCA、1LFOというモノシンセとしてはオーソドックスな構成ですが、VCOセクションのWAVEFORMは非常にユニークです。大まかに分けると三角波~ノコギリ波~矩形波(デューティ比50%)~矩形波(デューティ比10%未満)~矩形波(内部結線されたLFOによりデューティ比を変調)のポイントがあり、その間の波形をスムーズにモーフィングできます。

VCOのWAVEFORM(赤枠部分)は波形間をモーフィング可能なツマミとなっており、5時の位置では、パルス幅をVCFエンベロープ・ジェネレーターで変調できる

VCOのWAVEFORM(赤枠部分)は波形間をモーフィング可能なツマミとなっており、5時の位置では、パルス幅をLFOで変調できる

 XFER RECORDS Serumなどの現代的なウェーブテーブル・シンセを使い慣れている人であれば、似た感覚で音作りを楽しめるでしょう。また、VCO2セクションの左端に配置されているSynchro/Vco 1のスイッチを右に倒すと、アナログ・シンセではおなじみの機能であるVCO 2をVCO 1に同調させるオシレーター・シンクが有効になります。ADSエンベロープ 1/2はそれぞれVCAとVCFに内部結線されています。リリースが省略されているため初めて触ったときは若干戸惑いましたが、モノシンセと相性の良い音色を作る範囲ではそこまで不便に感じることはありませんでした。

 パネル左下には2つの入力を持つVOLTAGE PROCESSORセクションが用意されています。また、OUT GAINノブではVOLTAGE PROCESSORの出力レベルを絞ることも、最大2倍に増幅することも可能。IN 1のみGAIN調整ができるので、例えば2つの異なるCVソースを入力し、GAINノブでバランスを調整した後、全体の電圧を増幅してから別のセクションに送る……といった柔軟な調整にも対応します。

 24dB/octのVCFも非常にキレがよく、オシレーターやノイズ・ジェネレーターのVOLUMEが0であっても滑らかな自己発振が楽しめますので、パーカッション・サウンドやサウンド・エフェクト生成用としてもポテンシャルを発揮。

VCFセクション。24dB/octとなっており、キレの良いフィルタリングを実現する。RESONANCEのツマミを最大にするとフィルターが自己発振する

VCFセクション。24dB/octとなっており、キレの良いフィルタリングを実現する。RESONANCEのツマミを最大にするとフィルターが自己発振する

 また、オーディオ信号のミキサーとしても使用できますので、例えばそのままでは音量が大きすぎるNOISE OUTのレベルを、GAINで絞ってからVCF AUDIO INに送るといった使い方も可能です。

波形の選択肢が多いVCOとキレの良いVCFで幅広いサウンドを生成可能

 肝心のサウンドについては、この価格帯で入手できるモノシンセとしては最上級と言っていい仕上がりになっています。波形の選択肢が多く独特の押し出し感があるVCOと、キレの良いVCFの組合せで作るパワフルなベースやリードには、テクノ、ハウス、ヒップホップなどのダンス・ミュージックからポップスまで幅広くカバーできるポテンシャルを感じました。オリジナルとは違いMIDI IN端子も搭載されているので、DAWでの楽曲制作にも取り入れやすいのがうれしいですね。パネル中央下部に用意されているVCF AUDIO INから外部ソースも入力可能ですので、お好みのソフト・シンセのオシレーターと組み合わせて、パラフォニック・シンセとして使うのもオススメです。

 定番音色を作るのも楽しいですが、個人的にオススメしたいのはドラム音色作りです。例えば、VCO 1/2のボリュームを絞り切ってVCFの自己発振でキックを作ったり。または、胴鳴りに見立てたVCO 1(三角波が最適)へ、VCF AUDIO INに入力したホワイト・ノイズをスナッピーとして重ねてスネアの音色を作ったり。はたまた、VCO 1/2の波形を両方とも矩形波にした上で7半音ずらして重ねて、ROLAND TR-808風のカウベルを作ってみたり……。音作りを楽しんでいるうちに自然と各セクションの特性もつかめて、セルフ・パッチングの引き出しも蓄積されますよ。

 もう1つ面白い使い方を紹介します。まずMASTERの音量を可能な限り大きくしたリズム・マシンをパネル左下のIN 1に入力し、IN 1 GAINとOUT GAINを最大に。それからOUTをVCF AUDIO INに、REV OUTをVCF FREQUENCYにパッチングします。やや力技ですが、このように強引にGAINを稼ぐことで、音量の変化カーブに応じてVCF FREQの開き具合をコントロールする“エンベロープ・フォロワー”と呼ばれる効果を作ることができます。思わず時間を忘れて遊んでしまうほど楽しいですよ。

 知る人ぞ知るカルト・シンセのリッチなサウンドを堪能できるKobol Expander、ぜひチェックしてみてください。

 

Yebisu303
【Profile】デトロイト・テクノに強い感銘を受け、楽曲制作やライブ活動を開始。近年ではKORGやSONICWARE製品のプリセット作成を担当するなど、その活動は多岐にわたっている。

 

 

 

BEHRINGER Kobol Expander

33,800円

BEHRINGER Kobol Expander

SPECIFICATIONS
▪ボイス数:1 ▪VCO:2基 ▪VCF:1基(24dB/oct) ▪LFO:1基 ▪エンベロープ・ジェネレーター:2基(ADS) ▪外形寸法:424(W)×94(H)×136(D)mm ▪重量:1.65kg

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