AUSTRIAN AUDIO OD303 レビュー:OC707やOD505の技術を踏襲したハンドヘルド型ダイナミック・マイク

AUSTRIAN AUDIO OD303 レビュー:OC707やOD505の技術を踏襲したハンドヘルド型ダイナミック・マイク

 AUSTRIAN AUDIOから、ハンドヘルド型のダイナミック・マイクOD303が発売されました。上位機種にあたるコンデンサー・タイプのOC707やダイナミック・タイプのOD505と比べてどんな違いがあるのか見ていきましょう。

上位2機種よりボーカル用にチューニングされている印象

 形状は前述の上位2機種と全く同じで、オープン・アコースティック・テクノロジーによりカプセルが浮いているような作りになっています。重量は10gほど軽量ですが、感覚としてはほぼ同じでした。上位2機種では前面のロゴが立体的になっているのに対し、OD303はプリントです。ハンドリングの位置の目印としてもロゴは立体的な方が良いと思っていましたが、価格を抑えるための企業努力ですね! マイク本体に加え、マイク・ホルダーとポーチも付属します。

マイクの背面。カプセルと筐体の接点を最小限に抑えるため、オープン・アコースティック・テクノロジーによりヘッドが浮いているような構造になっている。上位機種にあったローカット・スイッチは省略されている

マイクの背面。カプセルと筐体の接点を最小限に抑えるため、オープン・アコースティック・テクノロジーによりヘッドが浮いているような構造になっている。上位機種にあったローカット・スイッチは省略されている

付属するマイク・ホルダーとポーチ

付属するマイク・ホルダーとポーチ

 まずは通常の用途通り、ボーカルで試してみます。周波数特性のグラフは上位機種よりデコボコしているように見えますが、実際の音はフラットな印象。確かに4~5kHz付近の音が硬い気がするものの、耳に痛すぎずこもり過ぎず、高域のバランスがすごく良いように感じました。無論、コンデンサー・マイク系に比べれば抜けが悪いようにも感じるかもしれません。しかし、ダイナミック・マイクこそ高域に変なピークがあるとEQで持ち上げるのも難しくなるので、この高域のカーブ感は音作りのしやすさにもつながると思います。

 低域については、上位機種の背面にあったローカット・スイッチが省略された点が気になっていましたが、OD505でローカット・スイッチを入れたときのように、低音の暴れる感じが収まった音質に感じました。個人的には、OD505もボーカルに使用する際はローカットを入れた方が好みだったので、納得の音です。周波数チャートを見るとピークが2箇所あって暴れも大きいように思えますが、実際は全くもってナチュラル。むしろボトムの安定感を出すためにEQで少し突くポイントにピークがあるので、OC707やOD505よりもさらにボーカル用にチューニングされているのかもしれません。

 上位機種よりはダイナミック・マイク故のレンジの狭さはあるものの、中域の張りや低域のピーク・ポイントが、歌にちょうどいいパワーをもたらしています。レンジの広さはパンチの無さにもつながるので、上位機種が上品過ぎるなと感じた方にはこちらが最適かもしれません。それでいてダイナミック・マイクにしてはレンジが広めなので、表現を素直に捉えてくれるのではないでしょうか。

楽器に使用しても音を作り込みやすい音質

 次は、歌以外のソースで試してみます。アコギのストロークは、マイクのチョイスを間違えると耳に痛い部分が録れ過ぎたりすることもあるのですが、OD303では高域が気持ち良く収まる一方で平面的にもならず、いわゆる一般的なダイナミック・マイクのようにナロー・レンジになることもありませんでした。フルートのブレス音やチェロの擦弦音なども変なピークが無く、ジェントルに収音できます。エレキギターのアンプにも置いてみたところ、コンデンサー・マイクほど硬くならず、一般的なダイナミック・マイクよりフラットでワイドな印象。アンプの音作りとマイキング次第で、EQ要らずの録音ができそうです。先に“ボーカル用にチューニングされている”と書いたものの、楽器から離して使う分には音を作り込みやすいと思いました。

 個人的に一番面白かったのは打楽器です。キックやスネア、タムのオンマイクとして使うと、密度があって良い感じ。近接効果を逆手に取って、かなり近づけて収録してみると、マイキングの位置で低域のキャラクターが如実に変わっていくので楽しかったです。フレーム・ドラム系の打楽器に使うと、小さい楽器でもやたら口径が大きい太鼓をたたいているような感じになったりして、随分遊べました。

 総じて、OD303はOD505のちょっとナロー・レンジ・バージョンという感じで、AUSTRIAN AUDIOにしては少しキャラが立っているマイクのように思いました(と言っても基本思想はナチュラルな音)。出力は大きくもなく小さくもないといったところなので、あまりに小さい音をエントリー・レベルのオーディオ・インターフェースのプリアンプで持ち上げると厳しい場面もあるかもしれません。

 また、OD505と同じ超単一指向性なので、スウィート・スポットを離れると極端にレベルが落ちていきます。少し顔を動かしただけで音量差が出る場合もあるため、スタンドの併用が必須だと思いました。ギター・ボーカルやキーボード・ボーカルなどにはもってこいですね。

 前回、上位モデルのOD505とOC707をレビューした際には“OD505をエントリー・レベルの方に”と書きました。とは言え、4万円近い価格というのは決して手が出しやすいとは言い難いところだったと思います。OD303は、申し分なくリーズナブル。ライブにおけるダイナミック・マイクのニュー・スタンダードとして、または宅録を始める方々のファースト・マイクとして、最適ではないでしょうか。

 

原真人
【Profile】フリーのエンジニア。近年参加作品は、原 摩利彦『流浪の月』(OST)、松木美定 feat. 浦上想起『舞台の上で』、パジャマで海なんかいかない『Trip』、シンリズム『Música Popular Japonesa』など

 

AUSTRIAN AUDIO OD303

16,500円

AUSTRIAN AUDIO OD303

SPECIFICATIONS
▪形式:ダイナミック ▪指向性:超単一指向性 ▪出力端子:XLR(3ピン) ▪周波数特性:35Hz〜16kHz ▪感度:1.8 mV/Pa ▪インピーダンス:1200Ω(シンメトリー) ▪インピーダンス負荷:1kΩ以上 ▪外形寸法:53(W)×194(H)×53(D)mm ▪重量:330g

製品情報

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