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AURORA AUDIO GTQ1 レビュー:NEVE出身エンジニアによる1073インスパイア系マイクプリ

AURORA AUDIO GTQ1 レビュー:NEVE出身エンジニアによる“73”インスパイア系マイクプリの1chモデル

 今回チェックするAURORA AUDIO GTQ1は、NEVE 1073スタイルのモデルで、2chマイクプリ・アンプGTQ2の1chバージョン。AURORA AUDIOは、NEVEでエンジニアをしていたジェフ・タナー氏が立ち上げたブランドです。NEVE 1073系のマイクプリはさまざまなメーカーから数多くリリースされていますが、AURORA AUDIOの製品は日本でもかなり早いペースでスタジオに導入されブランドが浸透していった印象があり、筆者にとっても使用頻度が高い機材のブランドです。

MARINAIR出身スタッフが手掛ける入力トランス インピーダンスを切り替え可能で幅広いマイクに対応

 AURORA AUDIOを語る上で最も注目に値するのは、GTQ1/GTQ2に搭載されているトランスです。ジェフ・タナー氏はNEVE在籍時に、1073に用いられているMARINAIRのトランスの設計をしていた人物で、また、現在GTQ1/GTQ2に内蔵されているトランスを製造しているのは当時MARINAIRでトランスを製造していたスタッフとのことです。つまり、URORA AUDIOのインプット・トランスは、オリジナルNEVEの設計現場にいたエンジニアと、MARINAIRのトランスの製造の現場にいたスタッフがタッグを組んで製造しているということになります。“NEVEサウンドの決め手はトランスである”とはよく言われることですが、このコラボレーションはほかのメーカーにはない、心踊るエピソードだと感じます。

 前置きが長くなりましたが、早速GTQ1の外観を見ていきましょう。

フロント・パネルのコントロール類。赤いツマミの入力ゲイン・ツマミは、5dBずつのステップで−10〜+80dBの可変幅。その右は3バンドEQセクション。ローが80Hz、ハイが12kHzのシェルビングで、ミッドは400Hz/1.6kHz/3.2kHzの切り替え式となっている。出力ゲイン・ツマミの右にはハイパス・フィルター・スイッチ、ファンタム電源スイッチ(48V)、EQスイッチ、フェイズ反転スイッチがまとめられている。一番右は楽器などを入力するDI入力(フォーン)

フロント・パネルのコントロール類。赤いツマミの入力ゲイン・ツマミは、5dBずつのステップで−10〜+80dBの可変幅。その右は3バンドEQセクション。ローが80Hz、ハイが12kHzのシェルビングで、ミッドは400Hz/1.6kHz/3.2kHzの切り替え式となっている。出力ゲイン・ツマミの右にはハイパス・フィルター・スイッチ、ファンタム電源スイッチ(48V)、EQスイッチ、フェイズ反転スイッチがまとめられている。一番右は楽器などを入力するDI入力(フォーン)

 フロント・パネルの左から、ゲイン・ノブ、EQセクション、アウトプット・ノブと続きます。4つ並んだスイッチは、HPF(ハイパス・フィルター)、EQ(イコライザー)、48V(ファンタム電源)、PH(フェイズ反転)です。

 ゲインは−10〜+80dBでライン・レベルにも対応しており、DI入力(フォーン)はスイッチ類の横に備えられています。EQセクションは1073と同様に3バンドで、カット/ブーストは±15dB。ローは80Hzのシェルビング、ハイは12kHzのシェルビング、ミッドは400Hz/1.6kHz/3.2kHzの切り替え式で、オリジナルの1073よりも周波数ポイントが簡略化されています。

 そしてリア・パネルには、マイク入出力(XLR)、ライン出力(フォーン)のほかに、入力インピーダンスを切り替えるINPUT IMP.スイッチが搭載されており、1.2kΩ/300Ωで選択することが可能です。

リア・パネル。左から電源端子、ライン出力(フォーン)、マイク出力(XLR)、入力インピーダンス切り替えスイッチ(1.2kΩ/300Ω)、マイク入力(XLR)

リア・パネル。左から電源端子、ライン出力(フォーン)、マイク出力(XLR)、入力インピーダンス切り替えスイッチ(1.2kΩ/300Ω)、マイク入力(XLR)

オリジナル同様にコシと抜けがあってビッグなドラム 特にエレキギターに“間違いない”キャラクター

 今回はドラム、ベース、チェロ、アコースティック・ギター、エレキギター、男性ボーカル、女性ボーカルなどでGTQ1のサウンドのチェックを行いました。AVID Pro Toolsに32ビット・フロート/48kHzで録音して試しています。

 まずはドラムです。筆者はドラム録音時、マルチマイクには可能な限りNEVEのマイクプリを使うようにしており、場合によっては全チャンネルで使用することもあります。というのも、NEVEのマイクプリは中低域に独特の飽和感があり、高域が適度にロールオフして、ドラムのサウンドの重心が下がりファットになります。さらにEQによってブーストさせることで、太くてコシがありつつも抜けが良い、ビッグなドラム・サウンドに仕上げることができるからです。そういったオリジナルの印象を踏まえて、今回はオンマイクで収録したキック、スネア、タムでGTQ1のサウンドを確認してみたのですが、オリジナルNEVEによって聴くことができるドラムと同様の印象を受けました。以前から、ドラムの録音においては、筆者は今まで聴いたどのNEVE系マイクプリよりもAURORA AUDIOのマイクプリがオリジナルNEVEの雰囲気をうまく再現していると感じていて、ドラムに立てたほぼすべてのマイクにAURORA AUDIOのマイクプリを使用して録音したこともあるほどです。GTQ1もそのときと同様に、非常に満足した結果を得ることができました。

 続いて、GTQ1のフロント・パネルのDI入力から録音したベースを聴いてみました。中低域の押し出しが楽器の存在感を際立たせていますが、ドラムで試した際と異なり、ゲインを上げすぎると若干ハーモニクスが目立ちすぎるケースがありました。チェロ、アコースティック・ギターのサウンドを試聴してみたときにもゲインを上げすぎると倍音が目立つことがありましたが、本機に搭載されているEQで低域を少し抑えると、温かみと抜けを両立させた滑らかなサウンドにすることができます。そしてこのキャラクターは、エレキギターを試聴した際には良い方向に作用しました。クランチ、オーバードライブ、ディストーション、ファズと一通りエフェクターを使用してみましたが、GTQ1はエレキギターにも間違いない組み合わせになると感じました。

 最後は、真空管コンデンサー・マイクで録音したボーカルです。これはソースによってハッキリと“合う、合わない”が分かれる結果となりました。前述した通り、GTQ1はゲインを高めに設定すると倍音が目立ちすぎる場合があり、これがソースによっては若干のひずみとして聴こえる場合があります。今回の場合、男性ボーカルだとわずかに中低域がひずんで聴こえたのですが、女性ボーカルでは期待していた通りの深くシルキーなサウンドが得られました。

 これはボーカリストの声質、倍音の出し方によって結果が異なるため、一概に“男性ボーカルには不向きで、女性ボーカルに向いている”ということではありません。昨今のボーカル・サウンドはビンテージ感が控えめに処理されている音源が多く、特に若いリスナーはビンテージ・サウンドに耳が慣れていないからか、その飽和感が気になるという人が多いように思います。そのため、GTQ1をボーカルに使用する場合はゲインの設定を慎重に行い、EQと組み合わせて音作りをするのがよさそうです。声質によっては、ゲインは低めに抑えつつ、モニター・レベルを上げて録音する、といった方法も有効だと思います。

 誤解のないように付け加えておくと、GTQ1がほかのマイクプリに比べてひずみやすいということではありません。心地良いトランス・サウンドと音楽的な飽和感の間を行ったり来たりできるような質感はオリジナルNEVEにも見られる特徴ですし、こうしてGTQ1をさまざまな楽器に使って試聴してみると、“シルキー”と表現されるオリジナルNEVEのキャラクターをより強めつつ、現代的な抜けの良さを加えたようなサウンドのマイクプリだと感じました。そして、オリジナルよりSN比が良いのもうれしいポイントです。

 世にNEVE系マイクプリは数多く出ていますが、現代にこのキャラクターをよみがえらせている製品はそれほど多くはありません。やはり冒頭で紹介した、特別なトランスがこのサウンドの秘密なのでしょうか。ビンテージ・サウンドの王道であるNEVEのエッセンスを欲している方々にとっては、大いに試してみる価値のある製品だと思います。

中村フミト
【Profile】Endhits Studioを拠点とするエンジニア。ビッケブランカ、GOOD BYE APRIL、Leinaなどの作品に携わる一方、ゲーム分野のミックス/マスタリング、ボイス収録/整音にも力を入れている。

 

 

 

AURORA AUDIO GTQ1

オープン・プライス

(市場予想価格:438,900円前後)

AURORA AUDIO GTQ1

SPECIFICATIONS
▪入力インピーダンス:1.2kΩ/300Ω ▪DI入力インピーダンス:10MΩ ▪入力ゲイン:−10〜+80dB(5dBステップ) ▪外形寸法:482(W)×44(H)×310(D)mm ▪重量:5.02kg
※外形寸法と重量は実測値

製品情報

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