ARTURIA V Collection 8.1 レビュー:再現性の高さ以上にモダンな音&操作性を追求するソフト音源バンドル最新版

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 True Analog Emulation(TAE)という独自のアナログ・モデリング技術を使い、2003年から伝説的な名機を次々とソフトウェア化しているARTURIA。V Collectionシリーズは2009年にスタートし、当初は7種類のソフト・シンセのセットだったが、約2年に1度のペースで毎回3〜4種類の新たな音源を追加し、バージョンを重ねてきた。本稿では9月にリリースされた最新版V Collection 8.1を見ていく。

ボイスごとのバラつきまで再現するOB-Xa V

 初代V CollectionにパッケージされていたのはMoog Modular V(現Modular V)、Minimoog V(現Mini V)、CS-80 V、ARP2600 V、Prophet V、Prophet VS、Jupiter-8Vの7種類で、アナログ・シンセを再現したものが大半だ。以降Buchla Easel VやMatrix-12 V、SEM Vなどの新たなアナログ・シンセ・エミュレーション、CMI VやDX7 V、Synclavier Vといったデジタル・シンセの再現版、定番キーボードのエミュレーションとしてStage-73 VやPiano V、Solina V、Clavinet V、Farfisa V、Wurli V、VOX Continental V、B-3 Vが加わっている。

 

 いずれの音源も、オリジナルには無かったエフェクトやレイヤー機能、追加のモジュレーション機能などを実装し、再現性以上にさらなる高機能化や品質の高さを志向。V Collection 7でCZ V、Mellotron V、Synthi Vが加わり全24種類となったが、バージョン8では全28種類に。ここでは新しく追加されたOB-Xa V、Emulator II V、Jun-6 V、Vocoder Vとともに、この秋に単体発売された新たなシンセSQ80 Vについてもレビューする。


 OB-Xa Vは、OBERHEIMのアナログ・シンセOB-XAを再現したもの。OB-XAと言えば、ヴァン・ヘイレン「ジャンプ」で大フィーチャーされた1980年代を代表する一台だ。「ジャンプ」でのサウンドは、ノコギリ波のオシレーター2つをわずかにデチューンしつつフィルターをほぼ全開にしたもので、存在感抜群。OB-Xa Vでも、起動して最初に出てくるのが、その音色となっている。

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OB-Xa V。主要なパラメーターはオリジナルのデザインに忠実に。ボタンがツマミに変更されてオリジナル以上に音作りが細かくできる


 プリセット呼び出しのボタンなどはカットされ、細かいパラメーターはAdvanced画面でエディットする仕様。また、実機の特性であるボイスごとのバラつきをVOICE DISPERSIONというセクションで再現でき、アナログ感のあるサウンドが得られる。バラつき方にはプリセットがあり、新品の状態、エイジングされた状態、今すぐにでもキャリブレーションが必要な状態、各パラメーターのバラつきを自由に設定できるCUSTOMの全4つ。ボイスごとのパンを設定するVOICES PANセクションもマニアックだ。ポリシンセの音のバラつきには、当時は苦労したものだが、今となってはアナログらしさという魅力でもあるのだろう。

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Advanced画面ではモジュレーション、エフェクト系を中心に細かいエディットが可能

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ボイスごとのパンとバラつきを設定するVOICE DISPERSION。パラメーターの違いはあるが新しいJup-8 VやJun-6 Vにも搭載されている

扱いやすさと高度な編集機能を併せ持つEmulator II V

 Emulator II Vは、初期サンプラーの代表格E-MU Emulator IIの再現版。実機のパネルにはツマミ2つとボタンくらいしか備わっていなかったが、このEmulator II Vではメイン画面上にツマミが増え、それらで主要パラメーターを扱えるように。

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Emulator II V。オリジナルのE-MU Emulator IIとデザインは似ているが、ツマミ類は実機をはるかにしのぐ使いやすさで、簡単なエディットはこの画面で十分に可能

 EDIT画面ではモダンなソフト・サンプラーらしい詳細なエディットを可能にしている。例えば最大8音色のレイヤーやスプリットの設定が行えるし、エフェクトも内蔵しているため、Emulator IIの再現でありながら、その能力のはるか上をいく“現代版Emulator”といった内容だ。

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Emulator II VのEDIT画面。某パソコンを思わせるディスプレイで、サンプルやレイヤー/スプリットのアサイン、エフェクトをエディットできる

コーラスも含めJuno-6の軽快なサウンドを再現したJun-6V

 Jun-6 VはROLAND Juno-6のエミュレーション。ARTURIA製品のアナログ・シンセの再現度は語るまでもなく、心地良く軽快なサウンドや内蔵のコーラス・エフェクトなど、ROLAND Jupiterシリーズとは違ったJunoらしさがバッチリよみがえっている。

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Jun-6 V。ROLAND Juno-6から、プリセット・メモリー・ボタン以外はほぼ完ぺきに見た目も再現されている。これはAdvanced画面を開いたところで、オリジナルには内蔵されていなかったLFO2、エンベロープ・ジェネレーター2、ディレイ、リバーブがスタンバイ

オーディオ・ファイルも扱えるボコーダーVocoder V

 Vocoder Vは、1970年代のボコーダーを再現したものだが、現代的な機能性の高さが見事。マイクから声を入力しリアルタイムにモジュレートするという本来のボコーダーの働きだけでなく、プリセットされたボイスや自ら用意したオーディオ・ファイルをインポートして扱うこともできる。センテンスごとに素材を用意して順に使ったり、ボイスにループ部を設けてノート・リリース後に余韻の部分を鳴らしたりと、ボコーダーならではの機能が生きていて素晴らしいと思う。

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Vocoder V。鍵盤上部にオシレーター、ラック部分にボコーダー機能が振り分けられていて、楽器としてもエフェクターとしても万能だ

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Advanced画面では、好きなオーディオ・ファイルをインポートして使用することも可能

従来のバンドル音源も“実機以上”の領域へ進化

 ここまで新しく加わった音源について見てきたが、従来からパッケージされている音源は、幾度かのメジャー・アップデートを経て徐々に進化している。リリース当初は、パネルのデザインも含めオリジナルの再現を意識したものが多かったが、そうした再現性よりも操作性のブラッシュアップや実機以上のサウンドを求める声が多かったのだろう。ユーザーへのフィードバックなのか、各音源は見た目の雰囲気を残しながらもパネル・レイアウトの再現に固執せず、むしろオリジナルより使いやすいものやパラメーターを増やしたものへと進化している。


 今回はRHODES Stage PianoのエミュレーションStage-73 Vがバージョン2に、ROLAND Jupiter-8を再現したJup-8 Vがバージョン4にアップデート。例えばJup-8Vでは、チューニング・ボタンやプリセット呼び出しボタンといったソフト・シンセに不要な操作子が排除され、より細かい設定をAdvanced画面で行えるようになり、かなり使いやすくなった。

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Stage-73 V2。RHODES Stage Pianoのエミュレーションだ

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Jup-8 V2。イメージはそのままにより使いやすく整理されている

4つのコントロール・マクロを実装

 また、全音源に4つのコントロール・マクロ、MIDIコントロールを簡単に設定できる画面、ソフト内のチュートリアル、新しいブラウザーが追加されている。

 特に注目したいのは4つのコントロール・マクロで、関連するパラメーターを一括してエディットできるものだ。ひとまずプリセットとしてBrightness(フィルターのカットオフなどに連動)、Timbre(レゾナンスなどに連動)、Time(各エンベロープ・ジェネレーターのディケイ、リリースに連動)、Movement(LFO関連など音の変調を中心に連動)の4つが用意されているが、自分で組み合わせを考えて名前を付けることも可能。各シンセのツマミの位置や複雑な構造が分からなくても、とりあえず“明るく/暗く”“長く/短く”といったエディットが全音源同じ感覚で使えるのは画期的だ。

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4つのマクロ・コントロール。音源画面の右下にも、同じコントロールが小さく表示される。この4つはデフォルトのマクロだが、組み合わせるパラメーターを自ら設定し、オリジナルのマクロを組むことも可能だ

V Collectionのエッセンスを手軽に扱えるAnalog Lab V

 さて、ARTURIAはV Collectionの各音源から厳選したサウンドを一つのインストゥルメントにしたAnalog Labをリリースしている。V Collection 8に同梱の最新版Analog Lab Vは、前バージョンからデザイン、操作性、ブラウザーによる検索機能などを刷新し、さらに使いやすくなった。V Collectionの各音源ほど細かいエディットはできないものの、プリセットを選んで少しエディットして使うくらいなら、むしろAnalog Lab Vの方が便利だ。

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Analog Lab V。V Collectionから厳選されたサウンドをひとつのソフトウェアとして扱える


 例えばシンセ・ベースの音一つでも、イメージにかなうものを見付けるには何種類もの音源を当たらなければならないかもしれない。音源の特徴をマニアックに理解した上で、絶対にMOOG Minimoogのベースを使いたいならMini Vを立ち上げればよいが、昔のように“シンセを一台しか持っていない”という時代ではない。V Collectionのユーザーは、シンセやキーボードの歴史的な名機を数多くコンピューターの中に持っているのである。Analog Lab Vのブラウザーから音のタイプで検索すれば、マッチするサウンドが一覧表示されるので、どの音源のプリセットにもアクセスできるし、音源をまたいでのレイヤー/ブレンドも行える。

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サウンド・タイプを選び音源をまたいで検索/選択ができるAnalog Lab VのExplore画面

複合的なオシレーターを備えたSQ80Vも単体リリース

 最後に、この秋に新しく発売されたSQ80 Vについても触れておこう。SQ80 Vはアナログ、FM、サンプリングなどの各種オシレーターを使ったプリセットが極めて魅力的だった、1987年発売のシンセENSONIQ SQ80を再現している。現状、V Collectionには含まれておらず、単体製品として発売されている。

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SQ80 V。オリジナルのENSONIQ SQ80はエディットが面倒だったが、こちらは非常にエディットしやすいデザイン

 

 ハードウェアでこれらの機材を入手、維持するのに一体どれだけのコストがかかるのか? 筆者も最初はソフトウェア音源に満足できなかったが、それは20年前の話である。TAE技術のますますの進化で全く抵抗も無いし、違いを聴き比べる自信も無い(むしろ音の良い方、気に入った方がソフトウェアという判断になるだろう)。そんなビンテージ名機が28台も簡単に使えて、こんな安価で手に入る時代に感謝したい。



松前公高
【Profile】EXPOやスペースポンチ、S.S.T.BANDで演奏し、これまでにアニメ『キルミーベイベー』、NHK『おしりかじり虫』『大科学実験』の作曲も担当。1台のKORG MS-20を使ったソロ・ライブも行う。

 

ARTURIA V Collection 8

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REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以上 ▪Windows:Windows 8.1以上(64ビット) ▪共通:2.5GHz CPU、4GBのRAM、20GBのディスク空き容量、OpenGL 2.0対応のGPU

製品情報

www.arturia.com