APOGEE Symphony Studio レビュー:上位機種と同じADチップを搭載した多チャンネル対応のオーディオI/O

APOGEE Symphony Studio レビュー:上位機種と同じADチップを搭載した多チャンネル対応のオーディオI/O

 APOGEE CEOのベティ・ベネット氏と、ブライアン・アダムスなどのミックスで知られる伝説的エンジニア/プロデューサーのボブ・クリアマウンテン氏ご夫妻の自宅とスタジオ“Mix This”が、先のLAの大火災で焼失してしまったというニュースを耳にして驚いている。2人には昨年お会いしており、イマーシブについて熱く話していたことを思い出すと、本当に一日も早い復興を願うばかりだ。今回は、そのAPOGEEから新しく発売されたオーディオ・インターフェース、Symphony Studio をレビューしよう。

最大9.1.6chまで対応可能

 Symphony Studioのラインナップは、8イン/8アウトのSymphony Studio 8×8、2イン/12アウトのSymphony Studio 2×12、8イン/16アウトのSymphony Studio 8×16の3種類。すべて1Uサイズとなっており、デジタル系統の入出力はなくアナログ入出力のみで、かなり洗練された構成だ。多チャンネルの環境構築を視野に入れており、8×8は最大5.1.2ch、2×12は最大7.1.2ch、8×16は最大9.1.6chまでのモニター・システムに対応する。

Symphony Studio 8×16のリア・パネル。8系統のXLR入力端子、16chのアナログ出力(D-Sub 25ピン)、USB-C端子を備えている。Symphony Studio 8×8は8系統のXLR入力+8chのアナログ出力(D-Sub 25ピン)、Symphony Studio 2×12は2系統のXLR入力+12chのアナログ出力(D-Sub 25ピン)という仕様だ

Symphony Studio 8×16のリア・パネル。8系統のXLR入力端子、16chのアナログ出力(D-Sub 25ピン)、USB-C端子を備えている。Symphony Studio 8×8は8系統のXLR入力+8chのアナログ出力(D-Sub 25ピン)、Symphony Studio 2×12は2系統のXLR入力+12chのアナログ出力(D-Sub 25ピン)という仕様だ

 接続はUSB-CでMac/Windowsに対応(Windowsは今後のアップデートで対応)。フロント・パネルにはディスプレイと8つのボタン、ジョグ・ダイヤルがあり、それらの操作によって容易にセットアップが可能だ。また、専用ミキサー・アプリケーションのApogee Control 2ではレコーディングやミックスに必要なルーティング、モニター・セットアップ、各チャンネルのレベル設定などが分かりやすく表示され、初心者でも簡単に操作ができる安心感がある。

ミキサー・アプリケーションのApogee Control 2。モニター・コントロール機能も充実し、ベース・マネージメントやルームEQの設定も可能だ

ミキサー・アプリケーションのApogee Control 2。モニター・コントロール機能も充実し、ベース・マネージメントやルームEQの設定も可能だ

 入力段のDSPには、ボブ・クリアマウンテン氏監修の特製チャンネル・ストリップがアップデートで搭載される予定。Symphony Desktopなどに備わっているECS Channel Stripをベースにしており、EQやコンプ、サチュレーションによって録音時の積極的なアプローチが可能になる。

アップデートで入力段DSPに搭載予定のチャンネル・ストリップ。ハイパス・フィルターや3バンドEQ、ドライ/ウェットを備えるコンプ、サチュレーターが組み込まれている

アップデートで入力段DSPに搭載予定のチャンネル・ストリップ。ハイパス・フィルターや3バンドEQ、ドライ/ウェットを備えるコンプ、サチュレーターが組み込まれている

レイアウトの保存でセットアップを瞬時に呼び出せる

 出力部のDSPでは、スピーカーとスタジオ環境のモニター・ワークフローの構築が細かに詰められる。ルームEQやベース・マネージメント、ディレイによってイマーシブにおけるリスニング環境の問題を改善でき、これからシステムを構築する方には大きなアドバンテージになるだろう。ステレオや5.1ch、Dolby Atmosの7.1.4chなどのスピーカー・レイアウトの設定や保存ができ、作業スタイルに合わせてセットアップを瞬時に呼び出せるのはとても便利そうだ。

 ラインナップを見れば分かるが、Symphony Studioは中規模スタジオからプライベート・スタジオでのイマーシブ環境構築までを強く意識しており、余分なデジタル系統を削ぎ落とすことでモニターに重要なAD/DAへのこだわりを見せている。最高24ビット/192kHz対応のコンバーターはダイナミック・レンジが124dB(AD)、129dB(DA)と広く、高品位なものが採用されている。ADチップはフラッグシップ・モデルであるSymphony I/O MKII SEと同等のものだ。内蔵マイク・プリアンプは+75dBのゲインが得られるAdvanced Stepped Gainとなっている。

 フロント・パネルにヘッドホン・アウトが2系統あり、それぞれステレオ・フォーンとステレオ・ミニになっているという細かな配慮も見逃せない。インピーダンスによる音の変化をなくすゼロ・オーム・ヘッドホン・アウトであることも特徴だ。

解像度が高く画角が広くなる印象

 実際に音を聴いてみよう。まずはDAの音色をチェックするために、さまざまなジャンルの音源をAVID Pro Toolsに取り込んでモニターする。比較として一般的なスタジオにある他社オーディオ・インターフェースとも聴き比べた。

 ピアノやボーカル、ドラム、ベースとシンプルな編成の楽曲やダンサブルな打ち込み曲を聴いてみたところ、Symphony Studioは一聴して解像度が高い。ひずみが少なくエコー感も明瞭で、演奏の強弱も細部まで聴き取れる。ピアノのタッチが“優しく弾いている感じ”な中庸さではなく、“ちゃんと弱く弾いている”ように感じられた。解像度が高いため画角が広くなった印象があり、耳障りな中域の硬さや痛さはなく、ドラムのリム・ショットや言葉の子音も聴き取りやすい。他社オーディオ・インターフェースは普段から聴いていて耳なじみがあるせいか安定感が良く聴こえるが、どれも平均的な印象だった。ちなみにSymphony Studioのアウトプット・レベルはデフォルトで+20dBuになっているようだ。

APOGEEらしい音の腰や芯が感じられる

 次にマイク・プリアンプを試してみた。平均的なマイクとしてNEUMANN U 87を選び、自分の声を録音。また、比較としてビンテージのNEVE 1066と聴き比べてみた。Symphony Studioはスッと立ち上がりが速く、明るさもあって聴き取りやすい。加えて、中低域にAPOGEEらしい腰や芯もちゃんとあるのが好印象だ。比較した1066はアダルトに落ち着いて聴こえてしまう。スピードが速いが子音が強い/硬いとか、中域の突出したピークがあるわけではない。DAで聴いた印象が、マイク・プリアンプ部分でも同等に感じ取れた。

 ミックスの最終的なチェックとして、近年使用が増えているモニター・ヘッドホン。ヘッドホンは製品によってインピーダンスがまちまちで、挿す機材によっては音色が変わって聴こえてしまうため、どうしても別途ヘッドホン・アンプが欲しくなるが、Symphony Studioはゼロ・オーム・ヘッドホン・アウトのため製品が持つ性能をそのまま聴けるのは魅力的だ。

 Symphony Studioは、Apogee Control 2の設定でスピーカーへのダイレクト・モニタリングも可能なので、モニター・コントローラーを別途用意する必要もなく、部屋の容積に対するチューニングやベース・マネージメントもできてしまう万能なオーディオ・インターフェースだ。どのモデルもサラウンドやイマーシブに適しているが、特にSymphony Studio 2×12はアナログに振り切った少ない入力数と7.1.4chまでモニター構成を組める出力数で、プライベート・スタジオをターゲットとしたイマーシブ入門モデルと言えるだろう。これからイマーシブを始めるにあたり、Symphony Studioは機種選定の有力候補になるのではないだろうか。

 

加納洋一郎
【Profile】プロデューサー/エンジニア。MIXER'S LABのチーフ・エ ンジニア〜フリーランスを経て、2024年からサウンド・シティ イマー シブ div.部長に就任。エンジニア業と並行して活動を行っている。

 

 

 

APOGEE Symphony Studio

Symphony Studio 2×12:319,000円/Symphony Studio 8×8:440,000円/Symphony Studio 8×16:550,000円

APOGEE Symphony Studio

SPECIFICATIONS
▪対応OS:Mac/Windows(Windowsはアップデートで対応予定) ▪接続:USB-C ▪ビット/サンプリング・レート:最高24ビット/192kHz ▪外形寸法:482.6(W)×43.9(H)×307.9(D)mm ▪重量:約4.5kg

製品情報

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