ALLEN & HEATH Xone:92 MK2 レビュー:プリアンプのアップデートで音質が向上した4ch DJミキサーの新バージョン

ALLEN & HEATH Xone:92 MK2 レビュー:プリアンプのアップデートで音質が向上した4ch DJミキサーの新バージョン

 コンソール・メーカーとしても有名なALLEN & HEATHの4ch DJミキサーXone:92が、発売から20年の時を経てXone:92 MK2へアップデートされました。そう、特筆すべき点は何を隠そう、本機は純粋なアナログDJミキサーだということです。Xone:92発売当時からのアナログ設計というコンセプトをしっかり継承しつつ、純粋にクオリティのアップデートを図ろうとするメーカーのこだわりと自信を感じさせます。

縦フェーダーのカーブ・セレクト・スイッチを新搭載

 デモ機が届きいざ開封してみると、筆者所有の4chのDJミキサーPIONEER DJ DJM-900NXS2よりひと回り小さい印象で、その分トップ・パネルにはぎっしりとノブやフェーダーが敷き詰められています。TECHNICSのターンテーブルを横置きにしたときにXone:92 MK2と奥行きがそろうので、その辺りは計算された設計だと感じました。他機種からの入れ替えの際にスペースで困るようなことはなさそうです。

 早速仕様を見ていきます。トップ・パネル中央にあるch1〜4の構成は、それぞれ上からプリ/ポスト切り替えスイッチ付きのAUXセンドつまみ×2、PHONO/LINE切り替えスイッチ、センター・クリックのあるLEVELつまみ、4バンドEQ(HI/HM/LM/LO)つまみ、フィルターへのアサイン・スイッチ、クロスフェーダーへのアサイン・スイッチ、CUEスイッチ、チャンネル・フェーダーです。

 トップ・パネルの左側には、ch1〜4とは別に、ユーティリティに使用できるMIC/RTNチャンネルを2つ実装。ステレオ/モノラルをどちらも扱うことができ、マイク(XLR)とライン(TRSバランス)の入力を切り替えて使用可能です。1chにマイクを入力し、もう1chはディレイなど外部エフェクトのステレオ・リターンに使ったり、外部のDJコントローラーを接続したりすることが想定できます。ch1〜4と同様に2系統のAUXセンドやEQを搭載しているので、上記のように外部機器を入力した場合、マイクの声に外部のディレイをかけるような使い方も可能です。とても実用的で、コンソール・メーカーならではの発想の取り回しの良さだと思いました。

 ch1とch4の横にはフィルター・セクションが配置されています。HPF/BPF/LPFが選択可能で、LFOやレゾナンスのつまみも装備。フィルターはVCF TO XFADEスイッチを押すことでクロスフェーダーにもアサイン可能です。

クロスフェーダーはMini Innofader Proに刷新

 MASTERやBOOTH、ヘッドホン出力などの出力関係が右にまとめられている点も含め、パネル・レイアウトは前モデルから大きな変更はありませんが、チャンネル・フェーダーのボリューム・カーブを3種類から選択するCH CURVEスイッチがクロスフェーダー右に追加されました。また、クロスフェーダーも刷新。ターンテーブリスト界隈からの信用も厚いAUDIO INNOVATE Mini innoFader Pro Standardが採用されています。細かいスクラッチ・プレイでもまったく問題ないキレと耐久性を併せ持つので、ヒップホップ系のDJにはうれしいアップデートと言えそうです。

リア・パネル。入出力は上段左からMIDI OUT、インプット4〜1(フォノ/ライン入力がステレオ1系統ずつ、すべてRCAピン)。中段は左からブース出力(TRSバランス)、ミックス出力2(TRSバランス)。下段は左からミックス出力1(XLR)、レコード出力(RCAピン)、AUX出力(TRSバランス)×2、マイク入力(XLR)×2、リターン入力(TRSバランス)×2。マイク入力上のCLEAN FEEDスイッチは、マイク入力のブース/レコード出力へのルーティングのオン/オフを切り替えるためのもの

リア・パネル。入出力は上段左からMIDI OUT、インプット4〜1(フォノ/ライン入力がステレオ1系統ずつ、すべてRCAピン)。中段は左からブース出力(TRSバランス)、ミックス出力2(TRSバランス)。下段は左からミックス出力1(XLR)、レコード出力(RCAピン)、AUX出力(TRSバランス)×2、マイク入力(XLR)×2、リターン入力(TRSバランス)×2。マイク入力上のCLEAN FEEDスイッチは、マイク入力のブース/レコード出力へのルーティングのオン/オフを切り替えるためのもの

フィルターをオンにしたときのノイズを解消

 実際にDJミックスしてみましょう。チャンネル・フェーダーのボリューム・カーブを直線に設定したところ、フェーダーのストロークが長いこともあり、少しレベルを落としただけでは“あれ、まだ音がいる”という感触。ビート主体でロング・ミックスが映えるハウスなどのジャンルで使いやすそうです。ヒップホップやR&Bなどミックスに俊敏性が必要なジャンルの場合は、曲線状のカーブを選ぶとよいでしょう。

 EQは4バンドならではで、3バンドEQではなかなか得られないアイソレーター的な効果が味わえます。緻密な音作りが可能で、特にロング・ミックス時に表現の幅が広がるのはもちろんですが、同時にDJの奥深さや面白さをあらためて感じられました。また、Xone:92が長年愛されている理由の一つとも言えるアナログ・フィルターは、ぜひ単体機でも発売してほしいと思うほどの美しいかかり具合です。前バージョンではフィルターのオン/オフ時に微細なノイズが発生していたそうなのですが、その点も解消されています。

サウンドは演奏者が見えるような臨場感

 さて、筆者的にはここからが本題と言っても過言ではない“個人的目玉”、プリアンプのアップデート=Xone:92フォノ・プリアンプの実力を見ていきます。前述の通り、本機は純アナログ回路です。それが理由で今回のレビューが楽しみで、新たに家のレコードを増やしてしまいました。古い年代のソウルやジャズから現行のヒップホップ、R&B、その他クラブ・ミュージックまでさまざまなレコードを再生したところ、打ち込み系の曲はDJミキサーらしい200Hz辺りの押し出し感が気持ち良く、ワイルド、ジューシーなサウンドが得られました。生音系の音楽に関しては大げさでなく、レコーディング・スタジオのコントロール・ルームの扉の先にいる演奏者が見えるような臨場感。アナログ回路の音の強みを感じます。

 パソコンでのDJスタイルが普及しはじめてそろそろ20年が経ちますが、その間も廃れることなく熱心なクラブ・ミュージック・ファンから愛され続け、今回満を辞してアップデートされたXone:92。幅広い音楽ジャンルに対応する特別なDJミキサーに生まれ変わりました。全国のクラブ、DJバーなどに本機が普及することを、切に願います。

 

HIRORON
【Profile】プライベート・スタジオATENE STUDIOを拠点とするエンジニア/プロデューサー。SKY-HI、Lead、おかもとえみなど数々のアーティストのライブでDJ/マニピュレーターとしても活動している。

 

 

 

ALLEN & HEATH Xone:92 MK2

オープン・プライス

(市場予想価格:269,500円前後)

ALLEN & HEATH Xone:92 MK2

SPECIFICATIONS
▪入力:INPUT×4(フォノ/ライン)、MIC/RTN×2 ▪出力:MIX×2、BOOTH、RECORD、AUX×2 ▪周波数特性:20Hz〜30kHz(+1/−0.5dB) ▪最大出力レベル:+25dBu@MIX1、+21dBu@MIX2およびBOOTH、+12dBu@RECORD ▪チャンネルEQ:ハイ(2.4kHz、+6/−∞dB)、ハイミッド(1.8kHz、+6/−30dB)、ローミッド(320Hz、+6/−30dB)、ロー(220Hz、+6/−∞dB) ▪フィルター:ステレオ・アナログVCF×2(HPF/BPF/LPF) ▪チャンネル・フェーダー:60mmリニアVCA ▪クロスフェーダー:45mmリニアVCA ▪外形寸法:320(W)×106(H)×376(D)mm ▪重量:7kg

製品情報

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