WAVESのライブ・ミキサーeMotion LV1。ソフトウェアをインストールしたコンピューターをGUIとし、必要に応じてDSPサーバーやフェーダー・ユニットを自由に追加できるフレキシブルなシステムだ。卓越した音質と、豊富に用意されたプラグインが使う者を魅了し、世界中でユーザーを増やし続けている。今回は、eMotion LV1を常設卓として使用しているライブ・ハウス吉祥寺SHUFFLEをたずね、その魅力に迫った。
写真 • 小原啓樹
まず音の良さに驚いた
取材に応じてくださったのは、吉祥寺SHUFFLEを経営するG-SOUNDの代表取締役、中嶋優氏。LV1との出会いをこう語る。
「2021年ごろに購入して、初めは配信用のミキサーとして使っていました。当時、コロナの影響もあって配信が盛んになってきていた時期で、周りに配信用としてLV1を使っている人がいたこともあり、興味を持って導入してみました。WAVESというとレコーディングのイメージが強かったので、使い勝手はどうなんだろうと思っていたのですが、使ってみてまず音が良いことに驚きました。それまで使っていた機材と全然違った。これはすごいと思い、外のPAの現場に持ち込んで使い始めて、2024年11月からSHUFFLEの常設卓として使うようになりました」
常設卓として使うようになったきっかけは、ディスプレイやフェーダーが一体型となったeMotion LV1 Classicのリリースがアナウンスされたことだったという。
「これによってLV1シリーズはより一層ライブ・ミキサーとして広まるだろうと思い、LV1 Classicを外現場用として購入し、併せてLV1を常設卓として使うことにしました。毎日使うようになったら、店のスタッフも音が良いことに驚いていて。印象的だったのは音質にさほど詳しくない事務系のスタッフが『大きい音もうるさくない』と言っていたこと。音圧はあるけど音が綺麗なんですよね。声のノリも全然違います」
一度使うと戻れないプラグイン
音の素性が良いことに加え、プラグインを使うことでより豊かな表現が可能になることもeMotion LV1の魅力だ。ライブ・ミキシングに適したプラグインも日々生み出されていて、中嶋氏も情報収集に余念がない。「プラグインについては無限に語れますよ」という氏に、おすすめを挙げていただいた。
IDX Intelligent Dynamics
「コンプっぽい感じで、ツマミを上げていくとどんどん声が前に出てきます。しかも綺麗に出てくるので『何だこれ!?』と驚きながら使っています。6人組のアイドルが一緒に歌うようなときに入れてあげると歌が綺麗になりますね」
F6 Floating-Band Dynamic EQ
「周波数のレンジを決めて、その範囲内に入ってきたら音を切ってくれるEQ。全チャンネルに入れています。例えば、Aメロ、Bメロはいいんだけどサビになると声がキンキンしてくるという場合に、その周波数を設定しておいてあげるとぱっと切ってくれて、聴こえ方も自然。効き方のアタック/リリースも設定できます」
Renaissance Compressor
「RCompと呼ばれているコンプです。PAでコンプをかけると、どうしてもかけていることが分かってしまいがちですが、RCompは本当に自然。かかっているのが分からないくらい自然なため、かけすぎてしまうくらいです」
Renaissance Bass
「RBass、これもよく使います。ベースやキックの、ちょっと足りていない周波数を指定して、フェーダーを上げると音圧が出てくる。ロー感を足したいときに重宝します」
Vitamin Sonic Enhancer
「足りないところを足すという意味ではこれもよく使います。LO、LOMID、MID、HIMID、HIに分かれていて、足したいところのフェーダーを上げるだけ。アコギなんかで、ちょっと足りないなというときに使っています」
Smack Attack
「アタック感が欲しいときにはこれを使います。AttackとSustainを設定するのですが、やればやるほどアタック感がパチっと出てくる。しかもすごく綺麗なんです」
L2 Ultramaximizer
「配信のときによく使うのですが、通すと音圧が上がって印象が全く違うものになる。レコーディングやマスタリングで使っている方が多いプラグインですが、配信やライブで使うのもいいと思います」
eMo IEM
「これはアーティストがステージで使うもので、イヤモニ内で楽器の定位を自由に動かせるツールです。一度これを使ったら単純なステレオのイヤモニが物足りなくなってしまうかもしれません」
メッセージ「使えば分かります」
常設卓として運用を始めて2カ月、毎日使っているがトラブルはないという。今後ますますPAの現場に広がっていきそうなeMotion LV1、関心のある人たちへ向け中嶋氏からメッセージをいただいた。
「使えば一発で違いが分かります。音を聴いてもらった人のほぼ全員がそう言っていますから。常設卓として使うときにPAのスタッフも『大丈夫かな』と不安がっていましたが『まぁ音を聴いてみてくれ』と聴かせたところ瞬間的に納得していました」
関心のある人は、ぜひ吉祥寺SHUFFLEで音を体験してみてほしい。
◎本記事は『音響映像設備マニュアル 2025年改訂版』より転載しています。
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