26年ぶり刷新!ブルーノート東京が選んだL-Acoustics A15×KS21最新スピーカー・システム

スピーカー・システムの更新にあたってL-Acousticsを導入することについては、アーティストに帯同するエンジニアたちからもポジティブな反応が多かったという

スピーカー・システムの更新にあたってL-Acousticsを導入することについては、アーティストに帯同するエンジニアたちからもポジティブな反応が多かったという

1988年オープンの歴史あるジャズ・クラブ、ブルーノート東京。国内外の著名なアーティストによる名演の数々を送り出してきた同店が、2024年9月に26年ぶりとなるスピーカー・システムの更新を行った。メイン・スピーカーとして選ばれたのはL-Acoustics A15。そのサウンドが同店にもたらしたものを取材した。

写真 • 小原啓樹

ブルーノート東京の特徴にフィットした音

 A15は、ラインアレイとポイント・ソースの特徴を併せ持つ、コンスタント・カーバチャーというカテゴリーのスピーカーだ。15インチ・ウーファー/3インチ・ツィーターの2ウェイで、エンクロージャーのオプションによりFocus(10°)、Wide(30°)という2種類のカバレージが用意されている。それらを組み合わせ、かつ水平/垂直の指向性を物理的に変更できる機構Panflexにより、あらゆる形状のリスニング・エリアに対応する。

 ブルーノート東京のメイン・スピーカーとして導入されたのは、上段にA15 Focus を1台、下段にA15 Wideを2台のセット。これがL/Rにフライングされている。さらに、サブウーファーL-Acoustics KS21を2台ずつL/Rに床置きで設置。ステージ横の客席をカバーするアウトフィルとして同軸スピーカーのL-Acoustics X12をL/Rに1台ずつ、客席前方をカバーするインフィルとしてAシリーズの小型モデルL-Acoustics A10 Wideが2台設置されている。

フライングされたA15シリーズ。上段がA15 Focus。指向角は10°でフロア後方をカバー。下段2台がA15 Wide。指向角は30°でフロア前方から後方に差しかかるあたりまでをカバーしている。スペースが広いため、水平/垂直の指向性を物理的に変更できる機構Panflexは全開に設定されている

フライングされたA15シリーズ。上段がA15 Focus。指向角は10°でフロア後方をカバー。下段2台がA15 Wide。指向角は30°でフロア前方から後方に差しかかるあたりまでをカバーしている。スペースが広いため、水平/垂直の指向性を物理的に変更できる機構Panflexは全開に設定されている

ステージ横の客席をカバーするアウトフィルとして設置された同軸スピーカーX12。12インチ・ウーファー/3インチ・ツィーターの2ウェイ

ステージ横の客席をカバーするアウトフィルとして設置された同軸スピーカーX12。12インチ・ウーファー/3インチ・ツィーターの2ウェイ

客席前方をカバーするインフィルとしてAシリーズの小型モデルA10 Wideを2台設置。10インチ・ウーファー/3インチ・ツィーターの2ウェイ

客席前方をカバーするインフィルとしてAシリーズの小型モデルA10 Wideを2台設置。10インチ・ウーファー/3インチ・ツィーターの2ウェイ

サブウーファーは21インチのKS21をチョイス。ステージの左右に2台ずつ設置されている

サブウーファーは21インチのKS21をチョイス。ステージの左右に2台ずつ設置されている

メイン・システムのパワー・アンプはL-Acoustics LA4Xを4台使用

メイン・システムのパワー・アンプはL-Acoustics LA4Xを4台使用

 ブルーノート東京のサウンド・ディレクター、水戸晃弘氏にサウンドの印象を聞いた。

 「ブルーノート東京はステージと客席が近く、生音の響きも大きな魅力になっています。その魅力を失いたくないというのが一番にありました。その点A15は繊細で解像度が高く、音楽的に生音に寄り添ってくれる。極端な話、ピアノ・ソロならリバーブだけをスピーカーから出してあげるような使い方もできるし、一方でファンク・バンドのような音圧の高い演目にも妥協せずに対応できる。空間の表現がしやすい。そんな印象を持っています」

取材にご協力いただいたブルーノート東京のサウンド・ディレクター、水戸晃弘氏

取材にご協力いただいたブルーノート東京のサウンド・ディレクター、水戸晃弘氏

 また、A15は「距離が感じられる音だと思う」と言い、こう続けた。

 「ラインアレイは遠達性が高く、近づいても離れても音の印象が変わらないという特性がありフェスティバルなどでの使用には適していますが、ブルーノート東京には合わないと思います。ここではステージ前で音を浴びるように楽しみたい人もいれば、後方の席で音楽半分、会話半分で楽しみたい人もいる。A15の音はラインアレイとは違って、近づけば大きく感じられ、離れれば小さく感じられる。明瞭度は変わらず、音圧もそれほど変化していないと思いますが、そう感じられる。その特徴が合っているなと思います」

 さらに、店の隅々にまで音が届いていることを使い始めて早々に実感したそうだ。

 「以前は、2階のPAブースから降りてきて1階の隅にあるドアを開けたとき、音がモヤっとしてよく聴こえない状態でした。そのため、お客様の前を失礼して通りながら真ん中あたりまで来て、こっそり音を確認していました。それが今はドアを開けた瞬間にクリアに聴こえる。歌詞もはっきり聴き取れます」

 建築音響とのマッチングについて聞いたところ「デッドな空間であることが生かせる」という。

 「音響的にデッドであることは、演奏者からすると良し悪し分かれるところではあるのですが、音作りをする立場からすると、空間表現しやすいA15が入ったことで思い通りの響きが作れています。とある著名な海外のエンジニアがアーティストの帯同でここへきたとき、『最高じゃないか、自分が作ったリバーブの響きがそのまま出る会場なんてなかなかないぞ』と言っていて、確かにと思いました。そういう意味でもA15とブルーノート東京の親和性は高いと言えます」

モニター環境も大きく改善

 今回のスピーカー更新に伴い、PAブースにモニター・スピーカーとしてL-Acoustics 5XTがL/R導入された。コンパクトな同軸モデルで、コンソールの上に設置されている。

 「以前はブースから少し離れた位置にスピーカーを吊ってモニターしていたので、コンソールの上だと距離が近すぎるため空気の振動が感じられない気がして抵抗があったのですが、やってよかったです。客席への出音と同じ音がするのですよ。以前のモニター環境は信頼度でいうと50〜60%くらいで、客席に降りて確認した音とモニターの音の差を頭の中で補正して調整していました。5XTを導入して最初の1〜2回はその癖が抜けなくて、ブースで音を作って客席に降りたらいつもの補正がいきすぎていることに気がついて。要はブースで作った音がそのまま出てしまっていたんです。そこで、客席とブースで同じ音の環境になったのだということを実感しました。以前に比べて頭脳労働が減ったおかげで疲れなくなりましたね」

モニター・スピーカーとして導入された5XT。5インチ・ウーファー/1インチ・ツィーターのコンパクトな同軸モデル。パワー・アンプはL-Acoustics LA2Xiで駆動している

モニター・スピーカーとして導入された5XT。5インチ・ウーファー/1インチ・ツィーターのコンパクトな同軸モデル。パワー・アンプはL-Acoustics LA2Xiで駆動している

 小型の同軸スピーカーから大型のラインアレイまで音色に一貫性があることもL-Acousticsの特徴だが、このことも今回のスピーカー更新において大きなメリットとなったようだ。

 スピーカー更新後の店の雰囲気の変化について問うたところ「いい意味で、以前の雰囲気をそのまま引き継げています。ブルーノート東京のカラーを生かしたままクリアにブラッシュアップできました」という水戸氏。ぜひ一度、この音を体験してみてほしい。

◎本記事は『音響映像設備マニュアル 2025年改訂版』より転載しています。

 音響/映像/照明など、エンターテインメント業界で働く人たちに不可欠な知識を網羅した総合的な解説書で、2023年の改訂版から2年ぶりのアップデート。各分野の基礎知識をレクチャーする記事+プロの現場のレポート記事で、これから業界を目指す人や業界に入ったばかりの方に向けて展開します。

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