ミハル通信がELL LiteとiLoud MTMで実現!22.2chイマーシブ・ライブビューイングシステム

ミハル通信の社内に構築されたイマーシブ・スタジオ。22.2ch仕様で、自社製のヤグラをはじめ、随所に工夫が施されている

ミハル通信の社内に構築されたイマーシブ・スタジオ。22.2ch仕様で、自社製のヤグラをはじめ、随所に工夫が施されている

近年ますます活用のシーンが広がっているイマーシブ・オーディオだが、ここで紹介するシステムは、本書読者にとっても興味深い事例だろう。そのシステムをサウンド面で支えるのがIK Multimediaのスピーカー、iLoud MTMだ。同機を用いたイマーシブ・スタジオを自社に構築しているミハル通信を訪れ、その中身を取材した。

写真 • 小原啓樹

ミキサーを介さないイマーシブ・オーディオ

 ミハル通信は、ケーブルテレビ関連の伝送システムなどを開発/製造している企業だ。同社がイマーシブ・オーディオを使ったシステムの開発に乗り出した経緯を、取締役技術統括本部長の尾花毅氏に聞いた。

取材にご協力いただいたミハル通信の取締役技術統括本部長、尾花毅氏

取材にご協力いただいたミハル通信の取締役技術統括本部長、尾花毅氏

 「自社の技術を放送以外の分野で活用する方法を考え始めたのがきっかけです。まず初めに取り組んだのが、世に出始めた8K内視鏡を使って遠隔手術が行える超低遅延の8K伝送システムでした。核となる機器はELL 8Kというエンコーダー/デコーダーで、『Extreme Low Latency』の頭文字を取ったその名の通り、エンコーダーとデコーダー間のコーデック遅延が30ms以下というスペックを持っています。これは技術的には素晴らしいものなのですが、高額になってしまうためビジネスにはなりにくい。そこで、この技術を活用して4K版を作りました。それがELL Liteです。われわれはこのELL Liteを使ったイマーシブ・ライブ・ビューイング・システムを提案しています」

 その仕組みを紹介しよう。「広く使ってもらうには簡単にしなければなならない」という尾花氏の言葉通り、非常にシンプルなシステムだ。

 まず、演奏が行われる会場にELLマイクという特殊なマイクを設置する。このマイクは、NHKが8K放送で採用している22.2chサラウンドのスピーカー配置と同じ方向に、単一指向性のマイク22本を向けたものだ。

22本のマイクをウニのように構成したELLマイク。この1本1本が、イマーシブ・スタジオのスピーカー1本1本と1対1の関係になっている

22本のマイクをウニのように構成したELLマイク。この1本1本が、イマーシブ・スタジオのスピーカー1本1本と1対1の関係になっている

 ELLマイクからのアナログ信号は自社で試作しているADコンバーターでDanteに変換され、マルチチャンネル信号がLANケーブル1本でELL Liteに入力される。

自社で試作されている変換デバイス。下3段がADコンバーターで、1台あたり8chのアナログ入力が可能。一番上の1台は、デジタル変換された信号をDanteに変換するデバイス。ここからLANケーブルでELL Liteに信号を送る

自社で試作されている変換デバイス。下3段がADコンバーターで、1台あたり8chのアナログ入力が可能。一番上の1台は、デジタル変換された信号をDanteに変換するデバイス。ここからLANケーブルでELL Liteに信号を送る

 ELL Liteはルーターおよび光終端装置につながっていて、公衆回線を使って遠隔地のELL Liteにマルチチャンネル信号が非圧縮で送られる。

4K対応のエンコーダー/デコーダーELL Lite。Dante/MADIの信号を、映像信号とともに公衆回線経由で遠隔地に送ることができる

4K対応のエンコーダー/デコーダーELL Lite。Dante/MADIの信号を、映像信号とともに公衆回線経由で遠隔地に送ることができる

 遠隔地には22.2chサラウンドのスピーカー・システムが構築されていて、ELL Liteからのマルチチャンネル信号をDante対応のDAコンバーターでアナログ変換後に、ELLマイク1本に対しスピーカー1本という1対1の関係で再生される。こうして演奏が行われる会場での音の方向感を再現するのだ。映像も併せてELL Liteで送られ、遠隔地のディスプレイやプロジェクターで鑑賞する。

 このシステムにはミキサーが介在せず、ミックス・ダウンや3Dパンニングも不要なため、専門知識を持たない人でも臨場感のあるイマーシブ・ライブ・ビューイング・システムが構築できる。このことは導入の障壁をかなり低くするだろう。Dante/MADIに対応したエンコーダー/デコーダーや、Dante/MADI信号の公衆回線を使った送信など、これまで実用化されていなかった製品や技術が裏でその簡潔性を支えている。

iLoud MTMの特徴がフィット

 先述した「遠隔地の22.2chサラウンド・スピーカー・システム」はミハル通信の社内に構築されている。使用されているスピーカーはiLoud MTM。フロントL/Rの2本のみ、iLoud Precision 5と差し替えながら音響の検討が進められている。

左がメイン・スピーカーとして採用されたiLoud MTM。右がiLoud Precision 5。フロントL/Rの2本のみ、この2モデルで音響の変化などを検討している

左がメイン・スピーカーとして採用されたiLoud MTM。右がiLoud Precision 5。フロントL/Rの2本のみ、この2モデルで音響の変化などを検討している

高い位置に設置するスピーカーは配線がしずらいケースがあるため、ミハル通信では自社の通信技術を用いて非圧縮96kHzでワイヤレス再生できる環境も用意している

高い位置に設置するスピーカーは配線がしずらいケースがあるため、ミハル通信では自社の通信技術を用いて非圧縮96kHzでワイヤレス再生できる環境も用意している

 実はクラシック・ギターの奏者でもある尾花氏は、プライベートでも録音用のモニター・スピーカーにiLoud MTMを使っていて、その特徴がイマーシブ・ライブ・ビューイング・システムに合うと考え採用した。

 「まず音がいいこと。ここで音を聴いていただいたサラウンド音響の専門家の方も音の良さを絶賛されていました。加えて、コンパクトで軽いこと、価格が同クラスのスピーカーに比べて抑えられることも、導入のしやすさという点で魅力です」

 iLoud MTMは、3.5インチ・ウーファーで1インチ・ツィーターを挟んだデザイン。仮想同軸とも呼ばれる構造で、ウーファーとツィーターの再生音が分離せず一点から鳴っているような聴感が得られる。重さは2.5kg。IK Multimediaのスピーカーに共通するキャリブレーション・システムARCを用いて、再生環境に応じた補正が行えるのも特徴だ。

 「ARCは自宅でも愛用していますが、使うのと使わないのでは音の明瞭度が全然違います。これもiLoud MTMを使おうと思った大きな理由の1つです」

 このイマーシブ・ライブ・ビューイング・システムは、音楽ライブだけでなく、例えば老人ホームなど外出が難しい人が集まる場所で、花火や祭りを遠隔体験できるシステムとしての活用も考えられているという。そういった用途を考えると、iLoud MTMの軽量コンパクトで設置がしやすく、コストが抑えられることはメリットが大きいだろう。

 導入のしやすさを追求し、スピーカー・システムを組むヤグラやスピーカー・スタンドも自社で設計。配線が難しい高い位置のスピーカーを、自社の通信技術を用いて非圧縮96kHzでワイヤレス再生できる環境も用意している。

 このイマーシブ・ライブ・ビューイング・システムに関心のある方は、ミハル通信のオフィシャル・サイト(https://www.miharu.co.jp/)から問い合わせてみてほしい。出張デモも可能とのこと。また、iLoud MTMは現在、後続モデルのiLoud MTM MKIIに進化しており、ミハル通信でも順次入れ替えていくそうだ。IK Multimediaスピーカーの問い合わせは下記のフックアップまで。

◎本記事は『音響映像設備マニュアル 2025年改訂版』より転載しています。

 音響/映像/照明など、エンターテインメント業界で働く人たちに不可欠な知識を網羅した総合的な解説書で、2023年の改訂版から2年ぶりのアップデート。各分野の基礎知識をレクチャーする記事+プロの現場のレポート記事で、これから業界を目指す人や業界に入ったばかりの方に向けて展開します。

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