東京・六本木の中心部に、2024年6月に誕生したライブ・ハウスGT LIVE TOKYO。同店は都心の一等地には珍しく更地から建築されていて、その利点を生かした作りが特徴となっている。
撮影 • 八島崇(メイン画像) 小原啓樹(メイン画像以外)
生音も魅力的に響く空間
設計を手掛けたアコースティックエンジニアリングの代表・入交研一郎氏は、建物から設計できることのメリットをこう語る。
「法律の制限内ではありますが、フロアの広さや天井の高さをある程度自由に設計できるのが利点です。加えて、既存の建物にライブ・ハウスを作る場合課題になることが多い電源容量も、青天井ではないにせよキュービクルの設計から行えますので自由に設定できる。大きな電力が必要になる演出機材も使いやすくなります。また、出入り口や避難経路を自由に設計できるので、お客さんと出演者、スタッフの動線を切り分けるプランが立てやすいのもメリットです。構造的にも、柱梁によるラーメン構造ではなく、壁式RC造にしていて、一般的なRC造ビルの場合15cmくらいの壁厚がここは25cmありますので遮音性能的にはかなり有利になりますし、柱梁の出っ張りもありません。天井については、躯体の高さを十分に取り、遮音天井の下に30cmの吸音天井を設けており中低域をしっかり吸音しています。これにより、天井面に関してはレコーディング・スタジオと同等の吸音特性になっているので、一般的なライブ・ハウスに比べて中低域はかなりすっきりした音場になっていると思います」
GT LIVE TOKYOのマネージャーである町田孝氏も音響面でのメリットは肌で感じているそうだ。
「六本木の中心部とはいえ周囲は閑静な住宅街で夜は静かなのですが、ライブ中でも外に出ると音は全く聴こえないですし、上階にあるレストランからも音漏れに関して言われたことはないです。室内の音響もとても良くて、クラシックの弦楽四重奏や、ピアノとバイオリンだけで行う演目でも、マイクを立てずに生音だけで素晴らしい響きになっていて、演者の方も感激されていました」
室内の音響については「あらゆるジャンルに対応できるような方向性で設計した」と入交氏は話す。
「ロックからクラシックまで幅広いジャンルの演奏が行われますから、多目的ホールのようなデッドすぎず、響きすぎずというバランスで。生音の響きが評価されているのはうれしく思います。これも、部屋の形状や天井の高さを理想的な状態に持っていけたことによると思います」
ミュージシャンが高評価する音質
この響きの良い空間に、さらに良い音を響かせるのがCODA AUDIOのスピーカーだ。メインは6台のN-RAYと2台の低域拡張モジュールSCN-Fを組み合わせたラインアレイ。サブウーファーやインフィル・スピーカー、サイド・モニター、ウェッジ・モニターもすべてCODA AUDIOで構成されている。
機材の取り扱い元であるヒビノの雨宮晃史氏は「N-RAYはコンパクトながらパワフルで、明瞭なサウンドが特徴」と言う。この音の印象についてGT LIVE TOKYOのサブマネージャー、佐野元則氏は次のように話してくれた。
「音の粒立ちが格段にいいですね。1つ1つの音が確実に聴こえてくるという印象です。僕はドラマーとして、またドラムテックとしていろいろな会場で演奏したりチューニングをしたりするのですが、会場によっては『作られた音』になりすぎていることがあります。CODA AUDIOはその感じがなくて、自然な音がそのまま出てきます」
この意見にはGT LIVE TOKYOのスタッフであり、プロのベーシストでもある渡邉壮太氏も同意する。
「僕もベースを演奏する者として同じ感想です。ベース1本1本の個性まで分かる音なんです。弾き手のニュアンスまで聴こえてくる。いろいろな会場で演奏しますが、ここまでの音はなかなかないと思います」
マネージャーの町田氏も実はプロのドラマーであり、プレーヤー目線から見て「ドラム以外の楽器の音もよく聴こえ、アンサンブルしやすい。表から聴いた音も素直で、音作りもノンストレスです」と語ってくれた。
GT LIVE TOKYOは、ステージ背面の巨大なLEDビジョンを使ったビジュアルの演出にも力を入れている。
システムの構築を手掛けたヒビノの福田隆一氏は語る。
「ブースで映像機材を扱うのは映像の専門家ではなく人数も限られているケースが多くなりますので、シンプルに扱えるシステムを考えました。映像信号は“AV over IP”仕様の1つ『SDVoE』で構築しIP化してますが、オペレーションはiPadで行え意識せずに任意で送出先を変更したり、画面を分割して表示も可能です。旧来のシステムならそのために個別の機器で映像を合成処理が必要だったのが、IP化することで容易にできるようになってます」
LEDビジョンにはカメラで撮影している映像をリアルタイムで映し出せるほか、用意された映像素材も組み合わせて表示できる。多彩なビジュアル演出と良質なサウンドが渾然一体となった空間を、ぜひ体験してみてほしい。
主な使用機材
- ラインアレイ・スピーカー:CODA AUDIO N-RAY×12、SCN-F×4
- サブウーファー:CODA AUDIO SCV-F×2
- インフィル・スピーカー:CODA AUDIO HOPS8i×4
- モニター・スピーカー:CODA AUDIO CUE FOUR×8
- パワー・アンプ:CODA AUDIO LINUS 14×6
- コンソール:Yamaha DM7、CTL-DM7
- I/Oラック:Yamaha Rio3224-D2×2
- ワイヤレス・システム:SHURE AD4
- マイク:AKG C451B、C414 XLS-Y4、DPA 4099-DC-1-201-B、4099-DC-1-101-P、4011A、4006A、AKG D12 VR、SENNHEISER E906、SHURE SM57、SM58、SM58SE、BETA 52A、BETA SM91A、TELEFUNKEN M80-SH、M80-Standard 他
- カメラ:SONY SRG-A40/B×4
- カメラ用リモート・コントローラー:SONY RM-IP500
- AVミキサー:Roland VR-400UHD、VR-120HD
- 照明用コンソール:AVOLITES Quartz
◎本記事は『音響映像設備マニュアル 2025年改訂版』より転載しています。
音響/映像/照明など、エンターテインメント業界で働く人たちに不可欠な知識を網羅した総合的な解説書で、2023年の改訂版から2年ぶりのアップデート。各分野の基礎知識をレクチャーする記事+プロの現場のレポート記事で、これから業界を目指す人や業界に入ったばかりの方に向けて展開します。