2024年12月28日(土)〜31日(火)に幕張メッセにて開催された『COUNTDOWN JAPAN 24/25』。PAを手掛けたMSI JAPANは、EARTH STAGE、GALAXY STAGE、COSMO STAGEの3ステージすべてのメイン・コンソールとして、Avid VENUE|S6Lを採用した。MSI JAPANは現在VENUE|S6L-32Dを17台、S6L-24Cを18台、S6L-16Cを3台所有しており、これはアジアで最大規模になるという。現場でオペレートを担当したエンジニア保手文司郎氏に、VENUE|S6Lの魅力や、システムの詳細を伺った。
写真 • 小原啓樹
VENUE|S6Lは“白いキャンバス”
『COUNTDOWN JAPAN 24/25』最大のステージは、ホール1から3にまたがるEARTH STAGEだ。
ここではFOHのメイン・コンソールとして、VENUE|S6L-32DをA面/B面で採用し、それらの切り替えを後方のVENUE|S6L-16Cで行っていた。保手氏はその切り替えなどを主に担当していたという。
「A面の卓を使用している間に、B面の卓でセッティングが行えるようになっていて、それぞれの卓を操作するエンジニアは、毎回アーティストによって入れ替わります。ステージ・ラックは、A卓は上手、B卓は下手に設置し、ステージ・ラックとコンソールはオプティカルでつながっています。私はA面/B面の卓からAESケーブルで信号をVENUE|S6L-16Cに送り、そこで切り替えをしていました。ほかには映像ジングルやアナウンス、BGMのオペレートもしていましたね」
複数のアーティストが入れ替わり立ち替わり同じコンソールを使用するフェスの現場において、VENUE|S6Lの強みはどういった点になってくるのだろう。
「やはり一番のメリットは、エンジン内部のDSPで処理されるプラグインではないでしょうか? Avidのプラグインはもちろん、WAVESのプラグインとも連携できるので、乗り込みのエンジニアでも使い慣れたツールで音作りをすることができます。ほかの卓だと、外部のサーバーと接続したり、別で機材を用意したりしないと、そういったプラグインを使うことができないケースが多いですから。また内部のプラグインだけで音作りをすれば、どの会場に行っても、ファイルをロードするだけで全く同じ状態からスタートができるというのも、大きな強みです」
VENUE|S6Lの音については、ほかのコンソールと比べて色付けが少ない点が特徴だという。
「VENUE|S6Lはよく“白いキャンバス”と表現されます。もともと色が付いていない状態からプラグインなどを使って自分たちの音を作っていくことができる、つまり、使い手の個性を発揮できる卓だと思いますね。特にフェスだと、その差が分かりやすいです。今回の現場でも、ロック・バンドはよりロックらしく、ポップスのバンドはよりポップスらしくなっているのを感じました。ジャンルによる音の差が大きく出るように感じています」
制作とライブがシームレスに
続いて、VENUEシステムに共通するプラットフォーム、VENUEソフトウェアについて尋ねよう。「フェーダー・レイアウトを自由に組めるのが便利ですね」と保手氏。
「今回のフェスのように、卓を使用するエンジニアが毎回変わる場合でも、その場で自分の好きなようにレイアウトを組み替えたり、使わない楽器のフェーダーを外したりできるんです。これは便利ですね」
保手氏が特に気に入っているのは、コンソール上のフェーダーの位置からプラグインの設定状態までストア/リコールできる機能、“スナップショット”だという。
「フェーダー・レイアウトなどを曲ごとに覚えさせておくことができます。私は、特定の曲にしか使わない楽器のフェーダーを、その曲専用のスナップショットに呼び出すといった使い方をしていますね」
操作性においては、ディスプレイに直接触れて操作できる上、マウスやエンコーダーでのコントロールも可能で直感的だという。
「画面が複数あるので、いろいろな情報を同時に見たり、触れたりできるのが使いやすいです。ツマミに何をアサインするかによってバックライトの色が変わる仕様になっているのも、視認しやすくて良いですね。私はいつも、中央のマルチタッチ・スクリーンにプラグインの画面を出しっぱなしにしていることが多いですが、インプット/アウトプット/スナップショット/プラグインの画面を適宜切り替えながら使用しています」
長期間にわたって開催されるフェスは、トラブルへの対策も必須だろう。『COUNTDOWN JAPAN 24/25』のPAブースには、コンソールの交換用ユニットが収められたボックスが用意されていた。
「4日間本番があるので、何が起こってもおかしくはありません。VENUE|S6Lのコントロール・サーフェスは、万が一のときにユニット単位での交換ができる点が良いですね。私も実際、音を出したままフェーダー・ユニットを交換したことがあります」
最後に保手氏はVENUE|S6Lの魅力として、Pro Toolsと同じプラグインを使えることのメリットについて再度話してくれた。
「アーティストにとって、制作で使ったプラグインをライブでも使えるというのは大きな魅力です。もちろん、ライブはライブのバージョンで良いと思うのですが、曲の雰囲気の再現というのが求められる場面も多いんですよ。そういうときに、制作時と同じもので音作りできるのは、コミュニケーションもとりやすくて良いと思います。ミックス時のプリセット・ファイルをもらうこともありますよ。そういう意味では、VENUE|S6Lが制作とライブをシームレスにつなげていると言えるかもしれません」
◎本記事は『音響映像設備マニュアル 2025年改訂版』より転載しています。
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