
第1回
Studio Oneとの出会いと
音楽制作におけるメリット
初めまして、DJ URAKENと申します。前回まで担当のナカシマヤスヒロさんから引き継いで今月からStudio One 2(以下、S1)について書かせていただきます。皆さま、どうぞよろしくお願いいたします。私は現在、作曲/アレンジ/リミックスなどのトラック・メイキングやミックス・ダウン、レコーディングなどほぼすべてのスタジオ・ワークをS1で行っています。
テディ・ライリーの興奮も納得の
Studio Oneの音の良さ
僕が最初にDAW(当時はシーケンサーと呼んでました)に触ったのは1990年代の中ごろ。ATARIというコンピューターで動いていたSTEINBERG Cubaseでした。カセットみたいなものをATARIに挿して立ち上げ、シンセやサンプラーをMIDIでコントロールするのみという、昨今の多機能化したDAWからは考えられないような単純なものでした。そんな時代からCubaseをずっと使っていたのですが、S1に出会ったのが2011年の暮れで、それ以来S1を使っています。
導入のきっかけは、スタジオにレコーディングにいらしていた方が“すごいDAWを見つけたんですよ”と言って教えてくれたS1ホームページ。そしてそこで見たのが、大興奮しまくってS1の素晴らしさを語っているテディー・ライリーのムービーでした。

とにかくS1のことを大絶賛していて、“毎朝美しい女性と目覚めて「奇麗だよ」と言いたくなるような……”など、あまりのテンションの高さにかえって“本当かな?(笑)”と疑ったのですが、翌日にいつも機材やソフトウェア関連でアドバイスをいただいていて信頼している楽器屋の方に“Studio Oneって知っています?”と聞いてみたら“使っていますよ”とのことだったので、一気にテディーのあの熱いトークの内容が本当なのか気になり始めたのです。 S1はデモ・バージョンやフリー版もあるのですが、ホームページで見た機能やテディーのトーク、前述の楽器屋の方のオススメ、そしてなにより値段が安い(!)ということもあって気軽な気持ちでProfessionalを購入してみました。 早速インストールしてすぐに実感したのは音の良さ! あのテディーの興奮も納得でした。音にハリとつやがあり、さらにパンチと奥行を兼ね備えていて作業していて楽しくなる。インスピレーションが湧いてくるようなサウンドで、それを直感的に形にしていくことのできる操作性の良さにも感動したのを覚えています。音のまとまりがいいのも印象的でした。v曲のパーツを作っていくと、思ったところに思ったような音像で収まっていってスイスイ進んでいくような感覚です。ソフト・シンセの音なんて“このシンセこんな音してたんだ!”と思うことがあったり……この文章を書いていて、自分もテディーと変わらなく思えてきました。実際に当時、TwitterでS1のことをよく書いていたら、知り合いから“メーカーからお金をもらっているの?”と言われたくらいでした(笑)。
スムーズに移行できる
各DAWのショートカットを用意
音質や操作性も大きな決め手だったのですが、スムーズに移行することができた大きな理由の1つは、Cubaseのキーボード・ショートカットが用意されていることでした。

これって意外と大事で、慣れていないショートカットだと作業のフローを止めてしまうので(複数のDAWを使いこなしている方もたくさんいらっしゃるので私が不器用なだけなのかもしれませんが)、私がCubase以外のDAWへの乗り換えや使い分けを本格的に行っていなかったのは、ショートカットが変わってしまうせいでもありました。S1にはCubaseに限らず、APPLE Logic、AVID Pro Toolsのショートカットも用意されています。個性的なDAWが数多く存在する現在において、とてもうれしいユーザー・フレンドリーな仕様です。
先ほど、直感的に形にしていくことのできる操作性ということを書きましたが、最初にすごく便利だなぁと思ったのは、ドラッグ&ドロップで立ち上げることのできるインストゥルメントやエフェクト。画面右側のリストから選んでパパッと操作できます。またリストからだけでなく、一つのトラックに立ち上げたエフェクトを、ドラッグ&ドロップでほかのトラックに立ち上げることができるのもとても便利。しかもその場合は設定までもコピーしてくれて、急いでいるときなどに重宝しています。
S1は一つのウィンドウでほとんどの操作を行うことができるのも大きな魅力です。

私は以前、デュアル・ディスプレイで使っていたのですが、真ん中に境目があるのに違和感がありました。今はスタジオを自宅でコンパクトに整えたのもあり、小さなディスプレイ一つで作業しているのですが、これが全く問題ないどころか快適! S1に限った機能ではないのかもしれませんが、世界中を飛び回りながらラップトップ一つで曲を作っているDJがたくさんいる時代にとてもマッチしているインターフェースだと思います。
スムーズに移行できる
各DAWのショートカットを用意
ここまで、私のS1導入時の印象について書いてきましたが、ここで私が実際S1どのように使っていて、どういうところが良いのか、具体的な例を挙げて解説していきましょう。
1つは“Spectrum Meter”です。

いたって普通のスペクトラム・アナライザーですが、標準で付属しているというのがいいですね。以前はスペアナをあまり使っていなかったのですが、最近は基本的には耳で聴こえた感じを頼りに進めつつも一応確認として波形をチェックしたり、リファレンス音源をチェックしたり、とちょくちょく使うようになったので、ほぼ毎回マスター・アウトに立ち上げています。
もう1つは、S1を初めて使ったときから便利だと思っていたのですが、マスター・アウトにポストフェーダーがついていること。
▲マスター・フェーダーにはポストフェーダーへのプラグインが立ち上げが可能
私はほとんどの曲でマスター・アウトにリミッターなどを立ち上げて音圧を作りながら作業をするのですが、たまにマスターに入っていくレベルが大きくなり過ぎることがあり、そのレベル調整が簡単にできるのでとても助かっています。Spectrum Meterはいつもそのポストフェーダーの最後段に立ち上げています。
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今回は主に筆者のS1との出会いから導入初期に感じたことについて書きました。導入からちょうど3年たちましたが、今でもあのときの感覚をよく覚えているくらいに印象的なDAWです。次回は、最近私と金田謙太郎の二人で始めたRIZM DEVICEというユニットで手掛けた、水曜日のカンパネラ「桃太郎(RIZM DEVICE Remix)」のデータを例に、S1の魅力について書いていきたいと思います。お楽しみに。