浅田祐介が使う Studio One 2 第3回

第3回
Yun*chi「Waon*」における
Studio Oneの活用方法

皆さんインフルエンザに負けず頑張っておりますでしょうか? 僕はいろいろと調べた結果、今年はインフルエンザ・ワクチンを受けないことにしたせいで内心ドキドキ。さらにこの記事を書いているのはちょうどNAMMショウ2014の開催時期だったせいで、新機材の情報とでダブルでドキドキ。なので外から帰ったらうがいと手洗いをしてからネット閲覧を心掛けています。さて、今回はさらに突っ込んで、2月5日に発売されたYunchiの1stアルバム『Asterisk』の収録曲から「Waon*」を取り上げて、いかにStudio Oneのワークフローが優れているかをご紹介したいと思います。

原音の質感もしっかりと残す
64ビット・エンジンを搭載

この曲はまず、“世界の人たちとのつながり”をテーマにしたいと考え作曲作業をスタートしました。リズムを組み、バランスを整えてからメインのリフになるシンセ・ブラスでのフレーズを考えたのですが、当初ソフト・シンセを使っていたものの作曲とアレンジが進む中で今ひとつ存在感が失われてきてしまい、最終的にハード・シンセのOBERHEIM Matrix-12に差し替えたのです。

ソフト・シンセでMIDIデータを気の済むまで追い込んで、キーやテンポが決定した時点でキモになる音色を外部のハード・シンセで差し替えるという手法は、今自分の中ではやっています。これまでのDAWでも幾度か試していたのですが、アレンジが進み音数が増えた状態では、飽和したほかの音に混ざってしまい期待したほどの効果はありませんでした。しかし、Studio Oneの64ビットによるミックス・エンジンは驚くほど効果が表れます。オシレーターのDCOとVCOの差や、デジタル・シンセでもD/Aコンバーターの差による音の距離感の違い/レンジ感が、音数の多いミックスの中でも、原音が最後まできっちり生かされます。このときはMatrix-12で録音した音源にStudio One付属のアンプ・シミュレーターのプラグイン、Ampire XTで軽くひずませ、粒子の荒いザラザラした音色に変えたのですが、抜けの良さと中域の情報量が多いMatrix-12の特徴は最後まで残っていました。

▲13種類のギターやベースのアンプ・モデル、10種類のスピーカー・キャビネットを用意したアンプ・モデリングのプラグイン=Ampire XT。「Waon*」ではOBERHEIM Matrix-12に使用し、軽くひずませ、粒子の荒いザラザラした音色に変えたが、64ビット・エンジンにより、元音の特徴も残ったままのかかり方になっている ▲13種類のギターやベースのアンプ・モデル、10種類のスピーカー・キャビネットを用意したアンプ・モデリングのプラグイン=Ampire XT。「Waon*」ではOBERHEIM Matrix-12に使用し、軽くひずませ、粒子の荒いザラザラした音色に変えたが、64ビット・エンジンにより、元音の特徴も残ったままのかかり方になっている

この「Waon*」という楽曲では世界各国から歌データを送ってもらい、それを曲中にミックスする作業をしたのですが、ここでもStudio Oneは大活躍でした。まず仮歌の入った2ミックス/カラオケ/歌詞カードを制作してスタジオのサーバーにアップロードして、各自にダウンロードしてもらい、それぞれの自宅で録音データと録音風景を送ってもらいました。

送られてきたデータは、録音された国も、録音環境もバラバラでした。コンデンサー・マイクでキチンと録音されたものから、ダイナミック・マイクで録音されたもの、コンピューターの前で内蔵マイクに歌われたもの、果てはAPPLE iPhoneで録られたものまでありました。一応WAVかMP3と指定はしたのですが、ビット・デプスやサンプリング・レートはまちまち。結局送られてきた本数は30本近くになったのですが、これはファイルの変換が大変だろうなぁという思惑を、Studio Oneは良い意味で裏切ってくれました。驚いたことにあらゆる種類のファイルを選択してソング・ウィンドウに放り込んだだけで、あっさり鳴ってしまったのです。

▲世界各国から歌データを集めて制作された「Waon*」。送られてきたデータはビット・デプスやサンプリング・レートはまちまちだったものの、右図のようにStudio Oneのソング・ウィンドウに入れただけで、問題なく再生される ▲世界各国から歌データを集めて制作された「Waon*」。送られてきたデータはビット・デプスやサンプリング・レートはまちまちだったものの、右図のようにStudio Oneのソング・ウィンドウに入れただけで、問題なく再生される

しかもStudio Oneは、サンプリング・レートが異なったファイルが同居している場合、自動的にリアルタイムで変換をしてくれるのですが、CPUの使用率は気持ち上がったかなぐらい。もちろんこれで問題があればバウンスしてしまえば解決します。

ここで特筆すべきはバウンスのスピードです。僕はメインでWindows 8のマシンとSSD搭載のMacBook Pro(Retinaディスプレイ)を併用しているのですが、64ビットの恩恵なのか、もともとオフライン・バウンスの時間が速いStudio Oneと、SSD転送スピードとの相乗効果からか、リアルタイムの153倍!という数字が出ます。

▲Studio Oneのオフライン・バウンスは64ビット・エンジンの搭載により高速化を実現している。画面では153.9倍の数字が!操作も簡単で、バウンスしたい部分を選択してCtrl+B(Macの場合はCommand+B)で即完了する ▲Studio Oneのオフライン・バウンスは64ビット・エンジンの搭載により高速化を実現している。画面では153.9倍の数字が!操作も簡単で、バウンスしたい部分を選択してCtrl+B(Macの場合はCommand+B)で即完了する

通常曲のパラデータ作りのバウンスは一息つけるチャンスなのですが、爆速で終わってしまうので、TwitterやFacebookなどをチラ見したり、ネットでプラグインの最安値を探して気が付いたら一時間ぐらいたっていた……を回避できます。

話が横道にそれましたが、この送られてきた30本近くのボーカル・データ。こういう大人数のコーラス隊は全員のピッチをそろえてしまうと違和感を感じたり、人数感が減ったように感じてしまうので、筆者は通常、歌のうまさベスト5%とワースト5%だけをピッチ補正するようにしています。この場合2人ずつくらいの計4人です。本数的にはそんなに多くないですが、それでもCELEMONY MelodyneがインテグレートされているStudio Oneでは、メニューのオーディオ>Melodyne>編集でピッチ解析をして、ピッチ/タイミング/長さを修正。そしてレンダーで書き出してオーディオ変換が1つのトラックでできるので非常にスムーズです。また書き出し先のオーディオ・トラックや、AUXトラックを準備しなくて済むので、トラックの見晴らしも非常に良好です。

Studio Oneの設計思想は
マスタリング工程まで視野に入れている

ここで一通りアレンジは完成し仮ミックスをします。筆者は通常、自分でミックスを行い、案件によってはマスタリングもするのですが、そんなときにもStudio Oneは便利。Studio Oneの設計思想が1曲のデータ作成だけではなく、アルバム単位でのマスタリング工程まで視野に入れているからです。1曲分のデータを“ソング”、それが何曲か集まって“プロジェクト”という構造になっています。

▲Studio One Professionalに内蔵するプロジェクト・ページ。ここで曲順、曲間設定、エフェクト処理、書き出しまでのマスタリングが行える。また、曲を編集し直したい場合も、ここからすぐにソング画面に戻ることができる。またソング画面で変更した内容は、プロジェクトに自動更新される ▲Studio One Professionalに内蔵するプロジェクト・ページ。ここで曲順、曲間設定、エフェクト処理、書き出しまでのマスタリングが行える。また、曲を編集し直したい場合も、ここからすぐにソング画面に戻ることができる。またソング画面で変更した内容は、プロジェクトに自動更新される

のプロジェクトではバウンスされた2ミックスを並べて曲間や長さの変更、クロスフェードなどオーディオ処理やISRCの入力などマスタリングに必要な処理が可能です。

また便利なのが、複数の曲のバランスがそろっているかをチェックするとき。ここで驚くのが、プロジェクトに並べた2ミックスから簡単にソングに戻れることです。通常は2ミックスが完成した場合、EQやコンプなどの処理程度しかできませんが、元のソングに戻れるためにミックス自体を訂正、必要ならばシンセの音色を変えることさえできてしまいます。またほかにも参加している作家さんの2ミックスとレベルの突っ込み具合を合わせたりも楽にできます。

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駆け足で説明してきましたが、こんな風にStudio Oneでは作曲/アレンジ/レコーディング/ミックス/マスタリングをすべてまかなうことができます。昨今の音楽制作状況では作曲とミックスが同時進行だったり、複数曲のミックスを短時間でクオリティの差がなく完成させなければいけません。その点でStudio Oneの機能はすべてのユーザーにお薦めできるのです。