第2回
作曲の準備〜実作業における
Studio Oneの活用方法
この記事を書いているのは2014年の正月ですが、皆さんはどのように過ごしたでしょうか? 年末年始はバーゲンなどもあってソフト・シンセなどの機材獲得のチャンスですね。個人的には今年はブラジル・ワールドカップの年なので、ぜひとも日本代表には頑張ってほしいものです。さて今回は、作曲の準備から実際の打ち込みの流れの中で、Studio Oneが持つ優れた機能をご紹介したいと思います。
優秀なタイム・ストレッチのアルゴリズム
録音後のテンポ・チェンジにも対応
筆者が作曲時に使っているテンプレートは、32ビット/48kHz浮動小数点で、テンポは120BPMに設定しています。ここで欠かせないのが“オーディオファイルをソングテンポにストレッチ”にチェックを入れること。

これで録音するオーディオにテンポ情報が含まれ、作業過程でテンポ変更したときなどにもオーディオが追従します。アレンジの最中にギターや仮歌を録音し、その後テンポを変えたくなって弾き直し/歌い直し、なんてことはよくあるのですが、ある程度の範囲なら問題ありません。テンポ・チェンジ情報を打ち込んだエンディングのリタルダンドでも素敵に歌い上げてくれるのには驚きです。逆にタイム・ストレッチのアルゴリズムが優秀過ぎて、グリッチ感を出したいときはかなり極端なことをしないとダメです。ただそこはCELEMONY Melodyneが統合されているStudio One。Melodyneで存分にオーディオをエディット可能です(後述)。
筆者の基本テンプレートは、一番上がメロディで、Studio One付属のモノシンセMojitoをアサインしています。


音も太く、オケの中で埋もれることがないので非常に便利です。余談ですが基本的にStudio One付属の音源は全体的に音が太くて優秀です……というかまずどれも音がデカいです(笑)。
その下から16tr分はリズム用のトラック。最初は暫定的にNATIVE INSTRUMENTS Kontaktが立ち上がっていますが、音楽のジャンルによって変えるのであくまで仮です。ちなみにStudio One付属のサンプル・プレーヤーImpactも優秀で、特にキックは太く、タイトな音色で素晴らしいです。今までもアレンジをした後、キックが抜けないなぁと感じたときにImpactに差し替えたらバッチリ!ということが何度もありました。
続くのは、VIENNA SYMPHONIC LIBRARY Vienna Ensemble Pro5用のMIDIトラックで、64/32ビットそれぞれが8trずつ立ち上がっています。そして最終段にコード確認/作曲用のXLN AUDIO Addictive Keysのピアノというのが基本構成です。ちなみにVienna Ensemble Pro5では、画面のように最初は何もソフトは立ち上がっていません。いつも使う音色ですぐに作業開始!という方もいると思いますが、人間は同じ行動を続けると新しいアイディアがわかなくなるという脳生理学の本を読んでから、毎回面倒だなぁと思いつつソフトを立ち上げています。ちなみにその本の影響で仕事場に向かうのも、歩き/タクシー/電車/バスと毎回変えるようにしています。
Melodyneを標準搭載
ループのオーディオ編集にも活用可能
実際に曲を作る際、筆者は大抵リズムを組んでからメロディやコードを探すのですが、ここで便利なのが“インストゥルメントパートメニューの中のピッチをトラックへ展開”コマンドです。ざっと1つのトラックでリズムを打ち込んでおいてからこのコマンドを実行すると、それぞれのキーごと(演奏楽器ごと)にトラックを展開してくれます。

こうすると、例えばキックの足りない低音やアタックなどを補強するために、別ソフトを立ち上げ、音色を重ねるのも容易です。
最近だと作曲/アレンジ/ミックスを同時進行で行う人も多いと思いますが、その際、筆者のEQのファースト・チョイスは付属のPro EQです。今時のEQらしくアナライザー表示が可能で、気になる帯域を目で確認しながらの作業は非常に便利。音色自体も色付けのない素直な音で、Qの可変域も広くコンプの前段で調整するような用途には最適でしょう。また真空管のサチュレーションをシミュレートし、積極的に倍音を付加したい場合は、Saturation Knobが便利。さらにVer.2.6から追加されたFat Channelも面白いです。

このプラグインは同社のミキサー、StudioLive 32.4.2 AIのチャンネル・ストリップ部分を完全バーチャル化したもので、試したことはないのですが、StudioLiveでレコーディングされたファイルをStudio Oneで開くと、レコーディング時のプラグイン設定が自動設定され、PA現場でも完全再現できるようです。
さて、ある程度リズムの方針が決まったら、次は基本になるコードやリフを打ち込んでいきます。ここでMelodyneが大活躍します。Studio Oneの最上位版Professionalには標準でMelodyne Essentialが付属してきますが、別途Melodyne Editorがインストールされていると、こちらも標準のショートカットで立ち上がるようになり、あたかももともと付属していたソフトのように使えます。

またStudio Oneには標準で膨大なループ素材が付属しており、ドラッグ&ドロップしただけでテンポに追従します。これだけでも十分便利ですが、うまくコードと合わない場合はMelodyneで音を組み替えて使えるフレーズに仕立て上げられたり、ピッチを極端に変えてグリッチーな音に変えることができます。コードの構成音を変えるのはDNA機能を持ったMelodyne Editerが必要ですが、モノフォニックだったり、リズムを変えたりするにはEssentialでも可能です。筆者が楽曲提供したYunchiの「Vivace」では、ギター・サンプルをコードの構成音を変えて楽曲に合うようにしたり、音符を伸ばしてフレーズの一部分だけをグリッチーにしたりしています。またこのギター・フレーズを2小節分エディットした後レンダリングし、オーディオとして書き出してから、付属のソフト・サンプラーSample Oneに読み込ませて演奏もしています。ここら辺はほぼ標準機能としてMelodyneが使えるStudio Oneならではで、オーディオ・トラックを増やすことなく使えます。もし必要であれば、このサンプラーで演奏されたデータをオーディオにレンダリング、そしてMelodyneで再度エディット……などという技もオーディオとMIDIの境界線が良い意味であいまいなStudio Oneならば簡単でしょう。ある意味オーディオを貼付けるのかMIDIを使うのかという単純ではない、さらに進んだ形がStudio Oneでは提示されている気がします。
次回はアレンジ/ミックスについての機能を詳しくご紹介したいと思いますので、よろしくお願いします!