浅田祐介が使う Studio One 2 第1回

第1回
数々のDAWの中から
Studio Oneを選んだ理由

皆様初めまして、浅田祐介です。今月からこのコーナーを担当することになりました。Studio One2の具体的な活用術や、ほかのDAWと比較しての特徴などをご紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。

新しいDAWを探していたときに
Studio Oneに出会った

まず、なぜStudio Oneを選んだか、という話をさせていただくために、筆者のDAW遍歴を時系列にお話ししましょう。最初に選んだDAWというかMIDIシーケンサーはROLANDのMC-500というハードウェア・シーケンサーでした。リアルタイムまたはステップ入力したMIDIデータをMIDI音源で鳴らすだけのもの。このシーケンサーで音源を鳴らし、スタジオにあるテープに録音、必要ならばそのスタジオで生楽器を録音してオケが完成というのが基本的な流れでした。これは次のステップに移行したATARIコンピューターでのSTEINBERG Cubaseでも変わらず、画面は大きくなってMIDIデータのエディットはやりやすくなりましたが、一度録音されたオーディオのエディットは難しく、そもそも録音という作業自体がエンジニアの聖域で、調子に乗ってコンプやEQなどの機材に触ったりしたら、パンチとキックが飛んできたものです。ただこのころから“思い通りの音で録音したい”“スタジオで録音したものを思い通りに加工したい”という欲求が強まり、それは遂にMOTU DP+Audio MediaIIIの導入によって叶います。

その後スタジオでのテープ・メディアの衰退。AVID Pro Toolsの普及によって、データの可搬性/再現性のために作曲/アレンジでのMIDI打ち込みもPro Toolsで行うようになりました。その後しばらくPro Toolsでの作業が続いたのですが、作業部屋にボーカル・ブースを設置したことにより、外部スタジオとのやりとりの必要性の低下、音質面での疑問、大容量サンプル使用音源の増加による操作性改善のために新しいDAWを探していたときに出会ったのがStudio Oneだったというわけです。

▲筆者の作業部屋での風景。Studio Oneを導入したきっかけの一つに、作業部屋にボーカル・ブースを設置したことによる、外部スタジオとのやりとりの必要性の低下があった。以降は、作業部屋で必要に応じて複数のDAWを使い分けているが、メインはStudio Oneを使っている。2013年12月時点での最新バージョンは2.6となっている ▲筆者の作業部屋での風景。Studio Oneを導入したきっかけの一つに、作業部屋にボーカル・ブースを設置したことによる、外部スタジオとのやりとりの必要性の低下があった。以降は、作業部屋で必要に応じて複数のDAWを使い分けているが、メインはStudio Oneを使っている。2013年12月時点での最新バージョンは2.6となっている

Studio Oneを使ってみて
音質の問題が一挙に解決した

新しいDAWの選定の際に必要だった要素が幾つかあったので以下に列挙していきましょう。

①音質が良い

クリエイターであれば当然ですが、まずは高音質であることを優先させました。一つ一つの音がしっかりと再生され、意図した変更がその通り再現されることが大事です。当時の悩みは、ひずませたギターをダブルで録音した場合、音数が少ない状態で聴くと問題ないのに、アレンジが進み音数が増えてくると存在感が薄れていくということ。サンプリング・レートを上げたり、複数台のプリアンプをそろえて一度アナログ機材を通すなどの工夫をしたものの一向に解決できずストレスでした。それがStudio Oneの32ビット浮動小数点数での録音と、64ビット精度のミックス・エンジンで一挙に解決したのには驚きました。これがStudio Oneを選んだ一番の理由です。

②操作系がシンプルである

非常に好みの分かれるところではありますが、個人的にプルダウン・メニューの階層構造が複数段になっていたり、必要以上に機能が付加されているUIが好きになれません。

ショートカット・キーが設定できればまだ良いのですが、作曲やアレンジに集中したいときに、ある特定の操作を呼び出すプルダウン・メニューを、まるでイライラ棒のように慎重なマウス・カーソル操作を強いられるが苦痛で仕方ありませんでした。この点でも機能が絞り込まれており、プルダウン・メニューの数が少ないStudio Oneは理想的です。プログラム的にもシンプルである故に動作がキビキビしており、CPUのリソース不足によるオーディオ系への悪影響も少ないのでは、と思わせてくれます。またステップ入力が現状では用意されていないですが、これも基本は手弾きで、必要に応じてエディットするスタイルの自分にはあまり問題はありませんでした。

③64ビット・ネイティブのアプリ設計である

昨今の大容量のサンプル音源を使っていると動作が不安定になったり、遅くなったりするのもストレスがたまる要因でした。これはOS上で扱えるメモリーの上限が32ビットだと4GBしか扱えない(実際にはOSが一部メモリーを使用するのでそれ以下)のに対して、64ビットだと約171億GBと飛躍的に大容量のメモリーを使用することができたり、まだ現状それほど問題はないですが、32ビットOSでは使用するハード・ディスクの容量にも2TBの壁があったりします。

アレンジでは多くのサンプルを読み込んでおく必要があり、そこでの安定性やシステムの限界で本来頭の中で鳴っている音を選べないという事態は避けなければいけません。なので、OSを64ビット版で動かすことが前提になり、それに伴ってアプリケーションも64ビット版が必要ということになりました。今はDAWはほとんどは64ビット化がなされていますが、それでもStudio Oneの設計段階で64ビットを見越しているところも魅力的に見えました。

▲オーディオ設定の画面で、処理精度やCPUコアの使用数などを設定できる(黄色枠内)。早くから64ビットでの処理を念頭においていたStudio Oneは筆者にとっても魅力的なソフトでした ▲オーディオ設定の画面で、処理精度やCPUコアの使用数などを設定できる(黄色枠内)。早くから64ビットでの処理を念頭においていたStudio Oneは筆者にとっても魅力的なソフトでした

ちなみに32ビット版しかないプラグインなどは、MacではVIENNA SYMPHONIC LIBRARY Vienna Ensemble Proを、WindowsではjBridgeを使用していますが、互換性に関してもほぼ問題ありません。

▲実際の作業には、64ビットに対応していないソフトも使用している。その場合は、MacではVIENNA SYMPHONIC LIBRARY Vienna Ensemble Proを、WindowsではjBridgeを使うことで解決します。動作や互換性に関しても問題ありません ▲実際の作業には、64ビットに対応していないソフトも使用している。その場合は、MacではVIENNA SYMPHONIC LIBRARY Vienna Ensemble Proを、WindowsではjBridgeを使うことで解決します。動作や互換性に関しても問題ありません

以上がDAWを乗り換えた理由です。また実作業では複数のDAWソフトも必要に応じて起動しているのですが、それでもメインのDAWとしてStudio Oneを使用している理由は、やはり①の音質の部分が大きいように感じます。実際に使用していくうちに、前述したソフトのキビキビした動作や、ほかのDAWとは違う機能に引かれていきました。特にインストゥルメント・トラックはよくできており、MIDIを打ち込み、そのままオーディオに変換してもオーディオでの編集や位置関係を変えない限り、いつでも元のMIDIデータに戻れるのです。

▲主にMIDIデータの打ち込み、編集を行うインストゥメント・トラック。オーディオ変換後にも簡単なコマンドでインストゥルメント・トラックに戻ることができる。オーディオとインストゥルメントのトラックが1つにまとまっている感覚で、とてもスマートな作業を実現する ▲主にMIDIデータの打ち込み、編集を行うインストゥメント・トラック。オーディオ変換後にも簡単なコマンドでインストゥルメント・トラックに戻ることができる。オーディオとインストゥルメントのトラックが1つにまとまっている感覚で、とてもスマートな作業を実現する

通常はオーディオ・トラックを立ち上げて、バスで送り録音、またはバウンスしてオーディオ・トラックに取り込むという流れで、MIDIとオーディオの2つのトラックが存在してしまうのですが、これが1つにまとまります。オーディオに変えた後にキー変更などがあったときにも、すぐにMIDIに戻りトランスポーズ→オーディオ変換の流れはスマートだと思います。

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ということで現在はAPPLE MacBook Pro  2.6GHz Core i7(メモリー16GB、Mac OS X 10.9)と、Windows 8 2.6GHz Core i7(メモリー18GB)の2台のマシンでStudio One 2を使用しています。次回から具体的な作業を通して、面白い機能などをご紹介していきたいと思いますので、よろしくお願いします。