Device03 予測不能のコラージュ・ルーパー by Katsuhiro Chiba

基礎的な機能ブロックをつなぎ合わせることで独自のソフトウェアを構築できるCYCLING '74 Max。現在ネット上では数え切れないほどのパッチがシェアされており、それらのプレーヤーとしても活用が可能です。ここでは最先端のプロフェッショナルが作成したクールなパッチを紹介。パッチのサウンドを試聴できるほかファイルをWebよりダウンロードして、新しい音楽の制作に役立ててください

Device03 予測不能のコラージュ・ルーパー by Katsuhiro Chiba

max0301.jpg ▲パッチ外観(プレゼンテーション・モード)

max0302.jpg ▲パッチ内部(パッチング・モード)

オーディオ・ファイルからループを生成

前回まではシンプルなパッチを交えてMaxの概要を説明してきましたが、今回はいよいよ本連載の趣旨である、ミュージシャンによるMaxの活用例を紹介します。そうなんです、この連載はいわゆる入門講座とは違った趣向なんです。今回紹介するのは、僕が作成したコラージュ・ルーパーです。

このパッチは、あるフォルダーに入っている複数のオーディオ・ファイルから16個の断片を切り出し、16×16のステップ・シーケンサーでトリガーして新しいループを作り出します。ざっくり言えばスライサー的なものですが、切り出される断片はランダムなファイルのランダムな位置で、一般的なスライサーよりもめちゃくちゃで偶発的なサウンド・メイキングを狙っています。使い方は簡単で、“Select folder”ボタンを押して素材となるオーディオ・ファイルが収められたフォルダーを指定すると自動的にランダムな断片が読み込まれるので、あとはステップ・シーケンサーをスタートすれば音が出ます。“Randomize slices”ボタンで断片の再ランダマイズ、“Quantize positions”オプションは、断片の切り出し開始位置をオーディオ・ファイルの16等分に限定します。ステップ・シーケンサーのパターンに対してもランダマイズやシフトを行えるので、同じ断片を使ったパターンのバリエーションを作ることもできます。

特徴は、何と言っても、1つのオーディオ・ファイルを切り刻むのではなく、切り出し元のファイル自体ランダムに選ばれるところで、大量の素材ストックがある場合など特に効果的です。どんな音が出るか予想不能な感じですが、ステップ・シーケンサーでトリガーするので、一応リズミックなものにはなります。いろいろなBPMのものが含まれていれば、時間軸のゆがみまくったビート(めちゃくちゃとも言いますが)が飛び出したりもします。一方、さまざまなボーカル・トラックやフィールド・レコーディング素材など、ある程度素材を絞っておけば、案外まともなものもできます。

セットの保存機能などは付いていないので、いわゆる一期一会です。いろいろな素材をお供えして、二礼二拍手してからランダマイズ・ボタンを押し、擬似乱数の神様(と僕は呼んでいます)が降臨されましたら一礼して録音させていただく、といった使い方をします。

パッチの構造

パッチの構造は(断片の)ランダマイズ、ステップ・シーケンサー、サンプル・プレイバックという3セクションに分けられます。

ランダマイズ・セクションは、[opendialog]でオープン・ダイアログを開いてユーザーにフォルダーを選ばせ、そのファイル・パスを[folder]に送って、ファイル名の一覧と個数を得ています。一覧は[umenu](ポップアップ・メニュー)に格納され、この[umenu]に乱数を送ることで、読み込むべきファイル名を決定するという具合になっています。ステップ・シーケンサー・セクションは、ほとんど[live.grid]だけです。このUIオブジェクトは、グリッド・スタイルのステップ・シーケンサーそのものと言える高機能なオブジェクトで、パターンのランダマイズやシフトなどの機能まで備えているので、とても便利。

サンプル・プレイバック・セクションは、[poly~]を使用して断片の数=16台のサンプル・プレーヤーで構成されています。ランダマイズ・セクションから送られる情報に従ってバッファーに断片を読み込み、ステップ・シーケンサーからのトリガーを受けて再生します。工夫している点としては、断片を読み込むバッファーを2重に用意して交互に使うことで、プレイバック中に新たな断片を読み込む際に、音切れしないようになっています。

このパッチはプレゼンテーション・モードを使ってデザインしているので、パッチング・モードにして中身を見てください。改造の余地もたくさん残っているパッチだと思うので、いろいろ機能を拡張していくのも面白いと思います。

ファイルをダウンロードする(maxpatch3.zip)

Katsuhiro Chiba

KatsuhiroChiba.jpg

【Profile】電子音楽家。デジタル音響処理に精通しMax/MSPのスペシャリストとしても知られる。2003年、サンプル・ループを主体としたラップトップ・インプロビゼーションのためのソフトウェア「cyan/n」を制作。自らこのソフトを駆使したライブ活動をスタート。楽曲制作/ライブ・パフォーマンスに用いるソフトウェアから徹底して手掛けることで、独自のサウンドを追求する

CYCLING '74 MaxはMI7 STOREでオーダー可能

問合せ:エムアイセブンジャパン
http://www.mi7.co.jp/