Device02 シンセに自動演奏機能とディレイを付ける by Katsuhiro Chiba

基礎的な機能ブロックをつなぎ合わせることで独自のソフトウェアを構築できるCYCLING '74 Max。現在ネット上では数え切れないほどのパッチがシェアされており、それらのプレーヤーとしても活用が可能です。ここでは最先端のプロフェッショナルが作成したクールなパッチを紹介。パッチのサウンドを試聴できるほかファイルをWebよりダウンロードして、新しい音楽の制作に役立ててください

Device02 シンセに自動演奏機能とディレイを付ける by Katsuhiro Chiba

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パッチ作成の基本操作

前回、MIDIキーボードで演奏できる初歩的なシンセを作ったので、今回はそれを改造してもう少し実用的なパッチにしたいと思います。

その前にパッチを作成するときの基本的な操作を説明しておきましょう。まずはオブジェクトの配置です。上の画面右側のアイコンがずらっと並んでいる部分が、Max6で採用された「サイドバー」。ここにはオブジェクトの一覧「エクスプローラー」や、オブジェクトの細かな設定を行うための「インスペクター」などが集約されています。パッチに新しいオブジェクトを配置するには、エクスプローラーから使いたいオブジェクト選んでドラッグ&ドロップするだけです。

オブジェクトには大きく分けて、ボタンやスライダーなどのユーザー・インターフェースを持つ「UIオブジェクト」と、ユーザー・インターフェースを持たない通常のオブジェクトがあります。通常のオブジェクトは箱の中にテキストでオブジェクト名とスペースで区切った初期値(アーギュメントと呼びます)が書いてある形式で、必要に応じて初期値をタイプして書き込みます。配置済みオブジェクトの外観や細かな設定変更は、インスペクターで行えます。

次は結線です。オブジェクトの上下にはパッチコードをつなぐ場所「インレット」(入力)と「アウトレット」(出力)があり、ここにコードをつなぎます。オブジェクト同士がパッチコードでつながると、メッセージ(数値や文字列データ)やオーディオ信号が流れるようになります。

こんな感じで次々とオブジェクトを配置し、結線していきます。文章で説明するとややこしく見える気もしますが、難しく考えずとにかく触ってみるのがおすすめです。ユーザビリティについてはMax4→5→6と劇的な進化を遂げてきた部分なので、以前にMax4あたりを試して無愛想なユーザー・インターフェースに面食らったという方も、ぜひ再挑戦してみてほしいです。すっかりモダンになっているMax6に驚くかもしれません。

自動演奏とエフェクター

では本題のパッチ改造です。まずは自動演奏機能を付けてみます。自動演奏と言っても、選択された幾つかの音程からランダムに1つを選んで鳴らすシンプルなものです。ここで使った重要なオブジェクトを説明すると、[metro]は一定の時間間隔でトリガーを発生するオブジェクト(Maxではトリガーのことをbangと言います)。[random]は乱数を出力するオブジェクトで、今回は発音を行うかどうかを1/2の確率で選択するのと、音程のオクターブ位置を決めるのに使っています。[select]は特定のメッセージが入力されたときだけbangを出力します。[table]は本来は数値配列を扱うオブジェクトですが、もう1つの機能として、数値ごとの出現確率を設定した乱数出力を行えるので、今回は鍵盤オブジェクトで選択された音程の中から1つを選ぶのに使っています。

次に、エフェクターとしてディレイを付けます。今回はせっかくなのでL/Rが交互に入れ替わるクロス・ディレイにしました。ディレイを作るときに使うお決まりのオブジェクトは[tapin~]と[tapout~]です。この2つのオブジェクトはワンセットで使用され、[tapin~]はディレイの入力、[tapout~]は出力となります。もちろん指定した時間でオーディオ信号を遅らせて出力する機能を持っています。[tapout~]から[tapin~]に信号を戻せばフィードバックになりますが、今回はクロス・ディレイにするためにたすき掛けになっています。最後に、ノコギリ波だったシンセ部分のオシレーターを、今回はサイン波に変更しました。

さて、これでシンセに自動演奏機能とエフェクターが付きました。誌面の都合上詳しい解説まではいきませんでしたが、「Maxのパッチ作成ってこんな感じ」という雰囲気をつかんでもらえたらうれしいです。取りあえず触ってみて、分からないところを調べていくというのがMaxに慣れるコツでもあります。ぜひお試しください。

ファイル(maxpatch2.zip)のダウンロードはこちらから!

Katsuhiro Chiba

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【Profile】電子音楽家。デジタル音響処理に精通しMax/MSPのスペシャリストとしても知られる。2003年、サンプル・ループを主体としたラップトップ・インプロビゼーションのためのソフトウェア「cyan/n」を制作。自らこのソフトを駆使したライブ活動をスタート。楽曲制作/ライブ・パフォーマンスに用いるソフトウェアから徹底して手掛けることで、独自のサウンドを追求する

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問合せ:エムアイセブンジャパン
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