MKが使う「FL Studio」第2回

ドロップ前にガツン!と効く
“Pryda Snare”の作り方

唐突ですが、皆さんは“Pryda Snare”をご存じでしょうか? ロサンゼルスを拠点とするハウス・クリエイター、エリック・プライズの「Miami To Atlanta」(2009年)に登場するスネアのことで、そのインパクトあふれるサウンドから多くのトラック・メイカーが同様の音を使い始めました。近年はEDMのサンプル集に収録されることもあり、ドロップ(=キックが入るサビ的な部分)の手前に配置するのが一つのスタイルになっているようです。しかしサンプルに頼っていると、ほかのパートとなじみが良くないときに不便。そこで今回は“Pryda Snareをイチから作る方法”を解説するとしましょう!

素晴らしい動作環境の
64ビット版FL Studioで制作

冒頭を読んで“Pryda Snareって言われても、どんな音だかイメージできないよ”と思っている方。安心してください、例えば僕の「reaction」の0:09などを聴いてもらえればピンと来るはずです(https://soundcloud.com/mk_muzic/mk-reaction-wip)。ビルドアップの煽りが頂点に達したタイミングでドーンと入ってくるため、ドロップがよりグルービーに聴こえますね。

Pryda Snareを作る際は、まず新規チャンネルを立ち上げてエフェクト・チェインを作成。さまざまなエフェクトを用いますが、最初にインサートするのはFruity Reeverb 2です。FL Studioの全グレードに標準搭載されているリバーブで、音が良く動作が軽いため愛用しています。画面左側に空間を表すグラフィックが出てくるのも、残響の特性がイメージしやすくて良いですね。Pryda Snare向けのパラメーター設定はプリディレイが0、ルーム・サイズがマックス、ドライ/ウェット・バランスは50/50で、かなり深めのセッティングです。ただしディケイには要注意。この後でコンプを挿すため、長くし過ぎると残響が持ち上がってモヤモヤしてしまうからです。

▲FL Studio 12 All Plugins Bundle (99,990円)、FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版:31,000円)、FL Studio 12 Producer Edition(24,000円)、FL Studio 12 Fruity Edition(12,800円)に標準搭載のリバーブ、Fruity Reeverb 2。画面左のグラフィックで空間のイメージを視認できるのが便利だ。Signature Bundleは店頭で、All Plugins BundleとProducer Edition、Fruity Editionはbeatcloud(https://beatcloud.jp)にてダウンロード購入可能。 ▲FL Studio 12 All Plugins Bundle (99,990円)、FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版:31,000円)、FL Studio 12 Producer Edition(24,000円)、FL Studio 12 Fruity Edition(12,800円)に標準搭載のリバーブ、Fruity Reeverb 2。画面左のグラフィックで空間のイメージを視認できるのが便利だ。Signature Bundleは店頭で、All Plugins BundleとProducer Edition、Fruity Editionはbeatcloud(https://beatcloud.jp)にてダウンロード購入可能。

Fruity Reeverb 2の次にはFruity Parametric EQ 2をインサート。Pryda Snareと言えば重厚さも特徴なので、インパクトを増大させるために250Hz前後をブーストしておきます。このほか低域成分の多いサイン波などをレイヤーする方法もありますが、うまくなじませるのに手間がかかりますし、低域を強め過ぎるとドロップ頭のキックが負けてしまいがちです。だから僕はEQで軽く持ち上げる程度にとどめているんです。

▲標準搭載のFruity Parametric EQ 2で250Hz周辺を持ち上げ、スネアのズシッとした部分を強調する ▲標準搭載のFruity Parametric EQ 2で250Hz周辺を持ち上げ、スネアのズシッとした部分を強調する

EQの後ろにはコンプをインサート。ここではコンプ・モードに設定したFruity Limiterを使います。“同じコンプならFruity Compressorでもいいの?”と言われそうですが、Fruity Compressorは64ビットOS非対応なのでFruity Limiterをチョイス。これに限らず、僕は標準搭載のプラグインについてはなるべく64ビット対応のものを使うようにしています。32ビットのプラグインに比べて動作が軽いんですよね。

▲コンプ・モードに設定したFruity Limiter。コンプレッションの具合をグラフィックに映し出せるので、視覚的にも効果が分かりやすい ▲コンプ・モードに設定したFruity Limiter。コンプレッションの具合をグラフィックに映し出せるので、視覚的にも効果が分かりやすい

ちなみに64ビット版のFL Studioには賛否両論あるようですが、個人的には32ビット版から乗り換える価値があると思っています。実際に僕は、リプレイスしてから驚くほど動作が安定するようになりました。うまく動かすための秘けつは、手持ちのプラグインをすべて最新版にアップデートすること。サード・パーティのプラグインが古いバージョンだったりすると不安定になることがありますが、すべてを最新にすれば劇的に良くなるでしょう。

チャンネルの右クリック・メニューから
エフェクト・チェインを保存/呼び出し

先ほどのFruity Limiterに続いては、サード・パーティ製のコンプWAVES C1を挿します。オーバー・レベル防止のためでもありますが、リミッターで抑えるとアタックがなまってしまうのでコンプというわけです。パラメーターの設定はスレッショルドが−15dB、レシオが2:1、アタック・タイムが100ms、リリース・タイムが1ms。かけてみると音の粒立ちが良くなりますね。ただし本来の目的はアタックの強調ではなくオーバー・レベルの防止なので、アウトプット・ゲインは±0dBのままでOKです。

▲サード・パーティ製のコンプ、WAVES C1。アタック感を殺さないようレベル・オーバーを防止するために、音が立ち上がった直後の部分に一瞬だけかかるように設定している ▲サード・パーティ製のコンプ、WAVES C1。アタック感を殺さないようレベル・オーバーを防止するために、音が立ち上がった直後の部分に一瞬だけかかるように設定している

C1の次はいよいよ最後のエフェクト、ステレオ・イメージ調整ツールのFruity Stereo Shaperです。L/Rの各チャンネルの音量や定位を個別に調整したり、それぞれの位相を反転させるなどさまざまな用途に使えますが、ここではセンター定位のソースにステレオ感を与えるために使用。いわゆるイメージャー的な使い方ですね。“Stereoize 2”というプリセットが気に入っているので、それを用います。Pryda Snareはド・センターでもかっこいいんですが、ほのかにステレオ感を持たせることでインパクトが増すため、僕は広げることが多いんです。

▲標準搭載のステレオ・イメージング・プラグイン、Fruity Stereo Shaper。画面左のスライダーではL/Rの各チャンネルの正相/逆相成分の音量バランスなどが設定でき、画面右のノブを使えばいずれかのチャンネルにディレイをかけたり、各周波数の位相の関係を変えることが可能 ▲標準搭載のステレオ・イメージング・プラグイン、Fruity Stereo Shaper。画面左のスライダーではL/Rの各チャンネルの正相/逆相成分の音量バランスなどが設定でき、画面右のノブを使えばいずれかのチャンネルにディレイをかけたり、各周波数の位相の関係を変えることが可能

以上でPryda Snare用のエフェクト・チェインは完成! あとは好みのスネア・サンプルをチャンネルへロードするだけです。スネアだけでなくクラップなどに用いても面白いでしょう。なおこうしたチェインは、ミキサー・チャンネルの右クリック・メニューから“Save mixer track state as…”を選び、保存しておくと便利。任意の場所にFSTというファイル・フォーマットにて保存でき、空チャンネルの右クリック・メニュー“Open mixer track state…”からいつでもロード可能です。なお、今回テーマにしたPryda Snareは非常に残響成分の多い音なので、鳴らした直後にやってくるキックへのかぶりが気になる人はオーディオ化して余韻をカットしたり、キックでサイド・チェイン・コンプをかけるなどしましょう。僕はサード・パーティ製のNICKY ROMERO Kickstartを使い、キックをソースにしたサイド・チェイン・コンプをかけています。

▲Pryda Snareのミキサー・チャンネル。下の方のスロットに挿さっているプラグインは、ドロップ頭へのリバーブのかぶりを抑制するためのもので、使用しない場合もある ▲Pryda Snareのミキサー・チャンネル。下の方のスロットに挿さっているプラグインは、ドロップ頭へのリバーブのかぶりを抑制するためのもので、使用しない場合もある
▲エフェクト・チェインができたら、そのミキサー・チャンネル上で右クリック。開いたメニューから“File”→“Save mixer track state as…”を選べば保存できる ▲エフェクト・チェインができたら、そのミキサー・チャンネル上で右クリック。開いたメニューから“File”→“Save mixer track state as…”を選べば保存できる
▲エフェクト・チェインは、FSTフォーマットで保存されている ▲エフェクト・チェインは、FSTフォーマットで保存されている
▲サード・パーティのコンプNICKY ROMERO Kickstart。挿すだけでサイド・チェイン・コンプをかけることができる。コンプレッション・カーブは、アイコン化されたプリセットから選択可能だ ▲サード・パーティのコンプNICKY ROMERO Kickstart。挿すだけでサイド・チェイン・コンプをかけることができる。コンプレッション・カーブは、アイコン化されたプリセットから選択可能だ

さて次回で僕の連載は早くも3回目。テーマとして、EDMのトラックに有効な“FXサウンドの作り方”を取り上げたいと思います。お楽しみに!

FL Studio シリーズ・ラインナップ

FL Studio 12 All Plugins Bundle(99,990円)
FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版のみの販売:31,000円)
FL Studio 12 Producer Edition(24,000円)
FL Studio 12 Fruity Edition(12,800円)

<<<Signature Bundle以外はbeatcloudにてダウンロード購入可能>>>