独自技術“ATL”搭載の高精度モニター・スピーカー PMC IB1S-AIII/QB1-A

1991年イギリスBBCのエンジニア、ピーター・トーマス氏によって設立された高級スピーカー・ブランドPMC。同社の特許技術“ATL”を搭載したスピーカーは、現在世界中の著名プロフェッショナル・スタジオで導入され、あらゆるサウンド・エンジニアのリファレンス・モニターとなっている。今回は、そんなPMCから登場したミッドフィールド・モニターIB1S-AIIIとラージ・スタジオ・モニターQB1-Aの特徴を、プロデューサー/エンジニアのインプレッションとともに明らかにしていこう。

IB1S-AIII

ミッドフィールド環境に適した3ウェイ・アクティブ・モニター・スピーカー。ウーファーには10インチ・カーボン・ファイバー/Nomexフラット・ピストン・ベース・ドライバーを搭載し、75mmスコーカーと27mmツィーターにはソフト・ドームを採用している。またATLベース・ローディング・システムも内蔵し、高精度な低域再生能力を誇る。

▲オープン・プライス/ペア販売(市場予想価格:1,430,000円前後) ▲オープン・プライス/ペア販売(市場予想価格:1,430,000円前後)
▲IB1SA-IIIのリア・パネル ▲IB1SA-IIIのリア・パネル

QB1-A

3ウェイ・アクティブ・ラージ・スタジオ・モニター。IB1S-AIIIにも採用されている10インチ・カーボン・ファイバー/Nomexフラット・ピストン・ベース・ドライバーを4基搭載し、最大音圧レベル132dB@1mというスペックを実現する。ATLベース・ローディング・システムを内蔵するほか、専用パワー・アンプPMC Control 1200とPower 2400×2も付属している。

▲オープン・プライス/ペア販売 ▲オープン・プライス/ペア販売
▲IB1S-AIIIとQB1-Aに採用された、PMCオリジナル技術の250mm(10インチ)カーボン・ファイバー/Nomexフラット・ピストン・ベース・ドライバー。消防士の救助服などに用いられるDUPONT Nomex繊維で作られた素材を、カーボン・ファイバーで両面ラミネート加工し、コーンに使用している ▲IB1S-AIIIとQB1-Aに採用された、PMCオリジナル技術の250mm(10インチ)カーボン・ファイバー/Nomexフラット・ピストン・ベース・ドライバー。消防士の救助服などに用いられるDUPONT Nomex繊維で作られた素材を、カーボン・ファイバーで両面ラミネート加工し、コーンに使用している
▲PMCの独自技術ATL(アドバンスド・トランスミッション・ライン)。ドライバー・ユニットから外部に出るまでの長いトンネルの中に吸音材を充てんし、その過程で不要な周波数が吸音され、出口からは超低域を同位相で出力する。超低域ドライバーとしての役割も担い、高効率/パワフルな低域特性/安定した大音量特性/低ひずみなどのメリットを持っている。図はIB1S-AIIIのATL ▲PMCの独自技術ATL(アドバンスド・トランスミッション・ライン)。ドライバー・ユニットから外部に出るまでの長いトンネルの中に吸音材を充てんし、その過程で不要な周波数が吸音され、出口からは超低域を同位相で出力する。超低域ドライバーとしての役割も担い、高効率/パワフルな低域特性/安定した大音量特性/低ひずみなどのメリットを持っている。図はIB1S-AIIIのATL

Impression

SUI

PMCの本気を感じる原音忠実性の高いスピーカーです

PMC0 撮影:Chika Suzuki

【Profile】作曲、トラック・メイクからボーカルのディレクション、ミックス・ダウン、マスタリングまで手掛ける作家/プロデューシング・エンジニア。近年は劇伴やCM音楽にも活躍のフィールドを広げつつある

1991年に英国で創立した高級スピーカー・ブランド、PMC。同社のスピーカーは、放送/映画/音楽などに関連するプロフェッショナル・スタジオのモニターとして、世界中で導入されている。ここでは、国内でダンス・ミュージックから劇伴音楽まで幅広く携わる作家/プロデューシング・エンジニアのSUI氏に登場いただき、同社のニュー・モデルIB1S-AIIIとQB1-Aの試聴コメントをいただいた。

IB1S-AIIIは正確かつナチュラルに聴こえる音

PMC IB1S-AIIIとQB1-Aの試聴では、ここ半年〜1年くらいミックス/マスタリングのリファレンスにしている洋楽メインストリームや劇伴音楽を流してみました。

まずIB1S-AIIIは、中〜高域にかけて非常に優秀。これはどういった意味かというと、中〜高域が華美過ぎないということです。よくスピーカー・ブランドは試聴時に一回で気に入られたいという気持ちが強いためなのか、これらの帯域の音を派手にする傾向があるようです。しかし普段からエンジニアリングを行っている立場からすると、逆にその派手さが仕事内容によっては“やりにくさ”につながることがあります。IB1S-AIIIでは、楽曲のパート一つ一つがとても正確かつナチュラルに聴こえるのが一番印象深かったですね。

また通常のミックスにおいて、中〜高域に関しては“小型のモニターで確認しないと分からない”といったことがあります。例えば、後から小型モニターで聴いてみたら“ハイハットのレベルが大き過ぎた!”というようなことです。しかし、IB1S-AIIIではそのような小型モニターの必要もないくらい、中〜高域が自然に聴こえる印象を受けました

そして、中〜高域が“華美過ぎない=地味” なのかというとそうではありません。どちらかというと音源そのものをきちんと表現しているというのが正しいでしょう。IB1S-AIIIの音には、原音忠実性を非常に感じます。僕は、エンジニアリングの方向性としてはそれを一番求めているので、正直に言ってこれからすぐにでも仕事で使いたいと思いました。

またIB1S-AIIIは音が正確に見えるので、問題のある部分に早く気が付き、修正することができます。派手な音像のスピーカーが多い中、IB1S-AIIIのように色付けの無いスピーカーで制作/ミックスすれば仕事の効率も上がりますし、何よりしっかりとした音源が制作できることでしょう。

個人的に、これまでPMCはダンス・ミュージック系の音楽ジャンルは苦手で、オーケストラなどの生音が得意だという印象があったのですが、今回IB1S-AIIIを聴いてみて全然そんなことはないと思いました。逆に、最近のローエンドに特化した洋楽ポップスなどもよく鳴らしていると思います。PMC伝統のベース・ローディング・システム=ATLが、そのサウンドにしっかり効いている感じがしますね。僕は普段サブウーファーを使った2.1chの環境で制作しているのですが、IB1S-AIIIはサブウーファー無しでも十分にローエンドが出ていると思います。ローエンドは50Hz以下までちゃんと見えますし、何よりこの帯域でも音高が分かるのがとても良いです。こういったモニター・スピーカーというのは、これまであまり体験がありません。

中低域からローエンドにかけて奇麗に見えるQB1-A

次にQB1-Aを試してみましたが、そのサウンドはまさに“完ぺき”です。非常にフラットでクリアな音が鳴るので、非の打ちどころのないスピーカーだと言えるでしょう。これがあれば一生使い続けられる、そんなラージ・モニターです。もちろん設置する部屋のサイズやルーム・アコースティックによっても鳴り方は変わってくると思うのですが、設置方法や音量に気を付ければいいでしょう。

よくルーム・チューニングができていないスタジオでラージを聴くと、パワーがあり過ぎるため音が暴走しているような印象を受けますが、QB1-Aはスピーカー自体がうまく鳴っているので、ほかのラージより設置環境や設置方法の影響を受けにくいスピーカーであると言えます。今回のようなスタンドに置いた状態でも、適正な音量で鳴らせばその実力がしっかりと分かるのが素晴らしいです。そういった意味でも、QB1-Aは本当に“完ぺき”という言葉がぴったりなスピーカーだと思います。

全体的にQB1-Aのサウンド傾向はIB1S-AIIIと同じなのですが、ローエンドに関してはQB1-Aの方がさらに出る印象です。IB1S-AIIIでは“50Hz以下の帯域でも音高を感じられる”と言いましたが、QB1-AではサブベースやROLAND TR-808系キック・ベースの“わずかなひずみや倍音が見えるくらい解像度が高い”と言えるでしょう

一つ興味があったのは、QB1-Aを小さい音量で鳴らしたらどう聴こえるのかということ。実際に試してみたところ、全く変わらない音像で非常に驚きました。特に中低域からローエンドにかけて奇麗に見えるので、ミックスする際はとてもやりやすいと思います。

僕はダンス・ミュージックから劇伴音楽まで広く手掛けるのですが、IB1S-AIIIとQB1-Aは音楽ジャンルを選ばず、とにかく原音に忠実なサウンドを提供してくれるスピーカー。どちらも色付けが無く高精度なモニターだと言えるでしょう。クリエイターからエンジニアまで、全員に使ってみてほしいですね。PMCの本気を感じます。

●PMCスピーカーに関する問合せ:オタリテック http://www.otaritec.co.jp

※本稿はサウンド&レコーディング・マガジン2019年12月号の記事の転載分となります