UKの、あのスタジオで得た空気感、荒々しさ
凛として時雨のフロントマンTKのソロ・プロジェクト=TK from 凛として時雨が、通算5枚目で5年ぶりとなるオリジナル・アルバム『Whose Blue』をリリースした。膨大な要素を精緻に構築しつつ激情も収めたサウンドは、従来にも増して芸術的で高度。海外レコーディングの場にベルリンのハンザ・スタジオを選んできたTKだが、今作ではロンドンのメトロポリス・スタジオをチョイスしたのもトピックだ。ミックスは変わらず自身で作り込みつつ、国内の有力エンジニアと作業を共にしたり、イギリスのロメシュ・ドダンゴダを起用したりと新しいアプローチを取り入れている。プライベート・スタジオを訪問し、詳しく聞いてみよう。
ミックスしつつ録音するという手法
──ロンドンに縁があったのでしょうか?
TK 姉がオックスフォードの大学に通っていたので、イギリス自体はよく遊びに行っていたのですが、ロンドンにはあまり滞在したことがなかったんです。去年の10月に、初めて制作のためにロンドンへ行きました。それまでは海外に写真を撮りに行って息抜きしてから、東京に戻って制作に集中するのが常だったんですけど、向こうで何かを感じたら、そのタイミングで感じるままに作りたいし、どうにか旅と制作を一緒にできないかなと思って。それで時雨のマスタリングでお世話になっているメトロポリスの吉岡仁さんに“曲作りできるような部屋って、ありませんよね?”と聞いてみたら“ありますよ”と。月単位や週単位で押さえられるライティング・ルームというのがあって、試しに借りてみることにしたんです。部屋のセットアップはその時々で変わるみたいですが、プリアンプのKAHAYAN 12K72やモニター・スピーカーのUNITY AUDIO The Rock MKIIが用意されていて、ギターはロメシュがFENDER Telecasterを手配してくれたから、僕が持ち込んだのはオーディオI/Oとペダル数台くらい。ミニマムな環境だったものの、すごく風通しの良い感じで制作できました。自分のスタジオにこもっているのも幸せですが、ずっと同じ場所なので、そこに対して“作れない時間の記憶”もたまっていくんですよね。曲、できるかな……みたいな。だからオンにもなれるけど、ちょっと魔物も感じてしまいます(笑)。
──場所や環境を変えることで、アウトプットも変化しそうですね。
TK ロンドンって、東京と同じくらい慌ただしい部分もあるけど、視覚的にも空間としても没入できるんです。今までは、わざわざ海外まで行ってスタジオにこもる制作はどうなんだろうと思っていたんですが、街から刺激を得て、それをすぐにアウトプットできたのが大きかったですね。ライティング・ルームは本当に小さな部屋ですが、メトロポリス全体の空間も音楽が常に生み出されている気をまとっていて、すごく居心地が良いんです。その流れでBOBOのドラムも録って、マスタリングまでメトロポリスでやることにしました。
──ライティング・ルームで曲作りした後、いったん帰国してから、レコーディングのために再びメトロポリスを訪れたのですか?
TK そうですね。まずは今年の1月下旬に僕が先に1人で再訪し、ライティング・ルームで4日間くらい作詞や曲の仕上げをやって、その後にBOBOが来てドラムを録りました。曲作りのときの感触が良かったというだけでドラム録りを決めてしまったので、メトロポリスで録るドラム・サウンドが好みかどうかは当日まで分からなかったんです(笑)。だから一か八かだったんですけど、部屋が見えてくるような生々しく太い音が得られました。
──録音を手掛けたのは、どなたですか?
TK 僕が自分のSTEINBERG Cubaseで録りました。海外でやるときはいつもそうで、今回、オーディオI/OはANTELOPE AUDIOのOrion Studio Synergy Coreをお借りしました。僕はミックスしながら録るというか、かけ録りではないんですけど、録った音をプレイバックするときにプラグインがかかった状態で聴けるようにしているんです。僕はエンジニアではないので、録音のときにドライの音しか聴けないとなると、それが後々、どうなっていくのかがイメージしにくい。マイクのセレクトやマイキングも、マイク回線のドライ信号ではなく、ミックス時に使うであろうエフェクトをかけた状態で判断するんです。例えば、スネアにハイハットがどのくらいかぶっていいかは、ミックスでどのくらいコンプをかけたいかによって変わってくるので、先に想定しておきたい。そうしないと、後でどうにでもなるように安全に奇麗に録っていく脳になりますしね。自分の中では、ミックスまでが曲作りとして1本なんです。一度サウンド・チェックをしたら簡易的にドラム・ミックスも始めることで、BOBOも最終形のサウンドのイメージを共有しながら録音を進めることができます。
──破裂音のようなアタックと粘りのあるリリースを兼ね備えたドラム・サウンドは、今作でも健在です。
TK コンピーなドラムって、粘りも同時にないことには、点で聴こえる打ち込みのようになってしまいがちですよね。ドラム・バスにはコンプをかなり深くかけています。その中にアンビエンス・マイクを入れるのが良いときもあれば...
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Release
『Whose Blue』
TK from 凛として時雨
(ソニー・ミュージックレーベルズ:AICL-4729/通常盤初回仕様)
Musician:TK(vo、g、prog)、稲葉浩志(vo)、suis(vo)、BOBO(ds)、Tatsuya Amano(ds)、Tobias Humble(ds)、吉田一郎不可触世界(b)、中尾憲太郎(b)、山口寛雄(b)、須原杏(vln)、大谷舞(vln)、中島優紀(vln)、大嶋世菜(vln)、亀井友莉(vln)、吉田篤貴(vln)、河村泉(vla)、秀岡悠汰(vla)、菊地幹代(vla)、飯島奏人(vc)、内田麒麟(vc)、村岡苑子(vc)、高杉健人(cb)、Brazilian Horn(Horn)、和久井沙良(p、cho)、平井真美子(p)、小松陽子(p)、ケンモチヒデフミ(prog)、kent watari(prog)、Giga(prog)、Cena(cho)
Producer:TK
Engineer:TK、染野拓、ロメシュ・ドダンゴダ(Romesh Dodangoda)、采原史明、川島尚己、石井翔一朗、小林廣行
Studio:Metropolis Studios、ONKIO HAUS、Studio SAUNA、Sony Music Studios Tokyo、BIRDMAN WEST、STUDIO MECH