姿勢はエロティックかつナルシシスティックであり、トラックは海外トレンドを先取りした通好みの凝ったものであり、歌詞は浮世離れし、何よりメンバーのキャラクターに統一感が無く三者三様。ボーカリストの遠藤遼一、トラック・メイカー/キーボーディストの森岡賢と藤井麻輝によって1989年にメジャー・デビューを果たしたSOFT BALLET(ソフトバレエ)。1995年に解散するも2002~2003年に再結成したが、それ以降3人が集まることはなく、藤井と森岡は2014年にminus(-)をスタートさせたものの2016年に森岡が逝去。もはや3人で音楽を作ることは不可能となった。
そんな彼らのデビュー30周年の節目となった2019年、サウンド&レコーディング・マガジンは代表曲「BODY TO BODY」のリミックス企画を実施。そのときの3曲は長らくレア音源化していたが、このたび『BODY TO BODY 30th Anniversary Remixes』として待望の配信がスタートした。そのリミキサー3人のコメントは別記事で紹介するとして、本稿では“早過ぎたバンド”として今も多くのファンを持つ彼らの功績を振り返っていく。
(本稿はサウンド&レコーディング・マガジン2019年11月号から転載&一部加筆したものです)
SOFT BALLETの軌跡
1983年のYMO散開後、打ち込み+ロックという文化はTM NETWORKによってさらなる変貌を遂げた。シンセやサンプラーという存在が小室哲哉によってお茶の間にも認知されるようになり、テクノロジーと音楽の関係に興奮を覚える時代でもあった。そんな中、1989年に登場した異色のバンドがSOFT BALLETだ。ボーカルの遠藤遼一とトラック・メイク/シンセ担当の森岡賢&藤井麻輝の3人組であり、あのYMOで知られるアルファレコードからのメジャー・デビュー。しかしながら、いかがわしさ満点のルックスをアピールし、日本ではなじみの無かった“エレクトロニック・ボディ・ミュージック”を打ち出すという、お堅い我が国ではかなり浮いた存在だった。が、そんな派手な見た目とは裏腹にサウンドは海外のトレンドをくんだ最先端のものであり、しかも作り込み具合も容赦ない。そんな不思議な存在だった。
1989〜アルファ時代:ボディ・ミュージックから異形の進化へ
東京・新宿にあった伝説のディスコ、ツバキハウスで知り合った3人は前身バンド=ヴォラージュを経て、1989年9月25日に1stシングル「BODY TO BODY」および1stアルバム『EARTH BORN』でデビュー。シンセ/サンプラーを駆使し、ギターは入っているがドラムやベースはほぼ打ち込み。メタル・パーカッションと2拍/4拍の重いスネアがまさにボディな「BODY TO BODY」は彼らの代表曲。がなる寸前の遠藤による低音ボーカルもこの時点で完成されていた。アルバムには中近東な雰囲気の「L-MESS」やハッピー過ぎる曲調が逆に怖い「PASSING MOUNTAIN」なども収録し、裏打ちハイハット+4つ打ちキックとアシッド・シンセを多用したサウンドは初期ハウスの流れもくんでいた。
『EARTH BORN』
■オリジナル発売日:1989年9月25日
Musician:遠藤遼一(vo)、森岡賢(vo、prog、syn、ac.p)、藤井麻輝(voice、prog、syn)、塚田嗣人(a.g、e.g)、寺谷誠一(hihat、cymbal)、WHACHO(perc)
Producer:SOFT BALLET、加藤恭次
Engineer:寺田康彦、他 Studio:LDK、アルファ
7カ月後の1990年4月25日にはすぐに2ndアルバム『DOCUMENT』を発表。ボイス・サンプリングとかわいらしいTR-808系サウンドから一転してボディな世界に突入する「NO PLEASURE」や「FAITH IS A」などハードな曲は藤井作曲、シングルにもなった「TWIST OF LOVE」や「PRIVATE PRIDE」「AFTER IMAGES」などポップな曲は森岡作曲と、2人のソングライターのキャラクターが顕著になる(作詞はほぼすべて遠藤)。例外として底抜けにポップな「ESCAPE」は藤井作曲で、シングル・バージョンの「ESCAPE -Rebuild」はより壮大なハウス曲にアレンジされている。
『DOCUMENT』
■オリジナル発売日:1990年4月25日
Musician:遠藤遼一(vo)、森岡賢(vo、prog、syn、ac.p)、藤井麻輝(voice、prog、syn)、塚田嗣人(a.g、e.g)、小宮俊男(perc)、藤田高志(g)、諸田コウ(b)、Shigeru Yamazaki(e.g)、kiki(cho)
Producer:SOFT BALLET、加藤恭次、康原将拓
Engineer:寺田康彦、他 Studio:LDK、アルファ
約半年後には6曲入りミニ・アルバム『3[drai]』が完成(後に既発曲の別バージョン3曲を加え『3[drai]+3』として再リリース)。まさに3人それぞれが志向する方向性を好きに打ち出したような作品で、森岡がボーカルを取るアンビエントな楽曲「BRILLIANT FAULT AND SKY WAS BLUE」、ハードコアなギターを用いた藤井曲「MUCH OF MADNESS, MORE OF SIN」、そして遠藤の作曲による「FLOW」が並ぶ。もはやボディ感は希薄となり、シンセ/サンプリングを用いたエレクトロニックな手触りはそのままに、あえて表現するならば“ダーク・ポップ”。
『3[drai]+3』
■オリジナル発売日:1990年11月28日
Musician:遠藤遼一(vo、cho、prog)、森岡賢(vo、prog、syn、ac.p)、藤井麻輝(vo、prog、syn、m
etal perc、noise)、上領亘(ds、perc)、成田忍(g)、Kosuzu Yokomachi(cho)、塚田嗣人(g)、藤田高志(g)、諸田コウ(b)
Producer:SOFT BALLET、加藤恭次、康原将拓
Engineer:寺田仁、寺田康彦、杉山勇司、他 Studio:アルファ、一口坂スタジオ、サウンドシティ
メジャーで生き残るにはある程度の結果=セールスは必要だ。SOFT BALLETで言うならばターニング・ポイントとなったのがこの『愛と平和』だろう。これまた『3[drai]』から約半年という短いタームで発表され、当時起こった湾岸戦争が大きなテーマ。デジタル・ハードコアな闘争曲「VIRTUAL WAR」やアメリカを“女王様”と形容する「AMERICA」といった政治的内容のトラックも見られる一方、サウンド面はハイエナジーにグッと接近し、「EGO DANCE」「FINAL」といった狂喜乱舞な楽曲も収録。当時ハイエナジー/ユーロビート界隈で猛威を振るっていたUKのプロダクション・チームPWLにミックスを依頼した影響も大きいだろう。そんな中でも琉球音階と日本的なサンプルで構築された「TEXTURE」はタイムレスに素晴らしいトラック。
『愛と平和+2』
■オリジナル発売日:1991年5月21日
Musician:遠藤遼一(vo)、森岡賢(prog、syn、ac.p)、藤井麻輝(prog、syn、metal perc、noise)、石塚“BERA”伯広(a.g、e.g)、上領亘(ds、perc)、成田忍(g)、kiki(cho)、篠崎正嗣(vln、胡弓)、杉山勇司(a.g、perc)、イアン・カーナウ(additional prog)
Producer:SOFT BALLET、加藤恭次、康原将拓
Engineer:フィル・ハーディング、杉山勇司、他 Studio:PWL、アルファ、ビクター、サムホエア、ベイブリッジ
1992〜ビクター時代:打ち込み+ロックの深遠なる探求
ビクターへレコード会社を移籍し、前作から1年5カ月というタームで1992年10月21日に発売されたのが『MILLION MIRRORS』。前作と同様、PWLのフィル・ハーディングがミックスを手掛けたが、前作のような派手な楽曲は少なく、暗く重いサウンド。オペラ歌唱の女性コーラスを用いた「FAIRY TALE」は救いのあるアンビエント・ハウスながら、他の曲はジャケットのイメージ通り。生前のインタビューで森岡は“打算的で戦略的なプロデューサー視点ではなく、ピュアになろうとした結果”と語っている。「THRESHOLD」はロック系とハウス系の2バージョンを収録しているが、この曲に限らず、SOFT BALLETのユニークな点としてアレンジ/バージョン違いが多く存在する点が挙げられる。シングルとアルバムで別曲かと思うほどサウンドが異なるバージョンもあり、藤井/森岡のサウンド探究心がうかがえる。
『MILLION MIRRORS』
■オリジナル発売日:1992年10月21日
Musician:遠藤遼一(vo)、森岡賢(prog、syn、ac.p)、藤井麻輝(prog、syn、e.g)、石塚“BERA”伯広(e.g)、成田忍(e.g)、今井寿(e.g)、kiki(cho)、Dennis Gunn(poetry reading)、Tracy Ackerman(cho)、Yoko Ohta(voice)、Tee Gre
en(vo)、イアン・カーナウ(additional prog)、他
Producer:SOFT BALLET
Engineer:フィル・ハーディング、杉山勇司、他 Studio:PWL、サム、ビクター、サムホエア、サウンドスカイ、サウンドアトリエ
前作から一転、“売れる曲を作ってほしい”とレコード会社から言われたのかどうか定かではないが、トランシーなシンセを用いた森岡作曲のポップなシングル曲「WHITE SHAMAN」を含む『INCUBATE』が1993年11月26日にリリース。TR-808/909系のビートは減り、生ドラムのサンプルを用いることが多くなった印象。そういう意味で一時期のハウス色は薄れてロック色が濃くなったかもしれない。「INFANTILE VICE」でゴンチチ、「PILED HIGHER DEEPER」でCRA¥(上田剛士/元THE MAD CAPSULE MARKETS、現AA=)が参加。「ENGAGING UNIVERSE」はこのアルバム・バージョンよりも、シングル・バージョンの方がビートのスピード感とシンセの宇宙感があって良い(と個人的に思う)。
『INCUBATE』
■オリジナル発売日:1993年11月26日
Musician:遠藤遼一(vo)、森岡賢(prog、syn、ac.p、e.g)、藤井麻輝(prog、syn、e.g)、寺谷誠一(ds)、成田忍(g)、塚田嗣人(g)、石塚伯広(g)、kiki(cho)、濱田理恵(cho)、金子飛鳥(strings arrangement)、ゴンザレス三上(12strings.g)、チチ松村(a.g)、ISHIG∀KI(e.g)、CRA¥(b)、佐々木史郎(tp)、Sohi Sadato(voice)、Lynn KANE(voice)、イアン・カーナウ(additional prog)、他
Producer:SOFT BALLET
Engineer:フィル・ハーディング、杉山勇司、石塚真一、寺田仁、他 Studio:PWL、サウンドスカイ、ビクター、DOG HOUSE、サム、ミュージックイン、他
前作からおよそ1年半というタームで、『FORM』が1995年4月21日リリース。UKロックやグランジ全盛のこの時期、『FORM』もその辺りの要素がうかがえ、シングル曲「YOU」もギターを中心に据えたものに。循環コードを多用してあえて起伏を抑えているのもインディー・ロック全盛期の影響かもしれない。ただしビートは打ち込みであり、シンセもふんだんに入っているのがSOFT BALLETらしいバランスだ。藤井が全体のサウンド・トリートメントを行うことで、トータリティはそれまでの作品の中で最も手応えがあったと後に彼は語っている。「NO-ONE LIVES ON MARS」では布袋寅泰が驚きのゲスト参加。そして、2カ月後には『FORM』収録曲をブラック・ドッグ(プラッド)やオウテカといったUK勢や、デトロイト・テクノ第2世代のカール・クレイグなどがリミックスした『FORMs』も発表。『FORM』と対になるような作品として、オリジナル・アルバムの一枚という位置付けになっている。この2枚の後、1995年7月23日渋谷公会堂のライブをもって彼らは解散した。
『FORM』
■オリジナル発売日:1995年4月21日
Musician:遠藤遼一(vo)、森岡賢(prog、syn)、藤井麻輝(prog、syn、sound tr
eatment)、成田忍(g)、楠均(ds)、寺谷誠一(ds)、山根麻衣(cho)、篠崎正嗣(vln、胡弓)、kiki(cho)、Avigail Yaakov(cho)、布袋寅泰(g)、佐々木史郎(tp)、Lynn Hobday(Narration)、草間敬(prog)、他
Producer:SOFT BALLET
Engineer:ディロン・ギャラガー、石塚真一、藤井麻輝、杉山勇司、 岡雅幸、他 Studio:ビクター、イニックレコーディングホステリー、リトルバッハ小淵沢、サウンドバレイ、タワーサイド、青葉台、ミュージックイン、音響ハウス
『FORMs』
■オリジナル発売日:1995年6月28日
解散後の1995年9月27日にベスト・アルバム『SOFT BALLET』がビクターよりリリースされた。森岡の曲を集めたDisc YELLOW、藤井の曲を集めたDisc BLUEの2枚組だが、オリジナルをそのまま収録した曲はわずかで、多くが新録/リミックスされている。新録曲は従来曲に比べてハイファイな印象で、デビューから6年間によるテクノロジーの発展もどことなく感じさせる。メンバーの動きと言えば、遠藤はENDSとしてロック・フォーマットを追求し、森岡はソロ、藤井もソロやShe-Shell、今井寿(BUCK-TICK)とのユニット=SCHAFT(SOFT BALLET活動時に結成)でそれぞれの活動に入った。
『SOFT BALLET』
■オリジナル発売日:1995年9月27日
Musician:遠藤遼一(vo)、森岡賢(vo、prog、syn)、藤井麻輝(prog、syn、sound treatment)、成田忍(g)、藤田高志(g)、楠均(ds)、kiki(cho)、他
Producer:クレジット無し
Engineer:石塚真一、他 Studio:クレジット無し
2002〜ワーナー時代:再結成、2年限りの“宴”
2002年夏の“SUMMER SONIC”で7年ぶりに驚きの再集結を果たすと、その年の10月23日に復活作『SYMBIONT』を発表。レーベルはワーナーだった。藤井は“一度終わったものだったのでどうかと思った”と再結成理由について述べていたが、作品自体は実にエネルギッシュ。冒頭の「BIRD TIME」「JIM DOG」からひずみと打ち込みが融合したデジタル・ロックにな っており、森岡の嗜好と思われるトランシーなシンセと藤井のビット・クラッシュ感あふれるノイズ、そしてENDSを経てロック・テイストを増した遠藤のボーカル・スタイルがぶつかり合う。ゴシックな1990年代のSOFT BALLET像を思い求める層には賛否両論あったが、その幻想を抜きにすれば純粋に良い作品。
『SYMBIONT』
■オリジナル発売日:2002年10月23日
Musician:遠藤遼一(vo)、森岡賢(prog、syn)、藤井麻輝(prog、syn)、成田忍(g)、寺谷誠一(ds)、TATSU(b)、白石元久(prog)、Satoshi Matsui(prog)、Hiromi Frolesca(vo)、Mari Hamada(vo)
Producer:SOFT BALLET
Engineer:石塚真一、SOFT BALLET、他 Studio:Debris、Blue Room、ビクター、音響ハウス
第2期のラストを告げる『MENOPAUSE』が2003年10月29日にリリースされ、物理的にこれが3人で作った最後のアルバムとなった。『SYMBIONT』と同じく3人の個性が中域でぶつかり合うような印象。「Smashing The Sun」「Bright My Way」というエネルギッシュなトラックが並ぶ一方で、かわいらしい作風の「Ascent -die a peaceful death」も興味深い。この年の12月に行われた渋谷公会堂がラスト・ライブとなり、そのタイミングで『SOFT BALLET 1989-1991 the BEST』と『SOFT BALLET 1992-1995 the BEST + 8 OTHER MIXES』という2種類のベスト盤がリリース。特に後者は未発表のリミックス(バージョン違い)もボーナス・ディスクとして収めていた。
『MENOPAUSE』
■オリジナル発売日:2003年10月29日
Musician:遠藤遼一(vo)、森岡賢(prog、syn)、藤井麻輝(prog、syn)、森岡慶(g)、下出正樹(g)、Tsuyoshi Takeuchi(g)、磯田収(g)、平井直樹(ds)、Kohji Kajiwara(ds)、Kouichi Konishi(b)、Kohji Sato(b)、Rie Ito(cho)、白石元久(prog)
Producer:SOFT BALLET
Engineer:石塚真一、高津輝幸、他 Studio:Debris、サンシャイン、ビクター、ファイン、フリーダム
2009〜 そして伝説へ
3人そろっての活動は現在に至るまで無いが、メジャー・デビュー20周年の2009年にCD11枚組の限定ボックス・セット『INDEX - SOFT BALLET 89/95』が藤井のリマスター監修でリリースされている。SOFT BALLETのアルファ~ビクター期音源(バージョン違いやリミックスで未収録のものも一部ある)を網羅し、さらにライブ用アレンジ・トラックのボーナス・ディスク付き。彼らの足跡をフルに体感できるものだが、現在はレア・アイテム化しているため、発売元のソニー・ミュージックダイレクトには個人的にもぜひ再発も検討いただきたいと思っている。ともあれ、その後は藤井と森岡が2014年にminus(-)をスタートさせるも2016年に森岡が亡くなったため、minus(-)は藤井のソロ・プロジェクトとなり、ライブでは藤井がフロントマンを務めていた。一方の遠藤は、復活を切望する声が多くあるが今現在まで目立ったリリースは無い。
そんな中、去るサウンド&レコーディング・マガジン2019年11月号では彼らのメジャー・デビュー30周年を記念した企画を展開。その付録CD『BODY TO BODY 30th Anniversary Remixes』が2025年3月14日に配信スタートした。遠藤・森岡・藤井が集まることはもはやかなわないが、彼らのサウンドは今後も多くのクリエイターに直接/間接的に影響を与えていくだろう。

本稿はサウンド&レコーディング・マガジン2019年11月号に掲載。続きは、Webプラン(有料)の「サンレコ読み放題」でぜひチェックしていただきたい。遠藤遼一&藤井麻輝の2019年時点でのメール・インタビューをはじめ、制作関係者の取材レポートや名曲「BODY TO BODY」のトラックシートまで堂々開陳。※当時の付録CDは試聴できません