どんぐりず インタビュー 〜突き詰める人たちはアカデミックな方に行くと思う

どんぐりず インタビュー 〜突き詰める人たちはアカデミックな方に行くと思う

“やたらセンスの良い音楽をやっている2人組”……そう喧伝したくなるのが、森(rap/写真左)とチョモ(vo、prog、g、b、tp/同右)から成る“どんぐりず”だ。高校時代に制作した初めてのアルバム『世界平和』(2015年)から2nd『愛』(2018年)まではオーソドックスなロック/ポップスを奏でていたが、以降、音楽性をエレクトロニックな方向にシフト。最新EP『4EP2』では、ディープ・ハウスやダブ、チルアウトなどの空気をまとった独自の哲学を表現している。玄人リスナーをうならせそうでいて、そこはかとなくフレッシュに響くこのサウンドは、どのように作られているのだろう? チョモに話を聞く。

Text:Tsuji. Taichi

音楽のセオリーを勉強する必要はむちゃくちゃあると思っています

普段、どのような音楽を聴くのですか?

チョモ 俺はUKジャズとかのロンドン周りが好きなんです。ユセフ・デイズやオスカー・ジェローム、あとは最近、エズラ・コレクティヴのライブ映像を見ていて、キーボーディストのジョー・アーモン・ジョーンズのソロ・アルバムをめっちゃ聴いたりしています。

 

EPの冒頭「Just do like that」のテンションを含むコード進行などは、ジャズからの影響でしょうか?

チョモ あれはハウスとか、そっち側に寄せていますね。積極的にディグるわけじゃないんですけど、ディープ・ハウスを聴いたりもするんです。「Just do like that」は本当に骨組みしか無いような曲ですが、それでもいいんじゃない?という話になって。“とりあえず骨組みを作れるのは分かったね”って。好きな音楽を聴いていると、ヒップホップにせよダンス・ミュージックにせよ、突き詰めていく人たちはアカデミックな方向に行くんですよね。音一つ一つのバランスや関係性みたいなものを追求して。でも俺は骨組みしか作れなかったし、自分はああいう曲に対する肉付けのアプローチがまだまだだなと感じることが多いんです。

 

楽典の知識はお持ちなのですか?

チョモ う~ん、勉強中です。内容は大きく2つに分けていて、技術的なところと知識の部分。前者に関しては、好きな曲をひたすらコピーするだけでも養われるかなと思っています。ギターの運指の基礎とかは、たまにやったりしますけどね。で、そのコピーで知識的な部分もカバーできる気がしているんですが、『ジャズ・スタンダード・セオリー』(編注:小社刊)とかを読んで地道に勉強していこうと思っています。

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群馬県桐生市にあるチョモのホーム・スタジオ。Windows版のSTEINBERG Cubaseを核とし、モニター・スピーカーはYAMAHA MSP5 Studioを使用している

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オーディオI/OはSTEINBERG UR242(写真下)に加え、ギター/ベース用のLINE 6 Pod Studio GX(上)もスタンバイ

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マスター・キーボードはNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S61。バンドルされているソフト音源も積極的に使っているという

YouTubeなどでエッセンスだけを抽出するような勉強法が今の若者のスタイルかと思い込んでいましたが、チョモさんは真逆と言えそうですね。

チョモ この間、同級生に会って。僕らは音楽の学校に通っていたのではないんですけど、彼もミュージシャンをやっているんです。で、話していたら音楽の知識量が半端なくて、何だか悔しくなっちゃって(笑)。それで一度はやめた勉強を再開しようと思ったんです。あと、このままでは終われないというか、ちゃんと身に付けたいという気持ちがありますね。知っているに越したことはないんじゃないかって。

 

DAWを活用すれば、楽典に明るくなくても音楽の制作は可能ですが、和声などの知識が必要な場面にはいつか必ず行き当たるような気がします。

チョモ 俺も、勉強する必要はむちゃくちゃあると思っていて。自分が現時点で目指すところを考えると、まずは譜面を習熟していないのがヤバいなと。ミュージシャンで集まってジャム・セッションをやろうってなったら、俺、何もできないんじゃないかと思って。自分は結構バンドマン寄りというか、楽器をマスターしたいという気持ちが強いので、今は下手ですけど頑張り続けようと思っているし、DAWに向かっているよりもそっちの方が楽しいんです。

 

数年前までギター・ロック的な音楽性でしたし、バンドが素地にあるのだろうと思っていました。

チョモ でも録音のときは、コンピューター・チート・テクニックを使うこともありました。ハーフ・テンポで録ったギター・ソロに倍のタイム・ストレッチをかけて速弾きにしたり……姑息な技ですね(笑)。『愛』に入っている曲なんですが、今はそこまではやらないようにしています。

 

倍にストレッチすると、音質が相当劣化するのでは?

チョモ ソロもバッキングもひずませていたから問題無かったんですよ。ハードコア限定テクニックです。

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ACE TONEのビンテージ・リズム・ボックスRhythm Ace FR-6は、ベースを練習する際のガイドに使ったり、友人らとセッションするときに鳴らしたりしているそう

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ギターはFENDER Telecasterを愛用している

これってディープ・ハウスの感じだよね?ってなって以来ハマってしまったんです

『愛』の次にリリースされたアルバム『baobab』から音楽性が大きく変化していますが、なぜだったのですか?

チョモ 『愛』のときは、どの曲も割と見えやすいゴールに向かって作っていたんです。例えば“ハードコアっぽい曲”とか“ムード歌謡的な曲”とか。で、プロのレベルには達していないにせよ、そういう方法で曲や音源を作ることはできるんだなと思って。だったらもっと、自由にやってみようとなったんです。音楽を突き詰めていくことって、『愛』でやっているようなことじゃないよね?と。

 

現在は、どのようにして曲を作っているのですか?

チョモ 基本的には、全部出来上がったものが頭の中に流れるんです。この感じだ、っていうのが。それをダイレクトにアウトプットできればいいんですけど、俺はすぐに忘れてしまうタイプなので、“この感じをそのまま”と思いながら“あれ? 別のこと考えてた、今”みたいなときも……まあ、それはちょっとひどい場合ですけど(笑)。なるべくそうならないように、作曲とミックスは分業していますね。並行させると、頭に浮かんだやつをいったん音にするっていう部分に時間がかかってしまうんです。ただ、外に吐き出したものが脳内で流れていたものと違うことだってありますよ。でも“これはこれで良くない?”と思えたら、その方向性に沿って磨いていったものがゴールです。

 

イメージを忠実にアウトプットするためにも、楽典の知識はあった方がいいかもしれませんね。

チョモ 間違いないですね。知っているコードとかが少ないと、引き出しが少ないってことになりますしね。

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SONY MDR-CD900STはミックスに活用中

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レコーディング時に用いているヘッドフォンはSENNHEISER HD 280 Pro

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歌録りなどに使用しているコンデンサー・マイクAKG C214

コードと言えば、先ほど話題に上がった「Just do like that」のようなテンションを含む進行は、どのように組み立てているのでしょう?

チョモ minor 7を平行移動させるような進行ですよね。初めてやってみたときに“これってディープ・ハウスの感じだよね?”ってなって以来、ハマってしまったんです。

 

響きからしてminor 7(9)の平行移動だと思いますが、多用すると全部同じような感じになってしまうのでは?

チョモ そうなんです……だから最近、危機感を覚えていて(笑)。ただ「Just do like that」は単なる平行移動ではなく、メジャー・コードを混ぜているはずです。鍵盤を弾いていたら偶然良い感じになったので、コード・ネームとかはちゃんと分かっていませんが。

 

ということは、メジャー・コードを取り入れたのも計算して行ったわけではない?

チョモ 別のコードを混ぜるよりも、コードを鳴らすタイミングとかリズム的な目線で考えることの方が多いですね。

 

ドラムなどのリズム隊を打ち込んでから、それに沿ってコード進行などを作っていく流れですか?

チョモ そんな感じです。でも“コードが先”とか“ベースが先”っていうパターンもあったりしますね。

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「Just do like that」のコード進行。minor 7(9)の平行移動の中で経過音的にMajor7(9)を使い、彩りを添えている

ドラムには、どのような音源を使っていますか?

チョモ ひとつはSTEINBERG CubaseのGroove Agent SE 4です。ネットで“ディープ・ハウス・キット”みたいなのを見付けてきて、インポートして使っています。もうひとつはNATIVE INSTRUMENTSのDrumlab。Komplete Kontrol S61に付いてきたんですが、キャラクターの立ったプリセットが多くて面白い。ダブでしか使えないようなキットとか、やり過ぎでしょっていうくらいノイジーなものがあったりするんです。サンプリング的なノリで接すると、すごく使いやすいんじゃないかと思いますね。

 

もしかして「Woo」のローファイなドラムはDrumlabで作成したのですか?

チョモ そうです! キックのリリースに乗っているザラっとした成分とかが面白いなと。Komplete Kontrol S61にはいろいろな音源が付いているので、上モノやシンセ・ベースにも、Massiveを中心にNATIVE INSTRUMENTSの製品を使うことが多くなりました。

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「Woo」のローファイなドラムは、NATIVE INSTRUMENTS Drumlabのプリセット“Tape Drive”から作成。キックのリリースに乗るザラっとしたノイズ成分が好みだという

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「ベイベ」のドラムには、Cubaseのドラム・サンプラーGroove Agent SEを使用。パッドにワンショット・サンプルを読み込んで鳴らしている

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「ベイベ」のベースに使用されたNATIVE INSTRUMENTS Monark。粘りのある音色にCubaseでピッチ・ベンドなどを描いて変化を付けている

キックのリリースまで調整できるマスタリングの技量に驚いた

EPのマスタリングは、どなたが手掛けたのでしょう?

チョモ 小泉由香さんです。DAコンバーター違いの2種類のマスターを提示されて“どっちが良いですか?”って聞かれたりすると、俺たちには細かい違いがよく分からないんですが、小泉さんはめちゃめちゃ優しいし、ミックスに対してのアドバイスをくれたりもするんですよ。

 

例えば、どのようなアドバイスを?

チョモ 俺は、音の出口として左右のスピーカーだけを考えてミックスしていたんですが、上下や前後を意識するきっかけを与えてもらったりしました。例えば一つ前のEPに「ジレンマ」という曲があって、アウトロでメインのシンセ・リフを超遠く聴こえるように鳴らしているんですけど、ああいうバランスの取り方をしてみるとミックスに奥行きが出ますよね。あと小泉さんの音作りで驚いたのは、キックのリリースの長さをコントロールしていたこと。本来はミックスで作り込んでおくべきなんでしょうが、マスタリングでもできるの!?って思って。どこかを少しいじるだけで、全体の雰囲気を変えることだって可能なのかもしれませんね。

 

『4EP2』は音楽的探究心やセンスの詰まった仕上がりとなりましたが、今後はどのようなことにチャレンジしていきたいですか?

チョモ どんぐりずとしては、格好良い曲をたくさん作っていきたい。もう、そこですね。あと、個人的には生ドラムのレコーディングを自分でできるようになりたいなと。近ごろドラムをたたきたくなってきたのもあるし、家にキットを置こうかなと考えているんです。録り音をサンプルっぽく扱うことになってもいいんじゃないかと思っていますが、とりあえずドラム録りをやってみたいんですよ。

Release

『4EP2』
どんぐりず
ビクター/CONNECTUNE

Musician:森(rap)、チョモ(vo、prog、g、b、tp)
Producer:どんぐりず
Engineer:チョモ
Studio:チョモスタジオ

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