アコースティック&オーガニックなサウンドを得意とするシンガー・ソングライター、THE CHARM PARK(以下CHARM)。彼がプロデュースを担当した「History Maker 2021」は、DEANが語ったようにまるで箱庭のような音の世界で構築されている。アレンジの制作手法をCHARMに解説してもらおう。
Text:Yusuke Imai
心の中での壮大な戦いを意識した
ー「History Maker 2021」のアレンジはどのようなアイディアからスタートしましたか?
CHARM 「History Maker」はDEANさんの代表的な曲で、多くの方に聴かれている作品です。それをリメイクするということで、これから10年後も20年後も色あせないものにしたいという話が最初に挙がりました。また、オリジナルでは3拍子ですが、今回は4拍子にしたいというリクエストも受けましたね。
ーCHARMさんらしい生楽器が中心のアレンジになっています。人の手による演奏で色あせないサウンドを目指したのでしょうか?
CHARM そうですね。音楽の流行はとても早く移り変わっていきますが、生楽器の音はいつまでも変わりませんから。アレンジ自体のはやりというのもありますが、まず楽曲を大切にした編曲をすれば間違いはないと思っています。
ーCHARMさんはどのようなイメージを持ってアレンジを進めましたか?
CHARM あまり明るいサウンドにし過ぎてしまうと、「History Maker」が持っている深い意味が失われてしまう気がしていました。歴史を作る者になるということを曲としても表現したかったんです。
ー確かに、オリジナルと同じくストリングスが入っていますが、より内面へと迫るような響きに感じられます。
CHARM オーケストラが全面に出てくるような感じよりも、心の中での壮大な戦いみたいなものを意識していましたね。個人的にはフル・オーケストラだと現実感が無くなって聴こえてしまうというか、他人事のように感じてしまうんです。なるべく一つ一つの楽器が聴こえるようなアレンジにすることでリアリティが出たと思います。レコーディングしたストリングスはカルテットでしたが、曲の最後の辺りでは録音を重ねてダブル・カルテットになっており、さらにバイオリンのソロが加わっています。
ーDAWでアレンジのデモを作っていったと思いますが、どのようなソフトウェアを使っていますか?
CHARM DAWはSTEINBERG Cubaseです。ストリングス音源はNATIVE INSTRUMENTS Kontaktに入っていたものを使ったはずですね。イメージをDEANさんへ伝えるためにまず打ち込んでみて、最終的なストリングス・アレンジは東川亜希子さんにお願いしました。
BitCrusherでオールドな雰囲気に
ー最初のサビへ入る際、ピアノの音像がゆっくりとセンターへ寄っていくのが面白いですね。どのような意図があったのですか?
CHARM まず、最初のサビ部分はリバーブもほとんど聴こえないくらいにして、切実な感情を表現したいという考えがありました。さらにその後に出てくる広がりをより感じさせるために、一度モノラルにするのが良いだろうとなったんです。徐々にステレオからモノラル、そしてまたステレオへと広がっていくのは、ヘッドフォンで聴くとたまらない面白さになっていると思います。DEANさんとは、どのタイミングや速さでモノラルに変わるのかを追い込んでいきました。
ーピアノもレコーディングしましたか?
CHARM 悩みましたが、SPECTRASONICS Keyscapeを使いました。Keyscapeはデモの段階から使っていて、この音があったからこそ曲が成り立った感じもあったので、新たにピアノを録音して曲全体が変わり過ぎてしまうことを避けました。KeyscapeはCinematicというプリセットを元に音をエディットしています。EQで調整しつつ、WAVES CLA UnpluggedでコンプレッションとEQ、リバーブを調整しました。先述のステレオ幅のコントロールはWAVES S1 Stereo Imagerで行っています。
ーアコギはCHARMさんの演奏ですか?
CHARM はい、NEUMANN U87AIで録りました。マイク1本で録ることで孤独感を演出しています。アコギではCubase付属のBitCrusherを使って少しだけビット・クラッシュさせて、ドライ/ウェットのバランスを調整しました。そうすることでマイクに入っている余計な高域成分が滑らかになり、昔のMP3ファイルを聴いているような少しオールドな雰囲気にもなるんです。そのほかFABFILTER Pro-DSでも耳に痛い高域を抑え、CLA Unpluggedも使って音を作っています。
奇麗すぎる音は裏に嘘があるような気がする
ードラムは音源を使っている?
CHARM XLN AUDIO Addictive Drums 2を少しだけ使いましたが、ほとんどはTHAT SOUNDのサンプル・ライブラリーです。レコーディングするか迷いましたが、ドラム録りは部屋やキットの状態、プレイヤーの演奏など、さまざまな点が影響してきますし、デモで作り上げたものを再現するのも限界があります。デモでのドラムが気に入っているのであれば、それを生かすようにした方が良いと思うんです。
ーリバーブなどの演出もCHARMさんが?
CHARM メインのドラムはサンプル自体に響きが入っているので後からリバーブを加えることはありませんでしたが、パーカッション系はCLA Unpluggedや同じくWAVESのCLA Epicで少しふくよかさを出しています。ドラム・バスにはお気に入りのGOODHERTZ Faraday Limiterを使いました。同社のVulf Compressorはちょっとオールド感を出せるコンプとして人気ですが、このリミッターも素晴らしいんです。ウェットを34%くらいにしてパラレル・リミッターにすることで、ドラムにより力が出てくるようになります。
ーベースも不思議なトーンです。これはエレキベースですか?
CHARM Kontaktのアップライト・ベースの音源を使っています。EQやリバーブを調整しつつ、WAVES CLA MixHubでDIの音っぽくして、さらにBass Riderでレベルを抑えました。それからCLA Bassで少しひずませて、コンプとEQを通り、Faraday Limiterでパラレル・リミッティングしています。そうすることで、アップライトでもエレキベースでもないサウンドになりました。
ービット・クラッシャーやパラレル・リミッティングなど、サチュレーションがCHARMさんの音作りのポイントのようですね。
CHARM 奇麗すぎる音はどこか裏に嘘があるような気がしてしまうんです。サチュレーションによって音の説得力やリアリティが出ていると思いますね。
Release: DEAN FUJIOKA『Transmute』
『Transmute』
DEAN FUJIOKA
A-Sketch:AZZS-120(通常盤)、AZZS-118(初回限定盤A)、AZZS-119(初回限定盤B)
Musician:DEAN FUJIOKA(vo、prog)、mabanua(ds)、坂井"Lambsy"秀彰(perc)、Shingo Suzuki(b)、佐田慎介(g)、THE CHARM PARK(p、g、b、ds、k、cho)、伊藤彩(vln)、名倉主(vln)、三木章子(viola)、村中俊之(cello)、裕木レオン(ds)、小林修己(b)、Yaffle(k)、マイク・マリントン(ds)、マーリン・ケリー(b)、金子健太郎(g)、小林岳五郎(k、syn)、吉澤達彦(tp)、大橋好規(g、b、k、syn、ds)
Producer:DEAN FUJIOKA、UTA、Mitsu.J、starRo、Yaffle、大橋トリオ、THE CHARM PARK、横山裕章、ES PLANT、Ryosuke “Dr.R” Sakai
Engineer:D.O.I.、小森雅仁、佐々木優、中村フミト、大橋好規、THE CHARM PARK、Ryosuke “Dr.R” Sakai、生駒龍之介
Studio:MSR、Version、Daimonion Recordings、DCH、Tanta、Endhits、Crystal Sound、Vision、Oden、EELOW、ABS、Vox & Heart、SOUND CREW、Bang On、STUDIO726 TOKYO、Trio's Homework