さまざまな現場で多様性を見せるデジタル・コンソール=YAMAHA TF Series

第1回 TF3×time Tokyo

マルチタッチ対応のタッチ・パネルを採用し、それに最適化された直感的なワークフローを特徴とするTFシリーズ。YAMAHAが2015年に発売したPA用デジタル・コンソールで、昨今さまざまなジャンルの現場に導入され、活躍を見せている。そのTFシリーズの使われ方をレポートするのが本連載。今月は、東京のライブ・ハウスtime Tokyoに常設された24チャンネル・フェーダー/48インプットの機種=TF3にフォーカスしてみるとしよう。

アナログ卓のようにストレートな設計で
各種操作がストレス無く行える

京王堀之内駅から徒歩3分という立地のtime Tokyo。大阪・難波のライブ・スペースartyard studioの系列店として2018年9月にオープンしたワンフロアのベニューで、スタンディングで140名を収容する。音楽ライブやDJイベントはもちろん、ミュージック・ビデオの撮影などにも対応しており、あらゆる場面でTF3を活用中だ。

オーナーの滝本ハルオ氏によると、YAMAHAの製品は堅牢(けんろう)性に優れ、メインテナンスに関するサポートも親切。こうしたことがartyard studioの営業を通して実感できていたので、time TokyoにもYAMAHAのコンソールであるTF3を導入したそう。では実際の運用については、どのような手応えを感じているのだろう?「とにかく扱いが簡単ですね」と話すのは、time Tokyoのオペレートを務めるPAエンジニア荻野創太氏だ。

「ボタンやノブが極端に少ないので、初めて見たときには正直“操作しづらそう”と思ったんですが、実際に使ってみるとさすがはYAMAHAのコンソール、やっぱり良いんですよね。操作子が少ないだけに、シンプルなんです。例えば複雑なデジタル・パッチ機能などはありませんので、起動したときに一瞬“あれ? なんで音が出ないんだろう?”と迷うことがない。アナログ・コンソールのようにストレートな設計です。もちろんデジタルの旨味を生かした部分もあり、イコライジングの際にタッチ・パネルでQ幅を調整しつつノブでゲインを決めるといった直感的なオペレートが可能です。そのノブはTOUCH AND TURNと呼ばれるアサイナブルなノブで、タッチ・パネル上で何らかのパラメーターに触れるとただちに割り当てが完了します。僕は普段、バージョン4.0のファームウェアで追加になったSelected CH VIEW画面を愛用していて、選択中のチャンネルの要素を俯瞰できるのですごく便利なんですよ。それとTOUCH AND TURNノブの組み合わせでスピーディに音作りできるところが気に入っています。調整したいパラメーターへたどり着くまでに何階層も経る必要がなく、操作が煩雑でないためストレスフリーなんですね

Feature #1 TOUCH AND TURNノブ

▲タッチ・パネル右下の銀色のノブがTOUCH AND TURN。パネル上で任意のパラメーターに触れると、それがすぐにアサインされて調整できるようになる。直感的なプロセスが魅力だ ▲タッチ・パネル右下の銀色のノブがTOUCH AND TURN。パネル上で任意のパラメーターに触れると、それがすぐにアサインされて調整できるようになる。直感的なプロセスが魅力だ

バス送りするまでのプロセスも軽快
マイクが多いときに有用なAUTOMIXER

クイックな操作性は出力系にも表れている。例えば、各インプット・チャンネルのバス送りの音量をフェーダーで調整できる機能=SENDS ON FADERへのアクセスだ。
「マスター・フェーダーの右側にAUX1〜8、AUX9/10〜19/20、FX1〜2という計16個のボタンがあって、例えばAUX1を押すとチャンネル・フェーダーがすぐさまAUXバス1への送り用フェーダーに切り替わるんです。この“目的のバスのボタンを押してフェーダーを触るだけ”というワークフローは非常にクイックで、仮にAUX1の出力にステージ・モニターがつながっていたとすると、ミュージシャンから次々に要望が出てきてもスムーズに対応できます。“ちょっと待ってくださいね!”と言う機会が減るんですよ」

Feature #2 バス選択ボタン

▲マスター・フェーダー右にはAUXおよびFXバスを選択するためのボタンがスタンバイ。調整したいバスを選ぶと、チャンネル・フェーダーがバス送り用のボリュームに切り替わる(SENDS ON FADER機能) ▲マスター・フェーダー右にはAUXおよびFXバスを選択するためのボタンがスタンバイ。調整したいバスを選ぶと、チャンネル・フェーダーがバス送り用のボリュームに切り替わる(SENDS ON FADER機能)

time Tokyo以外の現場でもTFシリーズを使うことがあるという荻野氏だが、最近になって試してみて“良いな”と感じた機能もあるそう。
「AUTOMIXERですね。Ch1〜8の音量配分を自動的に調整してくれる機能で、8人組のアイドル・グループのライブPAに使ってみたところ非常に便利。大勢が一度に歌って踊ってとやっていると、誰がどのマイクを使っていて、どれが大き過ぎるのか小さ過ぎるのかといったことが、瞬時に判断しづらいんです。そんなときに各マイクのバランスをオートで取れるわけですし、精度から考えても現場で十分に使える性能だと思います。アイドル・グループが十何組も出演するようなイベントに有効活用できますね」

Feature #3 AUTOMIXER

▲Ch1~8のフェーダー後段にはDAN DUGAN SOUND DESIGNのオートマティック・マイク・ミキサーが控える。複数のマイク・ゲインの配分を自動設定する優れもの ▲Ch1~8のフェーダー後段にはDAN DUGAN SOUND DESIGNのオートマティック・マイク・ミキサーが控える。複数のマイク・ゲインの配分を自動設定する優れもの

ほかにも、AUXバス1〜8およびマスターに内蔵されたグラフィックEQや各社のマイクに向けたプリセットなど、魅力的な部分を紹介してくれた荻野氏。「とにかく使いやすさにたけている。そこに尽きますね」と語る。
「デジタル・コンソールを使ったことがない人やデジタルを不得手と思っている方でも、ミックスの経験がある程度あれば、すぐに使えるようになると思います。性能に対して価格も手ごろなので、いろいろな方にお薦めできますね」

Interviewee 荻野創太

▲インタビューに答えてくれた荻野創太氏。フリーランスのPAエンジニアで、time Tokyoのほか各地のライブ・スペースや商業施設などで音響を手掛ける ▲インタビューに答えてくれた荻野創太氏。フリーランスのPAエンジニアで、time Tokyoのほか各地のライブ・スペースや商業施設などで音響を手掛ける

TF Series Overview

直感的な操作性を特徴とするPA用デジタル・ミキサー。TF1(250,000円前後)、TF3(300,000円前後)、TF5(350,000円前後)の3機種をそろえ、さらにリーズナブルな価格となった。機能的にはベーシックなプロセッサーのほか、マイク用プリセットやオート・ミキサーを搭載。Mac/WindowsマシンとUSB接続すれば、付属のSTEINBERG Nuendo Live 2などに最大34trの録音が可能だ。(文中価格はオープン・プライス:市場予想価格) TFseries