LYNX Aurora(n)テスト・レポート〜杉内信介

1998年、PCIカード型が主流の時代からプロ・スペックのオーディオ・インターフェースを作り続けるLYNX STUDIO TECHNOLOGY(以下LYNX)が、昨年満を持して世に送り出した最新モデル、Aurora(n)。Pro Tools|HD、Thunderbolt、USB、Danteといったさまざまな接続方式に対応するほか、最大32イン/32アウトまでを自由に構成できるといった特徴を備えた柔軟なオーディオI/Oだ。しかし、最大のポイントは、従来から定評ある透明度が高く色付けの少ないサウンドに、さらなる磨きをかけたことにある。ここではさまざまな角度から、その実力を明らかにしていくが、実機でのテストは2人のクリエイターに行っていただく。

フラットな分だけEQ処理もすごく楽にできる
ここまで気に入ったオーディオI/Oは無いですね

 既に多くのクリエイターやエンジニアから注目を集めているAurora(n)。ここでは長期にわたって自身の環境でテストをしたというプロデューサーの杉内信介氏に、その持てるポテンシャルについて語っていただいた。

脚色が少なくナチュラルに伸びている

 故・佐藤博に師事して音楽業界入りし、スタジオ・ミュージシャンやアーティスト活動を経てプロデューサー/作編曲家として活動する杉内氏。現在は沖縄にゆかりの深いアーティストの作品を数多く手掛けており、自身で録音/ミックス/マスタリングまで手掛けることが多いという。Pro Toolsの導入も早く、1990年代にPro Tools IIの時代から使用。「当時はまだ音響効果の方が使っているくらいで、ミュージシャンで手にしたのは僕が一番早かったかもしれない」と語る。

 そんな氏、現在は当然のごとくPro Tools|HDXシステムを使用し、標準I/OであるHD I/Oを使ってきたが、さらなる音質の向上を求めて新しいオーディオ・インターフェース導入を検討してきた。そこでAurora(n)を試す機会と巡り会ったという。

 「デモ機の都合で、最初はThunderbolt接続モデルを試してみたんです。割とそつない感じかな……と思ったのですが、印象に残っていた部分があったので、あらためてHD接続モデルを借りてみました。僕の環境ではよりスピード感があ
って、いい意味でフラットな音質だと感じたんです」

 一聴して“そつない感じだが印象に残った”というのは、まさしくそのフラットな部分だと氏は語る。

 「他社のD/Aにはどうしても脚色している部分を感じてしまうんです。無理やりローを出しているようなモデルも多く、耳に痛い部分もある。例えばサントラを手掛ける作家がそうした派手な音質を好んで使っているというのも、それはそれで分かる気はします。一方で、Aurora(n)にはそうした脚色がかなり少ない。その分、EQで低域を伸ばしたりするような歌の処理がすごく楽にできるんです。低域の見え方が全然違いますね。同時に、高域も分かりやすく“解像度上がりましたね”という伸び方ではなくて、ナチュラルに伸びている印象です。その意味で、Aurora(n)はそこから派手な方向にも持っていけるI/Oだと思いました」

ピークを感じさせないA/Dの音質

 実は杉内氏、最初にテストしたのは再生のみ、つまりD/Aのテストだったそう。A/D部にも力を入れた製品だと聞いて、あらためて3度目のテストをしてみたという。

 「スケジュールの合うときにお借りして録ってみたら、すごくシルキー。お借りしたものなのに、手放せない感じになっています。AD/DAに共通して言えるのは、写真データに例えるなら無理やりシャープをかけたような解像度の高さではなく、いいレンズを使ったときのようなピントの合い方をしてくれる。メリハリが非常につきやすいですね」

 このピークの無いナチュラルな音質は、制作のスタイルそのものにも大きな影響を与えると氏は指摘する。

 「A/Dのピークとボーカリストのピークが重なってきつく聴こえることがあるんです。そういうボーカリストの場合、3声コーラスを本人の声で重ねるとうるさくなってしまうので、コーラスだけ別の人にお願いするということがこれまでありました。A/D自体にピークの無いAurora(n)だったら、本人の声でもいけるかなと思っています。痛いところがいい具合に無くなるけれども、どこかが足りないわけじゃないし、丸くなるということではないんですよね」

 また、杉内氏はリバーブにこだわりがあり、プラグインのリバーブはほとんど使わず、LEXICON 480LやPCM90、BRICASTI DESIGN M7、AMS RMX16など新旧のアウトボードを使い分けているという。当然、オーディオI/Oはその出入り口となるわけだが、ここでもAurora(n)の実力がよく分かるそうだ。

 「リバーブ感の残り方が、Aurora(n)を使うとすごくいいんですよ。存在感のあるハードウェアのリバーブの音が一層引き立つ感じになりますね」

 もう一点、杉内氏が指摘するのは、クロックの優秀さだ。

 「HD I/Oだと、たまに何かのはずみでクロックが外れていると、何か違うな……と気がつく。Aurora(n)は、インターナルの方がいい。クロック・ジェネレーター自体はROSENDAHL Nanosync(オリジナル)なので古いものですが、Aurora(n)の方が精度が高いと感じました。これに見合うクロック・ジェネレーターとなると、また新しいものを探さないといけない(笑)。むしろ、Aurora(n)をクロック・マスターにして困ることはないかなと思いました」

▲杉内氏も高く評価しているAurora(n)のクロック。本体のディスプレイ上で簡単に設定が行える ▲杉内氏も高く評価しているAurora(n)のクロック。本体のディスプレイ上で簡単に設定が行える

内部バス録音やバウンスで印象が変わらない

 「オーディオI/Oを使ってみて、ここまで気に入ったものはさすがに無いですね」とAurora(n)を絶賛する杉内氏。さらにこう続ける。

 「第一印象は“おとなしいな”と思ったんです。それは、派手に仕上がっているものに慣れているからでしょうね。ずっと聴いていると、すごく気持ちが良い

 氏は現在、自身のスタジオでマスタリングまで完結するスタイルを採っているそうだが、こうしたAurora(n)の特性は、ファイル・ベースでの納品が主流となった現在に適しているとも語ってくれた。

 「DA変換で脚色された状態をモニターし、そのミックスを内部バスで録ったりバウンスしたりすると、できたファイルそのものは印象が変わってしまいます。2000年代に入って以降、そうしたことが積み重なってきたせいか“あれ?”と思うような違いを感じることが多くなり、僕自身はここで完パケすることがほとんどになりました。自分がその場で出したいという音があって、それが車で聴こうが、ネットで聴こうが、主張したいところが変わらなければそうしたいんですよ。Aurora(n)は派手好きな人からしたら、地味に感じるかもしれない。でも、派手な音は自分で作ったり、マスタリングで派手に仕上げることはできます。フラットなところからメリハリをつけやすい方が、自分のイメージに近付けやすいと思いますね

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LYNX Aurora(n)開発者インタビュー

Aurora(n) オープン・プライス

Aurora(n)。最高24ビット/192kHzに対応する、マスタリング・グレードのAD/DAコンバーターを搭載したオーディオ・インターフェース。“LSlot”というカードを使用することで、AVID Pro Tools|HD、Thunderbolt、Dante、USBといったさまざまな接続方式に対応しており、将来の規格変更にも対応し得る。チャンネル数は、1Uサイズながら8ch単位で最大32ch入出力まで対応可能Aurora(n)。最高24ビット/192kHzに対応する、マスタリング・グレードのAD/DAコンバーターを搭載したオーディオ・インターフェース。“LSlot”というカードを使用することで、AVID Pro Tools|HD、Thunderbolt、Dante、USBといったさまざまな接続方式に対応しており、将来の規格変更にも対応し得る。チャンネル数は、1Uサイズながら8ch単位で最大32ch入出力まで対応可能

●AURORA(n) 8
HDモデル/USBモデル:310,000円前後
Thunderboltモデル:355,000円前後
Danteモデル:365,000円前後
●AURORA(n) 16
HDモデル/USBモデル:430,000円前後
Thunderboltモデル:475,000円前後
Danteモデル:485,000円前後
●AURORA(n) 24
HDモデル:550,000円前後
Thunderboltモデル:595,000円前後
Danteモデル:605,000円前後
●AURORA(n) 32
HDモデル:670,000円前後
Thunderboltモデル:715,000円前後
Danteモデル:725,000円前後
●AURORA(n) Pre 1608 (16イン/8アウト:8プリ)
USBモデル:460,000円前後
Thunderboltモデル:505,000円前後
※カスタム構成にも対応

Aurora(n)に関する問合せ:フックアップ
https://hookup.co.jp/products/lynx-studio-technology/aurora-n

2018年8月号

サウンド&レコーディング・マガジン2018年8月号の記事を元に再構成したものです