屋敷豪太〜ECLIPSE TDシリーズを頼りにするプロフェッショナルたち(3)

“タイムドメイン理論”に基づき設計されたECLIPSEのスピーカー、TDシリーズ。2001年にTD512とTD508の2モデルがリリースされるやいなや、ミックスやマスタリングなど正確な音の再現が要求される現場で高い評価を得る。その後モデル・チェンジやラインナップの拡充が続けられ、2012年にはTD510MK2、TD510ZMK2、TD508MK3がリリース。インパルス・レスポンスのさらなる向上や周波数特性の拡張など、さまざまな点で進化を遂げている。そんなECLIPSE TDシリーズの魅力をトップ・プロにうかがっていくのがこのコーナー。3回目に登場していただくのは、Groove Activatorとして世界にその名を知られたドラマー/プロデューサー、屋敷豪太氏だ。

この記事はサウンド&レコーディング・マガジン2012年12月号から編集・転載したものです。

癖が無く生音に近いサウンドを鳴らすスピーカー

 屋敷氏がECLIPSE TDシリーズと出会ったのは2000年代初頭、まだロンドンに拠点を置いていたころのこと。きっかけを作ったのはエンジニアのマイケル・ツィマリング氏だったという。

「僕はウエストポイントというスタジオを所有していて、そこでマイケルとシンプリー・レッドや藤井フミヤのアルバムを一緒に制作していたんです。そのときに彼が“こんなスピーカーが新しく出たよ”って持ってきてくれたんですね」

 この連載の1回目に登場した佐久間正英氏もマイケル・ツィマリング氏の勧めでECLIPSEを導入したと語っていたから、ECLIPSE普及の影にはマイケルの存在あり!ということを伺わせるエピソードだが、持ち込まれたTD512の音に屋敷氏は心底驚いたという。

「とにかく癖が無かったんです。スピーカーって基本的には箱鳴りがあって、それぞれ再生音に特徴があるじゃないですか? だから実際に使う上ではその特徴とどうやって付き合うかが鍵になるんですね。“こう聴こえるから本当はこういう音なんだろう”というのを頭の中で変換していく必要があるんです。それがECLIPSEでは全く変換する必要が無かった。例えば今こうしてしゃべってる声を録音して普通のスピーカーから再生すると、やっぱり録音された音に聴こえますけど、ECLIPSEだと僕がしゃべってる感じに近い音が出てくる……それこそ気持ち悪いくらい(笑)。そういう意味で生に近い音を鳴らすスピーカーだ思うんです」

 その癖の無さを実現しているのは、屋敷氏によるとタイムドメイン理論の嚆矢(こうし)である各帯域の時間軸上での正確さだという。

「例えば自分でたたいたドラムを録音して普通のスピーカーで聴くと、ハイハットやシンバルなどの高音域に対してキックの低音域は生で聴いたときより遅く聴こえる……まあ非常にミクロな世界の話ですけど、僕らの仕事はずっと同じ曲とか同じビートを聴き続けることが多いので、やっぱり違って聴こえるんですね」

 リズムやビートという観点からすると、必ずしも大きくないECLIPSEのスピーカーは低域の再生に適しているのかが気になるところだが、屋敷氏は「問題無い」と答える。

「このスピーカーは箱を鳴らすんじゃなくて、ここにある空気を鳴らすっていうコンセプトだから、立体的な音像を展開するんですね。だから置く場所さえ間違えなければ上から下まで問題無く鳴ります。僕はずっとTD508を使っているんだけど、確かにサブウーファーを足していました。でも、最近出た後継機のTD508MK3は少し大型になって低域が伸びているから、サブウーファーの必要性は感じませんでしたね。それにECLIPSEのスピーカーって、小さな音で鳴らしてもバランス良く聴こえるんですよ。ある程度ドライブしないといけないほかのスピーカーとは違い、本領を発揮するボリュームっていうのがなく、家で使うのに適していると思うんです」

 そんな屋敷氏に今後ECLIPSEに望むスピーカーは?と最後に尋ねると、「極小のスピーカーが欲しい」との答えが返ってきた。確かにECLIPSEにはTD307MK2Aという6.5cmのユニットを使用した小型モデルもあるが、もっと小型でツアー先のホテルに持ち込んで作業できるようなものだったら、屋敷氏のみならず多くのミュージシャンが欲しがるだろう。彼らにとってもはやECLIPSEはいつも側になくてはならない存在なのだから。

 【屋敷豪太 PROFILE】 1962年京都生まれ。1980年代初頭にMUTE BEATやMELONで活躍した後、1988年に渡英。Soul ll Soulの1stアルバムに参加しグランド・ビートを生み出したことで世界的な注目を集める。1991年にはシンプリー・レッドの正式メンバーとしてアルバム『Stars』の大ヒットに貢献。近年は活動拠点を日本に移し、さまざまアーティストのレコーディング/ライブに参加。

新開発の“フルレンジ・スピーカー”

FullrangeUnit

TDシリーズはすべてのモデルでフルレンジのスピーカー・ユニットが使われている。2012年リリースのTD510MK2は10cm、TD508MK3は8cmという、新たに開発されたグラスファイバー製のユニットをそれぞれ使用。前のモデルと比べ周波数特性と能率が向上しているほか、磁束密度も高くなっていることで、よりクリアな音質を実現。

屋敷豪太氏使用スピーカーの後継モデルTD508MK3

TD508MK3_WH_prd_01

●ユニット/8cmコーン型フルレンジ ●再生周波数帯域/52Hz〜27kHz(ー10dB) ●能率/82dB/W・m ●許容入力(定格/最大)/15W/30W ●インピーダンス/8Ω ●カラー・バリエーション/シルバー、ブラック、ホワイト ●価格/47,000円(1本)

問合せ:富士通テン
http://www.eclipse-td.com/

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