ヤマハの最新デジタル・コンソール CLシリーズが提案する新世代のライブPAシステム 第4回 手軽かつ本格的にライブが録れるNuendo Live

YAMAHAの最新デジタル・コンソールCLシリーズの魅力を紹介していく本連載、最終回となる今月はCLシリーズに同梱されるレコーディング・ソフトウェア、STEINBERG Nuendo Liveについて見ていきたい。ライブ現場においても、配信や音源の即日販売などでライブ・レコーディングの需要が増えている現在、Nuendo Liveを使うことでどんなメリットがあるのだろうか。

ライブのマルチ録音に特化したDAWソフト


まずはこの製品の概要を説明しておこう。STEINBERG Nuendo LiveはレコーディングDAWとして定評のあるNuendoをライブのマルチトラック・レコーディングに特化させたソフトウェアで、Mac/Windowsのコンピューターで動作し、動作フォーマットはCore Audio/ASIOに対応するため、汎用的なオーディオ・インターフェースで使用できる。


本ソフトは32ビット浮動小数点の内部処理を採用することでNuendoが持つ音質の良さを継承しており、最大64trの同時録音が可能で、24時間以上にわたる長時間の録音にも対応する。シングル・ウィンドウ構成でオーディオ波形のカット/コピー/ペーストは可能だが、プラグインのインサートなどの収録に不必要な機能を省くことで、軽い動作と短時間のセットアップを実現している。ファイルの書き出しはWAV/MP3はもちろん、AVID Pro Toolsなどと互換性のあるAAFにも対応するため、各種のDAWへデータを移行することも可能だ。


機能面の特徴としては、ライブ・レコーディング中のロック機能や録音可能残量が表示されるほか、別途の録音操作パネルには進行中のプロジェクトの録音経過時間が表示されるのに加えてマーカーの管理などの機能も充実しているため長時間のライブ・レコーディングに対応する。また接続するオーディオI/Oの最大録音チャンネル数を自動で認識し、新規でプロジェクトを開いた際に録音トラックを自動で作成し、インプット/アウトプット・パッチも行ってくれるという便利な機能も有している。


CLシリーズとNuendo Liveの高い親和性


Nuendo LiveはCLシリーズと親和性が高いのが特徴で、CLシリーズとNuendo LiveをインストールしたコンピューターをDanteネックワーク上に接続すれば、I/Oなどを介さずにダイレクトで最大64trのマルチレコーディングが可能となる。さらに特筆すべきは、CL本体側で設定したチャンネル・カラーやトラック名が自動でNuendo Liveに同期する点だ。従来のDAWソフトを用いてライブのマルチレコーディングを行う場合は、DAWソフト側で各トラックのネーミング作業をはじめ、各入出力の設定などの準備が必要であったが、CLシリーズとNuendo Liveを使用する場合は、それらの下準備を省くことができる。セッティングの時間に限りがあるPA現場において、この利便性は大きなメリットになるだろう。


またCL本体からNuendo Liveの操作も可能で、録音のスタート/ストップはもちろん、CL本体でシーンをリコールするとNuendo Live上で新しいマーカーが作成されるため、後からプレイバックする際にも転換のポイントなどが一目で確認できる。それに加えて、Nuendo Liveで録音したオーディオをCL本体の各チャンネルにルーティングして再生すれば、CL本体の機能を使った本格的なミキシングも可能となる。


サウンド・チェック用のリファレンス素材としてマルチ録音をしておけばリハーサルの進行が円滑になるのはもちろん、出演アーティストからライブ作品の素材録りとしてマルチ素材を求められた場合にも対応できたりと、ライブ現場においてマルチレコーディングができる環境は、何かとメリットになることが多い。手軽な素材録りから本格的なレコーディングまで、CLシリーズとNuendo Liveがあればさまざまなレコーディング・ソリューションに対応できるというわけだ。


事例1 アポロ
手間をかけずにマルチで録れるのは便利です


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▲お話を伺ったアポロのスタッフ。左よりサウンド・クリエイターの田尾優子氏、サウンド・エンジニアの上村一人氏


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▲Nuendo LiveでマルチレコーディングしたデータをCLに戻してサウンドを検証、音質も良好だと上村氏は評価していた



1件目の導入事例としてPAオペレートを中心とした業務を手掛ける横浜のPAカンパニー、アポロを紹介したい。同社は起業してからまだ2年目という新規のカンパニーで、最初に導入したコンソールがCL5になったというが、その理由を同社の上村一人氏が語ってくれた。
デジタル伝送でのシステム構築を考えていたので、いろんなデジタル卓を購入候補として考えていましたが、CL5のコスト面と取り回しやすいサイズが購入の決め手になりました。CL5はワンボックス・カーに積み込んで会場に持っていけますからね


またCL5の機能面に関して上村氏は「YAMAHAのコンソールのいいとこ取り」と語る。


CL5はM7CLの操作性を受け継ぎつつも、USBでの録音機能や、カスタム・フェーダーなど、従来のYAMAHAのコンソールで良いなと感じていた機能が搭載されているのはうれしいですね。特にカスタム・フェーダーは単チャンネルはもちろんDCAを組むことができるので、さまざまなシチュエーションで重宝しています


同社ではI/Oラック本体へのパッチング作業を避けるため、オリジナルのマルチケーブル用コネクターとマルチボックスを用いていた。これに関して上村氏は「Rioラックに毎回ケーブルを抜き挿しすると端子が消耗するため」と説明する。


Nuendo Liveに関して、同社はCL5導入後初となる現場から使用しているようだが、現場にて手軽にライブのマルチレコーディングができるメリットについてはこう指摘する。
ファン・クラブ限定アイテムなどのためのマルチ録音であればNuendo Liveで十分対応できると思います。あとはマルチレコーディングしたものを持ち帰っておけば、時間があるときにCL5に立ち上げてシミュレーションなどもできますし、その点もNuendo Liveの重宝する機能だと感じています。録音の設定に関しても現場に持ち込む前に事前にプリパッチをしておけば全く問題なく録れてしまうので、当日に手間をかけずに回しておけるのは便利ですね


また上村氏はNuendo Liveは音質も良好だと最後に語ってくれた。
Nuendo LiveでマルチレコーディングしたものをCL5のインプットに戻してサウンドをチェックしてみましたが、CL5自体の音も良いので問題のない音質で録れました。今後はさらにNuendo Liveを活用していきたいですね


事例2 ドリーム
使い勝手の良いフェーダーとレイヤー構成


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▲お話を伺ったドリームのチーフ・エンジニア森山朝雄氏。CL5はサウンド面、操作面でも非常に良い印象だと語ってくれた


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▲Premium RackのイコライザーであるPortico 5033は今後積極的に使ってみたいと森山氏は言う



本連載の最後の導入事例として紹介するのは横浜を拠点に各種の舞台音響からPAオペレートまでを手掛けるPAカンパニーのドリーム。同社のチーフ・エンジニアである森山朝雄氏に、CLシリーズの魅力について包括的にお話を伺った。同社はCL5を2台所有しているが、森山氏はCL
5を最初に触った際の第一印象についてこう説明する。
音のクオリティがYAMAHAの卓の中でも非常に高いグレードだと感じました。高域から低域までもたつかずにバシっと前に出てくるので、音の立ち上がりがとても良いですね。そこが第一印象として良いなと感じました


サウンドに加えてチャンネル・ストリップの基本機能でもあるEQやコンプ、さらにはフェーダーの反応に関しても良好な印象だと語ってくれた。
よくできていると思います。例えば従来のYA
HAMAの卓を使ってEQをかけた際に、多少の調整だと反応がイマイチ分からないこともあったのですが、CL5になってからはその点で迷ったりすることがないので、より精度の高いオペレーションができるように感じました。あと、フェーダー操作に関しても、CL5はさらにナチュラルに音量を調節できる印象を受けました


またCL5の操作面について、森山氏は同社のM7CLのオペレートができれば基本的に操作できる点を評価しつつ、こう付け加えた。
CL5は最高72chまで扱えますが、表に出ているフェーダーは34本のため、その分はレイヤーにチャンネルを組んで操作することになります。その点でもレイヤー構成のさまざまなコンソールをしっかりと研究しているなという印象を受けました。そのため、M7CLのようにすべてのフェーダーが出ていなくても、使い勝手の良い組み方ができます。中でもカスタム・フェーダーは非常に扱いやすく、特にアウト系を組む際などに重宝しています


さらにCL5を現場に持ち込む際に、"CLのコンパクトなサイズ感"は非常に重宝していると、最後に語ってくれた。
同規模の他社のデジタル卓だとコントロール・サーフェスとプロセッシング・システムが分かれているものありますが、その点でもCL5はミキサーとI/Oラックだけで完結できる分コンパクトですよね。FOHコンソールの設置に長テーブル1つで済んでしまうというのは、やはり代え難い魅力がありますよ


SPECIFICATIONS

CL5



  • 対応入力数/モノラル×72ch+ステレオ8系統

  • フェーダー構成/16(左ブロック)+8(Centralogic)+8(右ブロック)+2(マスター)

  • 外形寸法/1,053(W)×299(H)×667(D)mm

  • 重量/36kg

  • 価格/オープン・プライス


Rio3224-D(別売)



  • アナログ入出力/32イン、16アウト

  • デジタル出力/8アウト

  • 外形寸法/480(W)×232(H)×361.5(D)

  • 重量/12.4kg

  • 価格/オープン・プライス




問合せ:ヤマハ プロオーディオ・インフォメーションセンター
03-5652-3618


http://www.yamahaproaudio.com/japan/ja