デイジーチェインによる簡単接続
コンソールはもちろん、スピーカー・プロセッサーやパワー・アンプなどといった各種音響機材のデジタル化が進む現在、これらの機材間をデジタルで伝送するネットワーク・オーディオ・システムへの対応力は、デジタル・コンソールにとってより重要な要素となっている。コンソール本体とI/Oラックを分離させたCLシリーズでは、数あるネットワーク・オーディオ・プロトコルの中からAUDINATEのDanteを標準搭載している点が大きなポイントとなる。Danteは拡張性に優れるスター接続を基本としているため、使用する環境に合わせて複数のI/Oラックをネットワーク上の好きな場所に配置でき、柔軟なシステム構築を可能としている。
スター接続のネットワーク・オーディオと聞くと、複雑なシステムを想像するかもしれないが、シンプルなセットアップでデジタル伝送の恩恵が十分に得られるのもCLシリーズの特徴と言える。CL本体上にあるDIPスイッチの切り替えでデイジーチェイン接続も可能なので、例えばステージ上に設置したI/OラックとCLシリーズをLANケーブルで直列に接続することできる。またI/Oラックは1台のCLに対して最大で8台まで接続できる。
簡単なセットアップもCLシリーズの魅力だ。Danteはネットワーク接続されたデバイスを自動で検出/設定することができる。通常はコントロール・ソフトであるDante Controllerをインストールしたパソコンでパッチ作業を行う必要があるが、CL本体のみでも操作が可能。例えばアナログのマルチケーブルの引き回しや複雑なパッチング作業を、CLシリーズならLANケーブル1本と本体で行える。それだけでもデジタル伝送によるメリットを十分に感じられるだろう。
堅固に回線を保護するリダンダント・システム
また、スター接続した場合にはリダンダント・システムも容易に構築できる。CLコンソールにはスター接続時に回線を2重化するためのプライマリー/セカンダリー・ポートを搭載。これにより、万一ネットワーク・デバイスやケーブルにトラブルが生じてプライマリーの回線が途切れても、セカンダリー回線によってシステム全体の信号の流れが途切れないようにすることができ、システム全体への影響を最小限に抑えられる。
Danteネットワークを用いたCLシリーズの新機能"ゲインコンペンセーション"についても説明しておきたい。これは複数のCLコンソールをネットワーク接続した際に、1台のI/Oラックの同一のヘッド・アンプを複数のCLコンソールで共有できるため、FOHとモニター・コンソールを統合するシステム構築が容易に可能となった。
例えば2台以上のコンソールが1台のI/Oラックを共有する場合、1台のコンソールからヘッド・アンプのアナログ・ゲインを調節すると、別のコンソールの音量に影響を与えることがあったが、ゲインコンペンセーション機能により、コンソール側からアナログ・ゲイン操作を行っても、デジタル部分で自動的にゲインが補正されるため、I/Oラックから複数台のCLコンソールに送出される各音量を一点に保てるようになった。またゲインコンセンペーションの動作下では、アナログ・ゲインによって確定した音量を変更する場合、CLコンソールに新搭載のデジタル・ゲインでコントロールでき、コンソールごとのレベル調整も可能。これにより、他のエンジニアのミキシングに影響を与えずにゲインの調節ができるようになっている。
近年になってDante対応をうたった音響機器が充実していることもあり、CLシリーズはDanteネットワーク・システムの中核として今後、さまざまな可能性を秘めているのだ。
事例1 クラブチッタ
I/Oの入出力状況をすぐに視認できる
1件目の導入事例として紹介するのは、洋楽/邦楽を問わず独自のライブ制作で定評のある、川崎のライブ施設クラブチッタ。その音響を手掛けるホール事業部の大橋亮祐氏と山室亨氏に話を伺った。同施設ではステージ・モニター・システムとしてYAMAHA CL5とRio3224-Dを2台を導入。モニター専用機として使用されているCLシリーズを本連載で紹介する例は初となる。大橋氏はCL5を使用しての感想を"YAMAHAならではの安心感があります"と語る。
「私たちの施設では、回線が多いバンドや海外アーティストの招聘(しょうへい)が多く、英語圏以外の乗り込みエンジニアさんもいるので、多入出力で誰でも使える卓であることが前提になります。その点CLシリーズはM7CLの操作性を踏襲しているので安心感もあります」
またCL5をモニター・コンソールとして使用する際のメリットについて、山室氏は"入出力数とS/Nの良さ"を指摘する。
「単純に入出力数が増えた点は大きいですね。今はイアモニとウェッジを併用することも多く、アウトが不足することがありましたが、Rio3224-Dが2台で32chのアウトが確保できたので、その点で悩まずに済むようになりました。またイアモニはノイズにもシビアですが、CLはS/Nや音の分離感も良いのでモニター環境も作りやすいです」
同施設のDanteネットワークに関してはCL5からRio3224-Dを2台をデイジーチェイン接続し、Wi-Fiアクセス・ポイント経由でCL StageMixのリモート・コントロールにも対応するというセッティング。Danteでの接続に関するメリットについては、"パッチングの容易さ"に魅力を感じると山室氏は語る。
「持ち込みのシーン・データを読み込んだら、アウトが違っていて音が出ないということもありますが、そういうときにCL5はDante接続したI/Oの入出力状況を視認でき、すぐに修正できるのは非常に便利ですね」
最後に今後のDanteでのネットワークに関しての展望を山室氏が語る。
「CL5を購入してからまだ間もないので、まだあまりDanteネットワークを勉強できてはいないのですが、今後はスター接続での2重回線のシステム構築も行っていきたいです」
事例2 テクニカル・アート
Danteネットワークの中核となるシステム
2件目の導入事例として、大阪を拠点に全国で音響/照明設計を手掛けるハートスのグループ会社、テクニカル・アートを紹介したい。同社の音響グループの田中博道氏、日下部雅則氏に話を伺った。CL5とRio3224-Dを2台導入する同社は、以前からネットワーク・オーディオに注目していた。まずはそのいきさつについては田中氏がこう語る。
「大規模な音響設計業務が増えたことで、セッティングが簡略化できるデジタル伝送には必然的に注目するようになりました。加えてノイズの問題が起きにくいので、電源環境がよくない現場にも対応できますね」
同社はEtherSoundの導入以前からDanteに着目していたが、その後はEtherSoundの対応機器を導入し、オーディオ・ネットワークによるPAシステム構築を行ってきた。その理由に関しては日下部氏が説明する。
「DanteはEthernetケーブルで直接コンピューターと音声をやりとりできるメリットもあったので、規格の発表当時から注目していましたが、対応製品の登場が遅れていたこともあり、EtherSoundに対応する機器を導入しました。CLシリーズがDanteを搭載して発表されたときは、ようやくDanteの中核となるシステムが登場したという印象を受けました」
このように長年ネットワーク・オーディオを使用してきた同社にとってCL5とDanteネットワークを介したサウンドについてはどんな印象を持っているのか? 田中氏がこう答える。
「チューニングが必要ないくらいにハイファイな音という印象です。どこかが劣化しているような感じもないですし、レイテンシーの面でも全く問題無いですね」
またCLシリーズを用いたDanteネットワークの接続の簡易さについて日下部氏が説明する。
「Danteはスター接続が基本ですが、CLシリーズはデイジーチェインモードでも接続ができるので、EtherSoundと同感覚でシステムを構築できます」
今後はDanteを用いた音響設備のシステム構成で、日下部氏は試したいことがあると言う。
「インプット回りをEtherSoundで、アウトプット回りをDanteで構築することで、より柔軟なコンフィギュレーションに対応するシステム設計を試したいですね」
CL5
- 対応入力数/モノラル×72ch+ステレオ8系統
- フェーダー構成/16(左ブロック)+8(Centralogic)+8(右ブロック)+2(マスター)
- 外形寸法/1,053(W)×299(H)×667(D)mm
- 重量/36kg
- 価格/オープン・プライス
Rio3224-D(別売)
- アナログ入出力/32イン、16アウト
- デジタル出力/8アウト
- 外形寸法/480(W)×232(H)×361.5(D)
- 重量/12.4kg
- 価格/オープン・プライス