ヤマハの最新デジタル・コンソール CLシリーズが提案する新世代のライブPAシステム 第2回 ナチュラルかつ音楽的なサウンド哲学

先月からスタートしたYAMAHAの最新デジタル・コンソールCLシリーズの魅力を紹介していく連載、2回目は同シリーズの音質面について触れていきたい。YAMAHAが一貫して追及してきた原音に忠実なサウンド哲学は、CLシリーズにおいてどう進化したのだろうか。

ノイズやAD/DA性能の徹底的な見直し


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▲Premium Rack



CLシリーズの音質面のこだわりをひもとくと、2つの大きな点が挙げられる。1つはサウンド面から見たコンソール本体のブラッシュアップと、もう1つはPremium Rackを軸としたエフェクト群の充実である。さまざまなライブ現場でのサウンド・メイクに対応するには、まずはコンソール本体の入出力部の音質が重要となる。


CLシリーズはコンソール内の構造はもちろん内部ボードの配置やパーツの選定をし直しており、近年のハイスペックなデジタル・コンソールで問題となる各種ノイズの影響に関しても徹底的に排除している。またAD/DAコンバーターの性能を最大限に発揮するため、音質に大きく影響するシステム動作クロックのジッター性能に注目し、FPGA回路のレイアウトやクロック信号の経路を再検証することで、スペック面はもちろんのこと、より音楽的なサウンドを生み出せるように改良が施された。これらのハード面の進化により、さらなるナチュラル・サウンドを得られるようになった結果、威力を発揮するのが続いて紹介するPremium Rackを含めたエフェクト群なのだ。


Premium Rackによる積極的な音作り


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▲Portico 5033(イコライザー)


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▲Portico 5043(コンプレッサー)


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▲Comp 260(コンプレッサー)


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▲U76(コンプレッサー)


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▲EQ-1A(イコライザー)


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▲Equalizer 601(イコライザー)


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▲Opt-2A(コンプレッサー)



CLシリーズの特徴として、従来の同社製コンソールよりも、ライブ・サウンドに対して積極的に音色作りができる機能が充実している点が挙げられる。その軸となるのがレコーディング・スタジオの定番アウトボードをモデリングしたエフェクト=Premium Rackだ。同RackにはYAMAHAが持つ最先端のテクノロジー"Virtual Circuitry Modeling(VCM)"により再現された9種類のVCMエフェクトを搭載。ちなみにVCMとはアナログ回路の抵抗やコンデンサーなどを素子レベルから正確にモデリングすることで、アナログのサウンド・キャラクターを見事に再現している。  これら9種のエフェクトを紹介すると、アウトボードの評価も高いRUPERT NEVE DESIGNS Portico 5033(EQ)と5043(コンプ)、さらにはコンプ/リミッターの名機をモデリングしたU76、1960年代のレコーディングで活躍した光学式コンプを再現したOpt-2A、同じ周波数を同時にブースト/カットできるEQの定番機をシミュレートしたEQ-1A、1970年代のアナログ・コンプレッサーを再現したComp 276、業務用のオープンリール・テープ・レコーダーのアナログ回路とテープの磁気特性を再現したテープ・シミュレーターのOpen Deck、1970年代後半に多用されたソリッドステートのコンプ/リミッターをモデリングしたComp 260、1970年代を代表するEQを再現したEqualizer 601に加えて、特定の周波数における音量変化を検出してコンプ/リミッターを動作させるDynamic EQとなる。これらの中でもダイナミクス系である6種類のEQ/コンプを最大で8基までマウントすることが可能だ。


加えて通常のEffect Rackには46種類の空間系エフェクトと8種類のインサート系エフェクトをラインナップし、Premium Rack同様に最大で8基までのマウントが可能。これらはグラフィックE
Qへの切り替えも可能と、フレキシブルに活用することができる点もうれしい。また、細かい補正時に重宝するグラフィックEQのGEQ Rackは出力バスにインサートが可能。31バンドのGEQを最大で16基マウントできる。


このようにエフェクト音質向上はもちろん、現場に応じて使い分けられる自由度の高いエフェクトをバーチャル・ラックに用意することで、サウンドの補正だけでなく積極的なサウンドの色付けが可能なのは、CLシリーズの強みと言える。次頁ではこれらのサウンド面に関して、PAカンパニーの導入事例を見ていきたい。


N&N
現場への対応力の高い色付けの無い音


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▲N&Nのスタッフ。左より樋口靖洋氏、マイクを持っている佐藤信幸氏、櫻井彩香女史、加藤大輔氏、栗山大介氏、寺澤香菜女史


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▲Dynamic EQをボーカルに挿すことで、フェーダーやEQのリアルタイムでの操作が軽減されたと栗山氏は語る



1件目の導入事例として紹介するN&Nは、20代のエンジニアが活躍する活気あふれた東京のPAカンパニーで各種の舞台音響を手がけている。同社音響部の栗山大介氏にお話を伺った。まずはCLが目指したナチュラル・サウンドに関しては、栗山氏の耳はどう感じたのだろうか。
まず最初に倉庫にM7CLとCL5を2台並べてチェックをしたのですが、M7CLよりも音の解像度が上がって音にもコシがあり、デジタル臭さがさらに抜けたように感じました。周波数特性なども測定しましたが、それよりも全体的にナチュラルなサウンドになった印象が強かったです


このナチュラル・サウンドがもたらすメリットに関して氏はこう続ける。
クリアで色付けの無い音なので、イージーに音を作り込むことができるため、作業がしやすくなりました。あと、解像度が向上した結果、音の分離感も良くなっていて、小さい音量でも聴こえやすく、ミックスもしやすい印象です。また今では高解像度のサウンドを出力するスピーカーが増えているので、そういったスピーカーをコントロールするときもマッチすると思いました


こういった色づけのない音質は、同社がCLを導入を決めた大きな理由でもあるという。
僕たちはツアーよりも単発の現場が主体で、乗り込みのオペレーターさんが操作するシチュエーションも多いので、それを考慮するとCL5のように色づけの少ないコンソールの方が現場に対応しやすいんですよね


栗山氏が全体的に音質も向上したと評価するエフェクト群に関してはこう語る。
Premium Rackの中でPAのオペレート作業で便利だと感じたのはDynamic EQですね。これらのエフェクトは今後、STEINBERG Nuendo Liveでマルチ録音した際のミックス・ダウン時でも利点があると思っています


氏がCL5の導入に際して最もメリットを感じているDanteシステム、この点に関してはYAMAH
Aのデジタルにおける信頼性の高さが関係していると、最後に語る。
Danteによるシームレスかつ簡易的にシステムが構築できるのは大きな魅力です。とは言え、僕らはこれまでアナログでシステム設計をしていたので、まだDanteの構造をそこまで理解できていませんが、YAMAHAのデジタル卓はバグも少なくて信頼度も高いので、導入に踏み切れたと思っています


sound selection dub
使っていて楽しさを感じるコンソール


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▲サウンドセレクション ダブの福田眞也氏。取材時も解析ソフトを用いたCLとDanteの特性の検証結果を見せてくれた


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▲低域のブースト感が良いEQ-1Aは、ベースやアコギなどのライン系の音色を大胆に処理する際に重宝すると福田氏は語る



2件目の導入事例として奈良を拠点としつつ"全国どこでも良い音にこだわる現場に参加する"を芸風としたPAカンパニー、サウンドセレクション ダブの福田眞也氏にお話を伺った。氏はCL3の導入以前から、いち早くDanteのシステム構成や可能性を検証していた。そんな氏にとってCLの音質は、どんな印象を与えたのだろうか。
音にストレスを感じることが無くなりましたね。例えばPAの現場でやりたい方向にむけて作業を積み重ねていくようなときに、以前までのように"これはコンソールのせいかな"と思うことも無くなったので、PAの作業自体がやりやすくなったように感じました


また福田氏は、CL3は使っていて面白さと楽しみのあるコンソールだと続ける。
例えばSTEINBERG Nuendo Liveを使えば、簡単にマルチ録音ができるので、あとからサウンドを検証しやすくなったのは大きいメリットですね。Premium Rackのエフェクトをいきなり現場で使うのは難しいかもしれませんが、録った音源を持ち帰って、各エフェクトの特性を検証してから導入すれば、より良い結果が得られるようになります。こういった点でもCL3は使っていて面白みを感じることが多いですね


続いてPremium Rackのラインナップで、福田氏が気に入っているエフェクトについても質問してみた。
EQ-1Aは低域のブースト感が良くて、これはベースやアコギなどのライン系の音色を大胆に変えたいときに便利です。同じ処理を各チャンネル内蔵のEQでやるよりは、EQ-1Aを使った方が良い結果が得られると思います。そして何と言ってもDynamic EQですね。これは歌のピークをうまく抑えられるし、尖った音質の楽器全般に使えるので、PAとしては一番重宝するエフェクトです。これらのPremium Rackによって、外部のアウトボード無しで内部処理できるようになったのは、配線はもちろん、AD/DAやレイテンシーを制御しやすいというメリットもあります


最後にCL3の将来的な可能性について聞くと、福田氏がこれまで検証してきたDanteによるネットワーク構築が鍵となると語ってくれた。
従来のEtherSoundなどと比較してもDanteはコスト・パフォーマンスが良い分、今後対応製品が増えていくと思います。それらを使ってどういうシステムを構築するかを、これからも検証していきたいと思っています


SPECIFICATIONS


CL5



  • 対応入力数/モノラル×72ch+ステレオ8系統

  • フェーダー構成/16(左ブロック)+8(Centralogic)+8(右ブロック)+2(マスター)

  • 外形寸法/1,053(W)×299(H)×667(D)mm

  • 重量/36kg

  • 価格/オープン・プライス


Rio3224-D(別売)



  • アナログ入出力/32イン、16アウト

  • デジタル出力/8アウト

  • 外形寸法/480(W)×232(H)×361.5(D)

  • 重量/12.4kg

  • 価格/オープン・プライス




問合せ:ヤマハ プロオーディオ・インフォメーションセンター
03-5652-3618


http://www.yamahaproaudio.com/japan/ja