音楽制作を手軽に実現するハンディ・レコーダー OLYMPUS LS-100

リハーサルやライブなどの録音、そして最近ではハイビット/ハイサンプリング・レートで記録できる機種も増え、プロのレコーディング現場でも目にする機会が増えたハンディ・レコーダー。そうした中、ボイス・メモ用途としてのICレコーダーで古くからその名が知られるOLYMPUSから、音楽制作向けのハンディ・レコーダー LS-100がリリースされた。録音フォーマットはWAVおよびMP3で、最高24ビット/96kHzに対応。そして最大音圧レベル140dBという広大なヘッド・ルーム、位相差を自動計測するリサージュ機能、さらに1trもしくは2trごとに録音し、最大8trの音源を同時に再生/編集できるマルチトラック機能を備えるのが本機の魅力だ。それらの機能を中心に今回は筆者の盟友、小畑ポンプ氏を迎えバンド・サウンドを録音しつつ各機能ごとに検証していきたい。

再現性の高い迫力あるサウンド
位相差を自動測定するリサージュ機能


レコーダー機能


ポンプ氏に強弱さまざまなドラム・フレーズをたたいてもらい、そのサウンドをLS-100で録った。録音フォーマットを24ビット/96kHzに設定し、1mほどドラム・セットから離れた位置にLS-100をスタンドに固定して設置。高さはおよそ70cmくらいでキックの最上部から上を向ける感じでマイキング。録音レベルは本機のピーク・メーターが軽くつく程度に設定した。キックを強く踏んだときやシンバルをたたいた際にはピークがつきっぱなしになる場面もあったが、気にせず録音を続行(1)。


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▲(2)ドラム録りではLS-100のポイントの1つ、最大音圧(140dB)レベルを探るべく、ソフトなものからラウドな演奏を録音


そして恐る恐る再生してみると、心配したひずみやクリップした個所は全く無く、音質も高域から低域までしっかり録れている。静かな演奏は空気感が見えて、逆に力強いプレイではキックのアタックや中低域の押し出しがしっかりしていて好 印象だ。そのサウンドからはかなり広めのヘッド・ルームを感じ、ステレオのバランスもいい具合である。一般的に録音レベルに気を遣うハンディ・レコーダーだが、LS-100は最大音圧レベルの高さを誇るだけあり音源の再現性が高く、なおかつ迫力あるサウンドを録音できることが分かった。また、本機はコンプレッサー/リミッター機能を装備しているため、ドラムなどのダイナミクスの激しい楽器やボーカルなどの録音にも便利だ。


リサージュ機能


あまり聞き慣れない機能かもしれないが、ステレオ音源のレコーディング時にはエンジニアが結構気を遣う調整だ。例えばギターの録音でステレオ仕様のギター・アンプ(もしくはアンプ2台)を使うとき、2つのスピーカーの音波にわずかなズレが生じる。これを位相差と言い、本機はこの差を自動計測し、フロント・パネルの液晶にリサージュ波形として表示する。その結果、最適なマイク・ポジションが把握できるという機能だ(2)。ここでは位相差0度にきっちり調整してギター・アンプ、ROLAND JC-120のコーラス・サウンドを録音してみた。ドラム同様にサウンドは重厚で、きっちり合わせた位相差のせいかコーラスのステレオ感は素晴らしい。


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▲(2)位相差を自動測定するリサージュ機能を使用した際にディスプレイに表示されるリサージュ波形。これは位相差0度を表す


分かりやすいシンプルな操作性
一台で簡単なミックスまで行える


マルチトラック機能(オーバーダブ)


バンドの録音は通常、ドラムとベースのリズム隊で始めることが多いが、本機は最大同時録音が2trまでとなっている。しかしドラムはステレオで録音したかったので、ポンプ氏にドラムのみ先行して演奏してもらうことにした。LS-100は単独 のアプリケーションとしてメトロノームの機能があるので、最初に録音する演奏者はそれをガイドにして録音することが可能。ゆえに本機でバンド・サウンドを録る際はまずリズム・セクションからとなる。


このとき事前にサンプル・フォーマット(オーバーダブ時は16ビット/44.1kHzのみ対応)を設定しなければならないものの操作がシンプルなため、マルチトラック録音時の本機のセットアップは非常に簡単。1trもしくは2trかを選ぶのと、どのチャンネルに録音するのかを選択するだけだ。あとは録音ボタンを押して待機状態にし、再生ボタンを押し本機を走らせ、再び録音ボタンを押すとマルチトラック(オーバーダブ)での録音が開始できる。


最初に行ったレコーダー機能のチェックを生かし、ドラム録音はピーク・メーターがチョコチョコつく程度に設定してコンプレッサーをオンにした。そしてメトロノームの音量を決めて録音開始。問題無く演奏を終え、録音したサウンドをチェックし、次にエレキベースをダビングする。LS-100は、ベースやギターを直接挿すこともできるが、Hi-Z入力とはうたわれていないので、今回は私が使い慣れているDIを用いライン・レベルで入力することにした(3)。ライン録りでの音質はストレートといった印象で、ベースのような下に音がたまりやすい楽器には向いた、非常にすっきりしたサウンドである。


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▲(3)ベース録音はDIを使いライン入力。LS-100には48/24Vファンタム電源対応のXLR/TRSフォーン・コンボ端子も搭載


続いてはアコギのダビング。LS-100は1tr(モノ)での録音時にもL/R、2つのマイクを使う。つまり本機を楽器に向ける角度によって音の太さや響きを調整できるわけだ。アコギの録音にはホール部の響き、ボディやネックから鳴るナット側の弦の響きなど、これらのバランスにより、時にはマイクを2本立てて録音することもある。そういう意味では、特にアコギに有効な機能だと思った。アコギとLS-100の距離は20〜30cm離し、20フレット辺りに向けてマイキングして録ってみると想像した通り、ホールと弦の響きがいい案配に録音されていた(4)。


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▲(4)アコギはLS-100の内蔵マイクで録音。写真のようにマイキングして録ったところ、生々しい弦の響きが表現されていた


次にエレキギターをダビング。アンプから約70cmほど距離をとり、高さ40cm程度のところに本機を設置して録音(5)。エレキギターの音色がソフトなニュアンスでリバービーということもあるが、モノでの録音なのに非常に広がり感のあるサウンドだ。


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▲(5)エレキギター録音時のセット。先述したリサージュ波形を活用した上で、石塚氏はさまざまなエフェクトをかけてテストした


予定した楽器を録り終わったところで、本機内に備えられた編集機能を使いミックスしてみる。ここまでの録音ではミックス時にまとめるのが楽になるということもあり、楽器の録音はすべてコンプレッサーをオンにして録った。コンプのかかり方もナチュラルで、録音レベルのツマミと合わせれば調整は非常に簡単だ。編集機能で各トラック調節できるのは、ミュート、ボリューム、パンのみという潔さ。そのためミックスも瞬時に決定が出せるという利点があり、手早くデモを作りたい場合などに重宝しそうだ。ここでは2trでステレオ録音したドラムの音量が少々大きかったので、レベルを下げ2本のギターをパンで左右に振り、各レベルを調節していった(6)。


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▲(6)ミックス作業。8trまでを同時編集/再生することが可能。各パートの音量バランス、定位などが分かりやすく設定できる


そして最後に歌をダビング。当初、口元に対して本機を垂直に向けると吹き出し音が少々キツかったため、レコーダーのマイク側を下げる形で斜めにセットすると改善された。さらにポップ・ガードを使うとより良い結果となった。サウンドは低音が良く録れていて、ステレオ・マイクで録音したとは思えないズッシリとした質感だ。ここですべてのソースを録り終えて最終ミックスは完了。ミックスを終えた音源は、16ビット/44.1kHzのWAVファイルにバウンスできる。非常に簡単な操作方法で、本体中央にファンクション・スイッチがあり、デフォルトでF2ボタンに"バウンス"がアサインされていて、メニュー内の"開始"を選択し、OKボタンを押せば実行される。


一連の作業を終えて感じたのは、レコーダーとして低域の再現性が従来のハンディ・レコーダーに比べて非常に良く、高音圧にも対応できる製品であるということだ。また、リサージュ機能を使えば今までステレオ・ソースの録音時に位相差が合っていないがゆえに"ステレオで録ったのにどうも音が細くなる"などといった問題を解消できる。録り音のクオリティはもちろん、シンプルな操作性、専門的な知識が無くても簡単に適切なマイキングが行えるなど、音楽制作者の気持ちを反映した画期的なアイディアが詰まった一台と言えそうだ。



OLYMPUS LS-100


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SPECIFICATIONS



  • 録音方式/WAV、MP3

  • 対応メディア/内蔵メモリー(4GB)、SDカード(512MB〜2GB)、SDHCカード(4〜32GB)、SDXCカード(32〜64GB)

  • 同時録音トラック数/2tr

  • 同時再生トラック数/2tr(レコーダー・モード)、8tr(マルチトラック・モード)

  • 外形寸法/70(W)×159(H)×33.5(D)mm

  • 重量/280g(リチウム・イオン電池を含む)

  • 価格/オープン・プライス(市場予想価格/45,000円前後)

  • 商品の詳細を見る(オリンパス)

  • 問合せ:オリンパス カスタマーサポートセンター
    0120-084215




1206-olympus-ph.jpg石塚"BERA"伯広


ミュージシャン/エンジニアであることから、プレイヤー側、リスナー側の立場を理解できるマルチな才能を持つ。プロデ ュース、アレンジからエンジニアなどすべてを自身で手掛ける