ビート・メイカー発掘インタビュー〜Sa-Ra 【2】

「仕事を受ける基準は満足できる金額が提示されていることが前提で、次にそのアーティストを自分たちが好きかどうか判断する」(タズ・アーノルド/2005年インタビュー)

ジェイ・ディー以降のビート・メイカーの中で、生演奏の扱いの巧みさという点でSa-Raの存在は際立っている。2009年にUBIQUITYより、サイケデリックで素晴らしいアルバム『Nuclear Evolution:The Age of Love』をリリースしたばかりの彼らだが、ここではカニエ・ウェストのG.O.O.D. Musicと契約し(結局同レーベルから作品はリリースされなかったが)、鼻息も荒い2005年当時のインタビューをお届けしよう。


[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2005年12月号のものです] 
Interpretation:Yuko Asanuma


N.E.R.D.に始まり、ドクター・ドレー、メデスキ・マーチン&ウッド、ファロア・モンチ、トスカ、DJ Mitsu The Beats、ルーツ・マヌーヴァなどヒップホップを中心に、メジャー/アンダーグラウンドを超越したプロダクション/リミックス・ワークで"ポスト・ネプチューンズ最右翼"と目されているロサンゼルスの3人組プロダクション・チーム=Sa-Ra。ソロ名義では「Glorious」「Double Dutch」ら完成度の高い3枚の12インチ・シングルで耳うるさいヒップホップ好きの信頼を勝ち取ってきた。そんな彼らがカニエ・ウェストのレーベル=G.O.O.D. Musicと契約、メジャー・デビューを目前に、現時点でインディーでは最後の作品となる『The Second Time Around』をリリース。持ち前のコズミックなファンク・サウンドを基調に、ファロア・モンチやJ・ディラが参加、"面白いことをやろう"というアグレッシブさに満ちた1枚となっている。爆発前夜といった趣の彼ら。今回はメンバーを代表してタズ・アーノルドがインタビューに答えてくれた。



本当にクリエイティブで優れたポップ・ミュージックを作りたい



■あなたが考える"良いビート"の基準とは?


タズ うーん、新しくて、これまでに無いものかな。"良いビート"と"良いプロダクション"は違うと思う。良いビートと言えば、最近"ビート・ ジェネレーション"と呼ばれているマッドリブ、ジェイ・ディーらを思い出す。一方"良いプロダクション"は、フーディニやファット・ボーイズをプロデュースしたラリー・スミスとか、サンプリングでビートを作るだけじゃなく、楽器も弾けたり、もっと総合的な人たちが思い浮かぶ。僕らはJ・ディラたちより、もっと総合的なプロデューサーだと思っている。だが、良いリズムには体が自然と反応するものだ。特にヒップホップにおいては、ラフさ、ダーティさ、テクスチャーが重要だと思う。標準以下のビートは無視できるけど、良いビートは無視できない。それが基準かな。

■"近未来的な音像"という意味では、最近のヒップホップ系プロデューサーではザ・ネプチューンズの名が挙げられると思います。彼らにシンパシーを感じることはありますか?


タズ ファレル・ウイリアムスはよく知ってるよ。僕らのグループと契約したがっていたから。彼のレーベルに誘われていたんだ。結局カニエ・ウェストの方と契約しちゃったけどね。僕らとザ・ネプチューンズは、極めてクリエイティブで、新しいことに挑戦しようとしている点で似ていると思う。音楽に限らず、すべての考え方においてね。だから、優れたミュージシャン、クリエイティブな人間という同じファミリーの一員だと思ってる。


■では、カニエ・ウェストのレーベルG.O.O.D. Musicと契約した理由は?


タズ 実は同じタイミングで幾つかの誘いが来ていたんだ......なぜG.O.O.D. Musicかと言うと、クリエイティブな面から言ってもカニエは既存のルールを壊してきた人だし、なおかつ同世代が共感できるヒット・レコードを生み出してきている。それはまさにおれらが目指したいところなんだ。ルールを壊して、新しい音を作りたいけど、多くの人が共感できるものでもあってほしい。かつては、ポップ・ミュージックこそディープだった。でも今は"いかにも"って感じのつまらない曲ばかり。昔はジミ・ヘンドリックス、ジョン・コルトレーン、マイルス・デイヴィス、プリンス、スティーヴィー・ワンダー......こういう人たちがポップだった。優れた音楽だからだ。僕らが目指したいのは、優れたポップ・ミュージックを作ること。本当にクリエイティブな音楽をね。今はつまらない音楽ばっかりで水準が低いから、成功するのは簡単だと思うよ。


■では、アーティストとしてカニエ・ウェストを尊敬しているから、というのが契約の理由ですか?


タズ いや、そうじゃない。もちろんアーティストとしても優れているけど、何よりG.O.O.D. Musicのビジョンに賛同しているからだ。彼はそのビジョンを実現できる優れたリーダーだと思う。自分のやっていることに自信を持っているところが好きだ。売れないアーティストを抱えているレーベルとは契約したくないね。例えばジェイ・Zを尊敬しているからといって、同じレーベルのヤング・ガンズも好きだとは限らない。それにヤング・ガンズはどれだけ売れているかという問題もある。やはり契約するとなると、その辺のところまで考えないとね。DEF JAMと契約したところで、僕らがそれほど優遇してもらえるとは思えない。そういう賭けはしたくなかったんだ。Sa-Raはこれまでずっと自力で頑張ってきた。今ちょっと話題になっているのも、誰かが宣伝してくれたおかげではなくて、自分たちの実力でここまで来たんだ。だから、基本的にはこれからもそうしていくつもりだ。カニエに頼るつもりはないよ。


■"良い曲"と"売れる曲"は違うと思いますか?


タズ 一緒だった時代もあった。けど今は違う。だから僕らの出番なんだ。今の状況を変えてやる。僕はそれが一緒であるべきだと思うから。さっき言ったみたいに、プリンスやスティーヴィー・ワンダーは最高のポップ・ミュージックだ。今はみんな似たり寄ったりで、同じプロデューサーがフィーチャーされていて、アルバムには1〜2曲だけいい曲が入ってるけど、あとはクソみたいな曲ばかりってパターンだ。みんなそれが普通だと思っているみたいだけど、普通じゃないよ。問題だ。



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Sa-Ra
『The Second Time Around』
 
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