ビート・メイカー発掘インタビュー〜セオ・パリッシュ【2】

「Juno-106のプリセット55番が好きなんだ。低音を効かせるときは欠かせない」(セオ・パリッシュ/2004年インタビュー)

デトロイトの第4世代として、ムーディマンらと共にブラックネスあふれるハウス・ミュージックをリリースしてきたセオ・パリッシュ。年を経るごとにプログラミングの束縛から離れ、生演奏を取り込むようになってきた彼。その発端となったローテティング・アセンブリー名義で2004年に作品をリリースした際の貴重なインタビューだ。


[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2004年4月号のものです] 
Photo:Tetsuro Sato Interpretation:Mariko Kawahara


1990年代中盤にデトロイト・テクノ新世代の旗手として登場したセオ・パリッシュ。以来、DJとしても活躍し、自身のレ−ベル"Sound Signature"から12インチ・シングルを中心に数々の名作をリリースし続けるアーティストである。1980年代に全盛を極めたシカゴ・ハウスの影響からなるスロー・テンポで粘着的なグルーブ、そしてファンクやソウルといったルーツ・ミュージックへの憧憬が混然一体となったサウンドは時に"マシン・ソウル"などと形容され、世界中のクラブ・ミュージック・シーンで賞賛され続けている。そんな彼が先ごろ、14人にも及ぶミュージシャンと共同制作したセオ・パリッシュ・プレゼンツ・ローテティング・アセンブリー名義でのアルバム『Natural Aspirations』を発表。独特の質感はそのままに、生演奏の有機的なグルーブが付加されている本作について、話を聞くと共に、これまでいかなるメディアにも明かされることの無かったであろう制作環境についても語っていただいた。



RHODESをシミュレートしたモジュールはたくさんあるけど、本物にはかなわないね



■そのほか今作の制作で活躍した機材はありますか?


セオ・パリッシュ RHODESはいいよ。あの音をシミュレートしたサウンド・モジュールはたくさんあるけど、やっぱり本物にはかなわないね。昔からずっと愛用しているし、とにかく好きなんだ。あとはJuno-106もよく使った機材の1つだ。


■Juno-106はどんなパートで使ったのですか?


セオ・パリッシュ ベースから上モノまで何でもだね。特にプリセットの55番が好きなサウンドで、低音を効かせるときには欠かせない。スライダーをほんのちょっと動かしただけで、音がまるで変わってしまうのも面白い。曲を作り始めてから少しの間部屋を出て、戻ってきたときには"誰かが機材をすり替えたんじゃないか!?"ってくらいに音が変わっているんだ。"何で変わってしまったんだろう?"と疑問に思うときもあるけど、そこがまた好きだね。実は、Juno-106は僕が手に入れた最初の機材の1つでもあるんだ。人から借りて使っていて気に入ったから、僕も手に入れることにしたんだよ。新聞広告に売り値500ドルで出ていたものを10年前に手に入れて以来、今まで使い続けているシンセだ。

■Juno-106を手に入れる以前には人から借りた機材を使っていたのですか?


セオ・パリッシュ 10代のころは、自分の機材は持っていなかったので、人の機材を使っていたんだ。覚えているのは、ROLAND TR-707、TR-626、AKAI PROFESSIONAL S01、あとはYAMAHA DX7だったかな? そうそう、僕が14歳のときに制作したEP『The 1987 EP』は、友達のCASIO SK-1を借りて作ったものだよ。 SK-1は、フレーズ・サンプリング・キーボードのはしりで、すごいチープな値段だった。当時50ドルぐらいじゃなかったかな? 俳優がSK-1を指差しながら何か言っているテレビのコマーシャルを見て、僕らにはそれが、全く別次元の世界からやって来た新しいテクノロジーのように見えたんだ。"これは絶対に手に入れないといけない!"と思ったね。


■当時の曲作りはどういった方法で?


セオ・パリッシュ KAWAIのリズム・マシンとSK-1を組み合わせて作っていたんだ。両方借り物だったし、マニュアルも持っていなかったんで、いろいろいじくり回しながら試行錯誤していた。『The 1987 EP』のドラム・サウンドは、変にひずんだ感じになっているんだけど、それはSK-1のアウトプットにつながっていたコードがショートしたせいなんだ。コードを揺らすとクレイジーな音になり、揺らさないとクリーンな音がそのまま出た(笑)。当時は、そんな方法で曲を作っていたし、シーケンサーは使わずに、レコーディングはすべてチープな多重録音だった。昔ながらのやり方で、テープ・デッキとDJミキサーを使ってね。SK-1や、TR-626で打ち込んだ音をテープに落として、それから別のテープ・デッキをセットして、オーバーダブしていったんだ。テープが擦り切れるくらい音を重ねて、執ようなオーバーダブの繰り返しだったよ。



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セオ・パリッシュ・プレゼンツ・ローテティング・アセンブリー
『Natural Aspirations』
 
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