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名エンジニア発掘インタビュー〜ボブ・パワー【2】

「Q・ティップの指示を聞きながら作業するうちにヒップホップに求められる音を理解するようになった。カー・ステレオがジープを揺さぶるようなサウンドでなければヒップホップではないよ」(ボブ・パワー/2006年インタビュー)

ミキシング・エンジニアとして、ボブ・パワーは故ジェイ・ディーがフル・プロデュースしたコモン『ライク・ウォーター・フォー・チョコレート』などヒップホップ史にさんぜんと輝く名作を残している。メディアにはあまり登場しない彼だが、ここでは制作機材や重低音サウンドの秘けつについて語った2006年の貴重なインタビューをお伝えする。人格者として知られる彼のパーソナリティも垣間見える内容だ。


[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2006年5月号のものです] 
Interview:Hashim Bharoocha Photo:Mayumi Nashida Support:D.O.I.


1990年代のニューヨークを中心とする"黄金期"のヒップホップを知る者にとって、ボブ・パワーの名は半ば伝説と化している。ア・トライブ・コールド・クエストの2nd『ザ・ロー・エンド・セオリー』(1991年)で確立した極端に低域を強調した音像は、その後のヒップホップ・サウンドを定義付けたと言っても過言ではない。その後はジャズ・ミュージシャンとしてのバックグラウンドを生かし、ディアンジェロ、エリカ・バドゥといったニュー・クラシック・ソウル勢、オゾマトリ、シチズン・コープなど幅広い音楽性のアーティストのミックスを手掛けている。今回はそんな彼のこれまでの歩みやプライベート・スタジオについて話を聞く貴重な機会を得た。


スピーカーはGENELEC S30CNFを使い、小音量でモニターしている




■プライベート・スタジオの機材について聞かせてください。まず、コンソールは?


ボブ・パワー 今はYAMAHA 02R96を使っている。コンピューターにレコーディングするときは、2つの大事な点がある。トラックを流し込むときはビンテージのアウトボードを通すんだ。ADコンバーターはAPOGEE AD-8000で、02R96は主にフィジカル・コントローラーとして使っている。フェーダーを触ったり、ミュートやソロ・ボタンを使ったり......ヒップホップのアーティストは曲を流しながらミュートを作るのが好きなんだ。だから、コンソールでオートメーションを書いて、彼らが慣れたやり方でミュートが作ることができる。あと、02R96はサミング・ミキサーのようにも使用している。Pro Toolsの中でステレオ・ファイルにバウンスするのではなく、02R96内で混ぜるんだ。


■スタジオはアナログ機材が豊富ですね。


ボブ・パワー デジタル時代においては、音の入口が大事なんだ。昔はテープがサウンドに丸みを与えたけど、今はコンピューターに音を録音すると、そのままの状態で残る。マイクとマイクプリはすごく大事だよ。サウンドが豊かで心地良いものを選ぶことが大切だ。それを通してPro Toolsにレコーディングすれば、キャラクターが消えることもない。


■モニター・スピーカーはGENELEC S30CNFを主に使用しているそうですね。


ボブ・パワー S30はとても面白い。3ウェイでリボン・ツィーターが付いている。みんなは、GENELECの音を知っていると思い込んでいるかもしれないけど、S30は例えば1030Aとは全く違う。後者は音がきらびやか過ぎるんだ。ミッド・レンジがはっきりしていて、高域につやがあるし、低域も強力......自分がどんなミックスをやっているのか分からなくなってしまうので、僕には使いづらい。S30は紙のようにとてもフラットで、面白味のある音ではない。だから、ミックスでいい音を作るためにもっと努力するようになる。僕にとっては、小さい音量で聴くのが大事なんだ。たまに大きな音量で聴いてみて、ミックスがどんな風に聴こえるか確認するけどね。ここにはフット・スイッチでオン/オフできるサブウーファーもある。60Hz以下がどうなっているかを確認したいとき、フット・スイッチでサブウーファーを入れるんだ。でもサブウーファーを入れたまま仕事をするのは好きではない。そこで勘違いして低域をカットすると、薄っぺらい音になってしまうから。


■制作に際して"これは欠かせない"という機材はありますか?


ボブ・パワー S30だろうね。僕の耳代わりみたいなものだから。ミックスするときはGMLのEQ、Model 8200が気に入っているし、API 2500、PENDULUM AUDIO ES-8などのコンプレッサーも必ず使用している。


■スネアのリバーブ感がいつも素晴らしいです。


ボブ・パワー AKG ADR 68Kに僕が好きなセッティングがあって、それは今でも使っているよ。当時外部のスタジオでよく使っていたのはLEXICON 224や480L。僕のリバーブの使い方は、それぞれの楽器音の配置を手助けするためのもの。あまり派手なリバーブは好きじゃない。格好悪いサウンドになるし、楽器の存在感が失われてしまうから。だからリバーブのプログラムは使わずに、初期反射を足すことが多かった。そうすると音に奥行きが出るけど、残響音自体はあまり聴こえないんだ。ショート・ディレイを使っても同じ効果が得ることができるよ。


■ボーカルの処理が非常に美しいですが、音作りの秘けつを聞かせてください。

ボブ・パワー
求めているサウンドに適したハイクオリティなマイクとマイクプリが不可欠だね。あと、レコーディングするときに適切なコンプレッションをかけること。僕はミックスする際、ほぼ必ずコンプをかける。一度に深いコンプレッションをかけてしまうより、2回に分けて少しずつかけた方がいい。幅広いトーンのレンジを表すことが大切だ。


■ROLAND Juno-106の音をキックに混ぜていたと聞いたことがあるのですが、本当ですか?


ボブ・パワー Juno-106はサブベースを足すのに向いている。あるベース・ラインの低域が足りなかったら、それをJuno-106でユニゾンで足せば、ベースが低いオクターブで鳴っているように聴こえるんだ。でも、その音符は聴こえない。キックでも同じことができるよ。オシレーターを使って、キックの音程に合わせて鳴らすんだ。


■コモン『ライク・ウォーター・フォー・チョコレート』では、上もののサンプルがなめらかにフィルター処理されているような印象を受けます。

ボブ・パワー フィルターというよりも、ストリングスなどのミッド・レンジの情報量が多ければ、ストリングスをハイパス・フィルターに通してもっと空気感を与え、RHODESやほかの音のための空間を作るようにしていた。AMS S-DMXをピッチ・シフターとして使い、Lchを何セントか下げ、Rchを何セントか上げて音場を広げる手法もよく使ったね。


■その『ライク〜』でも活躍していたビート・メイカーのジェイ・ディーが先日亡くなりました。彼はどのような人物でしたか? 特に思い出深いセッションなどがあれば聞かせてください。


ボブ・パワー ジェイ・ディーへのトリビュート記事には、彼の音楽の素晴らしさが書かれているけど、ジェイ・ディーは僕が出会った中で最も親切で優しい人間の1人だった。それは、彼が作ったどんな音楽よりも重要なことだよ。世の中には暴力と非人間的行為がはびこっているけど、彼はその正反対で、人間的にとても優しかった。ジェイ・ディーと僕はミックスする上で完璧な相性だったんだ。彼がコモンのために作った曲を、今聴き返すと驚くよ。ジェイはキックをチューニングして、ベース・ラインとぶつからないように組み合わせるのが得意だった。彼のトラックは音数は多くなかったけど、バランスが完璧だったんだ。


 


 


bob01.jpg



▲ボブ・パワーが"欠かせない機材"と語るモニター・スピーカーGENELEC S30CNFはニアに設置され、小音量でモニターすることが多いという。写真には写っていないが、スタジオ内にはフット・スイッチでオン/オフできるサブウーファーも設置




like_water.jpg※ボブ・パワーが手掛けた作品②


コモン
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