リマスター盤発売記念! クラフトワーク 発掘インタビュー【2】

「わたしたちはCubaseのテスト・パイロットとして使われたんだ。ヘニングとフリッツが必要なものをメーカーに伝えると、メーカーはわたしたちのために新しい特別なプログラムを書いてくれた」(ラルフ・ヒュッター/2003年インタビュー)

先ごろ『アウトバーン』以降の8作品のリマスター盤をリリースしたクラフトワーク。12月にはボックス『ザ・カタログ』の発売も予定されているが、ここでは2003年に17年ぶり(当時)となるオリジナル・アルバム『ツール・ド・フランス』をリリースした際の、ラルフ・ヒュッターの貴重なインタビューをお届けしよう。


[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2003年10月号のものです] Interpretation:Mariko Kawahara


多くのファンは既にあきらめていたかもしれない。彼らの話題となると、内心は期待しつつも表面的には"いや、もう出ないでしょ"というアンビバレンツな態度を取り続けている人が多かったように思う。それも無理はない。何しろ、オリジナル・アルバムはもう17年も発表されていなかったのだから。しかし、クラフトワークは新しいアルバムを作り、発表した。何と素晴らしい現実。
確かにその兆候はあった。1998年に突然の来日コンサートを行い、そこで多数の機材の前に立つ本人たちよりもアグレッシブな動きを見せるロボットを見て"夢のようだ......"と思わせられたのもつかの間、2000年にはニュー・シングル『エキスポ 2000』を発表し、エレクトロ・ファンクなビートとロボ・ボイスで踊らせてくれた。さらに、昨年には3回目となる来日公演も果たすなど、クラフトワークは以前よりもかなり身近に感じられるようになっていた。
しかし、何といっても今回はアルバムだ。その驚きはやはり大きい。テーマは1年に1回、フランスで行われる大規模な自転車レース"ツール・ド・フランス"。1983年にリリースされたシングル「ツール・ド・フランス」のニュー・ミックスを含む約55分間には、彼らが個人的にも楽しんでいるというスポーツとしての自転車がさまざまな角度から描かれている。とにかく、まずはラルフ・ヒュッターのインタビューを読んでみてほしい。彼が本誌のような雑誌に口を開くこともまた非常に珍しいのだから。


ライブのサウンド・チェックでインプロビゼーションも試してみた


■曲作りにはどれくらいの時間をかけたのですか?


ヒュッター ほぼ1年間をすべてアルバム制作に費やした。以前からいろいろとやってはいたが、本格的な作業を始めたのは、昨年の9月にパリでモバイル機材を使ったコンサートをやってからだね。また、昨年は12月に日本のエレクトラグライド2002に出演したし、今年の1月にはニュージーランドとオーストラリアでもフェスティバルと単独コンサートを行ったけど、その際のサウンド・チェックでインプロビゼーションによる曲も試してみたんだ。そして、ツアーが終わってからアルバムの仕上げに取りかかった。シングルの「TOUR DE FRANCE 03」も全くの新バージョンで、歌詞も新しくなっている。そして、ようやくアルバムが完成してリリースの運びとなったわけだ。そういうわけで、本格的な作業は昨年から始まったけど、曲作り自体は連続したプロセスだから、アイディアや曲は常に湧いてきているよ。

■各曲がDJミックスのようにつなげられているのはどういう理由からなのですか?


ヒュッター 映画のようにつなげたかったからだよ。アルバムをかけると、"映画『ツール・ド・フランス』"のための音楽が連続して流れるわけだ。テレビで自転車レースを見ながら、このアルバムを聴くこともできるしね。


■制作はすべて、デュッセルドルフにあるというあなた方のスタジオ、クリング・クラングで行っているのですか?


ヒュッター そう、もちろんクリング・クラングで行った。このスタジオは1970年からあるんだが、友人でありパートナーでもあるフローリアン・シュナイダーと一緒にここでクラフトワークの作業を行ってきた。クラフトワークの前には2年間、オーガニゼーションという実験的なグループをやっていたけど、1970年以降はずっとクラフトワークを続けてきている。もう33年になるわけだ。その間に、さまざまなミュージシャン、アーティスト、映画監督、カメラマン、そして、もちろんテクニシャンやエンジニアと一緒にやってきた。ここ20年はサウンド兼コンピューター・エンジニアであるヘニング・シュミッツと一緒にやっている。彼とは、1983年のシングル『ツール・ド・フランス』でも一緒だった。そして同じく、サウンド兼コンピューター・エンジニアとして17年間一緒にやっているのがフリッツ・ヒルパートだ。


■シュミッツとヒルパートはクラフトワークの中でどのような役割を担っているのでしょうか?


ヒュッター エンジニアでありミュージシャンでもある。ミュージック・エンジニアと呼んでもいいのではないかな。コンピューター・エンジニアでもいいけど。彼らは、わたしやフローリアンよりも、エンジニアとしてのバックグラウンドを持っているんだ。わたしたちは、どちらかというとクラシック、即興音楽、フリーフォーム・ミュージックのバックグラウンドを持っている。

■スタジオでは、あなたとシュナイダーが主に作曲を、シュミッツとヒルパートはエンジニアリングを担当しているということですか?


ヒュッター すべてだよ。わたしたちがサウンドのアイディアを持ってきて、エンジニアリング面は曲によってヘニングかフリッツが担当する。ホーム・スタジオで作ったものをクリング・クラングに持ち込むこともあるけど、すべてはクリング・クラングで行われるんだ。歌詞はわたしが書くことが多くてね、アイディアをメモしておくこともある。フローリアンは絵を描くことが多くて、たまにロボットの絵を描いたりしている。クラフトワークのトレードマークであるあのロボットをね。アイディアはあらゆるところからやってくるんだ。


■昨年の来日ライブでは過去の曲がほとんどそのままの形で演奏されていましたが、今作は音楽性自体が現代的なものになっていると感じました。こういったサウンドの変化は意識的なものなのですか?


ヒュッター いや、ただアイディアやツアーの状況に沿って演奏したり曲を作ったりしているだけだよ。例えば、「ヨーロッパ特急」や「メタル・オン・メタル」は物理的にハードで、ある意味ヘビーメタルだが、このアルバムはとても流動的でほとんどノイズがないサイレントな状態に感じられるという意見もあった。滑りながら徐々に移動している感じかな。それはわたしたちが、サイクリングのスピリットを表現したかったからだろう。呼吸をしながら、さっき君が言ったように曲から曲へとつながって進んでいく。例えば、"シャシャシャ~"という滑るような効果音がかなり入っているだろう? このアルバムには滑って流れるようなサウンドが多いんだよ。


■ちなみにその"シャシャシャ~"という音はどのようにして作ったんですか?


ヒュッター コンピューターを使ったり、ツマミやスイッチを回したりしてだよ(笑)。わたしはキーボード・コントローラーを持っているので、それを使ってインプロバイズしながらプレイしているんだ。コンサートのサウンド・チェックで試したことを、パフォーマンスに組み込むこともある。


■ではスタジオでも、リアルタイムでプレイされることがあるんですね?


ヒュッター ああ、それもある。あらゆる制作方法を使っているよ。レコーディングしたり、プログラミングしたり、リミックスしたり、いろいろなことをやっている。生で歌ったり、語りをやったりね。すぐにできてしまうこともあるけど、それはとっておいて、後になって聴き返してみて編集する。それで完成だ。


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Kraftwerk 『Tour de France』


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