
オウテカ第四弾インタビューは、2005年の来日時のもの。ハードウェア回帰を果たした『アンティルテッド』を引っ提げてのライブ・セッティングについて、詳細なインタビューが行われた。ライブ・システムの全貌図も必見である。
[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2005年8月号のものです] Interpretation:Hashim Baroocha
複雑かつ強固なビート、エクスペリメンタルで研ぎ澄まされたシンセ音、それらが渾然一体となったカオティックなサウンド......ショーン・ブースとロブ・ブラウンによるユニット、オウテカが作り出す音世界はほかのエレクトロニカ系アーティストとは一線を画している。しかも、10年以上にわたってシーンをけん引し続けているにもかかわらず作品を発表するごとに進化を遂げていく。それを証明するかのように今春リリースされた8thアルバム『アンティルテッド』でも強力なビートを展開し、新たな地平を切り開いている。そんな彼らがこの6月に7年ぶりとなる来日公演をも敢行。そこで、川崎CLUB CITTA'でライブ前の彼らをキャッチし、新作と謎に包まれたライブ・パフォーマンスについて話を聞くことができた。
"Untitled"というタイトルは、絶対に付けないよ
■新作のアルバム・タイトルである『アンティルテッド』にはどんな意味があるのですか?
ショーン タイトルを考えているときに"Untitled"という単語を見ていたら"Untilted"に見えてきたんだ。すると"Untilted"にしか見えなくなってね。頭とケツの文字が同じなら、何となく読めてしまう。でも、ちゃんと読めばどこが違うかが分かるはず。このアルバムのサウンドも同じだ。一聴では後退しているように聴こえるけど、よく聴けばテクニカルで高度なアルバムだと分かるものになっている。
ロブ 僕らが"Untitled"というタイトルを付けかねないと思っている人が多いようだけど、"Un titled"というアルバムは絶対に作らないよ。
ショーン これはちょっとしたトリックなんだ。ある人に"なぜタイトルを付けなかったのですか?"って聞かれたんだけど、"もうちょっとちゃんと見てよ"って言ったよ(笑)。
■今作のブックレットにはスタジオ名はクレジットされていませんが、どこで制作作業を行ったのでしょうか?
ショーン 今回はほとんど僕のスタジオで作業した。ロブは子供が生まれたばかりだから、家では大きな音が出せないんだ。
ロブ ショーンのスタジオの方が広いしね。それに、今までもアルバムを作るごとに新しい場所でレコーディングしていたわけだし。
ショーン 『コンフィールド』や『ドラフト 7.30』は部屋に大量のスポンジをセットして完全吸音されたデッドな空間で制作した。音の反射が少ないから、すごく静かだったよ。でも、今のスタジオは、すごく音が反射するんだ。このスタジオで作業しているとトラックが空間的になるし、リスナーと同じような環境で制作できる利点もある。僕はどちらかというと普段、音楽を聴いているような環境でトラックを作る方が好きなんだ。デッドな部屋で作って、それを別の部屋で聴くと混乱することがあるからね。
■モニター環境によって出来上がる音楽が変わるということですか?
ショーン そうだ。今回スピーカーはDYNAUDI O ACOUSTIC BM15Aを使ったんだけど、高域がフラットでレスポンスがすごくリアルなところが良かったよ。
ロブ でも、マスタリングのときはGENELECのスピーカーを使うことがある。
ショーン GENELECのスピーカーは悪いとは思わないけど、僕にとっては音が豊か過ぎる。G ENELECで音を確認しながら曲を作ると、別のシステムで聴き直したときに、違和感を持つことがあるからね。
■スタジオにあるほかの機材について教えてください。
ショーン ミキサーはずっと使っているMACKI E. 24・8とSHURE AuxPanderがセッティングされているね。
今回はMax/MSPをほとんど使っていない
■今回も前作までと同様に2人の役割分担はなかったのですか?
ショーン そうだ。役割分担は無い。目の前にある機材を何でも使っているだけだ。その中でも使う機会が多かったシーケンサーはROLAND M C-4やアナログ・シーケンサー、それにROLAND R-8とELEKTRON Machinedrum SPS-1といったリズム・マシンだね。僕はハードウェア・シーケンサーの制限があるところが好きなんだ。これまで、CYCLING'74 Max/MSPを使って、さまざまなシーケンサーをデザインしてきたけど、それは簡単にパターンを生成するためだった。でも、その作業を楽にする必要は何も無いということに気が付いたんだ。僕たちはそのことを遠回りして学んだというわけさ。
■Max/MSPは全く使わなかったのですか?
ショーン MIDIをコントロールするためのユーティリティとして使ったくらいだ。ほかには、CYCLING'74 PluggoやMax/MSPから電圧変動(varying voltage)を出力して、MIDI機能の無い機材をコントロールしたり......といった感じでデータ変換用に使った。MIDI/CVコンバーターを使っている人は多いけど、Max/MSPをこんなふうに使っている人はほかに聞いたことがない。テクノロジーはどんどん発展しているけど、僕はその使い方は人それぞれだと考えている。それに、僕たちはDSPの進化を追いかけることに飽きてしまったんだよ。でも、ハードウェア・シーケンサーで賄えないところは、MARK OF THE UNICORN Digital Perfomerを使った。例えば、2〜3台のハードウェア・シーケンサーでそれぞれ違う尺のリズムを作って同期させると、予想できないようなシーケンスを作り出せることがある。そのMIDIデータをDigital Performerで編集することもあったんだ。
ロブ Digital Performerはもともとデヴィッド・ジッカレリに薦められて導入したんだ。あるときROLAND MC-202と正確に同期させられることに気が付いて、それから気に入って使っている。つまり、オールド・スクールな機材と新しいシステムを同期させられるんだ。
ショーン ハードウェアを使っていて"ここだけ音の順序を変えたい"と思ったときはオーディオ・データを読み込んで編集することもある。もちろんレコーディングにも使っているけど。
■オーディオ・インターフェースは何を使っているのですか?
ショーン MARK OF THE UNICOEN 2408 MKIIだ。音が好きなんだよ。
ENSONIQ ASR-10とCASIO FZ-1は、最高のハードウェア・サンプラーだ
■従来の作品を含め、オウテカのシステムの中で中核を担うのはサンプラーだと思うのですが、今回はどんなものを使ったのですか?
ロブ ソフトだとMARK OF THE UNICORN Mach Fiveだな。
ショーン ほかのソフト・サンプラーも試したけど、あまり好きにはなれなかった。理由は分からないけど、Mach Fiveの音質はKURZWEILやENSONIQのサンプラーに近い気がする。ハードウェア・サンプラーはAKAI PROFESSIONAL Z8やENSONIQ ASR-10、CASIO FZ-1、RZ-1を使った。これらは常に電源が入っていて、いつでも作業が始められるようにしてある。
■それらのサンプラーの中で使用頻度が高かったものを教えてください。
ショーン FZ-1が多かった。フィルターが荒々しいんだけど、そこがまた素晴らしくて、ほかのソフトや機材ではまねできないサウンドが生み出せるんだ。FZ-1のフィルターをソフトウェアでエミュレートしようとしたけど、できなかったよ。
ロブ FZ-1の音はローファイだけど、使いこなせばチェップ・ヌーネズ(編集部注:マントロニクスなどのリミックスを手掛けるアーティスト)みたいな音を作ることもできるんだ。
ショーン それに、FZ-1には1つの音色をさまざまな出力から次々に出せる機能があるんだけど、その機能を使うと、1つ1つキーの異なる音を複数の出力から出せる......そんなことができるサンプラーはほかに見たことがないよ。FZ-1を駆使すれば素晴らしい音楽が作れるんだ! バイオリンなどの生楽器の音を正確に再現しようとしてFZ-1を使っていたら、それは大問題だろうけどね(笑)。
ロブ あとはサンプルをチョップするときにはASR-10を使った。ループ・ポジションを調整するのに便利だからね。ASR-10も最高のハードウェア・サンプラーだと思う。ウェーブテーブル的な使い方もした。
ショーン たくさんの波形を読み込んで、MIDIコントローラーでループする個所を変えて、すごく細かいリズムをループさせている。ネタはテレビから音をサンプリングすることもあるし、気に入った音があれば何でも使っている。
EQなどのエフェクトもほとんど使っていない
■「lpacial Section」では細かいシンセのループを聴くことができますが、これもASR-10で作ったのですか?
ロブ それはモジュラー・シンセをサンプリングしたものだ。MIDI機能のないアナログ・シンセの音をサンプリングして、サンプラーでサウンド・エディットしている。
ショーン モジュラー・シンセはANALOGUE S YSTEMSやDOEPFER、SERGE、BUCHLA、R OLAND System-100などを使った。その中でもANALOGUE SYSTEMSのモジュラー・シンセが好きだな。オシレーターの周波数を36kHzまで上げられるところがすごくいい。あと、オシレーターの周波数を下げるとスゴい音が出せるんだよ。
ロブ ビット・クラッシャーをかけたときに近い音になるんだ。
■モジュラー・シンセ以外にはどんなシンセを使ったのでしょう?
ロブ CLAVIA Nord Leadなどを使うことが多かった。CLAVIAのシンセはMicro Modular以外全部使ったよ。
ショーン 後はELEKTRON Monomachine S FX-60とYAMAHA FS1Rが多かったかな。FS1 Rはプログラミングが大変だけど、構造を理解すれば素晴らしい音が出せる。無限の可能性を持 ったシンセだと思うよ。多分これからも飽きることはないだろうね。でも、スタジオに人が来てFS1Rを見ると"どうやって使うの?"って言われるね。エディットとするときの階層が深いから、みんな驚くみたい。ほかにはFM合成方式のシンセだとベース用にYAMAHA DX100も少し使った。DX100のことは知り尽くしているから、FMで簡単に音を作りたいときに使っている。
ロブ ほかにはROLAND Juno-106やMC-202、SH-09、SH-2も使用した。
ショーン Juno-106はオシレーターが安定しているところがいい。MC-202はその正反対で不安定なところが面白いんだ。
■それらのシンセの音には特別な処理を施しているのですか?
ショーン 今回はほとんどEQなどを使っていない。シンセやサンプラーで音を作っているときに、大体問題となる音は除去できるからね。シンセを出してきてその音を録音し直した方が楽なんだ。以前はDJミキサーのEQも使うこともあったが、今作ではほとんど使っていない。別にダブ的な方法でアイソレーターを使ったわけでもないから。ほかのエフェクトにしても同じようにあまり使わなかった。
■では、ミックス時にはどんな作業を?
ショーン 僕らは曲を作りながら常にミックスしているようなもんだ。AuxPanderに幾つかエフェクターをつなげると、すごく変わったフィードバック・ループを作り出せる。AuxPanderは使っているとミックスとシンセシスの境界線があいまいになるんだ。
ライブは即興の要素が強く、会場によっても演奏は変わる
■それでは今回のライブの話題に移らせてください。まず、ライブ時の役割分担は?
ショーン ライブでも役割分担はない。それぞれの目の前にある機材を使うだけだ。お互いが何をやっているか分かっているからね。
ロブ それに、それぞれの作業が複雑だから、同じ機材を一緒に使うと混乱してしまうからね。
■2人ともダブっている機材はない?
ショーン そうだね。僕はMachinedrum SPS-1とMonomachine SFX-60を使う予定だ。後はMACKIE. Onyx 1640を置いている。Onyx 1640はライブの前にサウンド・チェックするために用意した。ただし、ライブ中にミキサーに触れることはほとんどないね。
ロブ 僕はAKAI PROFESSIONAL MPC1000、CLAVIA Nord Modular G2 Engineを使う。Nord Modular G2 EngineはEVOLUTIONのMIDIコントローラーUC33でコントロールしているんだ。後はMachinedrum SPS-1とMonomachine SFX-60、Nord Modular G2 Engineを同期させている。DBX 1066も用意しているけど、これはシンセなどのパラメーターを変化させたときに突然大きな音が出てしまうことがあるので、保険として置いているだけだ。でも、今回はエンジニアが精度の高いコンプを持っているから使わない。
■トラック制作時と同様にコンピューターはあまり使わないのですか?
ショーン そうだ。コンピューターはライブに前にNord Modular G2 Engineのサウンド・エディット用として使うだけで、演奏のときは使わない。以前はMax/MSPでライブのためにシーケンサーを作ることもあったけど、僕たちはステージでコンピューターを使うことに飽きてしまったんだ。
■リズムはすべてMachinedrum SPS-1とMPC 1000から出している?
ショーン そうではない。Monomachine SFX- 60からも出している。MPC1000に入っているのはほとんど単音だ。それに、Machinedrum SPS-1とMPC1000からも上モノを出している。
ロブ どの機材からも上モノやリズムを出しているんだよ。
ショーン 例えば、わざとMachinedrum SPS-1 を使ってチューニングを外したメロディを出すことがあるんだけど、それはMonomachine SFX-60ではできないからね。
■これらの機材の中でシーケンサーの役割を担うのは?
ショーン セットにある音源全部をシーケンサーとして使っている。
ロブ Nord Modular G2 Engineも優れたシーケンサーを装備しているからね。僕はMPC1000でNord Modular G2 Engine内のシーケンスをトリガーさせたりもする。ショーンがMonomachine SFX-60を使って、MPC1000のサンプルをトリガーさせることもある。このセットの可能性は無限だと思っている。
ショーン あとは、あらかじめ作ったシーケンスをDJみたいにその場で変えている。ただ、DJよりも遊べるものが目の前にたくさんあるからね。例えば、Monomachine SFX-60のアルペジエイターをリアルタイムでコントロールしたり、Nord Modular G2 Engineのパラメーターをエディットしたりしているんだ。
ロブ それに会場によっても演奏は変わってくるし......今回もいつもと違う内容になるはずだ。
■最後に今後の予定を教えてください。
ショーン これからフェスティバルに出演して、その後はスタジオに入る。ハフラー・トリオのハフラーとコラボレーション・アルバムの第3弾を作るかもしれない。あと、グレン・ヴァレズという素晴らしいパーカッショニストがいるんだけど、彼が僕たちと仕事したがっているから一緒に何かやろうと思っている。それ以外は別に予定は立てていない。とにかく早くスタジオに戻って曲を作りたいよ。
▲来日時のオウテカのライブ・セット。ショーンはELEKTRON Machinedrum SPS-1とMonomachine SFX-60を、ロブはAKAI PROFESSIONAL MPC1000、CLAVIA DMI Nord Modular G2 Engine、EVOLUTION UC33を使用。中央に鎮座していたMACKIE. Onyx 1640はライブ中ほとんど操作しないそうだ。Max/MSPなどのオブジェクト指向のソフトウェアを駆使するアーティストというパブリック・イメージからかけ離れたハードウェアを中心としたシステムが構築されていることに注目してほしい
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