ジェイミー・リデル 発掘interview 〜 WARPレコーズ特集

「レコーディングでは、ボイス・サンプルを使った即興的なパフォーマンスはしないんだ」 (ジェイミー・リデル/2005年インタビュー)

ソウル・マナーをさらに押し進めた2008年の『JIM』も素晴らしい出来だったジェイミー・リデル。この2005年のインタビューは、電子音満載の1stから生演奏を用いた作風へと変化を遂げた2ndアルバム時のもの。当時の心境が言葉の端々からうかがえる。


[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2005年12月号のものです] Interpretation:Mariko Kawahara


ボイス・サンプルを駆使したエクスペリメンタルなパフォーマンスを展開しているジェイミー・リデル。クリスチャン・ヴォーゲルとのユニット、スーパーコライダーではエレク卜口・ファンク風な作品を発表するなど幅広く活動している。そんな彼が5年ぶりにソロ・アルバム『マルチプライ』を発表した。その内容は驚くことに自身のボーカルを大フィーチャーしたスイー卜なソウル・ミュージックに仕上がっている。そんな新作について話を聞いた。


作品ではしっかり構築した曲をレコーディングしたかったんだ


■新作では今までの作品よりもボイス・サンプルを使っていませんね。


ジェイミー  これまで作ってきた音楽はどれも気に人っているし、面白いことをやってきたと思う。でも、今回は違うことにチャレンジしてみたかったんだ。電子音楽的なことをやってしまうと、スーパー・コライダーと同じようなものになってしまうかもしれないしね。そんなとき、マシュー・ハーパートのリミックス「The Audience」を手掛けたんだけど、モータウン風ですごくいい感じだったんだ。新作にはそのアイディアを盛り込んでいる。それに、子供のころからモータウンものが好きだったからね。


■リズムに関しては生演奏が多いですね。


ジェイミー  生演奏と打ち込みの両方を使ったよ。でも、生はかなりエディットした。例えば「You got me up」では、打ち込みのリズムに生ドラムをかぶせて、コンピューター上でエディットしている。ベースとドラムを一度に録った曲もある。うまいプレイヤーの生ドラムを録る場合は、できるだけリズム・セクションは同時に録った方がいい。別々に録ると少し冷たい感じになってしまうんだ。かと思えば、自宅の床にドラムを置いて、掃除用のほうきでたたいていたものもある。曲によってアプローチはかなり違ったね。


■レコーディングはすべて自宅で?


ジェイミー  自宅が多いけど、「Multiply」のドラムとベースは東ベルリンの元ラジオ局で録音した。ほかにも、もっと小規模のスタジオも使ったね。


■レコーダーは何を使ったのですか?


ジェイミー  DIGIlDESIGN Pro Tools│HDだね。NAGRAのレコーダーでボーカルを録音した曲もある。NAGRAのレコーダーはほかにはない独特の存在感があるところが気に入っている。エンジニアリングはすべて自分でしたから大変だったよ。楽器のレコーデイングはいろいろな方法を試しているんだ。例えば、サックスをギター・アンプに通したり、HOHNER Clavinel をMUTRONICS Mu-Tronで加工したりとね。


■生楽器を録るときに使用したマイクは?


ジェイミー  バスドラにはAKG D12を、そのほかのドラム・パーツにはNEUMANN KM64を使った。ボーカルはすべてNEUMANN U67だね。プリアンプはTELEFUNKEN V72が多かった。


■シンセも多用していますね。


ジェイミー  「New me」のシンセ・ベースはKORG Microkorg、「When I come back around」では、ROLANO Jupitor-6を使っている。ほかにはKORG MS-20にボーカルを通すことが多かった。


■ライブでもボーカルを使ったパフォーマンスを展開しているそうですが、どのように?


ジェイミー  ライブでは即興で歌って、CYCLING'74 Max/MSPでボイス・サンプルをリアルタイムでエディッ卜しているんだ。でも、新作では「A Iittle bit more」でしかその方法は取り入れていない。ボイス・サンプルを使うテクニックは即興の要素が強いから、レコーディングではやりたくないんだ。レコーディングではしっかりと構築した曲を録音したい。今の時点では、ボイス・サンプルを使ったライブとレコーディングは全く追うものとしてとらえているんだ。


■ちなみにSuperColliderは使っていますか?


ジェイミー  しばらく使っていない。今はMax/MSPを使うことが多いね。最近はNATIVE INSTRUMENTS Raaktor 5も気になっている。


■生演奏やボーカルをフィーチャーしたことで何か発見はありましたか?


ジェイミー  一番勉強になったのは、一度レコーディングしてしまったものは元に戻せないこと。後でどんなにエフェク卜を加えても、元の音が良くなければ駄目なんだ。料理だって素材が大切だろう?


■最後に今後の予定について教えてください。


ジェイミー  これからライブをする際はできればバンド形式で本格的なツアーに出てみたい。それに、早く曲をレコーデイングしたくて仕方がないんだ。実は次のビジョンもあるんだけど、詳しいことはまだ話したくないな(笑)。でも、あっと驚ろく内容になると思うよ。


Multiply.jpgJamie Lidell 『Multiply』


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