ヴィンセント・ギャロ 発掘interview 【前編】 ~ WARPレコーズ特集

「最新のレコーディング機材がもたらしたのは、経験、愛情、実力の無さをかばうシステムだ」 (ヴィンセント・ギャロ/2001年インタビュー)

「最新のレコーディング機材がもたらしたのは、経験、愛情、実力の無さをかばうシステムだ」 (ヴィンセント・ギャロ/2001年インタビュー)

2001年10月号のサウンド&レコーディング・マガジンの表紙を飾ったのは、何と映画俳優のヴィンセント・ギャロだった。何故?と首を傾げた当時の読者も多かったかもしれないが、彼は音楽家でもあり、自身の映画でその腕前を披露したりもしている。そして、彼のデビュー・ソロ・アルバムをリリースしたのが、電子音楽で名をはせるWARPというのが、また斬新だった。宅録テイストとレイドバックしたサウンドについて、ギャロの思いが一気に吐露された極上のインタビューだ。


[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2001年10月号のものです] Photo:Tatsuo Kusumoto Translation:Kaori Yoshida


自身が監督/脚本/主演を手掛けた映画『バッファロー'66』のヒットで、その個性的なキャラクターを広く知らしめた男、ヴィンセント・ギャロ。映画だけでなく、写真やグラフィック・アート、CMなどの分野でも才能を発揮している彼は、映画界で活躍するようになる前から数々のローカル・バンドで音楽活動を行っており、先の『バッファロー'66』のサントラでも自作曲を披露している"ミュージシャン"なのである。そんな彼が、このほど初のソロ・アルバム『when』を発表。すべての演奏と歌はもちろん、レコーディング/ミックスまで1人でこなしたこの作品は、まさしくプライベート・ミュージックと呼ぶにふさわしい内容に仕上がっている。そのサウンドを支えているのは、ギャロが10代のころから蒐集しているというビンテージ録音機材の数々。そして今回、本誌はロサンゼルスにある彼の自宅スタジオを訪問するという貴重な機会に恵まれた。ほとんど偏執的とも思えるほど音にこだわり、機材にこだわる彼の素顔を、以下のインタビューと写真から感じ取ってもらえれば幸いだ。


完全に隔離された環境の中で、たった1人でアルバムを作った


■音楽を作るようになったきっかけは?


ギャロ  やっぱりレコードかな。5歳のときにビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を買って聴いて、すぐにバンドを組みたいと思ったのを覚えているよ。そして、もっとたくさんのレコードが聴きたい、もっとたくさんのハイファイ機器や楽器を持ちたいと思うようになったんだ。


■今回ソロ・アルバム発表に至った経緯は?


ギャロ  僕はもう長い間音楽を作ってきているんだ。今までは、音楽制作に没頭できたり、僕の音楽を評価してくれる人がたくさん居るような環境には恵まれていなかったから、過去に作ってきた音源のほとんどは世に出ていないものばかりなんだけど、レコーディング自体は長い間やってきている。これまでに4枚のアルバムを作ったし、そのほかにもたくさんの音源を作ってきた。『バッファロー'66』がヒットしたので、次の映画作品への期待がものすごく大きかったけど、すぐに次の映画は作らず、あえて音楽作品を作った。なぜなら、『バッファロー'66』のサウンドトラックはとても急いで作ったものだったからね。だから、もっとじっくり腰を据えて音楽に取り組みたいと思うようになったんだ。


■実際にはどのくらいの期間をかけたのですか?


ギャロ  レコーディング自体は2週間でとても早かったけど、まず自宅のスタジオを完璧に機能させるのに1年半かかった。その間のほとんどの時間は機材の使い方を学んだり、環境作りに費やされた。でも、スタジオ作りの作業と時間を通じて、アルバムに必要な感覚と世界を自分の中で作り上げることができたんだ。演技に例えるなら、まずセットを組み立てて、そこに出てパフォーマンスを行なった、というわけだ。


■作業はすべて自宅スタジオで?


ギャロ  その通り。アルバムのすべてを僕1人でエンジニアリングして、僕1人でプロデュースして、僕1人の機材で行った。スタジオの中には僕の他にだれも居なかった。完全に隔離された状態で、自分1人の世界の中でレコーディングしていたよ。今回のアルバム作りは、普段の僕の時間の過ごし方に最も近いものだったね。いろんな要素が凝縮されたアルバムだと言ってもいい。完璧なレコーディング・システムを作り上げて、初めて作った音源だ。ボーカルをちゃんと入れたのも初めて。自分ですべての楽器を演奏してアルバムを作ったのも初めて。サウンド、技術、機材、コレクションの充実、機材の使い方、楽器の演奏、レコーディングというプロセスを通じて自分を表現するテクニックに集中すること、その意味を理解することなど、それらの要素をすべて完璧なレベルに引き上げることができた後に作った、初めてのアルバムだったんだ。


■確かにプライベートな感じが強くて、ほとんどデモ・テープのようなサウンドですね。


ギャロ  自宅でデモを作る人たちは、どんなに素晴らしいレコーディング・スタジオで録った音より、デモの方が断然良かったりするんだよね。リラックスした環境の中で作った音楽が一番いい。ビートルズがいい例だよ。"アンソロジー"シリーズを聴けば、ジョージ・マーティンがどれほど過大評価されてしまったプロデューサーなのかよく分かる。荒削りで、エネルギッシュで、即興性のあるビートルズのレコーディングを聴けば、ジョージ・マーティンが手掛けた音源が実にオーバー・プロデュースされ、ありふれたものになってしまったと感じるはずだ。"アンソロジー"の方が個性とカリスマ性に溢れているよ。





現代のレコーディング・スタジオは、この世で最も憂鬱な場所だ


■どんな作品にしようと思っていましたか?


ギャロ  音楽とサウンドの環境を作りたかった。目を閉じて音楽を聴けば、別世界に居るようなアルバムにしたかった。とにかく、独自のサウンドスケープを目指したんだ。ハイエンドがブーストされているような、最近のアグレッシブなサウンドを聴くのは疲れるんだ。音楽の中身が好きでも、あまり長くは聴いていられない。すぐ疲れてしまう。最近の人はサウンドに対するセンシティビティを忘れてしまったんじゃないかと思う。腹が減ったという理由だけで物を食べる人も居れば、味を楽しみながら食べる人も居るように、音楽の聴き方もいろいろあるけど、ほとんどの人はサウンド自体に注意していないんだ。特に最近の人はね。一昔前なら、家のハイファイ・スシテムを購入することは一大事だったよ。お店に行って、あれこれ音を試したり、雑誌をくまなく研究したりね。でも今では、みんな同じようなポータブル・システムを何も考えずに買ってしまう。音も聴かないうちにね。


■曲作りはどのように?


ギャロ  伝統的な方法で作曲することはできないんだ。僕にはテクニックも無いし、音楽教育を受けてきたわけでも無い。気に入ったテーマを1つ見つけたら、それを基本にして肉付けしたり、広げたりするのが僕の作曲方法なんだ。かと言って、1曲の中でいろいろ展開させなければならないというプレッシャーも感じない。僕の曲の構成は全然伝統的では無いんだ。実験音楽をやる人たちだって、意識的に曲の中に展開を持ってきたりすると、伝統的な楽曲構成に陥ってしまうケースが少なくない。僕の楽曲構成はもっと循環性のあるような感じなんだ。1つのテーマだけが循環しているような、モノクロマチックな手法。これは僕が演技をするときのプロセスと同じようなものだね。


■それにしても、ものすごい数のビンテージ機材がスタジオにありますが、集め始めたのは?


ギャロ  11歳のときから集めているよ。『バッファロー'66』の中で僕の父親役が歌を歌う場面があるんだけど、あれは実際に僕の父親の歌をレコーディングした音源をそのまま使ったんだ。僕が12歳のときに、AMPEX 350を使って録ったやつだよ。今でも同じ機種をミックス・ダウンに使っている。僕が十代のころは、今ではビンテージと呼ばれ重宝されているような機材が全く軽んじられていた時期だったから、例えばNEUMANN  U47を200ドルで手に入れることもできた。FAIRCHILD 670なんて400ドルだった。でも残念なことに、当時はすごく貧乏だったから、それくらいの値段でも当時の僕にとっては大金だった。とても苦労したよ。今回スタジオの環境作りに時間がかかったのは、自分1人でレコーディングできるように機材を改造していたからなんだ。リモート・コントロールを付け足したり、テープ・マシンにリレーを内蔵させて、オート・ディレイやオート・ミュート状態にできるようにしたりね。これらの機材が開発された後に生まれたテクノロジーを足していって、もっと柔軟に対応できるようにしたんだ。


■そこまで古い機材にこだわる理由は?


ギャロ  現代のレコーディング機材の原理が、そもそも僕とは合わないんだよ。例えば現代のミキシング・コンソールは一切使わない。エフェクト、ボタン、フェーダーなど、すべてはレコーディング作業を簡単にするために開発された。でも、サウンドはひどい。昔の原始的な機材を使っていたころの方が、みんなクリエイティブだったよ。50年前にはテクノロジーにいろいろな制限があったからこそ、当時のエンジニアたちはレコーディングにおいて非常に重要な役割を担っていた。でも現代の技術の進歩は、エンジニアの存在を重要視しなくなるという結果をもたらした。エンジニアだけでなく、アーティストの存在も重要ではなくなってきたほどだ。実力の無いエンジニアやアーティストにとってはもってこいだけど、機材に主導される音楽作りの環境になってしまっている。


一般的なレコーディングでは、余計なことがたくさん行われているよね。例えば、まずドラムのレコーディングに2週間かける。しかも、ドラム・セットに12本ぐらいマイクを使う。ドラマーが2週間もかけて12トラックにレコーディングして、ミックスしてから他のメンバーがやってくる、という具合だ。全く意味の無いことばかりやってやがる! レコーディング・スタジオと呼ばれる環境のほとんどは、僕にとってこの世で最も憂鬱な場所だよ。


音楽が最もカリスマ性を持っていて、最も革新的だった時代には、レコーディング・スタジオという考え方がまだ固まっていなかった。ほとんどのコンソールは手作りで、ほとんどのエンジニアはハイレベルでテクニカルな技術者だった。機材の性質や機能は、使う人の経験と技術を要するものであり、アーティストもハイレベルな作品を時間をかけずに作ることができるだけの才能と技術が必要とされていた。でも現代のテクノロジーが生み出した最新のレコーディング機材がもたらしたのは、経験の無さ、主張の無さ、情熱の無さ、愛情の無さ、そして実力の無さをかばうようなシステムだ。僕はそういう環境の中で生まれた音楽に対して非常に敏感で、現代の音楽作品は大抵嫌いなものばかりだね。


>>後編へ続く


When.jpgVincent Gallo 『When』


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