スクエアプッシャー 発掘interview【3】 ~ WARPレコーズ特集

「コンピューターをエディットのために使うのは大っ嫌いだ。つまらなく空しい手順だよ」 (トム・ジェンキンソン/2001年インタビュー)

「コンピューターをエディットのために使うのは大っ嫌いだ。つまらなく空しい手順だよ」 (トム・ジェンキンソン/2001年インタビュー)

ドラムンベースの勢いも落ち着き、音楽全体としてDAWによるオーディオ・エディットの普及とアレンジの視覚化で変動期を迎えていた2001年。トム・ジェンキンソンは再び高速ブレイクビーツの世界へ帰還し、短いデュレーションのサンプルがめくるめく変化を見せる『GO PLASTIC』を作り上げた。しかもその細かな音価のコントロールは、この時期にあってもオーディオ編集ではなく、緻密にシーケンスでくみ上げっていったという。


[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2001年10月号のものです] Interpretation:Mariko Kawahara


細かく刻まれるビートをベースにジャズ、ダブ、フュージョンを想起させるそのサウンドが各方面で話題となったスクエアプッシャーことトム・ジェンキンソン。そんな彼がスクエアプッシャー名義としては6枚目となるアルバム『GO PLASTIC』を発表した。"すべてをプログラミングによって制作した"という本作は、ここ最近の作品では影を潜めていた偏執狂的ブレイクビーツも復活し、湿度の高いダブ的空間と相まって今までに無く深みある作品に仕上がっている。今回、FUJI ROCK FESTIVAL '01出演のため来日していた彼に、ライブやアルバム制作について話を聞いてみた。


ライブではオーディエンスとのゲームを楽しんでいるんだよ


■先日のライブではインプロビゼーション的な要素もありましたが、ライブをやるときは、どのような点に気を使っていますか?


トム  そのときの気分でやれるレパートリーを用意してあるんだ。必ずしもオーディエンスを満足させるためだけというわけではなくて、彼らが求めているものと求めていないものとのバランスとでも言うのかな。それが一番面白いところで、その一線を保てるところに俺は居たいんだ。


■その場の反応を見てサウンドを変えられるフィジカルなシステムにしてあるということ?


トム  そう言えるだろうね。でも、DJのようにオーディエンスに合わせてやるだけというのは間違っていると思う。俺は彼らに何かを与えていると同時に、彼らとのゲームを楽しんでいるんだよ。彼らをちょっとかき回しているのかな。そのためのやり方がそれなりにあって、例えば、先日のライブではインプロバイズによるノイズ・セクションを長くやったりしたんだ。


■MIDIコントローラーで動かしていたパラメーターは?


トム  コンピューター内のシステムを制御していたんだ。1本のフェーダーでBPMとピッチが変えられるようになっていて、サウンドをストレッチさせたり、フェーダーの位置によって曲のスタート位置やBPMも決められるようになってタイミングを合わせたりしていたんだよ。それと、コンピューター内にはスクラッチ音っぽいノイズも入っていて、ボタンでトリガーさせて、同時にフェーダーでピッチをコントロールして演奏したりもしたよ。


■エフェクトもずいぶんかけていましたね?


トム  エフェクトはコンピューターからの4チャンネルのアウトプットを、EVENTIDE Orvilleに入れてミックス全体にかけていた。あと、パッチ・ベイを使って曲のそれぞれのパートがいろんな経路で送れるようになっていて、Orvilleの各チャンネルに送ったり、3種類のエフェクトを同時にかけることもできるんだ。


■ライブの位置付けについて聞かせてください。


トム  俺は普段ものすごくパーソナルなことをやっているつもりだから、アルバムをリリースしても、自分のレコードが人の家にある様子っていうのが想像できないんだ。その点、ライブは俺とオーディエンスとの接点が唯一感じられる。みんなの顔が笑っているか、眉をひそめているかとか分かって、ちゃんと理にかなっているんだ。


それ自体がパワフルで、いろんなことのできる機材が好きだ


■『GO PLASTIC』は、すべてプログラミングによって制作されたそうですが?


トム  確かに『GO PLASTIC』にはライブ的要素は何も無いけど、シーケンスやプログラミングされた音楽を表現しようと思ったわけでもない。アルバムをリリースするときは、ランダムに曲を選んでそれに合った曲をもう1つ選んでというふうにやっていくんだ。だから、セレクトした曲が特定のプログラミング・スタイルやアイディアを表現しているわけではなくて、グループ分けすることによって俺に合った内部的共鳴やリズムが生まれるんだと思う。ただ、最初に選んだ曲が他のすべての曲を引き寄せて、それ相応の独特の音になっているんだよ。


■アルバム制作前に大きなシステム・チェンジがあったそうですが?


トム  今回は初めて、そこそこまともな機材を使って作ることができたんだ。以前は古いサンプラーとかでどこまでやれるか、どれだけ斬新なことができるかを試していて、やれることはやっておきたかったんだけど、ついに1年半ほど前に力尽きたんだ(笑)。それで、古い機材はすべて処分して、新しい機材を手に入れたんだ。


■今回のアルバム制作は、自宅で作業されたのですか? 具体的に機材を教えてください。


トム  まず、スタジオって言うほど大したものは無いね。機材は必要最小限に留めているんだ。俺は何よりもキーボードが大っ嫌いなんだよ、だからキーボードはシステムに入れない。家にあるものとしては、ミキサーがMACKIE. 1604-VLZ Pro、サンプラーはAKAI PROFESSIONAL S6000、エフェクターはEVENTIDE DSP4000、Orville、レコーダーはTASCAMのDATレコーダーDA-20M
KII、シーケンサーはYAMAHA QY700を使ってる。つまりほとんどがラック・マウント・モジュールだけど、機材はそれ自体がパワフルで、1つでいろんなことのできるものが好きなんだ。2、3種類をちゃんと理解して、その中に入り込む方が俺は好きだね。


■ハーモナイザーを使った音加工があなたのサウンド・メイクの鍵になると思うのですが?


トム  すごくね。『GO PLASTIC』でもかなり使ったよ。Orvilleは自分のアルゴリズムを構築していくことができるところがいいね。本当においしい機材なんだよ。


■コンピューターは使いましたか?


トム  今回は使わなかったが、これから人が耳にする曲で使う可能性はかなり高い。以前は"ハイテク機材に囲まれている必要など無い"とずっと思っていたんだ。でも今は、古い機材で自分がやりたいことは十分やったので、もういいよ。やっと自分の曲にコンピューターを取り入れたいと思うようになったんだ。近ごろでは、コンピューターで曲作りを始める人が多くなっているけど、俺はそうはしたくなかった。ギターといったシンプルな生楽器から始めて、次にリズム・マシンといったベーシックなエレクトロニック機材へいって、それからもっと発達したサンプラーやエフェクト・ユニットとかへいって、徐々に進んでいって、今コンピューターにたどり着いた。今の俺には、コンピューターを使う資格が十分にあると思う。これまでに十分な経験を積んできたから、それを活用することができるんだ。


■オーディオ編集はどのように行いましたか?


トム  2、3年前にテープでエディットする方法を覚えたので、テープを重ね継いだりしてやったんだ。テープを切り張りする実質的作業が好きなんだよ。『GO PLASTIC』ではコンピューターによるエディットは全くしなかった。コンピューターをエディットのために使うのは大っ嫌いなんだ。味が無いんだ。つまらなくむなしい手順だよ。コンピューターでのエディットは、やらないといけないときはやるけど、できる限り避けるようにしている。まあ、どっちみち、俺の曲作りの仕方っていうのはエディットの必要が無いようにできているからね。


■ミックスはどのように行ったんですか?


トム  ミキシングにはコンプレッサーやイコライザーなどのアウトボードを使ったりはしない。機材で、最初から最後まで作っていってDATに落としてそれで終わりなんだ。マスタリング・エンジニアが多少イコライザーをかけたし微調整するかもしれないけど、大抵はほとんど同じだね。


最も進んだもの、最高のものを表現しようなんて気はさらさら無い


■アルバムごとにスタイルが変わっているような気がするのですが、これは意識的にやっているのですか?


トム  スタイルというのは、音楽のアイディアが中心にあって、そこにいろんなものが加えられたものの一片に過ぎない。スタイルのアイディアは開発していきたいけど、特に"スクエアプッシャー・スタイル"というのは無くて、あるのは漠然とした空間なんだ。そういった意味では、最も進んだもの、最高のもの、最低のもの、最もトリップしたもの、そういったものを表現しようなんて気は俺にはさらさら無い。俺の曲にはもともとそういう面がすべて含まれている。俺としては、曲のところどころにそういったものが散りばめられているのが好きなんだ。大半は表に出てこないけど、それは構わないよ。自分自身、あるいは自分のやっていることを理解してもらうつもりはない。ただ、アルバムの表面に少しでも現れていればそれでいいわけで、それ自体がコミュニケーションになっているんだよ。


■普段から日常的に曲を作っているそうですが、具体的にどんなペースで行っているんですか?


トム  大概同じような時間に起きて、同じような時間に曲作りを始める。でも、リズムを保ちながらも"スポンティニアスなオプションもあり"というのが大事なことだよ。作業は基本的には夜に行う。なぜなら、夜の方が心的干渉が少ないからね。特に俺がやっていることは自分のための曲作りだから、自分の頭を完璧にオープンにして、どんなにささいな衝撃やアイディアも受け入れられるようにしておかないといけないんだ。だから、いつも午後から始めるけど、夜中の2、3時までやったりしている。


■アルバムのジャケット・ワークを自ら手掛けたそうですが、音楽以外のアート的なものからサウンドが触発されることはありますか?


トム  俺の場合、インスピレーションをあえて探さずに、それがわくような状態にしておくんだ。自分の考えに火を付けて、この世で生きていくために必要な保護層をはがしていくような感じかな。干渉から自分を守ってくれるすべてのものをはがしてくんだよ。そうすると、どこからともなくインスピレーションがやってくるんだ。俺はサイクリングが大好きだけど、俺の曲作りの仕方は言わばサイクリングと似ている。取りあえず自転車に乗ってみて、どうなるか様子を見るって感じなんだ。


Go Plastic.jpgSquarepusher 『Go Plastic』



この商品を「Amazon」で買う

この商品を「iTunes」で買う