オウテカ 発掘interview【3】 ~ WARPレコーズ特集

「今回は曲のアレンジにこだわって、満足いくまで細かな編集を行っている」 (ショーン・ブース/2003年インタビュー)

「今回は曲のアレンジにこだわって、満足いくまで細かな編集を行っている」 (ショーン・ブース/2003年インタビュー)

オウテカの実験精神はサンレコでもずっと追いかけている部分。彼らの発掘インタビュー第三弾は2003年の『ドラフト 7.30』。ハードウェア・シンセも用いつつ、Max/MSPによるサウンド生成でアート性を色濃く打ち出したアルバムだ。


[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2003年4月号のものです] Interpretation:Hashim Baroocha


近年、大きな盛り上がりを見せているエレクトロニカ・シーンにあって、実験性を持ったリスニング向けエレクトロニック・ミュージックのパイオニアとして揺るぎない地位を確立しているオウテカ。ショーン・ブースとロブ・ブラウンから成る同ユニットの7thアルバム、『ドラフト 7.30』がWARPレコードからリリースされる。本作では、前アルバム『コンフィールド』で聴かれるファットなデジタル・ビーツをさらに押し進め、よりノイジーで圧倒的なサウンドを展開。一聴するだけでも密度の濃いサウンドを感じることができるだろう。アルバム制作にまつわる話をショーンに聞いてみた。


ソフトやパッチには常に新要素を入れる。それがアートを生む手段にもなるよ


■シングル『ガンツ・グラフ』と同様、今作でも曲を構成する音1つ1つで起こる変化にフォーカスしている印象を受けましたが、その辺りの意識はいかがでしょう?


ショーン  俺らは事前に何かを計画して音楽を作ったりすることは全くない。だからそういった意識もないな。確かに音楽制作に必要なソフトやパッチを事前にプログラミングすることは必要だけど、そうしておかなければならないわけでもない。だから、俺らはフィーリングを大切にしてソフトやパッチを作っているし、それを使った音楽作りも直感でやってるんだ。このような考え方は伝統的な音楽制作にマッチしないもしれないがそれはあまり重要ではないよ。ただ経験上、ソフトやパッチを作っていく行為自体が完結するものでないことも分かっているから、常に新しい要素をそれらに加えていくようにはしている。そうすれば、ソフトやパッチが役に立つツールになると同時に、素晴らしいアートを生み出す手段にもなるんだ。


■アルバムの冒頭が緩やかに展開していくあたりなど『コンフィールド』の曲構成や展開と似ていますが、これは意図的なものでしょうか?


ショーン  確かにそういう意見があるのも分かるよ。最初の方のリズムはストレートに聴こえ、その後に歪んでいくように聴こえる......これを説明するのは難しいな。例えば、俺が好きな10〜15分くらいあるファンクなんかでは、最初はタイトに始まるんだけどミュージシャンの気持ちが入って最後の方では"変なこと"が起こる。これとよく似たことだろうな。よくできたダブ・トラックも同様だ。ルーツ・ラディックスやスライ&ロビーを聴くと演奏されてるループはビートにハマリながら常に変化している。そして最後にはループっていう概念すら意味がなくなってしまう。曲が経過していくと共にミュージシャンたちがクリエイティブになっていってるんだと思うよ。俺たちもこういった感覚が好きなんだよ。


■アルバム後半のロービートの曲にはヒップホップを感じさせられますね。


ショーン  俺らのトラックには間違いなくヒップホップの要素が入ってるよ。そもそも初期のボムスクワッドを聴いてトラックを作り始めたわけだし、パブリック・エネミー、DJチーズ、キング・カット、トリプル・スレット、ポイント・ブランクMCなんかの金属的で太いビートが大好きなんだ。一時期、俺らの音楽がアカデミックで冷酷だって言われたことがあったが、現実はヒップホップ、エレクトロに影響を受けて育ってきたんだ。俺らが出会ったときロブはターンテーブルで、俺はサンプラーとテープ・デッキで音をいじって何かを生み出すことをに熱中していた。今もそれは変わってない。違いはレーベルと契約してるくらいだよ(笑)。


Max/MSPは俺らの制作にとって、理想のシーケンサーだと言える


■では、今作で使用している機材を教えてください。


ショーン  全部は教えられないから一部を挙げるとサンプラーはAKAI PROFESSIONAL Zシリーズ、CASIO FZ-1、ENSONIQ ASR-10、あとE-MUものも使っている。特にFZ-1のフィルターが素晴らしいよ。シンセはCLAVIA Nord Modularがお気に入りだ。フィルターがすごくいいし、大掛かりなアナログ・モジュール・シンセでないとできないような複雑なパッチをリアルタイムで走らせことができるからな。ほかにもCLAVIA Nord Lead、ROALND MC-202、Juno-106、YAMAHA  DX100、DX7、TX81Zなども使っている。コンピューターはMacintosh、Windows両方持っていて、主にシーケンス・ソフトを使っているよ。


■シーケンス・ソフトには何を?


ショーン  主にCYCLING'74 Max/MSPを使っている。Max/MSPは一から何かを作るのに適しているし、余計なセオリーとかの心配もしなくていい。パッチ内のデータをクリエイティブに動かすことができるから、俺らの制作にとって理想のバランスを持ったシーケンサーだと言えるよ。ただ、いろんな選択肢を持っていた方が制作に制限を無くすことができるからEMAGIC Logic、STEINBERG Cubase、MARK OF THE UNICORN Digital Performerといった他のシーケンス・ソフトも使うようにはしている。それぞれのソフトが持っている長所や利点をうまく使い分けているんだ。あと、Max/MSPではシーケンスだけでなく、エフェクターなんかのパッチを作って、CYCLING'74 Pluggo経由でシーケンス・ソフトのVSTプラグインとして使っているよ。


■Max/MSPではシーケンスの自動生成を行ったりしますか?


ショーン  いいや。このアルバムではMax/MSPや他のソフトでもフレーズの自動生成を行うことはしていないよ。確かに『コンフィールド』では多用していたが、"自動生成の世界"を克服して消化することができたんだ。つまり自動生成という方法を使っていながら、俺たちが望んだ通りに音を制御できるようになったのさ。その反動で、最近は曲のアレンジメントにすごくこだわっているんだ。自動生成するフレーズには数学的な意味でアレンジメントと流れはあるんだけど、計画性は無いからね。信じられないかもしれないけど、今回はすべてのフレーズをプログラミングしているんだ。あと、自動生成と同じようにパッチなどのパラメーターにランダムな要素を持ち込むこともやってない。1つの音がどんなに変貌するか試すのに使ったりはするけど、1週間も聴いていると頭がおかしくなりそうになるからな。ランダムな要素を元にして作ったサウンドは、聴いたことのないような素晴らしいリズムを生成するかもしれないが、あとで絶対に復元できないんだ。どんなに労力を費やしてもその音は戻ってこない。それよりも理解できるパラメーターを入れた方がいいと思う。例えば"LFO波形がビートをヘンな感じで同期させる"といったある程度制御できるものは面白い。最終的に設定されたアルゴリズムがあって、その出発点までさかのぼって再現できることに価値があると思うようになったんだ。






ドラスティックな音を出したい場合は、アナログ機材がデジタル機材に勝るよ


■"アレンジメントにこだわった"ということですが、それはシーケンス・ソフト上でのプログラミング作業になるのですか?


ショーン  そう。既にパッチがシーケンスを作り出すことには興味はないんだ。だからこのアルバムではアレンジを含め100パーセント満足するまで細かな編集を行っているよ。しかも、数学的な要素も減らし手動でデータを入力するようにしているんだ。そういう意味で前作より作業の手間は多かった。過去3年くらいの間、コンピューターのソフトウェア・エンジニアリングについて俺らなりの経験を蓄えてきた。その結果、どんなツールを作ればいいのかも完全に分かってきたんだ。だからこそ今は作曲することにより重点を置くことにしたよ。


■ミックス・ダウンもコンピューター上で行っているのですか?


ショーン  そうすることもあるが、ほとんどアナログ・ミキサーでやっているよ。やっぱりアナログの方が音の輪郭を魅力的に変えられるからな。ただ、コンプレッサーなんかだとコンピューターのプラグインの方がいい音に仕上がることもある。でもEQやフィルターに関しては断然アナログ機材を使うことが多いよ。俺らのスタジオにはミックスに使う変わったアナログ機材がたくさん用意してあって、パッチ・ベイでつなぎ変えられるようにしているんだ。


■最終的なレコーディングは何に落としているんですか?


ショーン  コンピューターのハード・ディスクにレコーディングすることが多いな。コンピューターが2台あるから、1台をマスターにして、アナログの機材を通してもう1台にレコーディングしていくんだ。あとコンピューター内でミックスまでした場合は、コンピューターのアウトからADAT、DAT、CD-Rに直接録音することもあるな。


■それぞれの曲についても教えてください。例えば、「6ie.cr」のリズムは、ショート・ディレイがかかったような過激なサウンドですが、どのようにして作っているのでしょう?


ショーン  あれは以前からやってるテクニックで、デジタル・ディレイでやっているよ。アルゴリズムでピッチをいろいろと変えてるんだけど、詳しいやり方は企業秘密だな(笑)。


■「tapr」のベースなどで聴かれる小刻みなフィルターも面白いですね。あれはどのように?


ショーン  オーディオ・ファイルをコンピューターでプロセッシングしたり、Nord Leadやアナログ・シンセでジェネレートしたり、いろんなやり方でできるよ。コンピューターの処理能力を超えた場合は、アナログ機材でやるようにしている。ただ、FM音源サウンドなんかに言えることなんだけど、デジタル機材ではなくアナログ機材にしか出せない音があるんだ。ドラスティックな音を出したい場合は、アナログ機材がデジタル機材に勝ることが多いね。


■「surripere」では、シンセ音をブレイクビーツのように使っていますね。


ショーン  あれはいろんなプロセスのコンビネーションで作られているんだ。元になるオーディオ・サンプルは過去に作ったサウンド・バンクからチョイスしているよ。そこにはマイクで録った音、Max/ MSPのパッチで作った音、テレビやビデオの音、アナログ・シンセの音など何でもある。普段は自分たちで作ったもの以外からサンプリングすることはまれだけど、場合によってサンプリングした素材を使うこともあるね。


■また同じ曲で、リズムがシーケンサーに制御されたり開放されたりと不思議な動きをしますが、あれはどのようにやっているのでしょう?


ショーン  あれはシーケンス・ソフトでサンプルをトリガーに鳴らしているだけだ。普通にMIDIプログラミングしたものだね。一歩進んでクリエイティブなことをしたいときは、シーケンサーを使って細かなプログラミングを行うようにしているよ。


■「tapr」の最初の部分に定位がずれて面白い部分がありますが、どのようなことを行っているのですか?


ショーン  全部教えたら困っちゃうな(笑)。あれはただプラグインでやったか、アナログ・フェイザーを使ったかどっちかだな。恐らくステレオ・チャンネルで、どちらかのスピードを変えてやったんだろう。よく覚えてないよ。


■では、最後に今後の活動について教えてください。


ショーン  『ガンツ・グラフ』で映像監督をしていたアレックサンダー・ラッターフォールドと再びコラボレーションするよ。彼の映像作品にサウンドを提供するんだ。あと、他のミュージシャンから声をかけられているから、そこでもコラボレーションすることになりそうだよ。今言えるのはハフラー・トリオのアンドリュー・マッケンジーとのものだ。


draft.jpgDraft7.30 『Autechre』


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