スクエアプッシャー 発掘interview【2】 〜 WARPレコーズ特集

「必要最低限の機材で音楽を作るというのが常に僕のテーマなんだ」 (トム・ジェンキンソン/1998年インタビュー)

「必要最低限の機材で音楽を作るというのが常に僕のテーマなんだ」 (トム・ジェンキンソン/1998年インタビュー)

『ハード・ノーマル・ダディ』後、狂気と桃源郷が交じった高速ブレイクビーツの傑作EP『ビッグ・ローダ』を発表したスクエアプッシャー。次に彼が向かった道は、生演奏を多用した実験的なサウンドだった。その心境が赤裸々に語られた1998年のインタビューだ。


[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン1998年11月号のものです]


ドラムンベースとジャコ・パストリアスばりのベース・プレイを融合させたサウンドで、一躍脚光を浴びたスクエアプッシャーことトム・ジェンキンソン。精力的な活動を続ける彼が、早くも4枚目となるアルバム『ミュージック・イズ・ロッテド・ワン・ノート』を完成させた。これまでとはがらっと変わって打ち込みを廃したそのサウンドは、1970年代のエレクトリック・マイルスを彷彿とさせる仕上がりとなっている。すべての楽器を1人で演奏したというこの新作のレコーディングはいかなるものだったのか?  早速インタビューしてみた。


シーケンサーとサンプラーは使わない......新作で決めていたのはそれだけだよ


■今まで電子楽器でのプログラミング主体の曲を作っていたあなたが、今回のアルバムで生演奏の曲を中心にしようと思ったきっかけは何ですか?


トム  『ビッグ・ローダ』で、僕はできる限りのことをやって、すべての面において10点満点の究極のブレイクピーツ・アルバムを作れたと思うんだ。最高に狂ったものに仕上がった。だからその後、そういう音を追求することが時間の無駄のように思えてしまったんだ。


■新しいチャレンジが必要だったと?


トム  全くその通り。また新しいことを始めたかった。それが今回楽器を自分ですべて弾くという形で現れたんだ。アルバムを作る際、特に細かいことは何も考えていなかった。唯一決めていたのは、シーケンサーとサンプラーは使わないということだよ。


■フリー・ジャズのような曲調ですが、何か影響を受けたアーテイストなどがいたのでしょうか?


トム  このころ1960年代半ばのジョン・コルトレーンを特によく聴いていたので、アルバムへの影響もすごくあったんじゃないかな。彼の音楽には60年代の半ばぐらいから、スピリチュアルなものが強く出ていた。今の音楽にはそういうスピリチュアルなところがないと思う。みんなもっとうるさくて、アグレッシブで、技術的にうまくなることしか考えていないように感じる。スピリチュアリティとはほど遠い。そしてそういうスピリチュアリティの大半がアドリブからくると思うんだ。アドリブをしていると、神様と交信しているような気になる時さえあるよ。


■今回、すべての楽器を演奏したとのことですが、ドラムやベースのほかにどんな楽器を演奏したのですか?


トム  至って普通だよ。ドラム、ベース、RHODES、ピアノ、いろんなパーカッション、後はROLAND SH-101とKORG MS-20を使った。


■前からこれらの楽器は弾いていたんですか?


トム  うん。でも、そんなにはやっていなかったけどね。いや、そんなことないや。嘘を言っているよ、結構弾いていた。このアルバムのように弾けるレベルではなかったけど、本作を作るにあたってどんどんのめり込んでいったんだ。


■電子音楽を通過する前と後では、生楽器や生演奏に対する考え方は変わりましたか?


トム  いや、そんなことはないよ。生楽器や生演奏はずっと好きだったし、常に僕の中では最も大切な位置にあるものなんだ。電子音楽ももちろん好きなんだけど 、生楽器に勝るものはない。


■今回のアルバムの制作はどのように進められたのでしょうか?  やはり自宅で作ったのですか?


トム  そう、家でやった。以前プログラミングをしていたところを今回は全部自分で演奏したからね。前回と作り方はすごく変わった。まずドラムをアドリブでたたくことから始まり、それをMacのSoundEdit16を使って所々編集してから、その曲自体がどのような構成で、どのような雰囲気なのかを感じ取る。一生懸命何回も何回も聴くんだ。曲を書くときに一番大切なのは、自然の流れに合わせること。その曲が自ずと形を表してくるから。だから、まずドラムの昔をじっくり聴くんだ。そして、こうしたらいいんじゃないかとか、ああしたらきっと合わないなとか考えていくと、曲の構成が自然に頭の中に浮かんでくるんだ。それで他の楽器を重ねていった。今回の曲はみんなそうだったよ。


生ドラムのレコーディングには、1 本のマイクしか使わなかった


■録音機材は何を使いましたか?


トム  ドラムの編集に使ったSoundEdit 16以外には、FOSTEX A-80とB-16という8トラックと16トラックのアナログMTR、MACKIE.の24チャンネル・ミキサ一、後はFENDERスプリング・リバーブ、BOSSのデジタル・リバーブなどだよ。MUTRONICSやKORG MS-20のフィルターもベースに使ったな。


■これらは以前の作品のときにも使っていたのでしょうか?


トム  基本的にはね。でもMACKIE.の卓とB-16とMUTRONICSのフィルターは初めて使った。今回はやはり生楽器を使ったということが一番の違いだね。


■ギターも含め、エフェクトは録音時にかけてしまうのでしょうか?


トム  いや、今回は録音はクリーンに録って、ミックスする段階でエフェクトをかけたんだ。生楽器をまずクリーンな形でテープに録音して、ミックスでいろいろ実験するというのが、そもそものポイントだったんだ。


■ドラムはどのようにして録ったのですか?


トム  マイクは1本しか使っていないよ。オーバーヘッド・マイクを1つ使っただけ。部屋のドアのコートかけに付けたんだ(笑)。それだけ。


■マイクは何を使ったのですか?


トム  半分はSHURE Prologueというひどいマイクを使った。自分でもどうやって良い音を出せたのか分からないよ。残りの半分はSHURE SM57を使った。すごくベーシックなレコーディングだったよ。今回はベーシックなセッテイングでどこまでできるかという実験でもあったんだ。必要最低限の機材で音楽を作るというのが、常に僕のテーマなんだ。今までの作品もそうやって作ってきたからね。だから1本しかマイクは使わなかった。「1つのマイクでどれだけできるんだろう?」とか「1つのマイクで良い音が出せるんだろうか?」って考えたんだ。だって昔のジャズのレコーディングは1本のマイクでやっていたわけだろう?  それで良い昔が出せているんだから。それに1本のときの方が、1つずつのドラムにマイクを別々に付りるより良い場合が多いんだ。ドラムを実際聴くとき、各ドラムの音が別々に聴こえるんじゃなくて、1つの音が聴こえてくるわけだから。


■あなたにとって、そういったレコーディングやミックスのやリ方も1つの挑戦だったのてすか?


トム  そうなんだ。機材に頼らずに演奏自体に集中せざるを得なくなるからね。最低限の機材しかなければ、それがありさえすればよくて、余計なことに気をとらわれずに済むから演奏に集中できる。そしてミュージシャンにとってそれって大切なことだから。中にはドラムのEQに4時間もかける人がいる。僕からしてみれば全くポイントがずれていると思うんだ。





アルバム・ジャケットに写っているのは、自作のプレート・リバープなんだ


■ドラムは重ね録りをしたんでしょうか?


トム  いや、1回だけだよ。


■そうなんですか。そうは聴こえないですね。


トム  変わったフェージング・エフェク卜をかけたんだ。テープ・レコーダを使って同じドラムの音をタイミングをずらして使ってみたんだ。だから基本的にはワン・テイクでドラムを録って、その後2〜3回、良いフェージング・エフェクトを出すのに別のテープ・レコーダーに録音して粗くシンクさせたり、テープ・レコーダーのスピードを変えることによって時間をずらすんだ。


■随所で聴かれる宇宙音やロボットのようなSEはどのようにして作ったのですか?


トム  これもテープ・レコーダーで遊んでいたらできちゃったんだ。変な録音や、早送りなどのテープ・レコーダーの昔なんだよ。今回はテープ・レコーダーに結構はまったな。いろいろやると、テープ・レコーダーってなかなか個性的で、他にはないような音が作れるんだ。


■今回テープ・レコーダーを使うことはあなたにとって貴重な発見だったわけですか?


トム  そうだね。このアルバムを作るにあたってとても重要な役割を果たしている。楽器として発見できたことは最高だった。ただ録音するための機械ではなくて、もっといろんなことができるんだ。


■他に今回新たに発見した機材はありましたか?


トム  実はアルバムのジャケットに写っているのも僕が作ったリバープの機材なんだ。鉄のプレートにスタンドとマイクとスビーカーをくっつけただけなんだけどね。プレートに付けられたスビーカーから音を出して、その音がプレート全体を響かせて、マイクがそのエコーがかかった音を拾うんだ。深みのある昔ができる。見た目もかっこいいしね。だからアルバムのカバーにも使ったんだ。こんなに満足のいくアートワークは初めてだよ。きっと自分で最初からやったからだろうね。これからは全部自分でやろうと思っているんだ。


■ミックス・ダウンはどのように進めましたか? リアルタイムでEQやエフェクトをかけたりしたんですか?


トム  いや、全部ステップ・パイ・ステップでやっていった。まず生楽器をクリーンな形で8トラックMTRに落として、いろんなエフェクトをかけながら、徐々に積み重ねるように8トラックから16トラックにミックスしたんだ。


■生楽器のミックスと電子音楽のミックスで異なる点は何だと思いますか?


トム  生楽器のミックスはもっとゆったりしているような感じ。それと生楽器の方が予想しにくいよね。電子音より生楽器の方がより音のダイナミクスを変えられると思う。だからもっと遊ぶものができてやっていて楽しいんだ。今回のミックス・ダウンの作業は前に比べるとはるかに楽しかったね。いつもだと30分くらいで終わるんだけど、今回はもっとやらなければいけないことがあったから随分時間がかかった。レコーディング自体はアドリブでやっちゃうから、1日か2日ぐらいで完成したんだけど、ミックスは複雑だったからもっと時間がかかった。でも楽しかったよ。


■今回のアルバムで今までの作品を聴いていたリスナーはかなり戸惑ってしまうと思うのですが、そういったことは意織していますか?


トム  うーん、そうだね、意識してはいなかったけど、決まり切ったことをやるのはつまらないじゃないか。僕はもっと狂った、次に何が来るか予想できないような曲を作っていきたい。そしてそういうものを生み出すには、リスクを負わなくてはならない。僕自身も、もしかしたら今作で僕の音楽キャリアは終わってしまうかも、って思ったんだ。聴く人みんなに「何だこれ!?」と言われておしまいになっちゃうんじゃないかと(笑)。


■今後の活動予定を教えてください。


トム  昨日からまた曲作りを始めた。アルバムじゃなくて6曲入りのEPにしようと思っている。後はリミックスをやるんだ。アメリカのヒップホップのアーティストなんだけど 、名前は忘れちゃった。でも面白そうだろう?



Music Is Rotted One Note .jpgSquarepusher 『Music Is Rotted One Note』


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