
インテリジェントなテクノをテーマとしたWARPの「Artificial Intelligence」シリーズ。ポリゴン・ウィンドウ(=エイフェックス・ツイン)やオウテカも参加しいたこのAIシリーズから1992年に『Ginger』を出したのが、オランダのDJ、スピーディJ。アンビント・ハウスな作風で人気を博した彼の来日インタビューだ。
[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン1994年12月号のものです]
オランダ生まれのスピーディーJことジョヘム・パーム。プラス8レーベルから多数の作品を出しているほか、パブリック・エナジー、カントリー&ウエスタン名義でも活動中。一昨年前に発表された『Ginger』や、ビョークのリミックスなどを聴いて、その絶妙な音作りとセンスに魅了された人も多いはずだ。そんな彼が去る9月30日、渋谷ビーム・ホールで行なわれたサブライム・レコード主催のイベントに出演するために来日した。同イベントでは彼のほかにヨシヒロ・サワサキ、ススム・ヨコタ、ケン・イシイが参加して話題を呼んだ。それでは、ライブ後に行なったインタビューをお届けしよう。
コンソールのEQを使って、面白いフィードバック効果を出すんだ
■昨日のライブは、あなたとあなたのガールフレンドとの2人でやっていましたね? それぞれの役割を教えてください。
ジョヘム 彼女はROLAND Juno-106をリアルタイムでモジュレーションしている。このJuno-106はALESISのシーケンサーMMT-8でコントロールされている。僕はミキシングを担当しているんだ。
■リズム音源は?
ジョヘム ROLAND R-8はもちろんリズム・マシンとしても使っているが、シーケンサーとしても使用しており、TR-909とAKAI S1100のMIDI信号を送る役目を果たしている。S1100の中はほとんどパーカッション系のサウンドが入っているよ。
■AKAI DR4dも使っていましたね?
ジョヘム あまりにも音源の数が多過ぎたので、今回はDR4dを持ってきたんだ。その中にはシンセやリズムのループが入っていてコンソール側で出し入れしている。DR4dはマスターで、ビート・マップを作ってテンポ・チェンジを入れるなどしてすべてをコントロールしている。非常にフレキシブルなシステムだが、その場に応じて長いアンビエントなイントロで少しずつ盛り上げていくこともできるし、最初からビートを入れていくことも可能なんだ。ただ、唯一の制限はdr4dに入っている曲が、例えば200小節分だったら、そこで終わらなければいけないということさ(笑)。
■ライブのコンソールは?
ジョヘム 僕は日本でライブをする上で要求したものは16chでパラメトリックEQが付いているもので、その条件を満たしていれば何でも良かったんだ。ちなみに僕のホーム・スタジオではALLEN & HEATH GS3を使っているよ。
■かなり細かくEQをいじっていましたね?
ジョヘム 今回エフェクターはALESIS Midiverb IIを使っているんだが、それを使って非常に面白いサウンド効果をコンソール側で作っている。つまりAUXでセンドしてチャンネルにリターンし、チャンネル側のAUXをさらに上げてフィードバックをかける。ただフィードバック・ループになるちょうど手前に設定しておいて、EQはフラットにしてすべてカットした状態にする。そして、EQのいろんな周波数をリアルタイムにブーストしたりカットしたりしていくと、スペイシーなフィードバック効果が得られるんだ。それらのサウンドはライブの間、至るところで使っていたよ。とても絶妙なセッティングだが、ライブでは効果があるね。
■そういったものはアルバムの中でも使ったりしているのですか?
ジョヘム 今度出るアルバムでは、曲と曲の間に音源を1つも使わずにリバーブのフィードバックのフィルをたくさん入れているよ。それは今言ったこととと似ていてAUXにセンドし、チャンネルにリターンしてLO-MIDとMIDのEQでフィードバックさせると、クジラの鳴き声と、マイクのフィードバックが合わさったようなサウンドになるんだ。
■ライブでのエフェクターはMidiverb IIだけ?
ジョヘム うん。今回はそれしか使っていないな。もちろんDR4dに入っているサウンドにはエフェクト処理は施しているけどね。
■このセット・アップは昔から変わっていないのですか?
ジョヘム いや、以前はもっと複雑なセットアップでやっていたこともあった。でも、それより前は非常にシンプルで、TR-909とTB-303とサンプラーだけでやっていたこともある。DJをやっていたころも、TR-808とTB-303などを併用してシーケンサーのテンポにレコードを合わせてプレイしていたんだ。
■昨日のライブを見た限りでは、ラフなところは全く無く、非常に細かく操作していたという印象を受けたのですが。
ジョヘム 完成された作品をミックスしてライブするときは、曲の良い部分をなるべく生かしたいからとても細かく、注意深くやるように心掛けている。でも曲を作っているときは、小さくまとまらないように大胆な手法を取り入れている。その点『Ginger』は、打ち込みがあまりにも細かくなり過ぎて元のフィーリングが失われてしまったところがある。今ではその点を後悔しているんだ。
シーケンサーにしても、デジタルとアナログを併用しているんだ
■次に家での作業について聞きたいのですが、自宅にホーム・スタジオがあるんですよね? そこでの作業を教えてください。
ジョヘム コンピューターはATARIでソフトにはCubaseを使っている。ただ僕の場合、それがシステムの中心にはならないMMT-8も使うし、ROLAND System-100Mの182というアナログ・シーケンサーも使っている。それを16ステップ分鳴らしながらリアルタイムにエディットしていくんだ。これはタンジェリン・ドリームが昔やっていたのと同じやり方だね。基本的には僕はアナログもデジタルも併用して作業していくんだ。
■あなたはスピーディーJのほかにもパブリック・エナジーやカントリー&ウエスタン名義で作品をリリースしていますよね。それぞれの名義でのサウンド的な違いはあるのでしょうか?
ジョヘム スピーディーJとして出す作品では、実験的なサウンドをいつも心掛けている。パブリック・エナジーはもっとシンプルでハードなサウンドを出している。カントリー&ウエスタンはいつも違うアーティストと一緒に作っているので、僕個人のサウンドと区別しているんだ。
■ミックス・ダウンのとき、かなりフェーダーを操作していく方ですか?
ジョヘム どちらもあるな。完璧にプログラミングしてスイッチを押せばいいだけという場合もある。逆に、例えばパブリック・エナジーの最新のシングルでは、バスドラとハイハットとTB-303のみの単純なサウンドなんだけど、それをライブ感覚でミキサーで混ぜ、9分間の長い曲を作っている。
■計画したフォーマット通りではなく、偶然性を期待したサウンド作りをするときはありますか?
ジョヘム 機材を適当にいじって、たまたま良いサウンドを得て、曲を作っていく人たちはかなりいるよね。だけど僕はそうした方法をメインにはしない。もちろん考えていることよりも素晴らしいアクシデントが起きたらそれを利用するが、僕にはいつもしっかりしたコンセプトが頭の中にあるんだ。
■そのコンセプトとはどういったものなのですか?
ジョヘム すごくビジュアル的なものだ。色や形など、絵には描けないけれど、それを音として表していこうとするんだ。
■一般に曲を作る場合、どのくらいの時間を要するものなのですか?
ジョヘム 短くて15分、長くて2日だね(笑)。例えば「Something for Your Mind」は15分で作っている。そんな風に聴こえるだろ(笑)?
■あなたの代表曲の一つ「Pullover」は?
ジョヘム 1時間くらいかな。あの曲はどういうサウンドにするか完全に頭の中にあって、TR-909のリズムとシンセのリフ1つで作っている。その後テープを切り張りして編集しているんだ。
■とにかくあのリフが印象的ですよね。
ジョヘム 実は、あれはROLAND U-220のプリセット音をそのまま使っているんだ(笑)。確か「Syn-Bass」の5番だったかな。U-110にも入っているサウンドだよ。
■来年リリース予定の新作(『G-Spot』/1995年)はどんなサウンドなのですか?
ジョヘム 一言で言えば、ガッツがあってエネルギッシュなサウンドだよ(笑)。今までのアルバムはずっと体を壊していて体調が不十分だったんだ。でも、今は完全に回復しているので期待してほしいな。