オウテカ 発掘interview【2】 〜 WARPレコーズ特集

「僕らにとっては、メロディアスな曲を作ることが非常に実験的だった」 (ショーン・ブース/1999年インタビュー)

オウテカ発掘インタビューその2は、1998年暮れにリリースされた『LP5』。グリッチ・ノイズは減少し、メロディアスなパートが増えた作品。とりわけ「rae」は今も人気のナンバーといえるだろう。ショーン・ブースのインタビューをお届けする。

 

[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン1999年3月号のものです] Translation:Hashim Bharoocha

 

イギリスにおけるテクノ・スタンダードの一つとして、実験性を持ったリスニング向きの音楽がある。その代表的存在と言えるのが、自宅スタジオですべてを完成させてしまうショーン・ブースとロブ・ブラウンのユニット=オウテカだ。5枚目のアルバムとなる『LP5』は、激情的なリズムとメランコリックなメロディの対比が美しいアンビエント作品。もはや円熟味までをも感じさせるこのアルバムについて、ショーンにインタビューを試みた。

 

目的を決めるやり方よりも、自然発生的な部分に魅力を感じるね

 

■今回のアルバムは、以前と比べあなた方のポップな部分、ユーモラスな部分が前面に出ていると思いますが、その辺りは意織しましたか?

 

ショーン  確かに僕らがリリースしたものの中で、今回が一番聴きやすいかもしれないね。でもどうだろう。ある意味、これはポップではないんだよ。戦略的に言えば、ここまでメロディアスな音楽をリリースするのはマズかったと思うんだ。メロディアスにしなければ、もっとレコードが売れたと思うしね。でも僕らは自然と、前作『キアスティック・スライド』の延長線上で作るより、全く違うことをやった方がいいと思ったんだ。

 

■『キアスティック・スライド』と比較すると、実験的なものをそのまま提示するのではなく、うまく楽曲に組み込んでいるように感じますが。

 

ショーン  いや、違うな。このアルバムの方が自分たちにとって実験的なんだ。僕らにとって、メロディアスな曲を作ることが、かえってすごく実験的なことなんだよ。純粋に数学的な音楽......『キアスティック・スライド』みたいな音楽の方が普通なんだ。もちろん『キアスティック・スライド』の次なるステップはいつかやらないといけないんだけどね。まだ人前に出していない曲がたくさんあるんだよ。

 

■アルバムの制作期間は?

 

ショーン  制作期間は1年だったけど、実際にレコーディングしたものの4分の1しかリリースしていなんだ。僕らは常に曲作りをしていて、契約でリリースしなきゃいけない時期が来ると、曲をコンパイルし始めるんだよ(笑)。いろんな曲をコンパイルしていると、どれとどれが合うかが見えてくる。または、ある曲の後に別の曲を入れると、順序的によく聴こえてくるから、それでどの曲を使うかが決まってくるんだ。時々いい曲を省かないといけないから、フラストレーションを感じたりするけど、他の曲とフィットしなきゃダメなんだ。

 

■曲の制作プロセスを教えてください。

 

ショーン  いや、基本的なプロセスはないんだ。出発点というのはないし、決まった視点さえもない。実験していると出発点が自然と出てくるから、自分の心の中からアイディアを出す必要さえないんだ。制作プロセスの中で、アイディアと呼べるものにぶち当たるんだよ。僕たちはそういった自然発生的な部分に魅力を感じていて、目的を決めることに興味がない。目的を決めてしまうやり方は、制作をするに当たってすごく有害だと思うよ。今まで知っていた概念を再利用しているだけだからね。僕らの場合は、知っている概念を使いたいんじゃなくて、何を発見できるかが重要なんだ。

 

SuperColliderやMaxで、シーケンサーなどを作っている

 

■自宅スタジオの機材は前のアルバムから変化しましたか?

 

ショーン  1994年から95年まではロブと一緒に住んでいたから同じ機材を使っていたんだけど、今は一緒に住んでないんだ。でも、機材の量は増えて、2人で同じ機材を持っていたりする。シンセ、サンプラーなどは基本的にすごくベーシックな機材しか使っていない。前のアルバムに比べると、機材はそんなに変わらないよ。

 

■サンプラーは何を使っているのですか?

 

ショーン  ENSONIQ ASR-10。これを使っているのは、何だか計算機を使うのと同じような、すごく原始的でベーシックな要素があるからだ。サンプラーのエフェクターを使って格闘するのが好きなんだよ。ちなみにロブもASR-10を持っているよ。

 

■ほかのベーシックな機材は?

 

ショーン  YAMAHAのシンセではDX100を主に使っているけど、友達からDX7とTX81Zを借りて時々使う。ROLANDの古い機材......CR-8000、TR-606、MC-202、Juno-106、R-8なんかもずっと前から持っていて、気分が向いたときに今でも使うんだ。CLAVIA Nord ModularやNord Leadとかも使うね。コンピューターは2台あって、APPLE PowerBookとIBMのノート、それから大量のソフトウェアを使用する。今回のアルバムはコンピューターが元になった作曲法だったんだ。

 

■ソフトウェアは何を使っているのですか?

 

ショーン  自分たちでプログラムを書いたりしているね。市販のソフトは大体同じだから、あまり買う気にはならないんだ。大半はSuperColliderとかMaxなどのプラットフォームで、シーケンサーを作っている。今回のアルバムのメロディは、通常のシーケンサーを使ったのではなく、ジェネレーテッド(自動的に生み出される)シーケンシングとまでいかないけど、メカニカル・シーケンシングを使ってみたんだ。つまり、僕らがコンピューターの中で使ったシーケンサーで、僕らが設定したルールの中でメロディが発生するんだ。そのルールを変えていくことによって、メロディが変化していくのさ。例えば、画面上に20個のフェーダーがあるように設定して、それらがある音のリズム、またはメロディの要素の変化を来たすようになっているんだ。「arch carrier」がその一例で、僕らが書いたソフトがメロディを生み出していたんだ。

 

■それはMax上で書いたソフトなのですか?

 

ショーン  一部はね。Logicで書いた個所もあるよ。Logicには、シーケンサーに新しい機能を加えるページ(エンバイロメント・ウィンドウ)があるんだ。最初にジェネレーテッド・シーケンシングをやったときはLogicを使っていたんだけど、その後にいろんなプラットフォームを試して、今はMaxを多用している。いろんなプラットフォームがあるから、同じ目的地にたどり着くには20くらいの道のりがあるんだ。

 

■ミックス・ダウンもコンピューター上で行なったのですか?

 

ショーン  いや、僕らはアナログ・ミックスしかやらない。デジタルEQは時々使うし、幾つかのいいデジタルEQは持っているけど、ミックスをするときはアナログ卓の方が断然好きだね。コンピューターでミックスするより、中にビールのたまった古いアナログ卓の方が好きなんだよ(笑)。デジタル卓は嫌いだ。クソだと思うよ。音が良くない。

 

 

  

生の音をサンプリングしても、そのまま使っては意味がないんだ

 

■以前のインタビューでは、あなた方は「サンプラーの枠を打ち破るような音作りをしている」とおっしゃっていましたが、今回はどんなサンプラーの使い方をしましたか?

 

ショーン  このアルバムでは、サンプリングには聴こえないけど、実はサンプリングの部分が多いんだ。アナログっぽく聴こえるんだけど、実はサンプリングの部分とかね。ENSONIQサンプラーの中のDSPチップにはかなり可能性があるんだ。さらに僕らのENSONIQは、知り合いに頼んでOSを書き換えているから、かなり面白いことができるよ。エフェクトも簡単に書けるんだ。フィルター、リング・モジュレーター、リバーブとか、時間軸を使うエフェクトは何でも簡単に作れるね。

 

■サンプリングする素材はどんなものが多いですか? フィールド・レコーディングが多い?

 

ショーン  フィールド・レコーディングはいつもたくさんやっているよ。でも、そのまま使うのではなく、波形をそこから抜き取るためにやっているんだ。例えば、鉄をたたいている音を録音してきて、それをサンプリングしてそのまま使うのではなく、鉄をたたいている音の倍音だけを取ったりする。生の音は、自分独自の音にならないから、そのまま使っても意味がないと思うんだよ。アルバムの中で一番分かりやすいサンプリングの曲は、「caliper remote」かな。サンプリングしてものをシンセサイズして、かなりビートを作るのに手間がかかったね。そこまで手間がかかったように聴こえないんだけど、実は今まで作った曲の中で一番大変だったかも。最近気に入っているのは、すごく複雑なんだけど複雑に聴こえないものを作ることなんだ。1小節にどれだけ音が多いかじゃない。曲作りを始めたときから、僕らは数学的な意味合いの複雑性を理解していたと思う。音が多い複雑性は、単にデータが多いだけということに僕らは早くから気付いていたんだ。今は、空間の使い方を気にしてミニマルにしている。でもまた来週になれば気が変わると思う(笑)。

 

響きや定位にはすごく興味があるけど、最近は少し抑え気味にしている

 

■少し各曲についてお聞きします。まず「acroyear 2」のリズムは音数が多くてとてもユニークですが、どのように作っているのですか?

 

ショーン  確かMaxを使ったんだと思う。よく覚えてない(笑)。リズムの大部分は、Maxから自動的に発生しているんだよ。Max上で作ったリズム・デバイスを使ったんだ。中核となるリズムが同じことをしているんだけど、そこから別のリズムが発生するように設定されているのさ。

 

■「rae」や「fold 4, wrap 5」では派手なテンポ・カーブがありますが、どうやっているのですか?

 

ショーン  よく聞かれる質問なんだよね(笑)。なんでみんなやり方が分からないんだろう。「rae」では、ジェネレーテッド・シーケンシングを使ったんだ。でもこのテンポ・カーブを作るのにはすごく時間がかかったから、何を使ったか言いたくない(笑)。ただ、みんなが思っているより安い機材を使っているよ。コンピューターはあまりこのこの曲では使っていなくて、その個所を作ったのは機材の値段で言うと500ポンド(当時:約10万円)くらい(笑)。だから実はあまり難し言いことじゃないんだ。

 

■「voce in」は途中からシーケンスが崩れてグチャグチャに音が加工されますが、これはどのように作ったのでしょうか?

 

ショーン  コンピューターとカセット・デッキで。テープ・ディレイも使った。それ以上は教えない(笑)。

 

■「under BOAC」には声が入っていますが、どのような加工がなされているのですか?

 

ショーン  もともとは、男の子の声だった。ほとんどのエフェクトは、リング・モジュレーダーなんだよ。ディレイもちょっと使っている。オーディオ・ファイルをプロセスして、時間が経ってからまたプロセスして、その過程が何度か続いたから本当によく覚えてないんだ。

 

■定位の違いを利用して面白い効果を出していますが、それは意図しているものなのでしょうか?

 

ショーン  当然だよ。ディレイを使うだけでも定位は重要で、左右で違うディレイ・スピードを使ったりすると面白いんだ。あと、1997年にリリースしたEP「Sickly Sweet」には、遊びでモノ・トラックを入れたんだ。音を聴いていて、物理的な空間を感じられないのは結構面白い概念だと思うんだよ。でも今回のアルバムは、以前ほど定位感を出していない。最近は、音の定位というよりも、音自体によって空間が感じられるんだ。響きとか定位にはものすごく興味があるんだけど、最近は少し抑え気味にしようとしている。今回は他の作品に比べると、EQ、エフェクト、定位の要素が一番少ないんだ。

 

■こういった実験的な音楽を作るユニットで、あなた方ほど安定したリリースを続けている人たちは少ないと思うのですが、これまで続けることができた原動力は何だと思いますか?

 

ショーン  多分、自分たちで作った音を聴くのが、最も大きな原動力になっていると思う。それくらいだな。自分たちで聴いて面白いものを作るのは、ほかの音楽を聴くより面白いんだ。僕らが住んでいる地域では、あまり面白いレコードが手に入らないしね。音楽シーンで何が起こっているのか知らないと、かえって自由になれるんだよ(笑)。

 

■最近はどんな曲を作っているのですか?

 

ショーン  この5枚目のアルバムは1年以上前に制作したものなんだけど、それ以来結構違うものを作っているんだよ。今まで通りランダムに曲を作っているから、一貫して特定のタイプのものではないんだ。ちなみに最近は、ジョイ・ディヴィジョンをよく聴いている(笑)。少なくとも今はね。

 

LP5.jpgAutechre 『LP5』

 

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