オウテカ 発掘interview【1】 〜 WARPレコーズ特集

「僕たちは、自分たちのサウンドにあまり影響しないようなマシンが好きなんだ」 (ロブ・ブラウン/1997年インタビュー)

WARPアーティスト発掘記事の第二弾はオウテカ1997年インタビュー! 今もWARPの看板アーティストとして君臨する彼ら。ストイックに音を紡いで作り上げた4thアルバム『キアスティック・スライド』の制作に迫った記事だ。

 

[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン1997年6月号のものです]Translation:Yuko Yamaoka

  

ハード・テクノ全盛の1992年、WARPが新機軸として提示したリスニング・テクノ・コンピ『アーティフィシャル・インテリジェンス』参加組の中で、エイフェックス・ツインとともに現在までコンスタントにリリースを続けているオウテカ。通算4作目となるアルバム『キアスティック・スライド』でも徹底してシリアスなサウンドを貫き通している。そのサウンドはどのように生み出されているのだろうか? ヨーロッパ・ツアー中の2人のメンバーのうち、ロブ・ブラウンに電話インタビューを試みた。

 

シンプルで効果的な音になるように、ライブ操作を重ねて作ることもあるね

 

■オウテカ結成のきっかけを教えてください。

 

ロブ  僕とショーン(ブース)は10年前に友人の紹介で出会ったんだ。そのときには、2人ともエレクトロやヒップホップが好きだったね。一緒に他人のレコードにドラムをミックスしてみたり、他人の音楽のサンプルなどをしてみた。そんな風にいろいろな曲のミックスをしているうちに、僕が小さいリズム・マシンを手に入れて自分たちで音楽を作るようになっていったのさ。

 

■それ以前には何か音楽活動をしていましたか?

 

ロブ  別に何もしてなかったよ。友人のためにテープを作っていた程度さ。でもレコードを聴いて、自分がその音楽で何が好きなのか分かっていたので、その音楽シーンの中に欠けているように思えた部分のギャップを埋めようとしていたんだ。

 

■あなた方の音楽はヒップホップとしばしば比較されますが、やはり影響を受けているのですか?

 

ロブ  そうかもしれないね、リズム的には。当時ヒップホップやエレクトロは常に新鮮なサウンドが生み出され続けていたから、僕たちはそういう部分にとても傾倒していた。でもそれは音楽において最高なことだと思うんだ。同じことを繰り返すようになってしまってはダメなんだよ。

 

■今回のアルバム『キアスティック・スライド』のコンセプトのようなものはありますか?

 

ロブ  それはない。ほとんどが去年に作った曲なんだ。別に僕たちは1カ月半スタジオ入りしてアルバムを作るというような作業はしないんだよ。そういういのって意図的過ぎると思わないかい? 僕たちが曲に取り組むときは、その瞬間ごとにその曲に専念している。そして十分に素材が集まったら選曲するのさ。アルバムという形で一緒にして、全体的なフィールが加わるようにね。

 

■曲はすべて自分たちのスタジオで作るのですか?

 

ロブ  そうだね。僕たちは基本的に自宅ですべてを行えるような機材をそろえているんだ。ここまで来るのに10年かかったけど、今は大きなスタジオに行かなくてもやりたいことは何でもできるよ。

 

■スタジオにある機材を教えてください。

 

ロブ  サンプラーはENSONIQ EPS-16Plus、リズム・マシンがROLAND R-8、CR-8000、TR-606。それからシンセはROLAND MC-202、Juno-106、KORG MS-10、Prophecy、YAMAHA DX100、CLAVIA Nord Lead、あとTASCAMの卓くらいかな。かなり普通の機材だよ。最新のマシンを使う人も多いけど、僕たちはベーシックな機材を使っているね。機材を少なめに押さえれば、その機材を熟知することができて、いいサウンドを生み出すことができる。

 

■その「少ない機材」の選び方のポイントは何ですか?

 

ロブ  僕たちは実際サウンドに影響を与えたりせず、やりたいと思っていることが率直にできるようなマシンが好きなんだ。いかにもこの機材を使っているからこういうアプローチをとった、というようなことはしたくないのさ。デジタル・シンセをアナログのようなサウンドにしたり、あるマシンを別のマシンに通して信号処理したり、とにかく曖昧な音にしてしまいたいんだよ。そういう風にしているうちに機材と機材の間がすごく微妙になって、機材間の中間を埋めるような感じになる。そういうやり方の方がずっと面白いと思うんだ。

 

■シーケンス・システムは何を使っていますか?

 

ロブ  スタジオのコンピューターはMacとATARI。ソフトは現在主にLogicを使っているけど、別のソフトを使うこともあるね。

 

■作曲は主にどのようにして行うのですか?

 

ロブ  僕たちは音楽的訓練を受けていないので、大抵お互いにアイディアを出し合いながら作っていく。何かベーシックなサウンドから入って、構造的に意見を出し合い、いいサウンドだと思えるようになるまでいろいろ加えていくんだ。すると逆にそのサウンドが僕たちを導いてくれるのさ。

 

■実際の作業のプロセスを教えてください。あらかじめすべてプログラミングするのですか?

 

ロブ  いろいろなやり方をするけど、スタジオではライブのように演奏することも多いね。ライブ操作したものをできるだけ重ねていくんだ。シンプルながら、興味深く効果的なサウンドになるようにね。そのように即興的な部分も持ちながら、自分たちのコントロールのきかないことが何か起こって、それが面白いものだったら、原因を分析して、さらに別のエフェクトをかけてみたりるすんだ。

 

■2人の間で役割分担はありますか?

 

ロブ  そういうのはないね。考えられる役割といえば、お互いのアイディアのバランスを取るようにしているということかな? 僕たちは一方がいないときはもう一方をマネしてやっているんだ。相手のことを想定して考えて、実験的にやってみる。ショーンと僕は、互いに何が得意でどういうことが各々できるかよく分かっているんだよ。

 

 

  

  

サンプラーに取り込んだ音を、エディットやエフェクトで曖昧にするんだ

 

■あなたたちの音楽の最大の魅力の一つは、バラエティあふれる音色だと思います。何か特徴的な音作りの方法があれば教えてください。

 

ロブ  とにかく自分たちの持っている機材をすべて理解して駆使しているんだ。例を挙げるとしたら、僕たちはマイクを使ってスタジオ内の音をサンプリングして、何か抽象的なノイズを作り、それを4~5時間ほどかけてモジュレートしたりしていろいろいじってみる。そして、そこからサンプルを取るんだ。7~8個くらい音が重なっているサンプルを手に入れるというわけさ。

 

■やはりメインはサンプラーなのですか?

 

ロブ  そうだね。僕たちはよくサンプラーからアナログ・シンセやテープ・マシンに通した音をいじり回す。サンプラーって、文字通り"サンプラー"って音をしていると思うんだ。僕たちはそういうのに飽き飽きしてしまったから、それを打ち破るようなやり方をしたいと思っているんだ。

 

■何の音をサンプリングすることが多いですか?

 

ロブ  いろいろだね。オモチャとか、スタジオの外で作業している人や工場の音とか......聴こえる音はマイクを使って何でもサンプリングする。そしてサンプラーに取り込んでから、その音を曖昧にするためにエディットするんだ。それから僕たちはエフェクトもふんだんに使ってサウンドをさらに曖昧にしていくのさ。

 

■幾つかの曲でポップなアプローチも見られますが、あえてそれを前面に出さないのはなぜですか?

 

ロブ  でも、そういうポップ・センスはどこかにちゃんと出ていると思うな。昨晩プレイしたときも、僕たちのことを80年代のバンドみたいだと言った人がいたよ。ノイズ対メロディ的な意味でね。だから僕たちもある意味シンセ・ポップみたいなものさ! 僕たちだって80年代の音楽が大好きだったから、そういう部分をユーモラスに表現している。そういうポップな部分が自分たちの中にあることは気付いているんだよ。

 

■オウテカとしてのオリジナリティはどのように出していっていると思いますか?

 

ロブ  それは音楽を聴いて、そこに出てきているものから感じ取ってほしいね。それに関して言葉を加えると、何か説明になってしまうから、とにかく僕たちは永久不変の音楽が好きなんだ。

 

ライブではMMT-8を使って、直感的な操作を行っているよ

 

■現在ツアー中だそうですが、ライブではどんなセッティングなのですか?

 

ロブ  ライブもシンプルだよ。リズムはR-8で、それ以外のほとんどの部分はサンプラーEPS-16PlusをALESISのシーケンサーMMT-8でコントロールしている。MMT-8はトラックに即座にアクセスすることができるので、ステージですごく直感的な操作ができるんだよ。そのほかにはミキサーとBOSSのディレイなど幾つか......あとはENSONIQやALESISのエフェクト・ユニット、Nord Rackくらいかな。ショーンがR-8とNord Rackを、僕がそれ以外を担当している。ループが無限に続くようにして、すべてのサウンドをリアルタイムで操作しているんだ。だからプレイする度に違うし、僕たちの持っているシーケンスは、それぞれさまざまな可能性を持っているというわけさ。

 

■エレクトロニック・ミュージックにおけるインプロビゼーションをどのように考えますか?

 

ロブ  生楽器よりも直感的な操作が必要となるね。まあそれは僕たちがいつもやっていることであって、別に特別なコンセプトがあるわけではないけど、やはり自分たちも楽しまなきゃいけないからね。ライブで毎晩同じことを繰り返してしまうと何の発見もなくて、退屈してしまうだろう? だからその時々でユニークな要素をもたせたらいいと思うんだよ。ベーシックな部分は維持しながらね。

 

■最後に今後の予定を聴かせてください。

 

ロブ  ツアーが終わったらスタジオに戻るから、また新しい曲に取り組むことになるだろう。まだそれがどんなものになるかは分からないケドね。読者の諸君も、僕たちが使っているうちに壊してしまうほど魅力的な新しい技術に関しての提案があったら、ぜひ聴かせてよね! 

 

>>オウテカ 発掘interview【2】(1999年)へ続く

 

 

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