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【CrossTalk】iPodスピーカーは現代のラジカセか?

昔からエンジニアはミックス・ダウンの確認を、モニター・スピーカーとともにリスナーの再生環境に近いAURATONEの小口径フルレンジ・スピーカーやラジカセでも行ってきた。もはや"ラジカセ"が死語となりつつある現代、リスナーの再生環境はAPPLE iPodをはじめとするデジタル・オーディオ・プレーヤーやケータイが一般的となってきている。そんな中、エンジニアは自身が手掛けるミックスをどこに向けて追い込むべきなのか? iPod対応Dock搭載の小型スピーカーの試聴を通して、エンジニアのD.O.I.氏、甲斐俊郎氏と共に考えてみたい。

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■ALTEC LANSING/T612
(オープン・プライス/市場予想価格24,800円前後)

76mmフルレンジ・ユニットと25mmシルク・ドーム・ツィーターを搭載し、アンプは計60W。重低音拡張技術XdBの実装に加え、トレブル/バスの音質補正機能も備える。周波数特性は60Hz~20kHz(-10dB)。ステレオ・ミニ端子での外部入力も装備している。354(W)×137(D)×208(H)mm/2.8kg


日本プラントロニクス TEL0422-55-8852 www.alteclansing.com




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■B&W(BOWERS & WILKINS)/Zeppelin(87,800円)
90mmミッドレンジ・ドライバーと25mmメタル・ドーム・ツィーターを2基ずつ、そしてセンターに125mmウーファーを1基搭載した3ウェイ仕様のモデル。アンプは25W×2+50W。周波数特性は47Hz~22kHz(-6dB)。ステレオ・ミニ/オプティカル兼用の外部入力端子も搭載している。640(W)×198(H)×208(D)mm/7.5kg


マランツ コンシューマー マーケティング TEL03-3719-3481 www.bowers-wilkins.jp





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■BOSE/SoundDock Series II(34,860円)
小型ユニットとDSPの組み合わせで、サイズ以上のサウンド再生能力を実現したモデル。ステレオ・ミニ端子での外部入力も装備。カラーはシルバーとブラックがある。姉妹機として充電池を内蔵したSoundDock Portable System(46,200円)もラインナップ。303(W)×169(H)×165(D)mm/2.1kg


ボーズ・インフォメーションセンター TEL0120-039-780 www.bose.co.jp
「BOSE SoundDock Series II」をAmazonで購入





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■YAMAHA/PDX-50(オープン・プライス/市場予想価格30,000円前後)
iPodを付属トランスミッターに装着することで、ワイアレス再生を実現。独自の技術AirWiredによって非圧縮伝送をタイムラグなく行えるため、リモコン感覚でiPodを手元に置いて操作することができる。ユニットは80mmフルレンジで、アンプは15W×2。周波数特性は60Hz~20kHz。350(W)×127.5(H)×125(D)mm/1.7kg


ヤマハ AVお客様ご相談センター TEL0570-01-1808/053-460-3409 www.yamaha.co.jp/audio
「YAMAHA PDX-50」をAmazonで購入



若い世代になればなるほど超低域と高域が出ているのに慣れている



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D.O.I.氏のスタジオ、Daimonion Recordingsで行った今回の試聴。D.O.I.、甲斐両氏とも、それぞれ聴き慣れた楽曲を入れたAPPLE iPhoneやiPod Touchで1台ずつ順にチェックしていった。音質もさることながら、スタジオの防音ドアを挟んで伝送可能なYAMAHA PDX-50のワイアレス技術に驚かされるといったエピソードも。編集部司会の下で行われたCross Talkでは試聴結果はもちろん、さまざまな話題が展開された。では、その内容を凝縮してお届けしよう。


 



    20090626_CrossTalk_DOI2.jpg   D.O.I.(Engineer)
Daimonion Recordingsを主宰するエンジニア。ヒップホップ/R&B、レゲエを中心としたクラブ・ミュージックのプロジェクトに数多く携わり、近年 では安室奈美恵、倖田來未、EXILEのメガヒット作からMiChi、DEX PISTOLSなど新進アーティストの作品にまで参加している



 



                             
                           



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甲斐俊郎(Engineer)
ソニー・ミュージックスタジオにてエンジニアとしてのキャリアをスタート。2005年以降フリーランスとなり、2007年BOND&Co.を設立。エンジニアとしてYUKI、ゆず、エレファントカシマシ、いきものがかりなどの作品を手掛けている



"普通の人と同じ注意力"で音楽を聴けるように


自宅にモニター・スピーカーは置いていない


----今回は一般リスナーのリスニング環境と、ミックスの在り方を考察していきたいと考えて、iPod用のスピーカーを集めてみました。今ではケータイで音楽を聴く人も増え、オーディオ機器が家に無いという人が普通に居ます。その中で、こういうiPod用のスピーカーがどういう位置づけになるのかを見ていきたいと思います。甲斐さんは今回試聴したB&W Zeppelinをお持ちだそうですね?


甲斐 そうです。居間にはもっと大きなスピーカーもあるんですが、寝室にこれを置いています。一般の人が寝転びながら聴くとか、料理しながら聴くとか、そういうスタイルで聴けるものが欲しかったんですよ。あるアーティストの方の自宅で聴かせてもらったら印象が良かったのと、実は見た目で選んだ部分も大きいです(笑)。


----D.O.I.さんは?


D.O.I. 自宅にはALTEC LANSING IM600というiPod用スピーカーがあります。バッテリー駆動できるので旅行用に買ったんですが、家族がキッチンで聴いていたりします。ほかにはBOSEの小型2.1chスピーカーもパソコンの横にあります。


----ご自宅にはスタジオのようなモニター・スピーカーは置いていない? 


D.O.I. "普通の人と同じ注意力"で音楽を聴けるように、わざと置かないようにしています。GENELECのスピーカーを置いたこともあったんですが、真剣に聴き過ぎてしまって(笑)。僕は自分のスタジオがあるから、真剣に聴くのはそこでやればいいので、自宅では"チェック機能が働かない"ようなものがいいなと思っています。


----自分で手掛けたミックスをそうした民生用の小型スピーカーで聴いて、何か発見があったりするのでしょうか?


D.O.I. 昔、そういうチェック用にNOKIAの小型Bluetoothスピーカーを買ったんですが、それとスモール・モニターのMUSIKELECTRONIC GEITHAIN MO1とで聴感上の整合性を取っていったんです。NOKIAでこのくらいなら、MO1ならこのくらいだろう、というのが分かるようになったので、今はMO1だけで何とかなっています。


甲斐 僕はラジカセでのチェックはしていますね。今日聴いたものでもALTEC LANSING T612やYAMAHA PDX-50はレンジがナローというか、ラジカセっぽい。だとしたら今でもラジカセでミックスをチェックする必要はあると思います。


----エンジニアとしては、ご自分がミックスした楽曲が、最終的にはどんな環境で再生されるかを決めることができないというジレンマがあるのでは?


甲斐 どんなレンジの狭いスピーカーでも、中域が出ていないスピーカーは無いと思うんです。音の情報量も中域が一番多いですし。だからそこを基本にミックスを組み立てつつ、もっといい再生装置で聴いたときに低域が出せるようにしています。


D.O.I. そうですね。でも最近の再生装置は高域が伸びているし、そして昔のラジカセに付いていた"スーパー・ベース機能"みたいなモワモワした低音が出るものも増えている。僕は逆に、そうした高域や低域が出過ぎるという前提でミックスしたりもしています。でもそうかと思えばノート・パソコンの内蔵スピーカーで聴いている人もいるし......。その一方で、音楽で使われている周波数帯域は広くなっているから、再生機器側で"重低音重視"とかしなくても、"もともと出ているから"と言いたい。過剰になってしまうんですよ。


----ヘッドフォン・ステレオの登場以降、そんなに高級な再生装置でなくても、ハイ/ローを直接感じられるようになっていってその傾向が強くなったようにも思います。 


甲斐 若い世代になればなるほど、超低域と高域がガッツリ出ているのに慣れている。特に25歳くらいまでの人にそれを感じることがありますね。音楽がそうなってきたのが先なのか、再生装置がそうなっていったのが先なのか......。
D.O.I. ああ、それすごく分かります。僕が中域がリッチでいい音だと思っても、若い人が"ローファイだ"ってとらえていることもありますよ。あるいは、ミックスを聴いてもらうと、ある世代から下は"そのキックが"と言うのに、それより上の世代は"スネアが"と言う。そういう意見の相違が、逆に勉強になることもありますね。


Photo:Hiroki Obara





再生機器によってレンジが異なるのでミックスで針の穴を通すような調整をする


----リスナーが受け止める周波数レンジが広がっているということを受けて、今日聴いていただいたモデルのレンジの広さはいかがでしょうか?


D.O.I. 価格も高いのですが、レンジの広さという意味ではZ
eppelinが圧倒的だと思いました。メインのリスニング・システムとしてもいいかもしれない。
甲斐 そうですね。これで聴くのは楽しいと思います。


----そのほかのモデルは? 


D.O.I. 僕はALTEC LANSINGの音に慣れていることもあってT612がしっくりきましたね。コンパクトだし、レンジもそんなに広くなくて、疲れない音だと思います。
甲斐 ナローだけど、聴き慣れた感じがする落ち着く音ですね。YAMAHA PDX-50も中域が出ていて、まとまっている感じがします。
D.O.I. そうですね。僕は低域が少しワンワンと鳴るところがちょっと気になったかな。もう少しローカットしたいんですけど、そういう機能はT612以外は付いていないんですよね。


----BOSE SoundDock IIはいかがでしょうか? 


甲斐 BOSEらしいですよね。中低域が薄い分、ややドンシャリのキャラクターではあるんですけど、独特のサウンド・カラーで、決して嫌いじゃない。


D.O.I. 一番下の低域が反響しているように感じられて、そこはあまり好きじゃないんですけど、中高域の感じはいいですね。BOSEに関して言えば低域が強過ぎるのが前から気になっていて、家でパソコン用に使っているBOSEの2.1chは、サブウーファーを最低まで絞っています。


----これらiPod用スピーカーで聴かれることを想定したミックスをすべきなのでしょうか? 


D.O.I. このレンジ感で聴かれるという前提でのリファレンスは、スタジオでやっておかないといけないでしょうね。自宅でミックスした"味がある音"みたいなものは、単に音が遠くなるだけかもしれない。味だと思っていても、それが再生機器で生かされないので、多少ドンシャリ気味に仕上げておく必要がある。


----かといって、いいシステムで聴くと、そのドンシャリが強調されてしまったり......。 


D.O.I. だから針の穴を通すような調整が必要なんですよね。甲斐 僕はラジカセでチェックするのは、最後の最後だけなんですけど、それはやっぱり音楽的においしい情報がラジカセで聴こえないと困るからですね。


----その"音楽的においしい情報"がラジカセで確認できない場合はどうするのですか?


甲斐 それが、モニター・スピーカーで聴いていいときは、ラジカセでもいいんですよ。
D.O.I. いいときはどのスピーカーで聴いても同じようなバランスで聴こえるんですよね。


----なるほど。アマチュアの場合も、自宅でミックスする際にはモニター・スピーカーとは別に、今回のiPod用スピーカーのようなリスニング・システムなどを含めた複数のスピーカーで確認するべきなのでしょうか?


D.O.I. 作品として世に出すものならその方がいいですね。



"音楽はコンピューターから鳴るもの"という世代にとって
iPod用スピーカーはコンポの代わりとなるものかもしれない


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iPod用スピーカーがあると音楽と触れ合う時間がすごく増える


----他方で、こういうスピーカーを買えるのは多少余裕のある人や音楽を聴くことに意欲的な人だとも考えられます。


D.O.I. 若者が"iPodですら高い"と言うのも、それはそれで分かるんですよ。......社会人なら買えても、この不況下の学生だとそうも言えない。
甲斐 自分の学生時代を考えても、確かに余裕は無かった。オーディオ機器は貯金して買ったりしましたけどね。
D.O.I. でも人から聞いた話なんですが、ケータイからスピーカーにつなげるケーブルが売れているそうなんです。確かにずっとヘッドフォンで音楽を聴くのも疲れますからね。


----家庭内で、親が買ったものを子供が使うという可能性もありますよね。 


D.O.I. うちの子供は7歳と4歳ですけど、コンピューターとBOSEのスピーカーで音楽を聴いたり、iPodに転送してALTEC LANSINGのiPodスピーカーで聴いているんです。スタート地点が"音楽はコンピューターから鳴るものだ"という世代になるのかもしれない。そうなるとこれまでのコンポの代わりとして、こういうiPod用スピーカーが広まっていくのかもしれませんね。うちも家族みんな使っていますから、それを考えたらすごく安いし。こうしたものが1つあると、音楽に触れ合う時間がすごく増える。寝そべりたいときに持っていったり、旅行に持っていったりもできるから、コンポより手軽な感じだし。


----そう考えると、バッテリー駆動や持ち運べるモデルの方が家庭向きなのかもしれませんね? 


D.O.I. B&W Zeppelinに取っ手がついていたら即欲しかった(笑)。ラジオ・チューナーが無くても、PodcastやiPhoneのアプリでネット・ラジオを聴いたりできますしね。
甲斐 でもB&Wだとレンジが広すぎて、トークのPodcastを聴くのにはちょっと不向きかもしれません。
D.O.I. マイクの吹かれが気になったりしてね(笑)。
甲斐 そういう意味では、ほかのモデルの方が気軽に楽しむ向きにはいいのかもしれない。


----今回集めた製品は、音楽を作る側にとっても、そうした"音楽を聴く楽しみ"とシンプルに向き合えるものなんですね。


D.O.I. そうですね。我が家でも家で音楽を聴く時間が増えましたから。
甲斐 身近に音楽があるっていいですよね。でもヘッドフォンとかで1つ1つの音を聴くというのも楽しい......その両方をやってほしいですね。


D.O.I. そうですね。僕らはそうやって1つ1つの音を作っているから、真剣にも聴いてほしいです。



Photo:Hiroki Obara