DVD発売&WorldHappines出演記念!坂本龍一、高田漣、権藤知彦が語るYELLOW MAGIC ORCHESTRA

YMOはもともとファンク・バンドだった。スライみたいなテクノができれば最高。

[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2009年1月号のものです]


インタビュー:坂本龍一 + 高田漣&権藤知彦


細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一の3人からなるYMOことYELLOW MAGIC ORCHESTRA。2007年5月にパシフィコ横浜国立大ホールにて"Human Audio Sponge"名義で久々に3人によるライブを行った後、同年7月にはアル・ゴア提唱によるLIVE EARTHにYELLOW MAGIC ORCHESTRA名義で出演するなど、もはやYMOとしての活動を再開といっていい状況となっていたが、このたび、2008年6月にイギリスのロンドンとスペインのヒホンにおいて行われた、実に28年ぶりのヨーロッパ公演の模様がライブCDとしてリリースされることになった。それらを聴いて驚くのが、実に生っぽい演奏が繰り広げられていること。それこそ彼らがデビュー当時に繰り広げていたような、同期ものを使いながらも肉体的な感触を持つ演奏なのだ。そんなライブを行うようになった経緯についてメンバーの坂本龍一に尋ねてみるとともに、今回サポートを務めた高田漣、権藤知彦の2人にも、近くから見たYMOのすごさについて語ってもらうことにした。


黙々と決まったリズムを演奏するっていうのがかっこいい


今回、なぜロンドンで公演することになったのですか?
坂本 ロンドンで行われているメルトダウンっていうフェスティバルに呼ばれたんです。毎年違うアーティストがキュレーターを務めるんですが、今年はマッシヴ・アタックがキュレーターになって、彼らがプロデュースする感じでいろんなアーティストが出演したんです。今回はグレース・ジョーンズとかギャング・オブ・フォーとかも出たのかな。なぜ僕らが呼ばれたの分からなかったんだけど、3Dに会ってみたら前からYMOのことが好きだったらしい。


やはり去年、LIVE EARTHでのライブが世界中に中継されたのが大きかったのでしょうか?
坂本 そうかもしれない。HASYMO名義でパシフィコ横浜国立大ホールでやったコンサートのことは知らないでしょうからね。LIVE EARTH自体の評価は知らないですけど、YMOはそのために再結成したバンドの中では一番評価が高かったらしいですから。


出演依頼があって、快諾した感じだったのでしょうか?
坂本 そうですね。2007年の12月に3人でスタジオに入って即興演奏もやっていたし、まあ久しぶりにロンドンでやってみるかと。YMOの最初のワールド・ツアーのスタートの地だったので印象深いんですよ......当時はみんな若かったから、幸宏の引率でキングスロードへ買い物ツアーに行ったりして。まだニューウェーブが盛り上がっていて、ロンドンも一番活気があったし。


もう一カ所の公演地であるスペインのヒホンにはなぜ行くことに?
坂本 ロンドンだけの公演だとコストがかかり過ぎるからですね。もっと回数をやればなおいいんですけど、細野さんたちが2カ所が限界って(笑)。それで近い時期にヨーロッパでできるところを探したんです。ヒホンって知らない街だったんですけど、いわゆるヨーロッパの海辺のこぢんまりしたところでした。行ってみたら細野さんがすごく気に入っちゃって住みたいって言い出して、"3人で家買わないか?"って(笑)。


2つのライブ盤を聴かせていただいて、HAS
YMOとしてパシフィコ横浜国立大ホールで行ったライブとは随分印象が異なり、とても生っぽかったのですが。

坂本 もともとYMOにはファンク・バンドっていうノリもあったんですよ。テクノをやろうとしつつ、ファンクもやろうと。みんなスライ&ザ・ファミリーストーンが大好きで、昔からスライみたいなテクノができれば最高って話していたんだけど、60歳くらいになってやっとできるようになってきたかな(笑)。僕はいまだにグルーブとかリズムの発見っていうのがあるんです。幸宏は変えないって言っていたけど、僕は変えているんですよ。細野さんも若干変わっている。微妙に若いときとは違ってきてるんですね。


ロンドンとヒホンの演奏でも、それぞれ結構違いますよね?
坂本 ロンドンで手応えがあったので、それ以降は幸宏が生ドラムをたたく曲を増やしたんです。中盤以降はずっとですね。


細野さんもほぼ全曲でエレキベースを弾かれているんですよね?
坂本 持ち替えるのが面倒くさかったんじゃないかな?(笑)最初は全曲はムリって言ってたのに、いざとなるとブイブイ弾くんですよ。


坂本さんのプレイも、リードをとるというよりはバッキングが多いように聴こえたのですが。
坂本 メロディを弾くよりバッキングをする方が気持ちいいんですよ。バッキングで黙々と決まったパターンだけ演奏するっていうのがかっこいい。こんなにバックグラウンドが違う3人なのに、そこは共通しているんですよね。延々と同じことやってかっこいいっていうのを、これからの後半生で追求しようかな(笑)。


昔はリズム的なものをコンピューターに任せていたのが、今はメロディを任せていますよね?
坂本 そう、全く逆になりましたよね。もちろん、何が何でもリズムを人間が演奏すればいいっていうのではなくて、その方がいいときにやるべき。ジャストな気持ち良さっていうのもみんな知っているわけだしね。


演奏した本人に残っている熱い記憶をだれが聴いても分かるように再現


しかし、なぜ急に生を重視するバンドになったのでしょうか?
坂本 気取りが無くなったからでしょう。スケッチショウのときは、まだ"エレクトロニカ感"があったと思うんですね......汗流しちゃいけないっていう(笑)。そういうのは無くなった。細野さんが還暦を迎えたっていうのもひとつだろうし......ご自身のソロではカントリーみたいなのをやっているのも気取りがなくなったせいだろうし、そういうことが影響しているんでしょう。幸宏はまだちょっと気取りがあるけど(笑)、僕はほとんど無くなってきましたね。昔取った杵柄でいいというか、今の若い奴らにはできねぇだろうという気持ちもある(笑)。むしろやっておかないとできる人がいなくなってきちゃうわけだから、気取っている場合じゃないかも。


古くからのファンにとっては、坂本さんのソロ・アルバム『音楽図鑑』に収録されていた「TIBE
TAN DANCE」を、YMOとしては初めてライブ演奏したことが驚きだったようですが。

坂本 この曲をやろうというのは幸宏の希望。ちょうど北京オリンピック前でチベットのことが話題になっていたんですけど、幸宏は昔はノンポリであることが自慢のような人だったんですが(笑)。ファンクっぽい曲なんでライブ向きですね。微妙な揺れっていうか微妙なはね方。ファンク独特なんですけど、若いモンにはできないだろうと。『音楽図鑑』のレコーディングでは幸宏と細野さんには別々に弾いてもらっていたので、3人で演奏するのは本当に初めてでした。


機材的なことも伺いたいのですが、パシフィコ横浜ではROLANDのビンテージな電子ピアノEP-30を使っていましたが、今回メインで使ったキーボードは何ですか?
坂本 YAMAHA Motif XS7をメインで使いました。前にROLANDのEP-30を使っていたのも、ひとつの気取りですね。まあ、本当は本物のRHOD
ESとかWURITZERがいいんですけど、持って行くのは大変だから。Motif XS7はけっこう古いキーボードの音がするんで、いいですね。「RYDEEN 79/07」ではOBERHEIMっぽいブラスの音を使ってます。


今回の演奏をライブCDとしてリリースするにあたって、ミックスはどなたが行ったのですか?
坂本 エンジニアのフェルナンド・アポンテと一緒に僕が自分のスタジオで行いました。


ミックスしていく上で、何か気を付けた点はありますか?
坂本 細かいバランスとライブっぽさを出すための音色を意識しました。演奏した本人だから熱い記憶が残っているんですよね。それをだれが聴いても分かるように再現したかった......本人の記憶に近づけたいんですよ。だから以前よりもハード・ディスクから鳴らしている音をちょっと下げ気味にして、生のドラム、ベースを中心にガン!と据えて。荒々しいくらいの感じにしました。


今回のような充実したライブができたということで、今後もまたYMOとしてライブを行っていく予定はあるのでしょうか?
坂本 ヒホンの後に8月に東京の夢の島公園陸上競技場で開催されたWORLD HAPPINESSというイベントに出演したんですが、そのために行ったリハーサルがすごく良くて......細野さん自身が"奇跡のリハーサル"って言ってたほど奇跡のような瞬間が幾つもあって。「RIOT IN LAGOS」の演奏もすごくて、もしかしてスライを超えたかなというくらい。マルチでは録っていないんですけど、本人たちのブートレグとして出そうかなと(笑)。だから、まだ進化、深化してるんですね。でも、次にやる予定がないから、すぐ忘れちゃうかもしれない(笑)。



権藤知彦|高田漣


Tomohiko Gondo|Ren Takada


今回のYMOヨーロッパ・ツアーのサポートを務めたのは、高田漣(Pedal Steel、ac. g、Mandolin)、権藤知彦(prog、euphonium、Flugelhorn)、そしてフェネス(g、laptop)の3人。ここでは高田、権藤の2人に、リハーサルからライブ本番にいたるまでの様子、そして一緒に演奏することで見えてくるYMOの3人のプレイの魅力について語ってもらうことにした。


今回のヨーロッパ・ツアーにあたり、リハーサルはどこで行ったのですか?
権藤 ロンドンですね。
高田 一応、リハーサル・スタジオなんですけど、倉庫みたいな感じのところ。


ロンドンに到着する前にセット・リストは決まっていたのですか?
高田 もちろん。パシフィコ横浜国立大ホールでのライブをベースに「TOKYO TOWN PAG
ES」や「TIBETAN DANCE」を増やした感じです。ロンドンのときは曲順もほとんどパシフィコと同じでした。


リハーサルのときには譜面があるのですか?
高田 権藤君が書いたコード譜がありますね。
権藤 教授(坂本龍一)が書いたものもありますよ......「TIBETAN DANCE」はそうだった。


リハーサルではどんな作業を行ったのですか?
高田 4日くらいやったんですけど、今回、教授が割といろんなオーダーを出していた。"もう少し混沌としてほしい"とか。上ものはノイズに近い感じでってことですね。
権藤 今回のツアーではギターが高野(寛)さんからフェネスに変わったのも大きかったしね。
高田 方向性は変わりましたよね。はっきりした楽曲構成というよりもアバンギャルドっていうか、もっと大きな感じのものになりました。高野さんが一緒だったときはベーシックなものを受け持ってくれていたので、僕は色づけ的な部分を意識してやっていたけど、フェネスはどっちかっていうとサウンドをコラージュする感じだから、最初はベーシックな演奏をするよう心がけていたんです。でもそれはそれで混ざんないですよ。教授もそれを気にしてくれていて、最後は2人でノイズを出している感じになりました。


パシフィコ横浜国立大ホールでのライブでは、メンバーそれぞれが何をやっているのかよく分からなかったのですが、今回のライブ盤を聴くととても生っぽくて、それぞれが何をやっているのか分かりやすいと思いました。
高田 コンピューターから出ている音は同じなんですけどね。出音を減らしていることはない。
権藤 でも、レベルは変えたので曲の印象が変わりました。例えば、ヒホンでのライブのときには「TOKYO TOWN PAGES」のSEパートを、教授が合図を出したら4dB挙げるっていう打ち合わせもしてあったりとか。


ステージ上でミキシングをしている感じ?
権藤 そうですね。あくまでもPAとは別で、コンピューターに入っている部分だけですけど。


コンピューターからはメロディなどを出して、YMOの3人はリズム的なバッキングを担当したということですが。
高田 ええ、メロディはコンピューターから出したり、僕がそれとユニゾンで弾いたりしていて、前の3人がグルーブ感を作っている感じでしたね。教授のバッキングは毎回和音のアプローチが違うんです。アバンギャルドになっていたりしていて、譜面に書き切れない余白みたいな部分が結構多かった。あと、みんながそれぞれのプレイに呼応するというか、細野さんが弾いたちょっとしたフレーズに幸宏さんも反応するし、教授も反応するっていう感じでしたね。


ヒホンでの「RIOT IN LAGOS」の演奏は特にかっこいいですね。
高田 ロンドンと違って幸宏さんがドラムをたたいているので、アレンジが全く変わったんです。
権藤 教授がロンドンとは曲順を変えるって言い出して......僕には"「コズミック・サーフィン」をやることにした"っていうウソのメールを送ってきたし(笑)。
高田 ロンドンのときの反省っていうか、曲を減らしたり、曲順を変えようっていう話になって、その流れで「RIOT IN LAGOS」は最後の方に持っていったんですが、そこだけ幸宏さんがドラムからキーボードに戻るのは変だってことで、たたくことになったんです。まあ、全体に上ものはぐちゃぐちゃな感じですけどね(笑)。
権藤 メロディもKORG Kaoss Padを通しているしね。
高田 あの曲では僕はKORGのX-911っていうギターシンセを使っているんですが、それががバグって、音が止まらなくなっちゃった。でもそれが面白いから発振しっぱなしにしておいたんです(笑)。で、フェネスもそれを聴いてハードなプレイを始めちゃって(笑)。


ツアーの途中で曲順が変わると、権藤さんとしては大変なのですか?
権藤 "大変"と思わせておきます(笑)。昔と違って曲のファイルを呼び出すの早くなりましたから、今は本番中に1曲ごとMARK OF THE UNICORN Digital Performerのデータを立ち上げてます。
高田 曲間が思いっきりつながるって感じでもないからね。


データが立ち上がらないといったようなトラブルは無い?
権藤 無いですね。今となっては1つのプロジェクトに入れとく方がリスキー。そのファイルが壊れちゃったらアウトですから。


お二人ともこれでYMOのサポートとしての演奏経験がかなりの数になってきましたが、もう慣れましたか?
権藤 いや、慣れたと思ったらまた戻る(笑)。
高田 3人そろうと別だよね。1人1人とやるとその人のゆるい部分とかタイトな部分とかがあるんだけど、3人のときはそれぞれが持っているもの以上の何か......3人で1つの意志みたいなものがあるんです。とにかく空気が違いますね。


release



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■「WORLD HAPPINESS 2009」にYELLOW MAGIC ORCHESTRAが登場!
2009年8月9日(日)@東京:夢の島公園陸上競技場
http://www.world-happiness.com/