サマソニ出演記念!エイフェックス・ツイン発掘インタビュー

僕は自分が今まで聴いたことのあるどんな音楽とは違った音楽をやりたいと思っているんだ。

[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン1997年1月号のものです]


Translation:Yuko Yamaoka


天才か狂気かはたまた単なる無邪気な子供なのか、自宅のベッド・ルームで世界を震撼させるエレクトロニック・ミュージックを作り続けてきたエイフェックス・ツインことリチャード・ジェイムスが、待望のニュー・アルバムを発表した。『リチャード D.ジェイムス・アルバム』という堂々としたタイトルがつけられたこの作品は、クラシックあり、ジャングルあり、自身のボーカルありと、ユーモアたっぷりの極上トラック満載。不思議な風貌に信じられないほどのパワーを持った彼に、曲の制作法や音楽観などを聞いてみた。


今回のアルバムはほとんどコンピューターのソフトで作られた


今回のアルバム『リチャード D.ジェイムス・アルバム』はいつ頃録音されたのですか?
これは95年の9月頃に録音したんだ。全部で200曲くらい作った中から選曲した。このように僕はほとんど毎日日記にように曲を書いているんだよ。そこが エレクトロニック・ミュージックの好きなところだね。バンドのように人と一緒に集まることなく即興的にやることができるからさ。


今回の作品を作るに当たって何か意図したことはありますか?
曲をできるだけ短くして、なるべく多くのアイディアを30分間の間に盛り込みたいとは考えた。でもそれ以外には別にこれといったコンセプトなどはなかったよ。もちろんできるだけ優れたレコードにはしたいと考えたけどね。


今回使用した機材は?
今回アルバムはほとんどコンピューターのソフトで作られたものなんだ。外部でアナログ・キーボードを使ったりとかは一切しなかった。エフェクト処理もインターネットで手に入れたソフトや、自分で作ったプログラムを使ったりしたよ。


曲作りのプロセスを教えてください。
自分がやりたいと思うことのアイディアをはっきり持っているときがある。それが曲の一部の時もあれば、全部浮かんでくるときもあるけど、その場合は実際にクリエイトしていくだけさ。特にアイディアを持っていなかったときには、コンピューターをいろいろいじって実験的にやってみる。するといきなり浮かんでできた曲になるんだ。


シンガーの声の情報を抜き出すプログラムを作った


今回のオーケストラのストリングス・セクションはどのように録音したのですか?
前にフィリップ・グラスとやったときは生で録ったんだけど、今回は基本的に僕がバイオリンとかを自分で弾いてサンプリングしたんだ。1音出せる程度に練習して、それをコンピューターに入れたのさ。僕は決まったやり方でやるのは好きじゃないから、本物のサウンドを使うにしても、だれもやったことのない方法で使いたいんだ。そのままで使うのではなくね。


最近あなたの作品にはジャングルっぽいリズムが多く入っていますが、そのようなリズムを取り入れるようになった理由は?
ジャングル自体はそんなにじっくり聞き込んでいると言うほどでもないけど、他の人のレコードをサンプリングしてビートをクリエイトするという文化が好きなんだ。これが基本的に僕のエレクトロニック・ミュージックのルーツだね。これは僕が人の音楽を好きになってからずっと興味を持っていたことなのさ。


ジャングル・ビートに限らず、あなたはリズムトラックをどのように作ることが多いですか?
純粋にコンピューターを使っている。ドラムマシンとかは別に使わないね。コントローラーから生でプレイするときもあれば、コンピューターにそのままプログ ラムすることもあるよ。まあ生でプレイしたものを後になってコンピューターでエディットして、それに少しプログラミングしたものを組み合わせるというケースが多いかな。


「ガール・ボーイ」「ミルクマン」でボーカルにチャレンジしてみようと思った理由は?
自分のボイスをそのまま使ったことがなかったからやってみたいと思ったのさ。今までは僕の声には聴こえないほど細工をしていたから、今回は何か違うことをやってみようと思っただけだよ。声をピッチ・シフトしてちょっと別のトリックをちりばめた程度で、特に複雑なことをはしてないんだ。


今後もボーカル入りの曲をやろうと思いますか?
あれをやったときに、同時に10曲ほどボーカル入りの曲をやったんだ。その中にはとても気に入ったものもあるのでそのうちリリースすると思うよ。だけど将来的には僕は自分のボイスをもっと違う形で使っていきたいと思う。コンピューターやサンプラーで加工するだけじゃなくてね。


例えばどんな方法なのですか?
先日友人と一緒に作ったプログラムがあるんだけど、これはシンガーの声情報を抜き出すことができるんだ。例えばマイケル・ジャクソンの声と自分の声の情報を引き出して、その2つを加えた奇妙なボイスを作り出すことができる。今まで聴いたことがないような資質のボーカルができるんだ。まあこれは単純なアイディアの例だけどね。


あなたの作り出すメロディはとてもポップだと思うのですが、それは意識して作っていますか?
僕は自分が今まで聴いたことのあるどんな音楽とも違った音楽をやりたいと思っているんだ。だからとても複雑な音楽をやろうとしているけど、それを聴く人にとってやたらと複雑すぎるようなものにはしたくないんだよ。複雑な音楽でありながら、聞きやすいものを作る方がずっと難しくてチャレンジのしがいのあるものなのさ。だから僕の作品の多くはそのようにポップなできになっているんだと思う。そういう部分をぼくはとても楽しんでいるんだ。何か複雑なものを作ることって言うのはもちろん大変な作業なんだけど、僕にとっては全く苦にならないんだよ。


エレクトロニック・ミュージックはいつも進行中のようなもの


今回何か新しい録音方法はありましたか?
コンピューター的なものだけど、新しいテクノロジーを使ったね。僕は常にテクノロジーの使い方を変えているんだよ。だからテクノロジー的にはいつも最先端を行っていると思う。そのために常になれた録り方をするよりもずっとじかんのかかったこともあったな。


例えばどういったことなのですか?
以前使用していたものとは違うソフトを使うようになったんだ。違うタイプのサウンド・ジェネレーション・ソフトやシーケンス・ソフトを使ったよ。曲中でそれらを実験的にやっていたと言うのかなぁ、コンピューターでいろいろいじってみながらどう使うのか試行錯誤していたね。新しいソフトに精通するのにも結構時間がかかるものさ。そのソフトがどう使えるのか、何ができるのかをしっかり把握しなければ、それでレコーディングなんてできないからね。


これからも新しいソフトをどんどん取り入れて行くことを考えていますか?
テクノロジーというのはバンドでギターをやるのとは違って、いつも進行中のようなものさ。絶え間なく楽器を習い続けるようなものなんだ。だからこそ僕はエレクトロニック・ミュージックが好きだとも言えるのさ。頭を鍛えるって言うのかな?学校のようなもので、毎日そんな感じで自分を教育しているんだ。人によっては何かのやり方にしばらくとどまってやるのかもしれないけど、僕は即座に何か新しい方向に進んでいく。次々と新しいソフトやプログラムに移っていくよ。


あなたはエレクトロニック・ミュージックを作ることに大変向いているのではないでしょうか?
そうだね。僕はとても科学的な頭をしているのだと思う。しばしば音楽的なものよりテクニカル面の方が多いと感じることもあるくらいさ。でももし同じサウンドだけを使った音楽をやっていたらすごく退屈してしまうよ。またコンピューターのプログラムだけを作っていなければ、やはり退屈してしまうことだろう。この両方を統合させるのがとても好きなんだ。


次のあなたのリリース予定はどんなものですか?
REPHLEXから僕がとても若かったときに作ったトラックをリリースするよ。それは大変限られた機材で作られたもので、8年ほど前のものだ。でも、限られた機材で作った方がいい音楽ができるとも言えるね。やたらと機材がそろっていると怠情になってしまって、結局退屈な音楽になってしまうものさ。とにかくそれが1月頃にリリースされると思う。その次の作品は97年の半ばごろに出ると思うけど、新しい素材の曲だね。



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