ビート・メイカー発掘インタビュー〜インドープサイキックス【3】

「DIGIDESIGN Pro Tools を使ったオーディオの"鬼エディット"は、頭の中のイメージを鳴らすための手段です」(D.O.I./2002年インタビュー)

DJ KENSEI、D.O.I.、NIK、現在もそれぞれ日本のビート・ミュージック・シーンの一線で活躍する3人のクリエイターが、1990年代後半から2000年初頭にかけて、インドープサイキックスの名の下に活動していたことをご存じだろうか。ヒップホップを出自としつつ、先鋭的なエディットと音色感覚でルーツ・マヌーヴァからヤン・イェネリックまでを飲み込み、世界レベルの音を日本より発信。エッジの効いたビートは、今聴いてもさまざまな示唆に満ちている。ここでは、彼らが2002年に残した2枚のアルバムの制作について、マニピュレートを務めたD.O.I.氏が、全曲解説も含めて語っている。


[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2002年7月号のものです]




1990年代半ば、東京のアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンから狼煙(のろし)を上げ、ブレイクビーツやダブ、そしてエレクトロニクス・ミュージックといった従来のカテゴライズさえも意味を感じさせないほどの変幻自在なプロダクションで、数々の先鋭的なトラックをリリースし続けてきたインドープサイキックス。我が国のヒップホップ・シーンをけん引するエンジニアD.O.I.と、DJ KENSEI、NIK による同プロジェクトだが、その認知度と高い評価とは裏腹に、これまでにリリースされた作品は12インチ・オンリーのものも多く、活動の全容をつかむのは困難であった。しかし今回、1998〜1999年のリリース作を収録した『MECKISH ("NITTIOATTA .NITTIONIO)』と、2000〜2001年にかけての道程を集めた『LEIWAND("NULL NULL.NULL EINS)』という近年のインドープの活動を総括するようなアルバム2枚が次々とリリースされる。




『MECKISH ("NITTIOATTA .NITTIONIO)』全曲解説




GEMINI IV / V SPACE NOVA!
INDOPEPSYCHICS


"字宙飛行士たちの会話"といった設定のサウンドを収録した『GEMINI IV / V SPACE NOVA!』というタイトルの古いレコードを基に須永辰雄さんからオファーがあって制作したトラック。ドラムはE-MU SPl200にサンプリングしたんですが、あとAKAI PROFESSIONAL S950にサンプリングしたものをAKAI PROFESSIONAL MPC3000でシーケンスしています。アウトボードもミックス・ダウンのときに外部スタジオにあったものをちょっと使ったくらいです。今の環境を考えると、すごく簡潔な機材で作られたトラックですが、当時の環境で作ったもので、ベスト・トラックに近い出来だと思っています。できることが限られていたから考え方がシンプルだし、元となっているドラムもすごい。この音をサンプリングして切り分けた時点で"もう完成"だった。このころはドラムに執着していたし、レコードもかなり買っていました。



JUGGLE THINGS PROPER(INDOPEPSYCHICS REMIX)
ROOTS MANUVA


ルーツ・マヌーヴァから渡された音源から使用しているのは人声だけです。DIGIDESIGN Pro Toolsを使ってオーディオ・エディットを多用するプロダクションで、最初期となるトラックです。当時使用していたのがPro Tools IIIだったので、16トラックしかなかったのですが、取りあえずPro Toolsさえあれば、面白いトラック制作ができると思い込んでいました. まだ使いこなしているとは言えない時期のものですね。



THE KNOCK(INDOPEPSYCHICS REMIX)
UNKLE


バッドをいかに早くたたけるかとか、3連符の次は5連符といった感じでAKAI PROFESSIONAL MPC2000を使ってリアルタイムで打ち込むことにはまっていた時期のトラック。元曲も良くて、オファーが来たときはうれしかったし、UNKLEの中心メンパーで、MO'WAXレーベルを主宰しているジェームス・ラベルにも気に入ってもらえたらしいです。ドラムはリアルタイムで打ち込んだものをループさせているんですが、MPCを使うとリアルタイムでパッドをたたくといった動的な要素が入って、それがトラックにも反映されている気がします。MPCだと視覚的な情報も圧倒的に少ないから、音楽そのものに集中できるというか......MPCからパラアウトして、レコーダーとしてPro TooIs|24 Mix Plusを使ってミックス・ダウンしました。このころMO'WAXの作品だとUNKLEのほかにはアーバン・トライブ『ザ・コラプス・オブ・モダン・カルチャー』、NINJA TUNEからリりースされたミックスマスター・モリスの3作目などをよく聴いていましたね。



SUGAR MAN(INDOPEPSYCHICS REMIX)
SILENT POETS


シンセ音を多用しているんですが、音源はほとんど使っていません。古いMOOG系レコードのサンプルがベースになっています。イントロのシンセ音もサンプリングで、それにちょっと空間系のエフェクトをかけたくらいです。このころはデトロイト・テクノっぽい重いスピード感にはまっていた時期なので、その雰囲気が出ていると思います。



PRAISE DUE(INDOPEPSYCHICS REMIX)
J-TREDZ


"MPCリアルタイム入力期"のリミックスです。リアルタイム入力した後にクオンタイズをかけているんですが、それでもMPCをたたいて入力したい。ENSONIQ ASR-10を使ってサンプルを加工しまくっているので、どれがサンプリングした音なのか分からないくらいです。例えば、上モノのシンセっぽいサウノドの元はハイハットだったものなんですが、ハイハットのアタック音だけを数msecで切り取ってそれをループさせることで、発振音のようにしています。ブレイクピーツを細かく刻んでビートを作っているのはドラムンベースからの影響ですね。



OPS
INDOPEPSYCHICS


SHIBURAIレーベルのコンピレーション・アルバム『士魂』に収録されていたもの。タイトルの"OPS"は宣戦布告という意味の略語です。高域で鳴っているシンセ音はサンプルで、ディレイではなくボリュームを変えながらループさせたものですね。この曲はMPC2000だけで作っていて、直でOATに録ったものです(笑)。当初はリリースを想定していなかったトラックで、やたら長かったりするのはそのせい(笑)。『MECKISH』の中では2番目に古いものですね。



Tokyo TEKH Dub(feat. KASHI DA HANDSOME)
INDOPEPSYCHICS


ダブのコンピレーションのために制作したトラック。ちょうどASR-10を買ったばかりで、いろんなエフ工クトを使いまくっています(スネアっぽい音色に使っている特殊な効果もASR-10内蔵エフェクター)。ちなみに中間で使っているキラキラした感じのシンセ音はサンプルです。Pro Toolsを使ってミックスをしているので、アナログの卓ではありえない細かいタイミングの逆相処理も使っていたり、エンジニア的にかなりこだわったミックスになっていて、この曲をラージ・モニターで聴くとすごい。オウテカなどの音響系のものを聴き始めたのもこのころから。



Proto-TECK
INDOPEPSYCHICS


DJ MIKU氏がコンパイルしたコンビレーション・アルバム『TOKYO TECH BREAKBEATS』に収録されていたもの。ダブの影響が強く出たトラックで、ディレイはPro Toolsのプラグインを使っています。低域で鳴っている輪郭のないシンセのようなサウンドも実はサンプルで、リズム・トラックはASR-10でひずませています。ASR-10はヒップホップのプロダクションで使おうと思って購入したんですが、裏技的な使用方法もたくさんあって、本当によくできた機材です。



SORRY SORRY
FEMI KUTI


ある雑誌でルイ・ヴェガ(MAW)が12インチ・レコードの年間ペスト5に挙げてくれたという思い出のリミックス。ブレイクピーツが延々鳴っているトラックをオーディオでPro Toolsに取り込んで、数msec単位の鬼エディット......というより破壊したと言った方が近いくらいです。波形を見ればすごく短い音が組み合わさったものだということが分かるんですが、音として聴いたらあまりにも目まぐるしく変化しているので、何が変わっているのか認識できません。まさに、レンダリングの嵐ですね。小節で管理せずにエディットしているので、実はテンポは無いくらいで、曲としてはどこで完成かというのが見えにくいトラックでしたね。



DIRECTRIX(INDOPEPSYCHICS REMIX)
DIVINE STYLER


音源とサンプルを半々くらい使っている当時としては珍しいリミックス。リズム音にはKORG Trltonのプリセット者をそのまま使っています。これはMO'WAXからもリリースされているトラックなので、ブレイクピーツ色を残しつつ、エレクトロ・ミュージック的なテイストも盛り込んでいます。水滴のようなサウンドはサンプリングした音をPro Tools上に張り付けていったものです。シンプルに聴こえますが、実はDSPパワーがいける限りプラグインを使いまくっているトラックです。



TWO DEMENTIONAL PAGODA(INDOPEPSYCHICS REMIX)
WATER MELON


声ネタはウォーター・メロンの元曲からサンプルを使っています。シンセ音はいわゆる"ライブラリーもの"からのサンプリングで、音源を鳴らしているようなサウンドでも、サンプルを使っていることが多いのが分かってもらえると思います。インドープとしては珍しくシンプルなリズム・パターンのトラックですね。



D_P(opiate rework)
INDOPEPSYCHICS


インドープの曲をオピエイトというデンマークのアーティストがリミックスしたもの。彼らに渡した元の曲は『LEIWAND』に入っている「D_P-pt.5』のパージョン違いです。オピエイトが主宰するホビーインダストリーズのスタート当初に"お互いの曲でリミックスのスワッピングをしてみないか"という話をE-mailでもらって、実現したコラボレーションです。こういったピートのあまり強くないトラックで、自分たちが作ったものをリミックスしてもらうのは新鮮でしたね。




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インドープサイキックス

『MECKISH ("NITTIOATTA .NITTIONIO)』


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