例えるならスイス・アーミー・ナイフのよう
日本に拠点を置きながらも世界を股に掛けて活躍するアーティスト/プロデューサーのXLII。コンピューター中心の制作スタイルのXLIIにとって、SP-404は果たしてどのような存在なのだろうか?
USB接続でアプリからサンプリング
──XLIIさんがSP-404を使いはじめたのはいつごろからですか?
XLII 2年前くらいにSP-404MKⅡを買いました。ラス・GとかSP-404ユーザーのコアな人たちとも仲が良かったし、SP-404のビート・シーンに対してのスタンスやカルチャーとしてのインパクトはすごく理解していたのですが、自分はソフト中心なのでハードウェアはほとんど持っていなかったんです。でもMKⅡになってパソコンやスマホにもUSB接続できるのが使いやすそうだと思って買いました。耳だけで作ると、グリッドにはまっていなくてもグルーヴが気持ち良ければ気づかないじゃないですか。そういう制作がしたいなと思って。SP-404は制作部屋よりもリビングのソファとか公園とか飛行機の中とか、いろいろなところに持っていって使います。そのほうが集中力が出るしアイディアが浮かぶんです。
──制作ではラフ作りなどに使いますか?
XLII 仕事の曲はほとんどパソコンで作るので、どちらかというとエフェクターとして通すことが多いですね。ABLETON Live上でSP-404に音を通すルーティングを組んであって、デジタルすぎる音のシンセをもう少しアナログ的な音にするような使い方で、INPUT FXのVinyl Sim系やCassette Sim、Lo-fi、Compressorをかけることが多いです。SP-404で曲を作るのは、自分が気持ち良いと思って作る瞑想みたいな感覚ですね。
──サンプルはSDカードから読み込みを?
XLII 最初はそうやってみたんですけど、それも手間だからUSBでスマホをつないで、Spliceアプリでサンプルを検索したり、いろいろな国や年代の音楽を聴けるRadioooooというアプリからサンプリングしたりします。
──Chromaticモードでサンプルに音階を付けて演奏することはありますか?
XLII よくありますね。今回制作したループの上ネタやベースもChromaticモードで作りました。ベース・ラインは、Microscope(パターンをノート単位でエディットする機能)でタイミングとキーを調整しています。
──ビートの打ち込み方法はどのように?
XLII 基本的にパターン・シーケンサーがメインですが、昨年Looperが追加されたので、ABLETON Moveで弾いたシンセ・フレーズをループに重ねて作ったりもしました。奇麗すぎる音はよくリサンプリングしますね。リサンプルの話で言うと、ピッチを大幅に上下させたいときも使います。ピッチの調整幅には限界があるので、ピッチを変えたところでリサンプリングして、さらにピッチを変えてリサンプリングしてを繰り返して3オクターブぐらい変化させることもあります。
プラグインで出せないコンプの質感
──今回ビートを作っていただきましたが、ポイントになったのはどんな音でしたか?
XLII 最初に選んだのは『Daydreams by Taetro』に入っているスネアの“DreamCafe_Snare”です。ハイハットは少し走り気味にしたかったので、TR-RECで打ち込んでからMicroscope機能で細かくタイミングを調整しました。
──上ネタなどはいかがでしょうか?
XLII 上ネタは『404 Day Beat Maker Sample Pack Vol. 1』の“HornsLong_84_F♯m”で、弾きやすいようにピッチを-6にしてコードをCに合わせてからリサンプリングしました。Isolaterで低域をカットしてメイン・メロディで使っています。ボーカルもうっすら隠されていて。『Lo-Fi Smoke』に入っている“Vocal_72_F♯m”の中東っぽさが欲しかったのでリバーブを全開にして鳴らしています。
──音作りでこだわった部分はありますか?
XLII ピアノ・フレーズの頭に入っていたアナログ・ノイズだけをサンプリングして、それをループさせてからリサンプリングしていて、その音にコンプを激しくかけました。キックの音量をわざと大きくして、CompressorがずっとオンになるようにEFX Motion Recで記録すると、キックに反応してすべての音にコンプが激しくかかって、ノイズが常に跳ねるような動きをするんです。SP-404のCompressorをかけると、プラグインでは出せないような独特な雰囲気が出ますね。
1台でいろんな機材の代わりになる
──エフェクトは好みに合わせて入れ替えられますが、どのように設定していますか?
XLII 自分のメインのエフェクトはBUS 3がEqualizer、BUS 4が303 VinylSimです。ディスプレイ横のエフェクト・ボタンは、左の真ん中がSuper Filterで、Rateを変えるとグルーヴを崩さずに雰囲気を作れます。左下はTape Echoで、TIME(テープ・スピード)を変えたときのピッチの変化が気に入っています。右上はIsoratorで、リサンプリングをするときに素早くアクセスできるように入れています。今回の作ったループでは、Isolatorでベース・ラインの低域を少し減らして中域を上げました。右の中段はDJFX Delayで、スタッターとダブを合わせたようなエフェクトです。
──最後に、XLIIさんにとって、SP-404はどういう存在ですか?
XLII 例えるならスイス・アーミー・ナイフみたいなマルチツール。自分はよく海外へ制作に行くんですけど、基本的にオーディオI/Oは持たずにSP-404をオーディオI/Oとして使います。MIDIコントローラーにもなるから、Liveのドラム・サンプルをたたいたり、去年『SXSW』に出たときは突然DJコントローラーが壊れてしまい、iPhoneとUSBケーブルでつないでALPHATHETA Rekordboxのホット・キューをパッドにマッピングしたりして使いました。ダイナミック・マイクを挿してプリプロもできるし、暇だったらビートも作れるし(笑)、何より電源に困らない。1台ですごくいろんな機材の代わりになるからいつも持ち歩いています。友達に“いらないと思っても買ったほうがいい”ってお薦めしているくらい(笑)。2年使ってもまだ使ったことがない機能が多くて、掘っても掘ってもネタが出てきますし、驚くくらい奥行きがあります。楽しもうとすれば、無限に楽しめる機材です。
XLII:ウクライナ生まれ、英国育ちの音楽プロデューサー。2004年に日本に移住し、東京を拠点に活動。DJとしてはULTRA JAPANやULTRA KOREAをはじめ、EUやアジアのフェスやクラブを回る。ヒップホップやベース・ミュージックを専門とする