自分のアイディアを瞬時に具現化できる存在です
有機的なビートで、聴く者を心地良い世界へといざなうビート・メイカーのtajima hal。パリのラジオ局Le MellotronがYouTube上で公開するライブ動画が100万回再生を超えるなど、その確かなライブ・パフォーマンスは国内外を問わず多くの支持を集めている。ここでは、彼とSP-404との出会いや活用法について、詳しく聞いていこう。
SP-404に通すだけでも音がまとまる
──SP-404を知ったのはいつですか?
tajima 2012年頃、友達のビート・メイカーのILL-SUGIが出演していた『Trane.』(ビート・メイカーYAGIが主催)というイベントを見に行ったときに、SP-404のみでビートを流してライブをやっている人がいて、“1台だけでできる”ということに衝撃を受けました。当時からABLETON LiveやAKAI PROFESSIONAL MPC2000でインストのヒップホップ・ビートとかを作っていたので、自分でも使ってみようと思い、初代のSP-404を買ったのがきっかけです。
──パフォーマンスとして斬新だと感じた?
tajima はい。SP-404という一つのフォーマットだけでライブをするというのが面白いなって。実際に使いはじめたら、同じSP-404を使っていても人によって使い方で個性が出るものなんだと実感しました。
──ライブでのSP-404の使用方法は?
tajima 制作したビートを1曲ずつパッドにアサインして、リアルタイムにエフェクトをかけて演奏しています。別のパッドに入れたSE的な音を混ぜることもありますね。
──曲のつなぎはどういった工夫を?
tajima ディレイやリバーブでフワッとさせて次の曲をスタートしたり、Isolatorで低域と高域をカットして中域だけにしたり、DJFX Looperを使ってターンテーブルを止めたときのような音にしたりと、曲が終わるような雰囲気を見せつつ次の曲に移っていきます。
──制作には、SP-404をどのように取り入れたのでしょうか?
tajima 基本的にはトータルのサウンド・メイクが多いです。Liveで作った曲に、SP-404でVinyl Simなどのエフェクトをかけて、それをまたLiveに録音するという方法です。初めてSP-404のコンプを使ってみたときには、Liveとは異なる色合いを感じましたね。今でもエフェクトをかける、かけないは関係なく、常にラップトップからの音をSP-404などを通して戻せるようにルーティングしています。好みだとは思いますが、コンピューターから出力したままだとどうしても奇麗すぎる感じがしていて。SP-404を通すだけで、キュッとまとまるような印象があるんです。どの機種を通すかは、時期によって変えていますね。
──歴代のSP-404シリーズをお持ちですが、それぞれサウンドにはどのような印象を?
tajima 初代は独特なアナログ感やローファイさがあり、少し中域が出てパワフルになる印象です。SP-404SXは初代より優等生というか、もう少しクリアでエフェクトも安定していて使いやすいです。幅広いジャンルの制作においてはSP-404SXのほうが向いているのかと思いますね。最新のSP-404MKIIでは、音がかなり奇麗になったと感じます。
──SP-404MKIIから備わった新機能の中では、どこに魅力を感じていますか?
tajima BUS FXの機能が追加され、エフェクトを複数の系統に振り分けられるようになったのが大きいです。例えばライブだと、出力全体にかかるBUS 3/4にVinyl SimとEQをそれぞれ設定しておきます。ほんの色付けくらいの設定ですが、切り替えることで微妙に表情を変えられるんです。サンプルごとにかけられるBUS 1/2は、瞬時にオン/オフするライブ・エフェクトとして使っています。直列ではなく並列にして、今演奏している曲はBUS 1、次の曲はBUS 2というようにパッドごとに切り替えるような使い方です。あとは、サンプルごとにピッチやパンを調節できるようになったのもうれしい点ですね。
ピッチでループのフレーズを変化
──今回の特集のために作っていただいたビートは、どのように構築していきましたか?
tajima 普段の制作ではパターン・シーケンサーを使わないんですが、今回使ってみてかなり扱いやすいと感じました。中でも、シーケンスのリアルタイム入力時のクオンタイズ補正度合いを調整するSTRENGTHが便利です。基本は0%にしていましたが、一部のシーケンスで60~70%くらいにすると、ガチガチすぎず生っぽい揺れが付けられました。
──Roland Cloudから、サンプルはどのように選んだのでしょうか?
tajima 最初に『404 Day Beat Maker Sample Pack Vol. 1』からベースのループ“Bass_Fill_84_F#m - Loops- Bank D - Nonjuror 84bpm”と、『Basement Music by Leonard Charles』の“Kalimba_Loop_90_Am - Bank A -Loops”というカリンバのループを見つけて、これがリズムの核になるんだろうなと思ったところからスタートしています。
──SP-404MKIIに取り込んだ方法は?
tajima ライン録音で、すべての音にINPUT FXでCassette Simを通して、ほんのわずかですがアナログ感を付けています。ちょっと雰囲気を変えたいとなったら、Vinyl SimとEQをかけてリサンプリングしています。Cassette Simはかなり気に入っていて、シーケンスを組んだハイハットを流しながらパラメーターのAGEをいじると、良い感じにムラが出る。MKIIの新機能のスキップ・バック・サンプリングでサンプルを呼び出し、気に入った箇所を切り取って、今回作ったビートに使いました。
──ベースやカリンバはどのような加工を?
tajima カリンバには303 VinylSimをかけ、COMPの値を40前後にして音を変化させています。ほかにも、音をベースとカリンバのタイムを合わせるためにピッチを−3くらいに下げ、それによって少し変な編集が行われたような音になっています。また、ベースのループの途中で一つの音だけピッチを上げることで、部分的にフレーズを変えています。
──最後に、tajimaさんにとってSP-404とはどのような機材ですか?
tajima 自分のアイディアを瞬時に具現化できる存在です。肝となるエフェクトのツマミは3つのみ。あまり用意されすぎていると、いじることに時間をかけてしまうのかなと。限られた設定の中で、思いついたこと、やりたいことを直感的に作っていくのが、自分の制作スタイルにフィットしていると感じています。
tajima hal:横浜を拠点に東京都内、神奈川で活動するビート・メイカー。国内外でライブ/リリースを行うほか、ビート・ミュージックに焦点を当てたレーベル“Hermit City Recordings”を主宰。中目黒Solfaにてビート・ミュージックを主体とするイベント“OPEN1”を開催し、インターネット・ラジオ“OPEN1 Radio”をLidlyと共に主催する