ソエジマトシキのプライベート・スタジオ|Private Studio 2025

ソエジマトシキのプライベート・スタジオ

あえて音を整えすぎない、アマチュアリズムを大事にした空間の在り方

ギター・スクールのSoul Guitar Labを主宰し、“ギターがうまくなりたい人”に向けてnoteやYouTubeで日々情報を発信しているソエジマトシキ。2021年からはネオソウル・ギタリストとしてアーティスト活動にも力を入れており、さまざまなミュージシャンと自宅でセッションしたYouTube動画も人気を博している。そんなソエジマの制作や撮影が行われているホーム・スタジオを見ていこう。 

Kimama Studio

制作スペースはリビングと直結。生活環境に溶け込んだ空間になっている。ホーム・セッション時はリビング側で撮影することも多い

プロっぽい音を狙わなかった

 ソエジマが制作場を構えているのは、静岡県静岡市にある自宅内。佐賀出身のソエジマは18歳で上京し、しばらくは都内近郊に住むことが多かったという。それから結婚し、子どもが生まれたことや自身の仕事スタイルの影響もあり、静岡へと移住した。

 「引っ越しをしたのは2021年12月です。妻でミュージシャンのNahokimamaの出身がこの辺りで。また、僕の仕事としてもオンラインに完全に移行しようと考えていた時期でもあったんです」

 もともとオンライン・レッスンやYouTubeでの活動を積極的に行ってきたソエジマ。東京を離れてオンライン中心のスタイルへの移行はスムーズだったようだ。現在では、この自宅兼制作場で演奏や機材のレクチャー動画、ミュージシャンを招いたセッション動画などを撮影し、コンスタントにアップしている。

 「海外ミュージシャンがよく行っているようなホーム・セッションみたいなものに憧れていたんです。でも都内の賃貸物件だと、間取り的にその雰囲気がイメージしづらい。LDKの広さを求めて物件を探しましたね。また、リノベーション物件で内装も良く、音出しができる部屋だったことも決め手となりました」

デスク周り

音楽制作だけでなく、動画制作も活動の主体になっているソエジマ。撮影用のカメラのほか、トーク用のSHURE SM7Bなどもセットされている。パソコンはAPPLE MacBook Proで、クラムシェル・モードで外部ディスプレイに接続。ディスプレイにはLogic Proが表示されている

FOCAL Shape 50

モニター・スピーカーのFOCAL Shape 50。以前はGEN ELEC 8010Aを使用していたが、コンパクトな筐体ゆえ低域の再生に難があったとのこと。より低域が見えるようにShape 50を導入した

デスク上のエフェクターとシンセ

デスク上のエフェクターとシンセ。左上から時計回りに、GFI SYSTEM Synesthesia(マルチモジュレーション)、SOURCE AUDIO Collider(ディレイ+リバーブ)、TEENAGE ENGIN EERING OP-1(シンセ)、TC ELECTRONIC Ditto Looper(ルーパー)

 部屋は壁などの仕切りがない広いワンルーム。その一角にデスクや機材が並べられた制作場が用意されている。吸音や拡散などを調整しているようには見えないが、演奏や録音には影響がないのだろうか?

 「最初の頃の“アマチュアリズム”を大事にしたいと思っていて、あえてプロっぽい音にならないようにしています。響きの良さを突き詰めていくときりがないですし、整えすぎることで逆に没個性的にも感じてしまうことがあって。そもそもスタジオを作る原点となったホーム・セッションが行われている場所もそういう空間ではないですからね。特にロール・モデルとなったのが、フィリピンのジャングルにあるFKJのスタジオ。自宅にあるアトリエのようなイメージで、広いスペースに楽器がたくさん置かれているんです」

音の心臓部を担うBig Six

 ソエジマが機材環境を整えはじめたきっかけは、2021年にリリースしたEP『Life』。それまでレッスンを中心に活動していたソエジマだが、『Life』が多くのリスナーに評価されたことを機に、音楽制作への熱が高まったという。

 「Nahoさんといっしょに音楽を作るようになったことも、機材面に大きく影響しました。彼女はトランペットやギター、鍵盤などいろいろと演奏するので、それらを接続する必要が出てきたんです。最初、オーディオ・インターフェースはUNIVERSAL AUDIO ArrowやApollo Twinでしたが、入力数を鑑みてADAT接続でマイクプリを増やしたりしていました」

Nahokimamaのスペース

こちらはNahokimamaのスペース。楽器はトランペットのほか、ARTURIA Mi niFreak(シンセ)、NORD Nord Electro 5D(エレピ)が置かれている。トランペットは写真右のAKG C314で収録しているそうだ。足元のエフェクト類もNaho用で、ギターで使うUNIVERSAL AUDIO UAFX Dream '65 Reverb Amplifi er(アンプ・シミュレーター)のほか、トランペット用のSTRYMON CloudBurst(リバーブ)、PRESONUS TubePre V2(マイクプリ)がスタンバイ

 そういった入力部の変遷を経て、現在ではSOLID STATE LOGIC Big Sixをメインのミキサー&オーディオ・インターフェースとして使っているソエジマ。「ぴったりとニーズにはまった」と語る。

 「16chも入力できるのに加え、本体上ですぐ操作ができるアナログ・ミキサーという面も気に入りました。また、UNIVERSAL AUDIOのUADプラグインでSSLのマイクプリやコンプを気に入って使っていたのもBig Sixを選んだきっかけです。以前、僕とNahoさんのデュオ動画に“感動して涙が出ました”とコメントがあって。その動画は初めてUADプラグインのSSL 4000 E Channel Stripを使って録音したものだったんですが、シミュレートとはいえ音に温かさや張り付き感があって、やはりヒット曲を生み出してきたサウンドの効果はすごいんだと実感しました」

 ギターは実機のアンプを鳴らして録っているという。どんなマイクを使うのだろうか?

 「ダイナミック・マイクのSHURE SM57とリボン・マイクのOHMA WORLD Ohma Ribbonを立てています。中低域の豊かさをOhma Ribbonが担い、アタック感などはSM57で録りますが、バランスとしてはOhma Ribbonがメインとなるミックスになっています」

FENDER Deluxe Reverb

メインのギター・アンプであるFENDER Deluxe Reverb。マイクはSHURE SM57とOHMA WORLD Ohma Ribbonを立て、Ohma Ribbonを中心にブレンドして音を作っている

ギター、ギターアンプ

写真右のギター・アンプはSUPRO Amulet 110、その左側はFENDER Blues Juniorだ。Blues JuniorはUNIVERSAL AUDIO OX Amp Top Boxを組み合わせて使うことが多いとのこと。Amulet 110の上に置かれているヘッドホンは、TAGO STUDIO T3-01だ。この写真のギターは、T’S GUITARSがソエジマのために製作したDST-Hollow22 Mahogany-Limited

シールド

近年ソエジマが愛用しているシールド・ケーブルのHERZOEDIO。金属加工業を営む高陽精行が新規事業としてスタートしたメーカーで、同社の代表が手作りで製作している。“アンプやミキサーのEQではいじり切れない音の隙間を埋めること”を目標に、幾つものラインナップを展開。全ケーブルにシリアル・ナンバーが付与されており、徹底した品質管理がなされている

 ソエジマにとっては、この空間で演奏して録音/撮影することがアイデンティティにもつながってくると感じているそうだ。

 「特にYouTuberは、その人の顔や動画内容というより、使っている楽器や佇んでいる場所で認識されている印象があるんです。だから画角に入る空間はとても大事。僕の活動ではこの空間自体が要になっているんです」

ギター

壁にかかっているのは、左からBRUNO GUITA RS TN-295、PRS Wood Library Custom24 S emi Hollow、GFC GSH-401P、T'S GUITARS A rc-Hollow、D’ANGELICO Excel EXL-1 Amber B&G Caletta Private Build。そのほか、ラックにはD’ANGELICOやY.O.S.のギターが並ぶ

メイン・ペダルボード

ソエジマのメイン・ペダルボード。コンパクトなボードのPEDALTRAIN Nano+には、STRYMON Flint(リバーブ&トレモロ)、BOSS RE-2、JAN RAY Ve muram(オーバードライブ)、ROSHI PEDALS Bla cklon(オーバードライブ)、ZAHNRAD BY NATU RE SOUND 4000Pre(ブースター)がセットされている。4000PreはSOLID STATE LOGICのSL40 00のプリアンプに近いサウンドで、音作りで困ったときに助けになってくれるそうだ。ボードの下にあるのはSTRYMON El Capistan(ディレイ)とROSHI P EDALS Original Wah(ワウ、筐体のみVOXを使用)

メインのペダルボード以外のエフェクター

メインのペダルボード以外のエフェクター。左から時計回りに、TC ELECTRONIC Ditto X2 Loop er(ルーパー)、CHASE BLISS Condor(EQ)、ST RYMON Zelzah(フェイザー)、ORGANIC SOUN DS Organic Booster Poseidon(ブースター)、R OSHI PEDALS Plexition(ブースター)、Blacklon(オーバードライブ)、JAN RAY Vemuram Butter Machine(ディストーション)

Equipment

Computer:APPLE MacBook Pro

DAW:APPLE Logic Pro

Audio I/O:SOLID STATE LOGIC Big Six

Speaker:FOCAL Shape 50

Headphone:TAGO STUDIO T3-01

Other:AKG C314、OHMA WORLD Ohma Ribbon、SHURE SM57、SM7B(Microphone)

Close up!

Kimama Studioのサウンドを形作るオーディオ・インターフェース

SOLID STATE LOGIC Big Six

最大18ch入力が可能なミキサー/オーディオ・インターフェースのSOLID STATE LOGIC Big Six。4基のSuperAnalogueマイクプリがソエジマの求める音を形作っているようだ

 ギター・アンプをマイク録りする際はEQなどをせず通すだけ、UNIVERSAL AUDIO OX Amp Top BoxからのラインはEQで調整しています。音が良いとかを通り越して、シンプルに“かっこいい!”と感じられるサウンドです。

 

 Profile 

ソエジマトシキ

ソエジマトシキ:ネオソウル系を中心に、おしゃれなフレージングを得意とするギタリスト/講師。YouTubeやSNSでの情報発信のほか、オンライン・サロンやイベントも主催する。2021年には教則本『ネオ・ソウル・ギター入門』(リットーミュージック刊)を上梓。

 Recent Work 

『Carefree(feat. edbl)』

Toshiki Soejima  

(Stereofox)

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